流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
第24話.画面向こうの友人
少し大きめの部屋に置かれている大掛かりな装置。白い半球で直径は2,3メートルぐらい。中央には長方形型の電子パネル。これをどう使うのかは分からないが、汚れ一つなく大切に扱われていることから、とりあえず高性能で貴重な実験装置なのだろう。
その装置の電子パネルにはロックマンが映っており、画面前にいる小太りの男性の様子を見守っていた。青い制服と制帽に人の良さそうな顔立ちをした彼は、スバルもお世話になっているかけがえのない恩人だ。
「よし、測定終了。もう出てきていいよ」
『はい』
ロックマンは外に出ると電波変換を解いた。
「ありがとう天地さん」
「世話になるぜ」
「なに、これぐらいどうってことないさ」
笑って答えている彼の名は天地守。大吾の後輩であり、今は天地研究所の所長を勤めている。スバルとウォーロックの正体を知っている数少ない人物であり、先のFM星人との戦いではサポートまでしてくれた世界屈指のエンジニアだ。
今日はある目的で彼の元を訪ねている。
「検査結果だけれど、特に体の異常はないみたいだね。オーパーツのデータはできる限り取っておいたよ。完全ではないけどね」
天地は操作パネルに映っている大量のデータを見ながら言った。オタクではあれど専門家ではないスバルにはまったく分からない。
「どうだ? 何か分かりそうか?」
ウォーロックの質問に、天地は首を振った。
「データが膨大で直ぐには……いや、調査しても何か分かるかどうかだな」
「そうですか……」
オーパーツについて何か分かるかと期待したのだが、どうやら望むような結果は得られそうになかった。天地が無理だというのなら、NAXAやサテラポリスに頼んでも同じだろう。さすがオーパーツと呼ばれるだけのことはある。
「……で、スバルくん。君はまた戦うんだね?」
穏やかな顔から一転、天地は険しい表情を見せた。
オーパーツを拝借してしまっていることも含めて、ソロやミソラたちの事も話しておいた。天地には全てを知っておいてもらいたかったからだ。
「はい」
「そして友達を助けに行く……?」
「はい」
天地はスバルの目を覗き込むように見つめてくる。スバルはそれから目をそらさずに短い答えを返す。スバルの目が微動だにしない事を確認すると、天地は肩を落とした。
「僕が何かを言っても止まるわけないよな。ただ無事に帰ってきておくれ」
「はい、約束します」
「へっ、心配すんじゃねえよ。俺様がついてんだからよ」
スバルとウォーロックの力強い返事に、天地は笑って頷いてくれた。
◇
天地研究所での用事が終わると、スバルはコダマタウンの公園に向かった。BIGWAVEの前にあるブランコにはもうルナが腰掛けていた。
「お待たせ委員長!」
「待ってたわよ。天地さんはなんて?」
「今のところ問題ないみたい。何か協力できることがあったら言ってくれって」
「そう、ほんと頼りになる人たちね」
NAXAにも劣らない優秀なエンジニアたちがバックについてくれている。自分がいかに恵まれているのかを思い知り、スバルは改めて感謝した。
「さあ、皆を探すわよ! ゴン太とキザマロとミソラちゃん……皆どこにいるのかしら?」
「それを今から考えるんだろ?」
「分かってるわよ! どうやって探すのかを訊いてるのよ」
「っていっても、どうやって……?」
ネット検索でミソラと打ち込めば、大量の画像やライブ情報が出てくるだけだ。ゴン太とキザマロなんかは一件たりとも引っかからないだろう。
ネットがダメとなれば途端に手段は限られてくる。0からのスタートに2人は「う~ん」と腕組みをして悩みだす。
「なにか手がかりがあればいいんだけれどね」
「そんな都合よく情報が手に入るとは思えねえがな」
ウォーロックの言う事はもっともだ。だが時にその都合よくが訪れるのが人生だったりする。
BIGWAVEの中からひょっこりと南国が顔を出したのである。屋根の上に用事があるようで、梯子をマテリアライズしながら彼らに呼びかけた。
「キザマロ君ならテレビで見たよ」
「そうですか……」
「キザマロがテレビに……」
「うん。今も映ってるよ」
南国はそれだけ告げると梯子を壁にかけて屋根の上に昇った。アンテナを触って向きを変える。しっくりくる場所に置けたようで「よし」と小さくガッツポーズする。
「って、キザマロが!?」
「どこですキザマロは!?」
「どうわああっ!?」
突然のスバルとルナの大声に、南国はバランスを崩して梯子から転げ落ちた。
「あいたた、どこって……見たほうが早い的な?」
頭をさすりながら南国は店内に案内してくれた。店内の端っこで点けっぱなしになっていたテレビを指さす。大きな湖を背景にして、白っぽい探検服を着た面長の男がマイクを握っていた。画面下には『キュー・出間崎』とテロップが出ている。
『皆さんこんにちは。本日も我々はドンブラー湖に来ております。目的はもちろん!! 幻の生物ドッシーを探すためです!!』
どうやらガセネタを追いかけるとんでもなくつまらない番組らしい。
「南国さん、これって……?」
「アメロッパのドンブラー湖では、昔からドッシーっていう首長竜……首の長い動物の目撃情報があったんだよ。それが最近また目撃されたって話題になってる的な?」
「ふ~ん……」
この220X年に何を騒いでいるのだろう。スバルにはまったく興味がないどころか馬鹿らしくて欠伸が出そうだった。興ざめとため息をついた時だった。
