流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第18話.ムーの戦士、ブライ

 バトルカードが読み込まれる。左手をプラスキャノンに変えて、宙を疾走しながら照準を合わせる。狙うは穴を発生させている目玉だ。

 

「いっけえ!!」

 

 近くにある目玉に一発。少し遠くにある目玉にも向けてもう一発。2つの目玉と共に周囲の穴が消え去って、捕まっていた人たちが吐き出される。

 それを確認すると、すぐに次の目玉へと向かってウェーブロードを飛び移っていく。下から声が聞こえて、チラリとそちらを伺った。

 

「ロックマン!! ロックマンだ!」

「ロックマンが来てくれた!!」

「ありがとうロックマン!!」

「やっぱりヒーローだ!!」

「もう安心だわ!!」

 

 ロックマンが通れば、そこに出来上がるのは賛美の軌跡。ロックマンコール。体が軽い。声一つ一つに力があって、体を持ち上げられているような気がした。

 これでご機嫌になるのはウォーロックだ。だが、今回は少しだけ変化があった。

 

「ククク、気分が良いんじゃねえのか?」

 

 尋ねながら横目でちらりとスバルの顔色を窺う。スバルは眼前に広がるやるべきことに集中しているようで、こっちを見ることはなかった。だが、その目と口には緩みが見えた。

 

「どっちかっていうと恥ずかしいよ。けど、そんなに悪い気はしないかな」

 

 そう言いながら、また一つ目玉を壊した。助け出された人たちが更にロックマンの名を呼び、どんどん大きくなっていく。町一つがロックマンを称えようとしていた。

 生まれ育った町を救い、その住民たちから感謝と尊敬の眼差しを受ける。これを喜びと感じない人はなかなかいないだろう。

 目に映る目玉たちを片っ端から倒していると、最後の一つがウェーブロードから地上に降りていくのが見えた。もちろん逃す理由などない。後を追って降りる。

 

「これで最後!!」

 

 ロックマンはバスターを構え、エネルギーをチャージしていく。これを放てば、また一つロックマンの活躍ができあがる。左手の光が膨れ上がる。

 それ止めたのは目玉の前に現れた穴だった。穴は今までのものと違い、何も無い場所に現れた。穴の上にあるのは空気のみ。盗む物も、捉える人間もいない。前例のないパターンに何か違和感を覚え、ロックマンは左手を下げて穴を凝視した。そして一歩後ろに飛びのく。その穴から声が聞こえたからだ。

 

「やはり、お前がロックマンか……」

「え?」

 

 どこか聞き覚えのある声に、あの日の出来事が蘇った。

 

 場所はビルの上。真上に広がる夕焼け空。騒がしいサテラポリスとマスコミから離れた少しだけ静かな空間。そこに現れた一人の少年……。

 

 全身の周波数が乱れた。体の芯が冷たくなったような感覚。彼とは少し言葉を交わしただけなのに、なぜこんなに心身が揺さぶられるのだろう。そんな疑問を考えるよりも前に、何処か期待を込めた目で穴を見守っている自分の方が不思議だった。

 ロックマンの要望を心得ているかのように、穴は声の主を召喚した。白くて少し長い髪、褐色の肌、こげ茶色っぽい服装。そして全てを拒絶する赤くて冷たい瞳。全てロックマンの記憶通りだった。

 

「き、君はロッポンドーヒルズのときの!?」

 

 この言葉でウォーロックも思い出したらしい。左手の些細な変化から、それが伝わってきた。

 何故彼がここにいるのだろう? そう質問しようと、ぐらぐらと揺れていた気持ちをどうにかして落ち着かせる。だが先に彼が要望を突きつけてきた。

 

「オーパーツを渡せ」

 

 静まり始めていた気持ちが大きく跳ねた。

 

「……え?」

「オーパーツを渡せ。それだけだ」

 

 なぜオーパーツのことを知っているのだろう?

 考えようとして、彼の後ろで浮いている目玉の存在を思い出した。途端に答えが出て、怒りが込みあがった。ようやく忘れていた警戒心が芽生えた。

 

「あれは君の仕業だったのか……! 悪いけれど、ウォーロックが飲み込んじゃって吐き出せないし、君に渡す気もない」

「そういうわけだ。とっとと帰りやがれ」

 

 結果的に見て、あの事故は正解だったのかもしれない。ロックマンが持っている限り、オーパーツが奪われることはないのだから。

 ロックマンの答えに対し、少年は敵意のみで作られたその表情を変えることはなかった。こうなることは想定済みだったのだろう。

 

「そうか、なら残留電波の中から探すか」

 

