流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第4話.TKタワーの上で

 電波変換し、ロックマンになったスバルとウォーロック。2人のもとにはすぐに情報がやってきた。電波変換したハイドはTKタワーの電波を利用し、タワージャックを全国に生放送していたのだ。

 

『さあ、サテラポリスの皆さん、私を捕らえに来なさい。そして、この二ホンの危機を救ってごらんなさい。私は逃げも隠れもいたしませんよ?

 それとも、私に怖気づきましたか? それはいけませんね。ちゃんとこちらの脚本通りに動いてくれないと私が困るんですよ。ですから、ちゃんと囚われのヒロインをご用意させていただきました』

 

 そばには捉えられたルナの姿があった。強風に煽られながら、必死にタワーの鉄骨にしがみついている。そこまで見て、ロックマンは左手から表示させていたブラウズ画面を消した。

 

「行くぞスバル! 頂上だ!!」

「うん!!」

 

 

 TKタワーの一番高い場所に設けられている電波の送信アンテナ。そのすぐに下にルナはいた。少ない足場の上で、震える手で鉄骨にしがみ付いている。強風で服が靡いていた。

 

「委員長!!」

「あ! ろ、ロックマン様! 来てくださるって信じていたわ!!」

 

 ロックマンを見てルナは金色の目を輝かせた。だが、その顔はすぐに恐怖の色で染められた。彼女の頭上でコツリと音がしたのだ。ルナの視線につられるように見上げると、そこには電波変換したハイドが狂喜の笑みを浮かべていた。

 

「ンフフフフ!! 聞きましたよ。あなたがロックマンですね? これはこれは、何という大物役者が……ンフフフフ」

「……え?」

 

 ロックマンの中で、今までのものとは別の危険信号が鳴った。ロックマンの存在を知っているのはごく一部だけだ。それもルナ達のような交友関係のある者たちばかり。後は、特殊警察のサテラポリスが少々探っている程度だ。

 それにも関わらず、男の口振りはまるで以前からロックマンのことを知っていたかのようだ。それがロックマンに警戒心を持たせる。

 

「なんで、僕のことを知っているの?」

「それは我々のブラックリストに……と、私としたことが。口を滑らせてしまいましたね」

「……我々……?」

 

 つまり、ハイドには仲間がいるということだ。嫌な空気を感じる。ロックマンはバスターを向けて、ハイドを睨みつけた。スバルの代わりに、左手のウォーロックが荒い口調で疑問を投げた。

 

「おい、てめえの目的はなんだ!?」

 

 わざわざニホン最大の電波塔を狙ったのだ。何か大きな目的があるはず。ルナも不安そうに男を見上げ、ゴクリと唾を飲み込んだ。そんな予想はたったの一言で一掃された。

 

「私の趣味です」

「し……趣味?」

 

 思わず気の抜けた声で尋ね返してしまった。そんなロックマンとは違い、ハイドはマントを翻しながら揚々と解説を始める。

 

「ええ。強いて目的を挙げるならば……このファントム・ブラックに電波変換した私の実力を測ることでしょうか?  ですが、ただそれだけでは面白くない。だから私は脚本を描いたのです。この国を代表する大都市、ロッポンドーヒルズを舞台に繰り広げられるタワージャック!! 素晴らしいでしょう? 私が今まで描いてきた脚本の中でも最高のできになりました。

 なにより出演者が素晴らしい! 私が思い描いていた理想のヒロインにぴったりの少女を見つけましたからね。加えてあのロックマンが騎士役を務めてくれるだなんて……ンフフフフ」

 

 男の自慢話の間、ロックマンは手をわなわなと震わせていた。目の前ではルナが震えている。

 

「その脚本、俺達がビリビリに破いてやるよ。なあ、スバル!!?」

「……僕は……僕はお前を許さない!!」

「ンフフフフ。良いですよ~ロックマン。良い演技です。やはり最後の演出とはこうでなくては!! 用意していた脚本とは違いますが、いきなりクライマックスと行きましょう!!」

 

 ファントム・ブラックが言い終わる前に、ロックマンはスターキャリアーからバトルカードを呼び出した。手を幅の広いワイドソードに変えてファントム・ブラックに切りかかる。ファントム・ブラックはステッキを構えると、フワリとした身軽な動きで飛び降りてくる。

