流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第27話.やらせ

 ぽちゃんと湖で小魚がはねた。背後からは羊の泣き声が聞こえてくる。

 ここはお祭り会場から離れた場所……八木の修行に付き合ってあげた場所だ。そこにポツンと蹲っているのはスバルである。

 

「おい、ションボリモードじゃねえだろうな?」

「……たぶん、ギリギリ違うと思う」

「……そうか……で、どうするんだ、キザマロは?」

「どうしようか?」

 

 キザマロを助けに来たというのに拒まれたのだ。力づくで連れ戻すわけにもいかない。

 なによりスバルが気力をそがれていた。

 

「キザマロ……友達だと思っていたのにな……」

 

 ルナ、ゴン太、キザマロの3人はスバルにとってかけがえのないブラザーだ。中でもキザマロは同じく科学好きということで話が合う間柄だった。3人の大切さに優劣はつけられないが、2人とは別の意味でキザマロが特別な友人であったことに違いはなかった。

 そんな彼の隠されていた一面を見せられてしまった。もしかしたら、友達と思っていたのは自分だけだったのだろうか? そう思うとさらに深いため息が漏れてしまった。

 

「あれ、スバルくん?」

「……え?」

 

 声に振り返る。少し前に別れたばかりの八木がそこにいた。今までここで修行でもしていたのか、汗水を垂らしている。

 

「どうしてここにいるサ? キザマロって友達は……っていうか、落ちこんでない?」

 

 隣にゴートも出てきた。相変わらず無言だが、彼なりに心配してくれているのだろう。

 

「うん、ちょっとね……」

 

 八木の気づかいはありがたいが、今はそっとしておいて欲しかった。だが、八木は構うことなくスバルの隣に腰を下ろした。

 

「僕で良ければ話してほしいサ。友達をほっとくなんてしたくないサ」

 

 ピクリとスバルの耳が動いた。

 

「とも……だち? 僕と八木くんが?」

「もちろん、一度拳を交えたらもう友達サ。僕はそう思ってるサ」

 

 八木が清々しい笑みを見せてくれた。それにつられてスバルもクスリと笑ってしまう。

 

「うん、あのね……」

 

 八木になら話してもいいのではないか。そう思って、スバルは切り出そうとした。

 それを阻むんだのはウォーロックだった。スターキャリアーから飛び出して話の出鼻をへし折った。

 

「スバル、話は後だ」

「え?」

「! 師匠!?」

「うむ」

 

 ゴートが腕を組みながらウォーロックと同じ方向を見ていた。視線の先には、白い髪をした褐色肌の少年。

 スバルの全身が逆立った。

 

「ソロ!?」

 

 跳び上がるようスバルが立ち上がった。スバルの並ならぬ反応とソロが纏う雰囲気。それに触れて八木も身構えた。この僅かな間に八木がスバルに目くばせをしてきた。「彼がオーパーツを狙っている人なのか?」と尋ねていた。スバルはコクリと頷く。八木も了解したようだ。

 拳法の達人である八木の構えを見てもソロはその余裕ある態度を崩さない。冷たい目で八木を見下すと、スバルに視線を移した。

 

「また性懲りもなく仲良しごっこか?」

 

 スバルは頬がピクリと痙攣したのを自覚した。

 

「あれだけ絆と言うもの無力だと証明してやったというのに、まだそれにしがみ付くか。虫唾が走るな」

 

 スバルの中で憎しみにも似た黒い感情が燃え上がった。歯がギリギリと鳴る。

 

「お前にはもっと痛い目を見せてやらないと分かりそうもないな。オーパーツを貰うついでに教えてやるよ。お前が信じているものがまがい物だということをな」

 

 ソロが両手を広げた。紋様が彼の周りを回り始める。単体電波変換をするつもりだ。

 スバルもスターキャリアーを取り出した。

 

「電波変換 星河スバル! オン・エア!!」

「僕も! 電波変換!!」

 

 ロックマンとゴート・カンフーが並び立つ。そしてソロもブライへと電波変換を終えた。

 

「フン、弱い者同士で手を組むか……良いだろう」

 

 ブライは右手を開閉させた。ゴキゴキと暴力的な音がする。

 

「八木くん、君は使わないでね?」

「……分かったサ……」

 

 ロックマンの小声にゴート・カンフーはあまり納得がいかないという顔で頷いた。

 

「トライブオン!!」

 

 ロックマン・ベルセルクに変身して、大剣を抜く。ブライが身構える。ゴート・カンフーも拳を前に付きだした。

 

「行くよ八木くん!!」

「おうサ!!」

 

 3人の電波人間が地面を蹴った。

 

 

 ロックマンたちが戦い始めた頃、キザマロも祭り会場から離れたところにいた。ここには人どころか飼育されている家畜すらいない。

 

「こっちに来たって聞いたのですがね……どこ行ったんでしょう、出間崎さん」

 

 彼は今出間崎を探しているところだ。台本の量が思った以上に多かったので、減らしてもらうか、せめてカンペに変えてもらおうかと対応をお願いしに来ているのだ。

 

「どこに……あ、いた!!」

 

 岩陰に彼の後姿が見えた。ちょっと悪い足場を乗り越えて彼に近づく。声を掛けようと思ったが、彼が何をしているのか気になってやめた。岩陰であることを利用し、こっそりと覗き見する。

 出間崎は辺りをキョロキョロと見渡し、何かを伺っているようだった。

 