 少年は懐から黒くて四角い物体を取り出した。古代のスターキャリアーだ。そこから何かの白い紋様が空中に描かれる。

 そして両手を横に広げる。ただそれだけのゆっくりとした動きは、どこか異様な雰囲気を纏っており、ロックマンを魅了する。

 彼の右側に同じ紋様が生まれた。さらに、後ろと左に一つずつ。少年が目を閉じると、四つの紋様は少年を中心にして回転し始める。徐々に速度を増していく。

 目の前で起きていることが異常なことだと分かっている。止めた方が良い。分かっているのに動けない。体が動かせない。

 ロックマンが硬直している間に、四つの紋様は目で追えないほどまでに速度を増し、白い帯を描き始めた。そして、少年は呟いた。

 

「電波変換、ソロ オン・エア」

 

 彼の言葉に呼応するように、帯が紫色に光った。一瞬にして膨れ上がり、ロックマンの視界を奪う。

 光が収まる。ロックマンは眼前にかざしていた手を下ろす。そして自分の目を疑い、絶句する。そこには電波人間がいた。

 全身の色は黒。バイザーは紫色で、両肩には白銀の装甲。足首には剣のような赤い突起がつけられており、胸元には服にも描かれていた謎の紋章が赤黒く灯っている。

 全身から発せられる、とんでもなく高い周波数。疑いようもなく、目の前にいるのは電波人間だった。

 

「う……そでしょ? ……電波体無しで、電波変換した?」

「てめえ何もんだ!?」

 

 自らの力のみでの電波変換。あり得ない現象とその力に、ウォーロックも動揺を隠せないようだった。

 少年はすぐには答えなかった。紫色のオーラを纏っている右手をゆっくりと開閉させると、拳にして前に突き出した。

 

「俺はムーの末裔、ソロ……この姿はムーの戦士、ブライ。オーパーツを渡してもらうぞ」

 

 瞬きする暇もなかった。気付けばロックマンの顔面にブライの拳が突き刺さっていた。殴られたと気づく前に体が後ろに飛ぶ。戦いの火ぶたはいつの間にか切られていた。

 背中を叩きつけられながら、スバルはぐちゃぐちゃになっている頭の中の情報を必死にまとめる。

 ムーの末裔、ムーの戦士、彼はそう言った。昨日知った、ムー大陸の子孫ということなのだろうか。いや、それ以前にムー大陸は本当に存在していたのだろうか。彼が単体での電波変換出来たのは、ムー大陸の古代技術なのだろうか。色々と気になる情報ではあるが、それは横に置いておこう。

 今大事なのは彼の目的がオーパーツであり、自分は命を狙われているということだ。『残留電波の中から探す』と宣言したことから、それは明らかだった。穴を使って町を襲ったのは自分をおびき出すためだったのだろう。

 ロックマンは慌てて身を起こす。視界に広がったのは赤い突起の付いた黒い足。再び顔に激痛が走り、身体が縦に延ばされる。地面を水平に飛びながら、ロックマンは左手をプラスキャノンに変えて進行方向逆側に向けて放った。追撃しようと向かってきていたブライの足が止まり、素早く身を伏せた。攻撃は当たらなかったが、これでブライ側に流れていた戦いのリズムを崩すことができた。両足を地面につけて、殴られた衝撃を反動にしてブライに飛びかかる。

 

「ヒートアッパー!!」

 

 左手が素早く炎の拳に変わって、身を起こしたばかりのブライ目がけて突き出される。ロックマンの最初の攻撃は不利な体勢にある敵への奇襲攻撃になった。形成を一気に変える最良の手だ。

 だがロックマンの左拳は横にいなされた。ブライは体を斜めにしながら、右腕を回すようにしてロックマンの左腕を弾き飛ばしたのだ。まるで子供相手に組手でもしてやっているような、冷静すぎる対応だった。

 ほぼゼロになったブライとの距離。彼と目が合う。紫色の尖ったバイザーの向こうでは、赤い目がロックマンを捕らえている。そこで燃え上がっている殺意を感じて全身がゾッとする。身のこなしと戦いに対する姿勢。実力も場数も自分とはけた違いなのだと、この三手で理解した。

 今が闘いの最中だと気づいたのは、胴体を殴られた時だった。

 

「ブライアーツ!!」

 

 続けてもう一発胴を殴られ、顎を打ち上げられる。宙を仰ぐと同時にブライの踵落としが振り下ろされる。水のように流れる鮮やかな四連撃がロックマンを地面に這いつくばらせた。加えて、ブライはとどめとばかりに右拳を大きく振り上げる。

