流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第29話.湖の怪物

 祭り会場はひっくり返したような騒ぎだった。蜂の子を散らしたかのように逃げ惑う人々。その激流の中にルナはいた。周りに踏みつぶされぬように走りながら、逃げ遅れている者を注意深く探す。ちらりと後ろを伺った。そこにはビルのような太い首をしならせる怪物がいた。この祭りの主役であり、今や恐怖の象徴となったドッシーだ。

 ドッシーは首を大きく仰け反らせると、ハンマーのように角ばった頭を振り下ろした。テントや出店が踏みつぶされ、泥が周囲に飛び散る。顔を持ち上げると、耳を引き裂さかんばかりの鳴き声をあげてみせた。

 

「グギャァァァアア!!!」

 

 何人もの人が驚いて転がり、腰を抜かす。ルナも耳を抑えて身をかがめていたが、すぐに身を起こした。

 

「こんなの、どうってことないわよ! すぐにロックマン様が何とかしてくれるんですから!! キザマロだって……」

 

 その時、一人の人物が目に入った。民家の屋根に隠れるようにして撮影用のカメラを構えている。ルナは彼に近づくと、首から下げられているネームプレートを見て怒鳴った。

 

「あなた、スナップさんと言うのね? 何をしているの!? 早く逃げるわよ!!」

 

 だがスナップは首を振った。ルナの方には見向きもせずにただカメラをドッシーに向けている。

 

「ダメだ、撮らないと……この映像ならきっと、出間崎だって……」

 

 まるで何かに憑りつかれたかのように動こうとしない。ルナは歯を食いしばってドッシーの方を見あげた。その時、視界の上の方に青色の影がちらついた。

 

 

 上空のウェーブロードでスバルとウォーロックは目を丸くしていた。

 

「あれがブラキオ・ウェーブ……」

「確かにでけえな……」

 

 まるで船が動いているようだった。全長は10メートルはあるかもしれない。そんな首長竜とよく似た電波体が会場を襲っているのだ。

 できればこいつを倒して逃げ惑う人々を救ってあげたいところだが、今は後回しだ。

 

「皆……ごめんなさい」

 

 ブラキオ・ウェーブの頭上を通って背後に回ると、こっそりと湖に飛び込んだ。

 まず真っ先に行うことはキザマロの救出だ。ファントム・ブラックはキザマロが湖の底にいると言っていた。時間が限られている。

 そして、いるとすればブラキオ・ウェーブの近くだろう。だが無理にコイツと戦う必要はない。キザマロを助けた後にゆっくりと相手をしてやればいい。

 

「八木くんだって戦ってくれているんだ。早くしないと……」

 

 一秒一秒が惜しく感じる。湖の底に着いて、辺りを見渡そうとする。だが首が思うように動かない。手足も含めて体がゆっくりとしか動かない。

 

「これって……」

「しまった、ここは水中だ!!」

「あ、そうか!!」

 

 スバルは思い出した。水中では、電波の通信速度が著しく悪くなるのだ。ロックマンは電波人間。その例には漏れない。

 なおさらゆっくりしている暇がなくなった。何倍にも重くなった体を引きずるようにしながら湖の底を走り回る。ゆっくりとしか流れない世界に神経を尖らせる。

 

「ろ、ロックマン!!?」

 

 声が聞こえた。そちらにゆっくりと顔を向けると、岩に挟まった潜水艦が見えた。窓にはキザマロの泣き顔。

 

「キザマロ!!」

「スバルくん! ……た、助げにぎでぐれたんですか!?」

「もちろんだよ、直ぐに引き上げるから!!」

 

 思ったより早くキザマロを見つけることが出来た。駆け寄ろうとしたとき、辺りが暗くなった。

 

「ん?」

「上だ!!」

 

 見上げると、巨大な影が目の前にあった。船にでもはねられた衝撃が体を襲い、水中で吹き飛ばされる。岩を破壊してようやく体が止まった。

 

「ちっ、気付かれたか……」

 

 目の前に巨大な壁が悠々と泳いでいた。ブラキオ・ウェーブだ。電波変換している男はロックマンを見ると残念そうに目を細めた。

 

「お前がロックマンか? 悪いがお前が来たらぶっ倒せってハイドのやつに言われてるっつーの」

 

 身を起こしながらロックマンはトライブオンを行った。体が鋼色に変わり、背中にベルセルクが現れる。

 

「あの気持ちわりぃやつの言う事を聞くのは嫌だが……仕方ねえよな」

 

 ブラキオ・ウェーブは首を少し退くと、剣のような歯をぎらつかせた。噛みついてくる気だろう。ロックマンはそう予想して身構えた。

 

「アクアファング!」

 

 やはり首を伸ばした噛みつき攻撃だった。軌道もロックマンが想定していた通り、単純で素人丸出しだ。

 だが一つ予想外のことがあった。速度だ。動きの遅いロックマンと違い、ブラキオ・ウェーブの動きは素早かった。体に刃が突き刺さる。

 

「があっ!! な、なんで!?」

 

 相手も電波体だ。水の中では動きが鈍るはずなのに、なぜ? 体の痛みで冷静さを失いそうになったとき、ウォーロックがフォローしてくれた。

 

「離しやがれ!!」

 

 ウォーロックが自分の意思で口からバスターを連射した。ブラキオ・ウェーブの口内で緑色のエネルギーが爆ぜ、顎の力が弱まった。

 

「いてえっつーの!!」

 

 ロックマンの足元で青白い光が満ち、体に電撃が走る。見れば、ブラキオ・ウェーブの口の奥で、電気の塊が生成されていた。

 

「サンダーブレス!」

 

