流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第44話.さよなら

 最初に感じたのはひんやりとした感触だった。少しざらざらとしていて、ものすごく硬い。瞼の重さに呻き声を上げて、どうにかして体を起き上がらせた。

 

「ここは……」

 

 辺りを見渡す。空は藍色で、少しだけオレンジ色がかかっている。地平線の向こうを見て自分が展望台にいるのだと理解した。おかしい。

 

「僕は……ロッポンドーヒルズで……」

 

 途中からの記憶が曖昧だ。ただブライたちと戦い、敗れたことは体が覚えていた。

 

「どうして……ここに……」

 

 辺りを見渡す。視界の隅にある人物を見つけた。手すりにもたれ掛かり、夜明けを迎えようとしているコダマタウンを眺めている。

 

「ミソラちゃん!!」

 

 曖昧な記憶なんてどうでも良くなった。駆け寄るスバルと違って、ミソラの方は見向きもしなかった。

 

「そっか、ミソラちゃんが助けてくれたんだね? ありがとう」

 

 素っ気ない態度だが、あまり気にしなかった。ミソラが助けてくれた。今目の前にいる。それだけで十分だった。

 

「考え直してくれたんだよね? さあ、一緒に帰ろう! 皆待ってるよ!!」

 

 ミソラの手を掴もうとする。パシンと重い音が鳴った。ミソラがスバルの手を弾いたのだ。

 

「触らないでよ」

「………………え?」

 

 スバルの目から色が消えた。助けてくれたはずのミソラは、背中を向けてスバルから数歩離れていく。立ち止まる。そこは2人が最初に出会った場所だった。

 

「な、なんで……? 僕を助けて……」

「あのねスバルくん。あの時、一つ言い忘れていたことがあるの」

 

 そこで初めてミソラが顔を見せた。フードの影に隠れていたその表情は、スバルが見たこともないほどの敵意に満ちていた。

 

「私、オリヒメ達の仲間になったの」

 

 スバルの時間が止まった。頭が動かない。長い時間を経た時、忘れられていた呼吸が再開される。そしてようやくスバルは声を絞り出した。

 

「……い、今……なんて?」

 

 情けないほどに声が震えていた。聞き間違いであってほしい。懇願の眼差しをミソラに向ける。だが彼女の表情は一切変わらなかった。

 

「何度も言わせないでよ。私はオリヒメ達の仲間になったの。君との友達ごっこもおしまい」

 

 ごっこ……今確かにミソラはそう言った。ここでミソラと出会ってから今までの記憶が駆け巡る。首を横に振ろうするものの、氷のように固まって動いてくれない。

 

「おい、ハープ……どういうことだ」

 

 ウォーロックが隣に出てきた。彼もとうに気が付いていたらしく、成り行きを見守ってくれていたのだろう。我慢できなくなったのか、スバルが壊れかけているのを見かねたのか、荒い口調でハープに問いかけた。

 ミソラの隣にハープが出てくる。

 

「ポロロン、女には女の事情があるのよ」

 

 口元に手を当ててハープは含み笑いをして見せる。

 

「何を考えやがるのか知らねえが、お前らは敵……それでいいんだな」

「ええ、それでいいわよ。ねぇ、ミソラ?」

「うん」

 

 もうスバルは気が気でなかった。

 

「ち、ちょ……ま、待ってよ……」

 

 言いたいことがたくさんある。ぶつけたい感情が溢れかえってくる。だがそれを言葉にできない。

 

「僕……僕は……ミソラちゃんのこと……た……」

「ああ、そうだ。これもいらないから、返すよ」

 

 ミソラがうなじに手を伸ばした。胸元から出てきたのはハート形のペンダント。それを無造作に地面に投げ捨てた。カラリと残酷な音が鳴る。

 手を震わせながらスバルは足元のペンダントに手を伸ばす。

 

「じゃ、これで」

 

 ミソラがギターに手を掛けた。地面を蹴るスバル。左手を伸ばす。

 ミソラの周りにピンク色のオーラが渦巻いた。スバルを拒絶する壁となり、退ける。その中央でミソラの口がゆっくりと動く。

 

「さよなら……スバルくん」

 

 ピンク色の光が空へと飛んだ。瞬きする間もなく、空の一点へと吸い込まれ、見えなくなる。後には呆然と見上げているスバルが残された。

 スバルの足が折れる。空を見上げたまま、彼は微動だに動こうとしない。夜が明けてくる。眩しいぐらいの白い光が町を明るく照らしてくる。美しく変わっていく世界の中でスバルの時間だけが止まっていた。

 空に青みがかかってきたころに、ぽたりと地面が濡れた。


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