『ではもう一度、ドッシーを目撃したという少年に登場してもらいましょう!! キザマロくん!!』
『はい』
画面にキザマロが映った。間違いない。六角形の眼鏡に、ネクタイをつけたシャレた服装。そして小さい体。テロップを見るまでもない。スバルのブラザーである最小院キザマロがそこにいた。彼は出間崎の質問に、得意げな笑顔で答えている。
アングリと口を開けるスバルを見て、南国はカラカラと笑っていた。
「キザマロ君ったら、ドンブラー湖に旅行に行ってたんだね? しかも幻のドッシーを見たっていうんだから、今あっちの方では話題の人的なものになってるみたいだよ」
「そ、そうですか……ところで……」
南国にあることを尋ねようとして、スバルは悪寒を感じて言葉を止めた。ギギギと壊れたドアノブのように首を回して隣を窺う。ルナがおどろおどろしいオーラを全身から垂れ流していた。
「キ・ザ・マ・ロ……この私が、こ~~~んなに心配してあげてるっていうのに……自分はのんきにテレビ出演ですって……!!?」
段々とオーラの密度が濃くなり、ルナの全身がプルプルと震えていく。オーパーツより恐ろしい気を感じて、スバルはこっそりと後ろに下がった。
充分離れると、同じ反応をしていた南国にこっそりと耳打ちした。
「あの……さっきの質問……ドンブラー湖にはどうやって行けばいいですか?」
「そりゃあ、飛行機でアメロッパに行かないとね。そこからは現地で調べるか……っていうか、今ネットで調べたほうが早くて確実だと思うよ」
「それもそうですね」
失念していましたと頭を掻いて、スバルはスターキャリアーを開いて調べ出す。南国も手伝ってくれた。もちろん、この間もルナの怒りは全力燃焼していた。
◇
ドンブラー湖への行き方は分かった。ルナは当たり前のように飛行機を使うと言い出したが、スバルは遠慮した。彼にはもっと楽に、そして早く移動する手段があるからだ。電波変換である。
電波社会となった現代、ウェーブロードは世界中に通っているのだ。大気圏に広がっているウェーブロード……スカイウェーブを通って、スバルは一足早くドンブラー湖に辿り着いた。
「こいつはすげえな……」
現地に着くなり、さっそくウォーロックははしゃぎ出した。事前の調べでは、ドンブラー湖は人口も少なく観光名所も無い小さな村だということだった。それがどうだろう? 一面人、人、人……人しか見えない。
声が騒音のように混じりあっており、すぐ側は湖だというのに熱気が充満している。彼らの周りにはドッシーの絵が描かれた旗や、ドッシーの風船……ドッシーのお菓子まで売られている。
「ドッシーのおかげでお祭り騒ぎみてえだな」
「……うん、そうだね……それよりロック、困ったことがあるんだけれど……」
「ん? なんだ? コミュ障で中に入りづれえってか?」
「違うよ!!」
図星を突かれてスバルは飛び上がらんばかりに怒鳴った。確かに入りづらいが、それよりも重大な問題があるのである。
「実は……翻訳ソフトを忘れてきちゃったみたいで……」
「……つまり?」
「だから、分からないんだよ。言葉が……」
確かにアメロッパ語は勉強しているが、それで会話ができるかと言うと話は別だ。ルナなら流暢にこなして見せるだろうが、スバルでは無理だ。異星人であるウォーロックに一から説明して、ようやく事態の緊急性を理解してもらった。
「おいおい、どうすんだよ。コミュ障で引きこもりで人見知りなお前が言葉も通じねえ国でどうやって生きてけるっていうんだ?」
「言いすぎじゃない!? っていうか、コミュ障と人見知りはほぼ同じだし、もう引きこもりじゃないって!!」
ウォーロックと勢いのある会話はできても、現状は何も解決していない。どうしようとスバルは頭を抱える。
と、そこに近づてい来る人影があった。
「困っているみたいだね?」
二ホン語だった。数十分ほど前には二ホンでルナと会話していたというのに、妙な懐かしさを感じながらスバルは声の主に振り返った。
黒っぽい肌色をした少年がいた。年はスバルと同じぐらいだろう。彼の顔立ちを見てスバルの目にほとりと涙が浮かんだ。
「あ……ああ、に、二ホン人……?!」
「そうサ、やっぱり困ってたんだ?」
「うん! その喋り方は、シーサーアイランドの人かな?」
スバルの質問に少年はコクリと頷いた。そして手を差し出す。
「僕は八木ケン太」
「スバル、星河スバルっていうんだ。よかった……本当にニホン人だ……」
迷わずスバルはその手を取って、硬く握りしめた。なおも涙を流して感動しているがこれでは話が進まない。
「ところで、何を困ってたのサ? 僕で力になれるなら協力するサ」
「ありがとう、実は……」
翻訳ソフトを忘れてきたことを告げると、八木は苦笑いを浮かべた。
「外国に来るのに……それを忘れるってどうサ?」
「いや、まったくだよね。アハハ、どうしよう……」
八木に出会えたとはいえど、ずっと彼についてきてもらうわけにもいかない。根本的な解決には翻訳ソフトを手に入れるしかないのだ。
「……一つ予備があるからあげようか?」
「え!?」
その根本的な解決が向こうからやってきてくれた。南国の情報といい、どうも運がついているようだ。
「ありがとう、本当に……なんてお礼を言ったらいいのか……」
「ただし……」
「え?」
八木がピンと人差し指を立てた。そしてスバルは気づいた。八木の目が光っていることに。
「僕と勝負してほしいんサ。電波変換して……」
「…………え?」