 二人の間で火花が散った。ワイドソードとステッキによるつばぜり合い。その中でファントム・ブラックは器用に体を回転させた。

 

「ファントム・スラッシュ!!」

 

 黒いコートが刃物となって、ロックマンを斬り刻もうとする。まるで大剣が渦を巻いているようだ。ロックマンはすばやくウォーロックのシールドを正面に展開させる。ギャリギャリとウォーロックの電波粒子が削られる嫌な音が耳に滑り込んでくる。嵐が収まったとき、小ぶりの刃物を召喚した。威力を犠牲に、スピードと手数に特化したバトルカードだ。

 

「ベルセルクソード!!」

「ステッキソード!!」

 

 ファントム・ブラックはまたしもステッキで防いで見せた。その動きに、ロックマンは少々焦りを感じた。ファントム・ブラックの実力はかなりのものだ。FM星人達にも劣らないだろう。

 数度斬りあった直後に、ファントム・ブラックが後ろに退いた。ロックマンは距離を詰めようと突進する。先程の思考が勘を鈍らせたのか、その動きはあまりにも無防備すぎた。ファントム・ブラックの懐に黒い穴が開いていることにすら気づかなかった。

 

「ファントムクロー!!」

 

 懐の穴から闇のように黒い手が伸びてきた。指は剣のような鋭い爪になっている。予想外の攻撃に反応が遅れてしまい、その手に捕まってしまった。五本の爪が肩や足を斬りつける。

 

「ロックマン様!?」

 

 戦いを見守っていたルナが叫んだ。彼女の目の前で、ロックマンは黒い手に鷲掴みにされて持ち上げられている。

 

「ンフフフフ!! これも良い演出ですよロックマン。捕らわれたヒロインに、それを助けに来たヒーロー。そして、あえてそれを打ち破る私。ああ、私の脚本に素晴らしい花を添えてくれましたね。感謝します。それにあなたを仕留めれば、私もオリヒメ様の……ンフフフフ!!」

 

 ファントム・ブラックの一人酔いしれた台詞が聴覚を犯してくる。あいつの顔をぶん殴ってやりたいが、黒い手はギリギリとロックマンを締め上げてくる。意識が白く染まっていく。

 

「ロックマン様!!」

 

 そんなスバルの意識を呼び戻してくれる声がした。片方の目を懸命に開けてみると、ぶれた視界にルナが映った。心もとない細い鉄骨の上。少しバランスを崩せばするりと足を滑らせてしまいそう。そんな場所でルナは身を乗り出していた。手元の鉄骨を握り締め、白い指が真っ赤になっている。血の気の引いた唇を震わしながらも、目は希望を失っておらず、ロックマンを捉えていた。

 

「ロックマン様!! お願い……勝って!!」

 

 ロックマンは歯を食いしばった。右手を少し開閉させると、ファントム・ブラックを睨み付ける。

 

「ファントム・ブラック……僕は負けない!!」

「ンフフフフ、それは叶いませんよ。私の脚本では、あなたはここで敗れるのです」

 

 この会話の間にスバルはもう動いていた。ウォーロックに頼んで、こっそりとバトルカードを使用していたのだ。

 

「今のが、僕を倒す最後のチャンスだったよ?」

「何を言ってグッ!?」

 

 ファントム・ブラックの言葉は最後まで続かなかった。緑色の顔が醜く歪む。彼のすぐ近くには透明な戦闘機がレーザーを放っていた。バトルカードのステルスレーザーだ。威力は低いはずだが、手を離してしまうには十分だったらしい。ロックマンは黒い手からの脱出に成功する。

 

「バトルカード、ネバーレイン!!」

 

 ロックマンが手をかざすと、雨の弾丸が降り注いでくる。その隙間を縫うように、戦闘機がレーザーを放つ。だが、ファントム・ブラックには当たらない。宙を泳ぐような身軽な動きでかわしてみせる。それがロックマンの狙いだ。

 

「バトルカード、ブラックホール!!」

 

