流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
コンドル・ジオグラフが竜巻のように回転する。こうなれば翼にしがみ付いているロックマンは攻撃どころではない。空中に放り出されれば、ミサイルやレーザーで狙い撃ちされるのが目に見えている。
「う……くっ……手が……」
「気張りやがれスバル!」
「わ、分かってる……けど……」
だが限界は必ずやってくる。とうとうロックマンは手を滑らせてしまい、空に放り出された。
「しま……」
「来るぞ!」
コンドル・ジオグラフが大きくターンしてくる。口にはあの緑色のエネルギー。
ロックマンは左手を付きだした。シールドを展開する。防げるかは分からないが試すしかない。ロックマンが凝視する先で緑色が膨れ上がるった。
その時だった。下から雷が駆け抜けたのは。レーザーのような雷に撃ち抜かれ、コンドル・ジオグラフは地面へと落ちていった。
「…………え?」
「なん……だと?」
ダメージを負っていたとはいえど、ダイナソーの力を取り込んだコンドル・ジオグラフが一撃で倒された。どこか異常なものを感じつつも、
ロックマンはウェーブロードに着地して辺りを見回した。今のは間違いなくジェミニサンダーだ。
「ツカサくん、どこ!?」
呼びかけに答えるようにして、一人の電波体が下から飛び上がってきた。
「ツカ……!?」
親友の名を呼ぼうとしてスバルは声を詰まらせた。目の前に現れたのがジェミニ・スパークWではなかったからだ。彼はロックマンの方を見向きもせず、暗い雲が広がっている空を見上げている。その右手ではジェミニが白い仮面を鷲掴みにされていた。
「ハハ……ひっさしぶりの外の空気だ……生きてるって感じがするぜ」
ツカサと同じではあるが、少し違う色を帯びた声。ジェミニ・スパークWと同じ姿をした黒い電波人間。スバルの記憶が悲鳴を上げた。
「まさか……ヒカル?」
封印されたはずの、ツカサのもう一人の人格だ。彼はゆっくりとロックマンに顔を向けた。残虐な笑みが作られる。
「久しぶりだな……運が良いぜ。起きてすぐにお前に会えるとはな。ちょうど暴れたかったんだ」
ジェミニが苦しそうな声をあげた。ジェミニ・スパークBが右手に力を込めたのだ。
「おい、しっかりしやがれジェミニ!」
「……ギッ……ギギ……」
白い仮面にヒビが走る。その時、黒くなっていた目の奥に、小さな赤い光が見えた。ウォーロックはそれが自分に向けられたような気がした。
「ギ……ギギッ!!」
白い仮面が砕けた。代わりに右側から黒い仮面が出てくる。直後にジェミニはヒカルの中へと吸収された。
むごい仕打ちに息を飲みながら、スバルはヒカルを睨み付けた。彼の胸元では、黒い光が魅惑的に光っていた。
「さあ、俺にぶっ倒されろ!!」
飛びかかってくるジェミニ・スパークB。右手にはエレキソード。
「スバル!!」
「う、うん!!」
事態の変わりように少々戸惑いつつも、ロックマンはベルセルクを構えた。表情が引きしまる。2人の間で雷がはじけ飛ぶ。
「ツカサくんを返すんだ、ヒカル!!」
「はぁ? 返せだ~? ふざけんじゃねえよ!! 俺はツカサの半身だ! 俺とツカサは一心同体なんだからな!!」
ヒカルの攻撃が重くなった。大ぶりだが力強い。ロックマンはベルセルクを盾のようにして防ぐ。
「それがなんだ? 封印した……だ? 俺は存在してはいけないっつうのかよ!!? 俺はツカサの感情から産まれたんだ! 認めねえ、そんなの絶対に認めねえぞ!!」
ベルセルクにヒカルの蹴りがぶち当たる。ウェーブロードから押し出され、ロックマンは下のウェーブロードに降りながら上をうかがった。ヒカルの左手が黄色く光っている。
「俺を見ろ! 俺を見ろ!! 俺を見ろおおお!!!」
ジェミニサンダーの雨が降り注ぐ。一本一本は小さいが、範囲が広い。
「しまった、下だスバル!!」
「え? あっ!?」
気づいた時には遅かった。ナンスカ村を落雷が襲った。民家を破壊し、炎が回る。村人たちの悲鳴が上がり、逃げ惑う。中にはルナ達の姿も見えた。
「ヒカル! 村は関係ないだろ!!?」
「うるせえ! うるせえうるせえうるせえ!! 俺を無視したツカサを祀る村なんざ、消えちまえばいいんだよ!!」
ヒカルの左手にまたエネルギーが溜まり始める。ロックマンはグリーンシノビにトライブオンしてヒカルに飛びかかった。
「止めるんだ!」
ロックマンの体当たりでヒカルの姿勢が崩れた。ジェミニサンダーは上空へと飛んでいく。
ホッとする間もなく、ヒカルが身を起こして斬りかかってきた。
「どいつも! こいつも! 俺ばかり! 俺ばかりぃっ!!」
エレキソードに対抗して、ロックマンもバトルカードのウッドスラッシュで迎撃する。
「お前らが! お前らがぁっ!!」
大ぶりな攻撃。ウッドスラッシュが激しく叩かれ、火花が散る。数回防いだ時にヒカルの体が大きく泳いだ。すかさず胴を蹴飛ばして転倒させる。その隙にロックマンは空に跳躍した。