 雷の大砲がロックマンの全身を焼き、吹き飛ばした。体勢を立て直そうにも体はやっぱり思うように動いてくれない。必至に足を下に向けようとしたとき、目の前にブラキオ・ウェーブがいた。弾丸のように飛ぶロックマンに追いつてきたのだ。ヒレのような足がロックマンの体をビンタした。

 

「ぐおぁっ!!」

 

 ただのビンタも体格差があれば立派な凶器となる。ロックマンは砲弾となって、湖の底に連なっている岩々を砕いていく。幾つ目かの岩にめり込み、なんとか這い出そうとする。

 のんびりとしか動けないロックマンと違い、ブラキオ・ウェーブは魚のように泳いで近づいてくる。

 

「くそ、あいつは別ってか!!」

 

 どうやら、ブラキオ・ウェーブは水中でも自在に動けるらしい。原理は分からないが、そういう特殊な体をしているのだろう。

 

「くっ……プラズマガン!!」

 

 威力こそ低いものの弾速の早いバトルカードを使った。だが、これも電波情報だ。水の干渉を受ける。止まっているも同然な弾を避けると、ブラキオ・ウェーブはあっという間に近づいてきた。

 

「アクアファング!!」

 

 不可避の噛みつき攻撃が襲い掛かってきた。激痛を覚悟しながら、ロックマンは背中のベルセルクを引き抜いた。

 

「くらえ!!」

 

 噛みつかれた直後に、雷の刀身を顎に突き刺した。

 

「ぐひぃっ!? いてえっつってんだろ!!」

 

 ブラキオ・ウェーブが長い首をフルスイングした。岩に叩きつけられ、意識が消えそうになる。ブラキオ・ウェーブの怒りは収まらない。そのまま湖の底を引きずられ、削られような痛みが体を蝕む。とどめにサンダーブレスだ。でかい土煙があがる。

 

「ろ、ロックマン!!」

 

 キザマロの悲鳴が響いた。窓をガンガンと叩く音が響く。晴れゆく土煙の中で、ロックマンは体を起き上がらせる。傷だらけで、トライブオンは解けていた。

 

「だ、大丈夫……だよ。キザマロ……」

 

 スローでしか動かない首を動かし、無理やり笑顔を作ってあげる。キザマロが涙と鼻水だらけの顔を窓に押し付けていた。

 

「必ず……」

 

 ドカリとロックマンの体が打ち上げられた。ブラキオ・ウェーブの首がバットとなって、ロックマンを地面にたたきつけた。

 

「助ける……から……」

 

 サンダーブレスの雨が降り注ぐ。

 

「僕が必ず……」

 

 その雨の中でロックマンはさらに立ち上がる。

 

「君を……」

 

 サンダーブレスが直撃した。ロックマンの体が水中に浮く。

 

「助けるから!!」

 

 ブラキオ・ウェーブの口が迫っていた。

 

 

 ゴート・カンフーはゼェゼェと息を吐きながら足を踏ん張らせる。そんな彼の顔に容赦のない一撃がめり込む。

 

「ブライアーツ!!」

 

 続いて胴に一撃、顔が下がったところをさらに打ち上げ、留めとばかりに踵落としを打ち込んだ。

 それが決定打だった。ゴート・カンフーはウェーブロードに叩きのめされ、ピクリとも動かなくなった。

 彼の姿は見るも無残なものへと変わっていた。白かった体は黒や赤に変色しており、緑色の道着はボロボロに破けていた。

 ゴート・カンフーの実力は間違いなく本物だ。だがそれ以上にブライが強すぎた。オーパーツの力を借りても及ばないほどに。

 

「ふん、所詮雑魚か」

 

 ブライはうつ伏せになっているゴート・カンフーを蹴飛ばして仰向けにさせると、胸元に手を当てた。

 

「オーパーツを貰うぞ」

「……どうする気サ……」

「決まっている。貴様の体電波情報に干渉し、無理やり引き出すだけだ」

 

 ブライの手に紫色の電波が集中し始めた。それはゴート・カンフーの体を侵食し、表面を破壊し始める。

 

「う……ぐぅ……」

「もっとも、お前はただでは済まないだろうがな」

 

 ゴート・カンフーの体の表面が穿たれ始めた。うめき声が大きくなる。

 

「う、がぁ……や、止め……」

「黙れ」

 

 ブライは手の光をより強くさせた。紫色の光がゴート・カンフーを包み込む。

 その時だった。ブライとゴート・カンフーの世界が緑色で満たされた。

 

「な、なんだ!?」

「こ……れは……?」

 

 予想もしていなかった光に驚き、ブライはとっさに距離を置いた。かすれた声をあげながらゴート・カンフーは胸へと手を伸ばす。光はそこから生まれていた。そして察した。

 

「分かった、行くと良いサ」

 

 光がゴート・カンフーの胸から飛び出した。その中心にあるのは十字型の手裏剣……オーパーツだ。

 

「シノビが……だと? なぜだ!?」

 

 ブライの声を無視して、シノビは光の球体となって空を駆けた。方角は、ロックマンが向かった先だ。

 

「……どういう……ことだ」

「……ハハ」

 

 力のない笑い声が上がった。ゴート・カンフーのものだ。ブライは彼の胸倉を掴むと、乱暴に持ち上げた。

 

「……何がおかしい……」

 

 今にも殺しかかからんとするブライの目。それを見ながらゴート・カンフーはくすりと笑って見せた。

 

「……どうやらシノビは、君よりもロックマンの方が気に入ったみたいサ」




アンドロメダを打ち破り、トライブオンまで手に入れたロックマンが、
どう見ても見かけ倒しで戦闘の素人であるブラキオに苦戦するにはどうすればいいか……

これしか思いつきませんでしたorz

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