 それを黙って受けるほどロックマンも未熟ではない。FM星人と戦い抜いた彼はとっさに地面を転がって、ブライの拳をかわしながら立ち上がる。ブライの目に感情が見えた。どうやらロックマンはもう動けないと思っていたらしい。なめられたものだ。

 接近戦ではブライに分がある。そう考えたロックマンはウェーブロードへと飛び上がる。住宅街を巻き込まないために……というのが一番の理由だが、同時にブライの頭上をとれた。

 

「プラズマガン!」

 

 威力は低いが、痺れさせることができるバトルカードだ。相手の動きを止めることを目的にしているため弾速も早い。ロックマンを追おうとしていたブライはとっさに避けることができず、腕でガードする。それが彼のミスだ。ブライが初めて苦しそうな表情を浮かべた。

 拘束できる時間は短い。威力はあるが、当てにくいバトルカードを使用した。

 

「ミニグレネード!!」

 

 小規模だが、複数回爆発する手榴弾だ。大ダメージを見込めるが、当てるのが難しいため使いどころが限定される。そんなデメリットも止まっている相手になら恐れる必要はない。右の掌を広げ、そこに生まれる丸い感触を投げつけようとする。

 ロックマンの動きはそこで止まった。バトルカードを使ったはずなのに、右手に爆弾が召喚されないのだ。

 

「ロッ……?」

 

 バトルカードの読み込みを行っているウォーロックに尋ねようとした時、右手に感触が来た。すぐに振りかぶって投げつける。だがもう遅かった。ミニグレネードが手から離れた時には、ブライは動き出していた。時間にして1秒か2秒ほどの僅かなロスで好機を逃してしまったのである。それどころか、投げつけた時の隙をつかれ、ブライをウェーブロードへと上がらせてしまった。

 

「何してるんだよ、ロック?」

「……すまん」

 

 相棒の素直な謝罪だった。それがスバルに不安を与えた。ウォーロックらしくない。それに彼の様子がおかしい。どこか苦しそうな声だった。だがそれを気にかける時間はない。

 ブライが右拳を大きく後ろに退いていた。

 

「ブライバースト!!」

 

 ブライの拳がウェーブロードを抉るようにして振り上げられる。そこから生じたのは衝撃波だ。二本の紫色のエネルギー波が、地面に沿ってロックマンに向かってくる。ブライは達人レベルの接近戦に加えて、遠距離攻撃まで身に着けていたのだ。意表を突かれて反応が遅れてしまう。

 

「ロック!!」

 

 この攻撃を完全に防げるのは、バトルカードのバリアだ。ウォーロックに声をかける。だが瞬時に展開されるはずのバリアが発動しない。今度はウォーロックに声をかける暇すらなかった。

 

「うわああっ!!?」

 

 ブライが放った衝撃波に巻き込まれて宙に流されるしかなかった。ウェーブロードには肩から叩きつけられる。激痛で身を震わせながら、ロックマンは痺れる左手を動かそうとする。そこで気づいた。自分の体に異変が起きていることに。

 

「か、体が……熱い?」

 

 自分でも分かるほど体が熱くなっていた。まるで体の中が燃え上がっているような感覚だ。それを長く気にする時間はなかった。ぜぇぜぇと言うウォーロックの苦しそうな息遣いが耳に入ってきたからだ。

 

「どうしたの、ロック? それに、さっきのも……」

 

 ウォーロックを見たスバルはギョッとした。彼の周りに黄色い光が生まれているのだ。まるでオーラを纏っているかのように見える。そしてようやく、その光が自分の全身に回っていることに気づいた。

 

「な、なにこれ……!?」

 

 明らかな異常事態。これで取り乱したロックマンは愚かと言えるのかもしれいない。戦いの最中にこんなことをすれば、当然敵から攻撃を貰うにきまっている。ブライが躊躇するわけもなく、彼の強烈な回し蹴りが首を捕らえた。無防備なところに受けた一撃に吹き飛ばされて、ロックマンはウェーブロードから転げ落ちた。

 

「あ……ぐ、がはっ……ぐぅ……」

 

 首が痛い。打ち付けた背中が悲鳴を上げている。いや、体中が痛い。そして熱い。朦朧とする意識の中、なんとか立ち上がろうとするが、まだ痺れている肩はいうことを聞いてくれない。

 窮地に追い込まれるロックマン。そんな時に不運と言うのは笑ってやってくる。今は来てほしくない者達がその場に駆けつけてしまった。

 

「ロックマン様!!」

 

 ルナの声だ。無理やり首を動かすと、こちらに駆け寄ってくるルナ達の姿が見えた。




最近執筆に対する熱意が冷めてきています。
おかしいな、どうしたんだろう?
アレオリ1を書いていた時もあったし、そういう時期もあるってことなのかな?

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