「さっさと終わらせちまうぞ、スバル!」
「うん! フウマシップウジン!!」
数枚の手裏剣を巨大化させて狙いを定める。だがこの間にヒカルが立ち上がった。思ったより早い。焦る気持ちを抑えて手裏剣を投げつけた。
ヒカルが後方に飛び、一枚目は避けられた。だがそれは囮。二枚目が右腕を切り割き、三枚目が左肩を深く抉った。悲鳴を上げるヒカルに向かって、ロックマンはヘビーキャノンを乱発した。爆風がヒカルを包み込む。
「このまま押しきれ!」
ウォーロックに言われるままウッドスラッシュを召喚して飛び込んだ。爆風の中から左手が飛んできたのはその時だった。
「ロケットナックル!」
拳は綺麗なカウンターとなってロックマンの顔面を打ち抜いた。左手がそのままロックマンの腕を掴んでウェーブロードから引きずりおろす。空中に放り出されたロックマンに向かって、ヒカルが右手を振り上げる。
「ジェミニサンダー!!」
雷のレーザーがロックマンに迫りくる。ここは空中……逃げ場など無い。身を守ろうと、ロックマンはシールドを前に付きだして体を丸めた。そんな彼を守ったのはコンドル・ジオグラフだった。巨体で雷を受け止めると、ロックマンに覆いかぶさるようにして神台のある広場へと落下した。
「そ、村長さん!!」
翼の下から這い出して、ロックマンはコンドル・ジオグラフの顔を覗き込んだ。
「なんでこんな……」
「この村を……」
唐突にアガメは語りだした。目はロックマンではなく、燃え行く村へと向けられている。
「この村を豊かにしたかったのだ……ワシは……ワシは何もないこの村をただ……」
ガラガラと音を立てて一軒の家が崩れた。炎が更に広がっていく。スバルはこの悲惨な光景を前に一度目を閉じると、首を横に振った。
「『何も無い村かも知れないけれど、僕はここが好きだ。ここは皆が優しくて、暖かい……』
昨日、ツカサくんが言ってた言葉です」
「……ツカサくんが?」
「はい」と答えようとしたとき、目の前に落雷が降り注いだ。上空を睨むと、ヒカルが再度ジェミニサンダーを放つところだった。
「何してる! さっさと上がって来いよ!!」
ジェミニサンダーが周囲に降り注いだ。雷に襲われた家屋が次々と火だるまになり、あっという間に炎が回っていく。
「止めろ! もう村を壊すのは……!!」
「うるせえ!! だったら俺を見ろよ! 俺の相手をしやがれ!!」
右腕の雷が一際大きくなった。ロックマンは歯を食いしばるとウェーブロードへと飛び上がった。そのとき、ロックマンは視界の隅に映ったものにハッとなった。炎の海の中にあの夫婦がいた。夫と数人の村人が妊婦を必至に避難させようとしている。位置はちょうどロックマンの真後ろ……ジェミニサンダーの進行方向。
「止めろーーーっ!!!」
ロックマンの怒号。ヒカルの目が細められる。直後に目を大きく見開いた。右腕が真下へと向き、ジェミニサンダーが見当違いの方向へと放たれた。
それを目で追う。向かう先は神台だった。轟音が鳴り、神台が炎を纏う。そしてゆっくりと妊婦たちに向かって倒れ始めたのだ。
ウェーブロードを蹴った。地面に向かって跳躍する。だが距離がある。遅い。間に合わない。妊婦たちが顔上げた。顔色が恐怖と絶望に染めあげられる。
赤い壁がそこに滑り込んだ。コンドル・ジオグラフだった。体を屋根のようにして妊婦たちを神台から守って見せたのだ。
「……行け!!」
一声叫ぶと、戸惑っていた妊婦たちが慌ててその場を離れた。十分離れた時、コンドル・ジオグラフは空を見上げた。ロックマンと目が合う。
「頼む……」
電波変換が解けた。神台が瓦礫となって崩れていく。その中から赤い光が空へと飛びだった。尾を引きながらまっすぐにロックマンへと向かってくる。
「村長さん……」
それに手を伸ばす。光が手に収まった。
「トライブオン!!」
赤い光が爆発する。共に赤くなったロックマンが空へと飛び出した。重装甲の体、燃えるような赤い色。額にはナイフのような巨大な角。野生の力、ダイナソーを取り込んだロックマンの姿だった。
目の前に降りたロックマンを前に、ヒカルは力なく笑って見せた。
「ハハ……なんだよ? また……また俺を一人にするつもりかよ、お前は?」
ロックマンは何も答えずに腕を引いた。ウォーロックの口から炎が溢れだす。ジェミニ・スパークBも左手を引く。2人の力が放たれた。
「ジェノサイドブレイザー!!」
「ジェミニサンダー!!」
2人の最大技がぶつかり合う。炎と雷の柱がぶつかり合い、互いを飲み合う。均衡は直ぐに崩れた。炎がヒカルを飲み込んだ。
「俺は……俺は消えねえぞ!! 俺は……俺はああああ!!」
炎と共にジェミニ・スパークBが空へと放り出される。光がはじけ飛び、生身の姿へと戻った。トライブオンを解除したロックマンが追いつき、受け止める。
「……良かった」
彼の顔を見てホッとした。気を失っているとはいえど、この穏やかな表情は間違いなくツカサのものだった。
もうちょっとうまく書けなかったかな……と悔いが残ります。