 宙を舞っているところを狙って、ロックマンはファントム・ブラックを吸い寄せた。突然発生した引力に、ファントム・ブラックは気が動転しているようだ。彼の赤い目が怯えていた。だがそれはすぐに勇んだものへと変わる。この状況を好都合と考えたらしい。接近戦を制しようと、ステッキを構えている。その顔には笑みすら浮かんでいる。

 それもロックマンの想定内だった。

 

「そんな細いもんでこいつを受けきれるかよ!!」

「バトルカード……」

 

 ロックマンがバトルカードを召還する。ファントム・ブラックの顔から笑みが引いた。ロックマンの両手には巨大なハンマーが握られていたのだ。

 

「ハンマーウエポン!!」

 

 大きく振ったハンマーがファントム・ブラックの全身を打ち砕いた。確かな手応えと共に、黒い影が野球ボールのように飛んでいく。そのままウェーブロードを転がると、ユラリと立ち上がった。大きなダメージは与えたものの、致命傷には至らなかったらしい。

 だが流れはロックマンのほうにある。手にロングソードを召還し、駆け出した。

 

「ここまでですね」

「え?」

 

 突然の敗北宣言だった。ロックマンは思わず追撃の手を緩めてしまう。

 

「さすがはロックマン。そう簡単には行きませんね。仕方ありません。今回は主役を譲ってさしあげましょう」

「おい、てめえまさか逃げるって言うんじゃ……」

「ええ、退場させていただきます。私の脚本から外れた舞台などに、もはや興味はありません」

 

 あまりにもあっさりとした言い方だった。自分の脚本とやらに執着する様子もなく、ガムでも吐き捨てるかのように計画の放棄を宣言していた。

 

「ですが、私の脚本を台無しにしてくれたのです。ロックマン、あなたにはいずれ復讐させていただきます。そのときをどうぞ楽しみにしていてください。それでは。ンフフフフフ」

 

 気持ち悪い笑い声を上げると、ファントム・ブラックはスッと姿を消した。清々しいぐらいの退散劇だった。ロックマンもルナも、声を出すことを忘れてしまっていた。

 

「……ファントム・ブラック……何者だったんだろう? それに、我々って……」

「俺が気になるのはあの電波変換だな。一体、どういう仕組みだ?」

 

 スバルとウォーロックの疑問が晴れることはない。考えていても仕方がない事だろう。気を取り直して、ルナに手をさしのばした。

 

「掴まって、委員長」

「ありがとう……って、私はロックマン様にお礼を言ったのよ!? そこはわきまえなさいよ!!」

「ハハ、分かってるよ」

 

 助けに来たというのに、何という扱いだろう。軽く笑いながらルナを抱きかかえると、スバルはゆっくりとTKタワーを降りて行った。入り口に降りると音の津波に襲われた。

 

「な、なに!?」

 

 見ると、ロックマンを取り囲むように大観衆が詰めかけていた。皆が口々にロックマンの名前を呼んでいる。

 

「ど、どういうこと……?」

「ああ、なるほどな。あれだ、テレビで全国放送されちまったんだ」

「あ……」

 

 スバルも思い出した。ファントム・ブラックが二ホン全国に自分の犯罪を放送していたことをだ。当然、先ほどの戦いも世間の目にさらされてしまったというわけだ。

 スバルが戸惑っている間にも、ロックマンコールがどんどんと熱を帯びていく。こんなもの、スバルに耐えられるわけがない。

 

「ごめん委員長! あとをお願い!!」

「あ、ロックマン様!?」

 

 ロックマンは周波数変換して見えない体になると、大急ぎでその場から逃げていった。ロックマンを呼ぶ声はなかなか鳴りやまなかった。

 

 

 夕方になっても、TKタワーの前は大騒ぎだった。現場に到着したサテラポリスたちによる現場検証だけでなく、マスコミが殺到しているのだ。その中央で、ルナがゴン太とキザマロを従えて自慢げにふんぞり返っている。

 その様子を近くのビルから見ていたスバルは大きくため息をついた。フェンスに頭をつけてガックリとうなだれている。

 

「あれ、絶対にロックマンのことをしゃべってるよね?」

「だろうな。ククク……」

「嬉しそうだね……」

 

