流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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五章.白黒
第32話.少年とムー大陸


 巻き上がる砂に目を細めながら、少年はフードを深くかぶった。強風でローブがバタバタとはためく。辺りは絵に描いたような荒野で、巨大な岩石とひび割れた赤い大地が広がっている。

 そんな中に違った光景が紛れ込んできた。少年は足を止める。前方に広がっているのは巨大な絵だった。幅一メートル以上はある太い白線で、猿や鳥、首の長い魚のような存在など、動物と思われる存在が描かれている。

 少年はそれらを踏まぬように絵と絵の間を歩いていく。やがて一つの絵の前で足を止めた。何かの紋様だった。おもむろに手を胸元に当てる。

 

「地上絵に興味がおありですかな?」

 

 背後から声を掛けられ、少年は勢いよく振り返った。そこにいたのは杖を突いた老人だった。ローブのような民族衣装を身にまとっており、石やガラスで作られた細かい装飾品がちりばめられている。どうやら位の高い人間らしい。

 

「ワシはナンスカ村の村長、ナンスカ・オサ・アガメと申します。地上絵について詳しく知りたいのならば、ワシがお聞かせしましょう」

 

 少年は少し思案すると、握っていた右拳をほどいた。

 

「そうだな。聞きたいことがある」

 

 

 ナンスカ村はすぐ近くにあり、少年はアガメ村長の家にまで案内された。旧式な石造りの家だったが、村長と言うだけあって大きな家だった。天井は高く、3階建てぐらいはありそうだ。

 

「この村で取れた自慢の果物で作ったフルーツジュースです。どうぞお召し上がりください」

 

 アガメは人の良い笑顔で少年の前に木造りのコップを差し出した。少年は睨むようにそれを見ると、黙って受け取った。

 

「きっと気に入られると思いますよ。この村は見ての通り何もない田舎でして、外から来られる方などめったにいません。ですから、訪問してくださった方にはせめてものお持て成しとして、必ずこれをお出ししているのです」

「どうでもいい。それより聞かせろ。あの地上絵はムー大陸に関係があるのか?」

 

 少年はアガメの胸にぶら下がっている赤い物体を見ながら言った。何かの肉食獣を思わせる頭蓋骨だった。

 

「はい、あれはムー大陸がこの辺りを支配していたころに、我々のご先祖様が描かれたものです。この村にはムー大陸に関係する話が伝えられています」

「詳しく聞かせろ。興味がある」

「ホッホッホッ、これは珍しい。ムー大陸に興味がおありとは。良いでしょう、お話ししましょう」

 

 アガメは椅子に座り直すと、自分の分のジュースを口にした。そしてスターキャリアーから書物をマテリアライズすると、ゆっくりと話し始めた。

 

「ムー大陸は空に浮かび、地上支配しておりました。ですが、それ以前の彼らは悲惨でした。他の種族から虐げられていたのです」

「虐げられていただと? ムー大陸の人間がか!?」

「はい」

「なぜだ? 空に都市を築けるような奴らがなぜ?」

「理由は簡単です。数が少なかったのです」

 

 前のめりになって居た少年は口を結ぶと、ゆっくりと腰を下ろした。

 

「彼らは確かに一人一人が非常に優秀でした。

 中には人間離れした特異な能力を持った者もいたと聞きます。肉眼で電気の信号……いわゆる電波ですね。それを見ることができる者。また、体の一部を変化させ、電波に振れることが出来る者までいた……と。

 何故かは分かってはおりませぬが、彼らは電波と深い関わりがあったのです」

 

 村長がコップを手に取って喉を潤す。少年は自分の手を握っていた。

 

「数は少ないうえに、特異な能力を有している。

 これらの理由から、彼らは他種族たちから忌み嫌われ、執拗に攻撃を受けることになったのです。一カ所に留まることはなく、地から地へと移り住み、明日をも知れぬ日々を送っていたと聞いております。それも長い時期(とき)を……」

「…………」

「ですが、彼らとて逃げ続けるだけではありませんでした。皆で寄り添い合い、知恵を出し合いました。

 先ほども述べた通り、彼らは優秀かつ特異な能力を持っていました。長い時間をかけてある結論を出したのです。

『住む土地が無いのならば作ればいい。地上にないのならば空に作ればいい』

 途方もない考えですが、彼らにはそれを可能にする力がありました。

 詳しい方法は今も分かっておりませぬが、彼らは国……今の規模では都市一つ分の大地を持ち上げ、ムー大陸を建国したのです」

 