「誰も見てねえよな……よし」

 

 出間崎はスターキャリアーを取り出し、ブラウズ画面を操作しはじめた。

 

「マテリアライズ……っと!」

 

 ブラウズ画面のボタンの一つを押す。ある物体が具現化した。それを見てキザマロは目を疑った。水面に浮かんでいるのは、潜水艦だった。一人乗りの小さいやつだが、形が特徴的だ。前方から伸びている潜望鏡……それの先端に頭がついている。首長竜の姿をしているのだ。

 

「ケケケ、ドッシーなんざいるわけねえっつーの」

 

 出間崎が言った。それに気づくのに数秒の時間を有してしまった。「そんなわけない。違っていてほしい」という少年の期待は無造作に踏みにじられた。

 

「全部俺の一人芝居ってことも気づかずに、皆お祭り騒ぎ。馬鹿かっつーの。

 にしても、まさかここまで上手くいくとは思ってなかったつーの。これも全部、あのキザマロってガキが、偶然俺のやらせを目撃して証言してくれたおかげだっつーの。第三者の証言ってのはそれだけ力があるからな」

 

 ワナワナと手が震えだした。全部この男が仕組んだことだったのだ。そしてそれに利用されていた。担がれていることも知らずに。

 とんでもないことをしてしまっていたのだと理解したとき、足の力が抜けてしまった。当然音が立つ。

 

「誰だっつーの!?」

 

 出間崎が振り返った。目が合う。出間崎の目が見たことのないぐらい開かれる。逃げようと思っても足は動かない。あっというまに捕まり、潜水艦の中に押し込まれてしまった。

 

「な、何するんです!? 出してください!!」 

「うるせえ! そこで大人しくしてろっつーの!!」

 

 操縦席一つ分しかないスペースに閉じ込められたのだ。冷静でいられるわけがない。キザマロは小さい体を振り回すようにして抵抗する。

 

「なんで、なんでこんなことするんです!? やらせなんて!!」

「てめえに分かるかっつーの!!」

 

 急にハッチが開いた。ヌッと伸びてきた手に胸倉を掴まれて、キザマロは引き上げられた。

 何か言ってやろうとして出間崎の顔を見る。言葉を失った。彼の顔が怒っているというには、あまりにも悲しそうなものだったから。

 

「俺だって! 俺だって昔は……ちっ!!」

 

 何かを言いたそうに身を震わせると、出間崎は再びキザマロを潜水艦の中へと押し込んだ。

 

「あ! だ、出して!! ここから出してください!!」

 

 ガンガンとなる潜水艦をよそに、出間崎は頭を抱えた。

 

「つってもどうするんだっつーの……このガキをこのままにして置くわけにも……だからって口封じ……いや、それは流石にな……」

 

 そう、出間崎には選ぶ道などない。キザマロを懐柔するのは無理だろう。当然このやらせは世間に公表される。そうなれば築き上げてきたディレクターとしての地位はもちろんの事、社会からも追放される。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 頭を抱えたままゴロンと仰向けに寝転がると、ニンマリとした男性が自分を覗き込んでいた。

 

「うわっ!?」

 

 慌てて飛び上がる出間崎。彼の反応に「ンフフフフ」と笑いながらハイドは帽子を取った。

 

「失礼しました。私の名はハイド。あなたに力を授けに来た天使です」

「……あ、悪魔の間違いじゃねえのかっつーの」

「おや、良い切り返しですね? 好きですよそういう発想力」

「そ、そりゃどうも……」

 

 腕に立っている鳥肌をさすりながら出間崎は小さく身震いした。とりあえず、こいつは何者なのだろうか。それとやらせのことを聞いていたのだろうか。もしそうならばもう一巻の終わりだ。だがそんなことは杞憂だった。

 

「やらせがばれてしまったのなら、それを真実にしてしまえばいいのです」

「……へっ?」

 

 何を言っているのだ、この男は。

 

「なんだ? ドッシーでも連れてきてくれるっつーのか?」

「いえ、違います。あなたがドッシーになるのです」

 

 いよいよもって頭がおかしい。逃げたほうがいいのではと考えがよぎる。

 ハイドと名乗った男はコートの懐から何かを取り出した。黒いスターキャリアーだった。

 

「これを使いなさい。中にはブラキオという電波体がいます。彼の力を使えば、あなたは何者にも及ぶことのない強大な力を手にすることがきます。湖の中を縦横無尽に駆け抜け、その巨体で全てを破壊する力が!!」

「……な、何言ってんだっつーの? 訳の分からねえこと言うなっつーの!」

「まあ、騙されたと思って使ってごらんなさい」

 

 渋る出間崎の手にハイドは古代のスターキャリアーを握らせた。出間崎がそれを覗くと、首長竜のようなオレンジ色のやつがパネルに映っていた。コイツがブラキオらしい。

 

「これを頭上に掲げて唱えるのです。電波変換!! と……」

 

 こんな胡散臭い男から聞かされた、それこそ臭い物しか匂わない話。誰が信じるものだろうか。だが追い詰められ、藁をも掴みたい思いでいる出間崎にとっては別だった。

 信用などまったくしていなかったが、それだけでこの状況を打開できるのならばとスターキャリアーを掲げた。

 

「……電波変換」

 

 出間崎が唱えたとたん、オレンジ色の光が辺りを満たした。驚愕し、悲鳴を上げる出間崎。

 光に隠れてハイドは不敵な笑みを浮かべた。


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