流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第42話.堕ちたヒーロー

 最初に異変に気付いたのはウォーロックだった。町の中に奇妙な周波数を感じたのだ。それも一つ二つではない。似通ってはいるが微妙に違う個体が何十体も。

 

「おい、スバル! ションボリモードはここまでだ!!」

「なんだよ……」

 

 覇気も力も籠っていない返事だった。だがそんなスバルも異変に気付いた。平和な町には似合わない破壊音と人々の悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

「な……なに?」

「オリヒメ達の攻撃に決まってんだろ!!」

 

 ウェーブロードへと飛び出すウォーロック。騒ぎの方をみると、ハイドが率いていたエランドという電波体たちが町を襲っていた。車を破壊し、店を燃やし、人々に恐怖を与えている。

 スターキャリアーに戻って、スバルに怒鳴った。

 

「おら行くぞ!」

「い、行くって……」

「なに渋ってやがる!!」

 

 怒鳴りながらも分かっていた。今のスバルは戦えるような状態じゃない。だが、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

 

「襲われている連中はこう言っているはずだぜ? 『ロックマンが来てくれる』『ロックマン助けて!』ってな」

「な、なんで……」

「てめえがヒーローだからに決まってんだろ?」

 

 スバルが苦い顔をした。俯いて足を震わせている。

 

「なんだよ……僕に期待しないでよ。……僕は……僕は……」

「じゃあ、あいつらを見捨てるんだな?」

 

 スバルが歯を食いしばった。これで決まりだ。困っている人達を見て、動かないほど弱い人間ではない。それはウォーロックがよく分かっていた。

 

「おら行くぞ!!」

 

 力なくではあるが、スバルがスターキャリアーを頭上に掲げた。

 

「電波変換……」

 

 スバルの姿がロックマンへと変わる。地面を蹴飛ばし、ウェーブロードを通って襲撃の場所に駆けつける。一人の老人に向かって剣を振り上げていたエランドをソードで切り捨てた。

 

「逃げてください!」

 

 老人を見ずに怒鳴ると、次のエランドに斬りかかった。レーザーを避けながらヘビーキャノンを撃ち返し、背後から近付いてきたエランドをヒートアッパーで打ち砕く。

 エランドの攻撃がロックマンへと集まり始める。

 

「ロックマンだ! やっぱり来てくれた!!」

 

 それを見た人々が目を爛々と輝かせ、声を上げ始めた。

 

「皆喜べ!! ロックマンだ!!」

「ロックマン!! ロックマン!!」

 

 ロックマンコールが上がり始める。声援とエランドたちの攻撃の中で、ウォーロックは違和感に戸惑っていた。スバルの動きが明らかに鈍いのだ。そして大ぶりだった。攻撃を受けても痛がるそぶりを見せず、黙々と敵を倒していく。

 声援に恥ずかしがる素振りすら見せない。

 

「スバル……」

「……早く終わらせよう、ロック……」

「……分かった」

 

 つまりトライブオンを使おうということだ。この力を引き出すのは体内にオーパーツを取り込んでいるウォーロックの役目だ。意識を体の内側に集中し、ダイナソーの力を呼び出そうとする。

 

「……ん?」

「どうしたの? 早くし……」

「いや、できねえ!?」

「……え?」

 

 もう一度試してみる。だが引き出せない。ダイナソーの力は確かに感じるのに、表に出てこようとしないのだ。

 

「どういうことだ?」

 

 まさかと思いながらもシノビを、続いてベルセルクを試すが同じだった。三つのオーパーツは眠っているかのように反応しない。

 

「なんで急に……」

「もういいよ」

 

 エランドの顔を砕きながら吐き捨てるようにスバルが言った。

 

「僕の力だけでやる」

 

 その時、ウォーロックは感じた。自分の中にある力が芽生えたことに。それは闇のように黒いもの。全てを飲み込むがのごとく、深い。それが膨れ上がり、ウォーロックを蝕み始めた。

 

「な……んだ?」

 

 この感覚はどこか覚えがある。体内で暴れる得体の知れないものに思案を巡らせる。思い出したのはツカサから渡されたあの物体だった。それはスバルの感情に反応していた。

 

「おい、スバ……」

 

 呼びかけようとしたが遅かった。声が出なくなったのだ。体の自由がなくなっていく。そして意識が闇に飲み込まれていく。最後に聞こえたのは、スバルにあるまじき言葉だった。

