流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第17話.平和な一時

 翌朝、スバルはミソラと共にコダマタウンの公園に向かっていた。今日は一昨日の約束通り、ルナ達と会う日である。ミソラが会いたがっていることを伝えると、三人とも快く了承してくれた。

 『ミソラちゃんファンクラブ』の会員であるゴン太とキザマロが涙を流して暴走するのではないかという不安が過ったが、ここは彼らのモラルを信じることにした。

 公園が見えてくる。朝の早い時間帯であるにもかかわらず、すでに大勢の人で賑っているようだった。

 

「まだ来ていないな、委員長たち」

「パッと見ただけで分かるの?」

「だって、委員長たちって目立つじゃん」

 

 ドリルロールに巨漢児にデカ眼鏡。一度彼らを見たらなかなか忘れることはできないだろう。ミソラは笑いそうになったが、失礼と思ったのか口元を抑えて堪えようとしている。だが、うまくいかなかったようでクスクスと笑い声が漏れていた。

 そんな彼女を見ていると、後ろにある自動販売機が目に留まった。

 

「委員長たちが来るまで、ジュースでも飲んでぶらぶらする?」

「お、それ賛成!」

 

 さっそくスターキャリアーを自動販売機に向けて、電子マネーを認証させようとする。が、反応しない。

 

「……あれ?」

「故障してるのかな?」

 

 ミソラもやってみるが、やっぱり反応しない。2人が顔を見合わせた時、バタバタと白い作業服を着たおじさんが駆けつけてきた。

 

「ごめんよ、坊やたち。この自動販売機、壊れてるんだよ」

「あ、やっぱり? すぐに直りますか?」

「いや、それがね。手を尽くしてみたんだけど、どうにも動かないんだよ。原因不明ってやつだね。困ったな~。

 あ~、こういう時にロックマンがサーッと現れて、助けてくれないかね~……なんちゃってね」

 

 ロックマンを便利屋か何かと勘違いしているらしい。

 

「というわけで、ごめんよ。別の自動販売機使っておくれ」

 

 ジュースが買えないのでは仕方ない。作業に戻っていくおじさんを残し、その場を後にすることにした。

 

「フフフ~、やっぱりロックマンは頼られてるね? いよっ! 有名人!!」

「や、やめてよ~」

 

 口では嫌がっているものの、顔は完全に笑っていた。

 せっかく会話にリズムがついてきたというのに、「おい、スバル」というスターキャリアーからの声が邪魔してきた。無視するわけにもいかず、ポケットから取り出した。

 

「さっきの自動販売機だが、ウイルスがとりついてたぜ。いっちょロックマンの活躍を見せてやったらどうだ?」

「それを口実にバトルしたいだけでしょ?」

「ヘヘヘ、まあな」

 

 「まったく」と肩を竦めながらミソラの顔色を窺った。期待に満ちた眼差しだ。これは応えないわけにはいかない。

 

「よし! じゃあ、いっちょやりますか?」

「気を付けてね」

「大丈夫だよ、僕はロックマンだからね」

 

 ちょっと気取ってしまった。それを隠したくて、ちょっと急ぎ目に電波変換した。

 

 

 ロックマンの情報を集めるにはどうすればいいか。とりあえず、奴の足跡を辿ることから始めて見ることにして、美術館より一つ前に現れたというカードショップに行ってみることにした。お目当ての公園の中に入って足を止めた。やつがいた。自動販売機の前で、作業服を着た男となにか話をしている。横には昨日一緒にいた女もいる。

 奴は男性から離れると、ロックマンに変身して自動販売機の中に入っていった。一分もしないうちに出てきて、元の姿に戻る。そして今も自動販売機の前で悩んでいる男に話しかけた。どうやら、また人助けをしているらしい。一連の動きの間、奴の顔は常に笑みで綻んでいた。それが彼には気に入らなかった。不愉快だった。

 

 

「本当だ!? 直ってる!?」

 

 おじさんが自分のスターキャリアーを放り出さんばかりの勢いで飛び上がった。

 