 少年はゆっくりと瞼を開いた。

 

「……本当に作り上げたのか……? 自分たちの居場所を」

「そう聞いております。

 ですが、これでめでたしでは終わらなかった。悲願の国を手に入れたムー大陸の人々ですが、それを良く思わない者達がいました。地上に住まう他種族たちです。

 空を飛ぶ国を前に、他種族たちは恐れを抱きました。なにより虐げ、弱者とみなしていた者達が、自分たちを見下ろしながら暮らしている。それが許せなかったのでしょう。恐ろしいことに、ムー大陸を攻撃する計画を立て始めたのです」

「……空を飛ぶ術すら無かったのだろう?」

「はい。どうやって攻撃するつもりだったのか、私には見当もつきません。ですが、本当に攻撃しようと考えていたのでしょうね。ムー大陸に住まう人々にとっては堪ったものではありませんでした。

 ようやく作り上げた自分たちの居場所が壊されようとしているのです。大人しい彼らでしたが、とうとう決心し、戦うことにしました。電波を駆使した情報戦術と、大規模な破壊兵器の開発を行い、地上に住まう他種族たちに攻撃を行ったのです。

 空からの一方的な攻撃に敵うわけもなく、地上にいた全ての種族がムー大陸にひれ伏しました。

 こうして、ムー大陸は高い文明と強大な武力を持って、この世界の支配者となったのです」

 

 村長がパタリと本を閉じた。

 

「これが我が村に伝わっている伝承の全てです」

 

 少年の口が半開きになった。そして勢いよく立ち上がった。テーブルの上でコップが揺れる。

 

「……それだけか? 他には……その後は?」

「申し訳ありませんが、この村に伝わっている伝承はこれが全てです。

 あ、後もう一つあるとすれば、村の宝であるこのダイナソーでしょうか。これはムー大陸を空に浮かべるカギの一つだったなどと聞いておりますが……これは信憑性に欠けますな」

 

 村長はコップの中身を飲み干すと、胸元にある赤い骨を持ち上げた。

 

「…………お前たちは、ムー大陸の生き残りか?」

「いえいえ、違います。地上に住まう種族の中で、ムー大陸を神とあがめていた者たちの末裔です。あの地上絵は神を祀るために先人たちが描いたものだと伝えらています。

 事実、ワシには電波を見ることも出来なければ、もちろん触れることも出来ません」

「……そうか」

 

 ドサリと椅子に腰かけた。と、ちょうどその時、ドアがノックされた。村長が返事をする前に一人の男が中に入ってきた。

 

「村長、そろそろお祈りの時間です」

「うむ、もうそんな時間か?

 申し訳ありませんな客人。今からワシは仕事に出ます。今から村をあげて、ムー大陸を祀るお祈りを行うのです。ぜひともご覧になっていってくだされ」

 

 そう言って、村長は出ていった。

 

「…………不用心だな……」

 

 家の中を見渡す。今なら好き放題に泥棒ができるだろう。と言っても、金目になりそうなものもないし、少年が欲しいと思うようなものも見当たらない。合ったとしても彼が手を付けることもなかっただろうが。

 少年は軽く鼻を鳴らすと立ち上がった。結局、コップには触れなかった。

 

 

 村の広場、そこに設けられた神台で大規模な祈りが始まった。村人たちは食べ物などをささげて一斉に頭を下げている。

 

「…………これがムー大陸を祀る祈り……か」

 

 神台の上にいるのは自分と大差の無い年齢の男の子だ。派手な衣装を着て手を振っている。それを見て少年はため息をついた。

 

「くだらんな……」

 

 少年は空を見上げた。オレンジ色の道、ウェーブロードが広がっている。それに目を細めた。

 

「やはり、俺は一人……か」

 

 神台の下にいる村長の胸元……そこにあるオーパーツを見つめる。アイツの情報通りだった。興味本位で村長の話を聞いたが、そろそろ動いた方が良いかもしれない。

 右手を胸元に当てて目を閉じた。

 

「…………電波変換」

 

 そう呟いて、ソロは姿を消した。


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