 

「僕は僕だけを信じる」

 

 ウォーロックの意識が消えた。同時にロックマンに変化が起きた。黒い触手のようなものが足元から発生したのだ。数十本にも及ぶそれらがロックマンを覆い尽くし、体と同化していく。

 瞬く間にロックマンの姿が変わってしまった。見た目はロックマン・ベルセルクと同じだ。だが色が違っていた。白銀色のそれとは違い、足先から頭のてっぺんまで、全てが黒一色だった。

 ロックマンが背中のベルセルクを抜く。剣を振り上げて向かってくる人形たちに向かって一薙ぎする。一瞬遅れてエランドたちが消し飛んだ。

 赤や青の電波粒子が粉のように空へと昇っていく。その中を無機質に歩んでいくロックマン。目の焦点は定まっておらず、何の感情も宿してはいない。

 次のエランドたちが斬りかかってきた。恐れを知らない愚かな彼らにバスターを連射した。黒い弾丸は剣を砕き、盾を穿ち、エランドたちを掻き消していく。

 ロックマンの行進は彼らの撃退であり、人々の救済を意味していた。だがそれはどこか残酷で、目を覆いたくなるような惨劇だった。

 

 

 

 その光景を見下ろしながらエンプティーは冷静に分析を行っていた。

 

「……ロックマンにも素養があったということか……」

 

 町の中から黒い影が飛び出し、エンプティーの近くに降り立った。黒くなったロックマンだった。エランドたちを一掃し、首謀者であるエンプティーのもとへやってきたのである。

 そんなロックマンを前に、エンプティーは肩をすくめて見せた。

 

「まさか貴様も孤高の証を手に入れていたとはな。それも認められるとは……さしずめ、ロックマンブライというところか?」

 

 大剣がうねりを上げた。ロックマンブライがエンプティーに斬りかかったのである。エランドたちを消し飛ばす一振りを、エンプティーは右手一本で受け止めて見せた。

 

「ふむ、確かに力強い。なかなかのものだ」

 

 ロックマンの目がギョロリと動いた。少なからず動揺しているのかもしれない。

 

「ここにきて貴様の戦闘能力が上がるとは予想外だった。だが、私を倒すには及ばぬ」

 

 エンプティーは左手に紋様を宿すと、ロックマンに向けた。エランドを召喚したパネルが黒く光り、紋様にエネルギーを装填する。

 

「サンダーバズーカ」

 

 黒いレーザーがロックマンを飲み込んだ。その一撃で十分だった。ロックマンはTKタワーから押し流され、ウェーブロードを転がっていく。動きが止まると、ガクガクとさせながらも体を起こそうとする。そんなロックマンの前に、エンプティーは悠然と立ちふさがる。

 

「慌てるでない。貴様にはもっと相応しい相手がいるだろう? ちょうどこちらも、準備が整ったところだ」

 

 エンプティーの隣にカミカクシが現れた。気持ちの悪い目玉が不気味に光ると、黒い穴がエンプティーとロックマンの間に現れる。ロックマンはそれを見つめたまま動こうとしない。

 

「舞台は整えておいてやったぞ……ソロ」

 

 穴の中からゆっくりとソロが姿を現した。彼はロックマンの黒くなった体を見て目を尖らせた。

 

「なんだその無様な姿は?」

 

 ロックマンブライは無言で剣を構える。目は相変わらず焦点が定まっていない。

 

「孤高の証に飲まれたか。だが俺は違う。俺は孤高の証の試練に打ち勝った。俺は孤高を極めた。中途半端な貴様は、もう敵ですらない」

 

 ソロは古代のスターキャリアーを取り出し、空中に白い紋様を描く。両手を広げて目を閉じると、それを四枚に増やし、自分の周りで回転させる。

 

「電波変換 ソロ オン・エア!!」

 

 儀式を終えて、ソロはブライへと電波変換した。それだけでエンプティーには理解できた。

 

「ほう、ここまでとは……流石ブライと言っておこうか。すさまじい力を手に入れたものだ」

 

 仮面の下で笑うエンプティーを無視し、ブライは右手でジェスチャーをして見せる。かかってこいと。

 

「来い、見せてやる。貴様が信じたもの全てを否定する、孤高の力というものをな」


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