「もしかしたら、本当にロックマンが来てくれたのかもしれませんね?」

 

 ミソラの言葉に、スバルは自分の鼻の頭がぴくぴくと動いたのを自覚した。

 

「ハハ、そうかもしれないね。よし、気分が良いからおじさんがジュースを奢ってあげよう」

「え? 良いんですか?」

「いいよいいよ、はい」

 

 気前のいいおじさんに甘えて、ご馳走になることにした。喉を通っていくジュースは、いつもとは違った別の味がした。

 

 

 ルナ達が来たのはジュースを飲み終えてから数分後の事だった。

 

「ミソラちゃーん!!」

「また会えるなんて光栄です~!!」

 

 心配していたことが現実になった。ミソラを至近距離で視界に入れたゴン太とキザマロが号泣し始めたのである。

 

「ありがとう2人とも」

 

 今見せているミソラの笑みは本物だろう。だが2人の熱意を前に、明らかに一歩後ろに退いていた。お人よしな彼女だが、身の危険を感じて回避する力はちゃんと持っているようだ。

 

「ミソラちゃんがアイドル活動を再開してくれて、俺めちゃくちゃうれしかったぜ!!」

「ミソラちゃんの新曲は予約して買いましたよ!! 今度のライブのチケットだって、この通り!!」

 

 キザマロがブラウズ画面にチケットのデータを表示させると、負けじとゴン太がCDをマテリアライズしてみせた。

 

「もちろん昔の曲だって毎日聞いてるぜ!!」

「やっぱりミソラちゃんは最高です!!」

「アハハ、なんか照れちゃうな~」

 

 ミソラの笑顔がより明るくなった気がした。それを見つめながら、スバルは昨日の言葉を思い出していた。ミソラの夢は少しだけではあるが成就しているのだ。そう思うと自分まで嬉しくなってきてしまうのだから、不思議だった。

 なおも熱い言葉を語るゴン太とキザマロだが、2人の肩にポンと手が置かれた。呆れた顔をしたルナが、その辺にしておきなさいと目で語っていた。

 

「ちょっとは落ち着きなさい、あなたたち」

「委員長! 久しぶり」

「ええ、久しぶりね」

 

 ルナが前に出てくると、ミソラは彼女の手を取って軽く振り回す。同性ということもあるのか、ルナとはだいぶ打ち解けあっているらしい。ルナもご機嫌なようだ。

 

「アイドル活動忙しくて大変でしょ? 体はちゃんと休めなさいよ?」

「大丈夫! 昨日と今日はお休み貰って、こうして羽伸ばしに来てるしね」

 

 かわいい女の子2人の仲睦まじい会話。その中に危険な単語がチラリと垣間見えた気がした。

 案の定、鋭いルナは敏感に反応した。笑顔が少し崩れる。スバルの中で危険信号が鳴った。

 

「昨日……? 今日だけじゃないの? 昨日はどうしたの?」

 

 ものすごく嫌な予感がした。『適当に嘘をついて』と、祈るようにミソラに視線を送る。だが、全くルナを警戒していなかったミソラは素直に答えてしまった。

 

「ロッポンドーヒルズで、一緒に買い物したよ」

 

 おまけに、またいらない単語を追加してしまった。ルナの顔からサッと表情が消えた。目が笑っていない。

 

「……一緒? ……誰と?」

「え? ……えっと……」

 

 ミソラもようやくこの事態に気づいたらしい。スバルにどうしようと視線を向けてくる。今はいけない。このタイミングではやってはいけない。野生の獣以上に敏感になっているルナの前では自殺行為だ。

 ルナの首がグリンと回転し、全開になった両眼でスバルを捕らえた。彼女の後ろでは、ゴン太とキザマロが同じ目をしている。

 生命の危機。

 そんな言葉が胸に付きつけられた。なんとかごまかそう。乗り切ろう。さもなければ命はない。言葉を探そうとしたとき、ウォーロックが余計なことを言った。

 

