流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第15話.古代文明

 事件以降、TKタワーは別の意味でもにぎわっているらしく、入り口付近には人が群がっていた。騒ぎの中心人物であるスバルは身を小さくしながら騒ぎの中を通り抜け、エレベーターで目的の階に辿り着いた。

 スバルが踏みしめたのはどこか高級そうな灰色の絨毯で、壁は驚くほど綺麗なクリーム色をしていた。天井から下げられているライトの光一つ一つまでもがお高く留まっているように思える。

 

「なんだつまらなさそうなところに来たな?」

 

 スターキャリアーからこの場に相応しくないほど汚い言葉が聞こえた。画面を見れば仏頂面をしたウォーロックが戻っていた。

 

「おかえり……って、なんか疲れてない?」

「てめえらが片っ端から火事を引き起こしていたからだろうが……」

「はい?」

 

 意味が分からなかったが、大して気になることでもなかったのでさっさと中に入ってしまうことにした。入館手続きを済ませると、受付の女性が手元の機械を操作しながらスバル達に良い情報を教えてくれた。

 キズナ力の高い客はガイドによる詳しい説明を受けることができ、スバルたちなら可能ということだ。

 詳しい説明が無料で受けられるのだ。特に断る理由もないため利用することにした。

 女性は快く了承すると、一枚のカードを機械に読み込ませた。そこから紫色の光が飛び出し、一体のマテリアルウェーブが召喚された。

 スバルが初めて見る、人型だった。眼鏡をかけた女性のような見た目で、人間と違う点は手足がない事と、口元にマイクが浮かんでいることぐらいだろう。ガイドというだけあって、知的な風貌だった。

 目の前に現れた科学の結晶に、オタクが目を輝かせるのは大自然の摂理のごとく当然のことだった。

 

「ガイドって、マテリアルウェーブが!?」

「スバルくん、目が怖いよ」

 

 たじたじとなるミソラと違って、マテリアルウェーブの方は動じるどころかにこやかに対応して見せた。変質者のようなスバルに笑顔の対応とは、プロの極みである。

 

「はい。私、お2人のご案内をさせていただくシャベクリンと申しますわ。どうぞよろしくお願いしますわ」

「うん、よろしく」

「よろしくね」

 

 地面から数センチ上を滑るように移動するシャベクリンの後を追いかけて、まず案内されたのは幾つもの小物が並べられた広い空間だった。ちらりと館の見取り図を見ると、一番大きな部屋らしい。警備も厳重なようで、両手が警棒になった人型のマテリアルウェーブがあちこちに待機している。

 入り口の目の前にある最も巨大な模型の前に来くると、シャベクリンの説明が始まった。

 

「まず初めにご紹介するのは『ムー大陸』でございますわ」

「ムー大陸?」

 

 スバルは首を捻った。今までいくつもの歴史資料館を回ってきたり、勉強したりしてきたが、そんな大陸は聞いたことがない。

 

「はい、ムー大陸とは遥か昔に滅び去った古代都市ですわ。最大の特徴は高度な科学力をもっている事であり、そのレベルは現在のものよりも高かったのではないかとも考えられていますわ」

「え!? そんなに!?」

「はい、その理由の一つがある資料から見つかった『ムー大陸は空に浮かんでいた』という点ですわ。ムー大陸は大きな都市ひとつ分の大きさしかありませんでしたが、空を飛んでいたと考えられていますわ。そう、このように……」

 

 シャベクリンはふわりと空に飛び上がると、背後にあった巨大な模型の周りを飛び回って見せた。

 その模型はムー大陸の全貌だった。

 外観は正八面体に近い形状をしていた。下半分は持ち上げていたという大地だろう。その上には岩で作られた数えきれないほどの建物がいくつも並んでおり、高層ビルやマンションのようなもの、果ては宮殿と思われるものまである。まさに都市一つが空を飛んでいるのだ。

 

「こんな大質量の物を空に飛ばして、そこで生活するなんて……凄すぎる……」

「これだけでも、ムー大陸の科学力が充分推し量れるというものですわ」

 

 ミソラも興味津々と言う様子で、変装用のサングラスを少しだけずらして見入っていた。

 

「ムー大陸って、本当にあったの?」

「実は『かつて存在していたのではないか』と考えられているだけで、まだ完全に証明されたわけではないのですわ。ここでは発掘された一部の遺産を展示しておりますわ。では、ご案内しましょう」

 

 展示室の中を見て回る。ムー大陸の人々が使っていたと思わる脆そうな土器があれば、その反対側にはストーブだったと思われる物が展示されていた。今の科学力より上回っていた点もあれば、下回っていた点もあったのだろう。

 一つ一つを丁寧に見ていていく中、スバルはある展示品の前で息を止めた。いや止められた。

 スバルが見ていたのは小さな台の上に置かれた、これまた小さな物体だった。掌サイズの四角くて黒い物体。スバルが毎日使っているものとよく似ている。いや、目の前にあるものと同じものを見たことがある。

 

