流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
情報はこの世界で最も価値のあるものだ。情報の収集伝達の効率化を求めた結果、人類は電波ネットワークを作り上げた。この220X年となった現在は、あらゆるものが電波で制御、管理されている。その結果、人間が住む現実世界とはまた別に、電波世界という副産物が生まれている。
スバルは電波の体を持ったウォーロックと融合し、ロックマンになることで、二つの世界を行き来できるのだ。それも自由に。
電光掲示板の電波ウイルスを退治して、現実世界に戻ってきたロックマンは、電波変換を解除してスバルとウォーロックに戻った。
「満足した?」
「い~や、全然だな。まだまだ暴れたりねえ」
「まったくもう……」
おとなしいスバルと、暴れん坊のウォーロック。まったく正反対の二人のいつものやり取りである。
スターキャリアーを見ながら話していたスバルだが、近づいてくる三つの人影に気づいた。ドデカイ縦ロールを二つぶら下げた女の子に、太った巨漢の男の子、ちっさい男の子という珍妙な三人組だ。
「皆、遅かったね」
笑顔で迎えてくれるスバルに、縦ロールの女の子はしかめっ面で答えた。
「ゴン太がいつも通り、お寝坊したのよ」
女の子の斜め後ろでは、太った大きな男の子が悪気のない笑みを浮かべており、隣では小さい男の子があきれ顔をしている。
「いや~、悪かったって」
「……もう慣れました……」
三人の反応にスバルは「ハハハ」と笑って、深く触れないで置いた。
女の子の名は白金ルナ。スバルのクラスの学級委員長だ。気の強い性格と、ドリルを二本ぶら下げたような金髪の縦ロールが特徴的だ。
太った男の子は牛島ゴン太。ルナの腰巾着で、見た目通り食い意地の張った力持ちだ。加えて寝坊魔、宿題をやらないという困った子である。
小さい子は最小院キザマロ。ゴン太と同じくルナの子分であり、情報収集と処理が得意な頭脳派だ。ちなみに身長は自称120センチだ。
三人ともスバルの親友……ブラザーであり、スバルとウォーロックの正体を知っている数少ない人物である。
「ほんと、夏休み初日のお出かけからお寝坊なんて、ゴン太らしいわよね」
「ハハハ……そうだね」
どうやら今日のルナはピリピリしているらしい。こういう時の彼女は刺激しない方が良い。何があっても怒らせないとスバルは肝に銘じておいた。
そうしているうちにお目当てのバスが来た。行き先は大都会、ロッポンドーヒルズだ。
◇
バスを降りるとスバルは感嘆の声を漏らした。ロッポンドーヒルズには空を貫くような巨大なタワーがそびえていたのだ。あれが今日行く場所、TKタワーなのだろう。周辺であるこの辺りには様々なお店が入ったビルの大群が並んでおり、無数の人々や車の喧騒で賑やかだった。
コダマタウンとはまったく違った世界の空気に少々戸惑っているスバルとは違い、ルナたちは特に驚く様子も見せなかった。もう何度か訪れたことがあるのだろう。
「ここからだと結構距離があるわね。ええと、道順は……」
「タクシーを呼びましょう。僕らのキズナ力なら無料です」
キザマロはスターキャリアーを取り出し、「ブラウズ」と唱えた。スターキャリアーから電波が飛び出し、一枚の操作パネルとなって実体化する。キザマロは指先でそれに触れて、画面を切り替えていく。これからタクシーを呼ぶのだろう。
その間に、スバルはビジライザーをかけてみた。ウェーブロードが無数に交わっており、そこを灰色と赤色の電波生命体が行き来している。電波世界の住人であるデンパ君とデンパちゃんだ。おそらく仕事やメールなどのデータを運んでいるのだろう。
ビジライザーを外したとき、目の前に一枚のエア・ディスプレイが割り込んできた。キザマロがブラウズしたものと同じようなものだ。CM用に使われているもので、この周辺では当たり前のように空中を飛び交っている。どうやら、こいつは新発売するドリンクの広告を見せたいらしい。特に興味などなかったが、画面に映っている少女を見て気が変わってしまった。
「あ、ミソラちゃんだ」