「なに渋ってんだ? 2人で遊んできたって言えばいいだろうが」

 

 チェックメイト。

 全てがばれてしまった。

 

「ちょ!? ロッ……!? いや、まっ、待って委員長!! ちがっ!!」

 

 ウォーロックに言いたい文句と、ルナ達への言訳が同時に喉から出ようとして、つっかえる。

 

「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、2人ですってーー!!?」 

 

 先にルナが爆発した。

 

「本当なのスバルくん!?」

「いや……その……う、うん!!」

「なんだとスバルーー!!?」

「そ、そういえば昨日はTKタワーの美術館で活躍したらしいですが……まさかその時にミソラちゃんも!? こ、これは由々しき事態です!! じっくりと説明していただきましょうか!?」

 

 3人が2人に迫ってくる。これだけでも非常事態なのに、気迫におびえたミソラがスバルの背中に隠れてしまった。3人の怒りが更に膨れ上がる。何とかして目の前の脅威を収めたいが、だからと言ってミソラを突き放すわけにもいかない。八方塞がりである。

 後ずさりしようとするスバルの耳元で、ギターからハープがささやいてきた。

 

「ポロロン、男を見せなさいスバルくん。昨日の汚名返上よ」

 

 言われて思い出した。

 そういえば、昨日は何一つ良い処を見せていない。むしろかっこ悪いことばかりだ。肝心の誕生日プレゼントだって渡せていない。というか、選ぶ時間すらとってない。

 確かにルナは怖いが、今はそれに立ち向かわなければいけない時だ。背中から伝わってくるミソラの体温を感じて、スバルはつばを飲み込む。意を決した。そして大きく息を吸い込む。

 

「うわあああああ!!?」

 

 スバルの勇敢な一言は、男性の悲鳴に吹き飛ばされた。5人の目が一カ所に集中する。公園の時間が止まっていた。全ての人がそれを見ていた。もがき苦しむ男性と、彼を飲み込もうとする紫色の穴を……。

 女性の悲鳴が上がる。それに刺激された人々の恐怖が吹き出し、一瞬にしてパニックに陥った。少年が足を取られてこける。彼の真下にも穴が生まれていた。そこから少し離れたところでは、老人が腰まで飲み込まれている。

 

「な、何あれ!?」

 

 ルナが数歩下がってスバルの後ろに隠れた。ゴン太とキザマロもスバルの肩に捕まり、一歩後ろに下がる。

 

「これって昨日の!?」

「ビジライザーだ、スバル!!」

 

 やっぱりと思いながらビジライザーをかけると、ウェーブロードに昨日の目玉がいた。それも多数だ。この公園だけではなく、町全体が襲われていると考えていいだろう。

 

「ど、どうしよう委員長!?」

「決まってるでしょう、ゴン太君。逃げるんですよ!!」

 

 オロオロとするゴン太に、キザマロが足を震わせながら早口で応える。だが、そんな2人をルナは止めた。

 

「そんなことする必要ないわ。だってここにはヒーローがいるのよ」

 

 スバルの肩を掴むルナの手に力が込められた。続いて、ゴン太とキザマロの手もだ。

 

「そうだった忘れてたぜ」

「うっかりしてましたね」

 

 3人の顔を伺うと、期待の眼差しが注がれていた。ゴン太とキザマロからは先ほどの怯えはとうに消え失せていた。

 スバルは少しだけ手を迷わせると、スターキャリアーを手に取った。

 

「よし、行こうウォーロック!!」

「おう!!」

 

 そこでミソラだ。スバルの横に並び立つ。

 

「私も行くよ!!」

 

 ギターを構えるミソラは何とも頼もしい。素直に頷こうとして、すぐに横に振った。

 

「いや、ミソラちゃんはここで見てて」

「え? で、でも敵はたくさん……」

「大丈夫だよ。だって、僕はヒーローだからね」

「……うん、わかった」

「よし、電波変換!!」

 

 ロックマンへと変身し、スバルはウェーブロードへと跳躍した。彼の姿はすぐに見えなくなった。


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