 対して、スターキャリアーの中にいるウォーロックは嬉しそうにしている。

 

「当たり前だろ? そもそもだ。俺はコソコソするっつうのが性に合わなかったんだ。これで今度からは堂々と暴れられってもんだ」

「やめて、本当に……また目立っちゃうよ……」

 

 再度大きくため息をついた。

 

「調子に乗るなよ」

「……え?」

 

 突然、冷たい声がかけられた。スバルは思わず背後を振り返る。

 そこに一人の少年がいた。彼の白い髪を見て、スバルはすぐに思い出した。この町に来た直後、ぶつかった少年だ。

 少年の赤くて鋭い眼光がスバルを捕らえていた。まるで人を射殺すかのような視線に、スバルは心臓が萎縮するのを感じた。

 

「……僕? 僕が何を……」

 

 尋ねながらもスバルは少年の全体を改めて観察してみる。

 背はスバルよりも少し高い。赤い目と白い髪、褐色に近い茶色い肌が特徴的だ。服装は黒というよりは、黒っぽいこげ茶色に近い。胸には記号のような黄色いマークが刺繍されている。服の途中からズボンにかけては水色のラインが走っている。あまり見ない服装だ。耳につけたピアスのような飾りに、目の下の刺青のような赤いライン。どこかの民族伝統のものだろうか。

 人を寄せ付けない目をした少年の態度は、ウォーロックには気に入らない。人間には見えない周波数で、スターキャリアーから出て少年に怒りを向ける。

 

「ケッ! またてめえかよ!? おい、スバル。手を貸すぜ? さっきのお返しに、一発ぎゃふんと……」

「聞こえているぞ」

「……なっ?」

 

 ウォーロックの目が丸くなった。偶然か、何かの間違いかと思ったが、少年の目は明らかにウォーロックに向けられていた。

 

「君、まさか電波が……」

「ああ、見える」

 

 疑いようが無かった。彼はビジライザーなしに、裸眼でウォーロックの姿が見えているのだ。

 

「困っている人間を助けて良い人気取りか? 鬱陶しいんだよ、そういうの。警告しておく。俺の前でうろちょろするな」

 

 少年はスバルに詰め寄ってくる。ガシャンとフェンスが背中に突き当たった。自分では気づかなかったが、後退していたらしい。

 少年は最後にスバルをきつく睨みつけると、振り返ることも無くその場を後にした。

 

「な、なんだっただろう……あの人……」

 

 ウォーロックは何も答えなかった。

 ただ薄ら寒い感覚がスバルの胸に突き刺さっていた。




 物語の最初ってものすごい大事ですよね。登場人物や世界観を説明しつつ、物語を魅力的に見せて読者を引っ張り込む必要があります。この第一章はそこに力を入れてみました。

 「物語序盤で一気に盛り上げる」という意味では、ゲームの流ロク1はとてもよくできていたと思います。引きこもりの暗い主人公がションボリしている……と思ったら、宇宙人が空からやってきて戦いに巻き込まれるという衝撃的な展開。これはゲーム開始から10分ぐらいのできごとです。だからアレオリ1は特に何も考えずに原作に沿って書くだけで面白いものになりました。むしろ、私が丁寧に書き過ぎたせいでダメになってしまったのではないかと思うぐらいです。

 ですが流ロク2はこの最初が長かった。世界観の説明に力を入れ過ぎたのでしょうかね。いつまで経っても世界観や新しいアイテムの説明ばかり。流ロクファン皆から愛されているロリコンさんが登場するまでに、1時間ぐらいかかった気が……

 上記の理由からアレオリ2を流ロク2と同じ展開で描いていては読者が退屈する……って言うか私が飽きる! と考えて、原作にあったイベントを幾つか省き、主要キャラや世界観の説明を最低限に収めつつ、敵を登場させて盛り上がり場所を用意して、テンポよく物語を進められる構成になるよう、組み立て直してみました。本当に盛り上がれたのかは分かりませんが……
 本来ならば第二章で登場するアイツをこの第一章で出したのもそれが理由です。


 この第一章は最初の盛り上げに力を入れたため、単体で見ると味気ないものに見えるでしょう。その汚名は第二章で挽回したいです。

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