赤紫色の髪をした少女が笑顔でドリンクの宣伝をしていた。彼女は響ミソラ。スバルと同い年ながらトップミュージシャンの仲間入りをしている国民的アイドルだ。そして、スバルと最初にブラザーバンドを結び、ブラザーになってくれた子だ。
「そういや、復帰したんだったな。アイドルに」
「そうだよ。やっぱり、ミソラちゃんはアイドル活動している方がいきいきしているよね」
「ふ~ん、そうか」
分かっていたことだが、ウォーロックには興味のない話らしい。彼はつまらなさそうに目を細めていたが、突然それを大きく開いた。まさかと思ってみると、エア・ディスプレイの画面の一部が乱れていた。もう一度ビジライザーをかけてみれば、当たり前のように電波ウイルスがとりついていた。
「よし、スバル。もう一度バトルだ!!」
「いやだよ」
即答だった。不満そうに声を上げるウォーロックを無視し、スバルはスターキャリアーの先端を向けて、ブラウズ画面を呼び出した。何枚かの絵が表示されていく。バス停の電脳世界で戦ったときに使った武器だ。そのうちの一枚に触れる。
「バトルカード ソード」
スターキャリアーから電波が送信され、電波ウイルスに当たる。バトルカードのデータがウイルスを破壊し、消滅させた。ウイルスの消滅と共にエア・ディスプレイの乱れも消えて綺麗な画面に戻った。
「これで解決……と」
「つまんね~」
「こんな大勢の前で電波変換なんてできないよ。恥ずかしい……」
スバルは辺りを見渡しながらボソボソとウォーロックに文句を言った。バス停のときは周りに誰もいなかったから変身したのだ。常に二桁単位で人とすれ違うこの大都会で、あんな目立つことはしたくない。
「ったく、お前のそういうところは変わんねえな」
ウォーロックはまだ何か言いたそうだったが、それはお預けになった。ゴン太のでかい声が聞こえたからだ。振り返ると、ルナたちがタクシーに乗り込もうとしていた。
「待ってよ~!!」
スバルは慌てて走り出す。だが、すぐに何かに当たって後ろに突き飛ばされた。
「いたっ!!」
尻餅をついて、何にぶつかったのかと見上げる。人だった。スバルと同い年ぐらいの少年が、静かに佇んでいた。白い髪と赤い目が特徴的だ。
人にぶつかっても謝りもしない少年の態度は、ウォーロックには気に食わない。スターキャリアーから出てきて少年を睨み付ける。だが、目立つことを嫌うスバルに配慮して、人間には見えない体と周波数にしている。
「なんだこいつ!? 舐めてんのか!!?」
ウォーロックが怒鳴っても少年はそちらに目を向けることはない。見えてもいなければ聞こえてもいないのだから当然だ。少年は一言も発することなく去っていった。
「あの野郎!? ふざけやがって!! おい、スバル。あいつを人気のない場所におびき出せ。俺がお前の代わりに一発ぶん殴って……」
「いいよ、関わらないでおこう。それに、委員長を怒らせたくないよ」
「ったくよ……」
スバルは立ち上がりながらウォーロックの提案を退けた。
被害を受けたのがウォーロック一人なら、彼は迷わず殴りかかっていただろう。だが、今回嫌な目にあわされたのはスバルの方だ。気持ちをくみ取り、我慢してくれたらしい。
「今度、バトルカード買ってあげるから」
「……おう、ついでにそれでウイルスバスティングしようぜ?」
「良いよ」
スバルが約束すると、ウォーロックはニッと笑って見せる。スバルも笑みを見せると、タクシーに駆け寄った。
少し前にアニメ「蒼穹のファフナー」を見ました。
前半もそこそこ面白かったのですが、後半からがめちゃくちゃ面白いんです。原因は脚本家が変わったことでした。
キャラや世界観、テーマなどの基本設定は同じなのに、脚本家が変わるだけでこうも違うのかと声にならない呻き声をあげてしまいました。
流ロクの原作ストーリーをお借りして、二次創作を書いている身としては思うところがありました。私も原作の劣化にならないように、この作品を仕上げていきたいです。
「蒼穹のファフナー」は『対話』をテーマにしている作品で、2015年1月には続編の放送が始まります。
興味のある方はぜひどうぞ。
最初の脚本家さんも下手なわけじゃなかったと思うんですよね。ただ、後半の脚本家さんが偉大すぎた。
人間と神を比較するのは酷ってもんですぜ……