「それはムー大陸に住んでいた者たちが使っていたとされる携帯端末ですわ。現在のスターキャリアーと同じような性能を持っていたと考えられていることから『古代のスターキャリアー』と呼ばれていますわ。発見された場所は……」

 

 気を利かせたシャベクリンが説明してくれた。まだ何かを言っているがスバルの耳にはろくに入ってこなかった。

 

「おい、スバル」

「ロック……」

 

 スターキャリアーからウォーロックの声が聞こえた。彼も同じことを考えていたらしい。

 

「ロック、僕の記憶が間違ってなかったら……」

「ああ、そうだ。ハイドが電波変換するときに使っていたやつだ。それと、五里の電波体がこれをもって逃げようとしていただろう?」

「そうだったね……」

 

 ファントム・ブラック、イエティ・ブリザード。過去に2度遭遇した、特異な電波人間。この2人の共通点が目の前にある。

 スバルが目を尖らせるのは当然のことだった。

 

「どうしたのスバルくん?」

「ミソラちゃん……」

 

 スバルの並ならぬ様子に気づいたのだろう。ミソラが話しかけてきた。説明しようとしたが、シャベクリンが次の展示品へと案内しようと動き出してしまった。

 

「後で話すよ」

「分かった。何でも言ってね?」

「ありがとう」

 

 シャベクリンの後を追いかけながら、スバルは黒いスターキャリアーをちらりと見た。本当は調べたいのだが、展示品に触れるわけにはいかない。それに、そんなことをしたら警備用マテリアルウェーブが一斉に動き出すだろう。マテリアルウェーブが電波であることを考えると、有事の際には相当な数がマテリアライズされるはずだ。

 なによりも……。

 

「僕はロックマンだしね……」

 

 ヒーローが美術品泥棒の真似なんてできやしない。

 その後、幾つかの展示品を見てムー大陸の展示スペースは終わりとなった。

 少し狭まった出口を抜けると、そこはまた別の展示スペースだった。床に敷かれた別の色の絨毯のお蔭か雰囲気が一気に様変わりした。

 

「次は、ムー大陸と違って実在していたことが証明されている3つの古代文明をご紹介しますわ。もしムー大陸が実在していたとするならば、これらの文明はムー大陸が滅んだ後に栄えたことになりますわ」

 

 この展示室は文明ごとに大きく3つに分けられていた。時代の移り変わりが分かるように、古い時代から順番に並べられており、順番に見て回る。

 

 一番最初は、ダイナソーと呼ばれる文明……と言うよりは歴史の一部だった。10メートルを優に超える巨大な爬虫類の模型がスバル達を出迎えた。その周りにもいくつか模型があり、こいつよりも大きな種族もいれば、小さな種族もいたようだ。彼らに高度な知能はなく、暮らしは弱肉強食という掟の中で生きる野生動物そのものだった。生い茂った草木と柔らかい地面という大自然の中を、生物が本能のままに闊歩するという時代だったのだろう。

 

 次はベルセルクという文明だった。先ほどとは打って変わって人間の時代らしい。展示されている模型は分厚い甲冑に身を包んでおり、巨大な剣と盾を構えていた。彼と対峙するように、同じような恰好をした男がいる。そう、この2人は決闘をしているのだ。彼らは丸い競技場のようなところにいるようで、観客席には数えきれないほどの人間が描かれている。彼らは戦いに喜びを見い出す戦闘種族だったらしく、スポーツをするように剣を振り、血を流していたらしい。

 

 最後に紹介された文明の名はシノビだった。展示されているのは、一人の男が暗闇に紛れて隠れているところだ。服装は黒っぽく、顔は目以外の全てを布で隠していた。彼らは密偵や暗殺という汚れ役を引き受け、社会の裏で生きていたらしい。二ホン国の歴史の一部分を作ったのが彼らである。マニアも多いため、スバル達にとってもどこか親しみ深く感じられた。最後に、シャベクリンが「彼らの最大の武器は、素早い動きと手裏剣と呼ばれる暗器だった」と説明した。

 

 3つの滅んだ文明を見終わり、出口に辿り着いた。そこの少し脇によって、シャベクリンがこのスペースでの最後の解説を始めた。

 

「滅んでしまった3つの種族。実は彼らにはある共通する点がありました。それは、滅びる直前に絆が弱くなってしまったことなのですわ」

「絆が弱くなった?」

 

 想像できず、スバルは頭を傾げる。ミソラも同じ方向に傾げていた。

 

「文明が栄えるにつれて個が力を主張し合い、仲間との信頼が薄れ、それが争いや戦争へと繋がっていった……と考えられていますわ」

「仲間同士で争っちゃったんだね……」

「絆が弱くなる……これを『滅びの前兆』と呼ぶ専門家もいますわ」

「……なんだか、怖いフレーズだね」

「うん、そうだね……」

 

 ミソラのどこか怯えたような顔にスバルは頷いた。

 

「では!! 気を取り直して当美術館の最大の目玉をご紹介いたしますわ」

 

 暗くなっていた雰囲気はシャベクリンの明るい声に掻き消された。流石プロと言うところだろう。


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