流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
今年もどうぞよろしくお願いします。
これからもご愛読いただければ幸いです。
突然現れたミソラをまじまじと見つめてしまった。白い突起がついたヘルメットと、それについた水色のバイザー。ワンピースのような服装に水色のギター。今まで何度も一緒に戦ってくれたハープ・ノートが確かに目の前にいた。
「本当に……ミソラちゃん……?」
「もちろん、響ミソラ本人だよ」
間違いなくミソラだった。数分前まで話題にあげていた人物に会うなどとは露程も思っていなかったため、いささか受け入れるのに時間がかかってしまった。
「びっくりした……」
「その前に、いうことがあるんじゃない?」
「え…………」
ミソラがふくれっ面をしている。スバルはすぐに気づいた。
「あ! 助けてくれてありがとう」
「よろしい。よくできました」
ミソラはからかうように笑って見せる。このやり取りでスバルはようやく目の前の人物がミソラ本人であると認識し始めていた。ただ会話と笑みを交えているだけなのに、心から温かくなれる。少なくともスバルにとって、ミソラはそういう特別な少女だった。
そんな2人の会話がうるさかったのか、「ううん」と南国が声を上げた。朝を迎えたばかりかのような、寝ぼけた目をしている。
「あ、あれ? 僕は……? そうだ! さっきの化け物的なやつら!! さあかかってこい! 僕の店でこれ以上勝手な真似は……って……あれ? どこに行ったの?」
急に飛び上がって慣れない喧嘩ポーズをとったかと思うと、ウイルスが居ない事に気づいてキョロキョロとあたりを見まわし始めた。まるで一人芝居である。よほど混乱しているのか、後ろに立っているロックマンとハープ・ノートにすら気づいていないようだ。
このまま南国を放っておいてこっそり立ち去ってもよかったのだが、流石に不憫だ。ロックマンは声をかけてしまった。
「あの……ここにいたウイルスなら僕たちが退治しましたよ」
南国が振り返った。サングラスが飛び跳ねんばかりの勢いで目が開かれる。そしてものすごい勢いで近づいてきた。
「ええええ!? き、君って!! 今ものすごく話題になっている的なロックマンじゃない!? うわお! かっこいい!! 超イケテル的な!!」
さっきまで気絶していたとは思えないハイテンションぶりだった。顔がくっつくぐらい近くに迫られ、ロックマンは少々後ろに退いた。
「あのロックマンに助けて貰えるなんて、僕はなんて幸せ的なっ!! ……ん? そちらのキュート的な女の子は?」
「ど、どうも……」
ハープ・ノートも顔をひきつらせながら軽く頭を下げた。なんだか面倒なことになりそうな気配がする。ハープ・ノートもそれを感じたのか、南国から引き離すようにロックマンの腕を引いた。
「さ、行こうかロックマン」
「う、うん」
ハープ・ノートに引っ張られ、ロックマンは慌てて店内から飛び出した。
「あ、待って! せめてサインを!! ……って、あれ?」
南国が店内から出てくるが、その時にはもうロックマンはウェーブロードの上だ。肩を落としている南国を見下ろしながら、ロックマンは深いため息を吐き出した。
「はぁ……」
「ふぅ……」
ハープ・ノートのものと重なった。
「ハハッ」
「フフッ」
そして同時に吹きだした。
◇
「それにしても、本当に久しぶりだね」
「うん、アイドル活動を再開する少し前に会ってからだから……1、2ヶ月ぶりかな?」
公園から少し離れたところで、スバルとミソラは電波変換を解いて帰路についていた。ミソラはピンク色のこぶつきパーカーに黄緑色のショートパンツ、背中には母親の形見でもあるギターという、いつもの格好だ。
「やっぱり、結構経ってたんだ」
「おや? もしかしてスバルくんは私に会えなくて寂しかったのかな?」
「べ、別に寂しくは……」
ミソラの目が少しだけ落ち込んだ。反射的に、首がもげるのではないかと思えるほど、激しく左右に振った。
「うん、やっぱり寂しかったかな!!」
「ほんと!? うれしいな!」
事実、ミソラに会いたいと思っていたところだ。見栄を張るのではなく素直な気持ちを伝えると、ミソラは花のように笑って見せる。仕事の間は作り笑いで通すのだろうが、今のは自然にできたものだろう。裏表のない表情変化を自分に見せてくれるのが嬉しかった。
スバルは表向きケロッとした顔で会話を続けるものの、内心焦っていた。心臓が異常なまでに伸縮を繰り返しているのだ。ウォーロックにあんな話題を振られてしまった後だからか、ミソラを強く意識してしまう。手からは汗が噴き出し、喉が渇いてくる。つばを飲み込もうと思ってもつっかえてしまう。全身の血液が熱湯になってしまったかのようだ。
改めてミソラの顔を見ると、体が熱くなってくる。気づくと潤った唇を見ていた。いやらしい気がして慌てて視線を下にずらすと、白い足が目に飛び込んできた。ますますダメな気がして、もう一度顔に戻す。目が合った。星明りを閉じ込めたようなエメラルド色の目と正面から向き合ってしまう。体がドキリと小さくはねた。
「どうしたの?」
「ふぇ! い、いやなんでもないよ……」
「フフ、変なスバルくん」
スバルの挙動不審は大して気にならなかったらしい。ホッと安心しつつ、スバルは顔を背けて手で押さえた。少し、このほとぼりを冷まそう。
会話が一時中断したのを見計らったのか、ウォーロックがおずおずと尋ねてきた。先ほどのはしゃぎようとは打って変わり、塩をまかれた青菜のように萎れている。
「おい、ミソラ……」
「やあ、ウォーロックくんも久しぶりだね?」
「ああ……で、お前が電波変換できるってことは……」
「ポロロン、お呼びかしら?」
ミソラのスターキャリアーからピンク色の電波体が実体化した。琴のような姿をしており、頭の両側にはピンク色の炎のようなオーラがついている。声と、体の下についている大きい目から女性だと分かる。彼女の姿を見て、ウォーロックは「げえ」と声を漏らした。
「ハープ……お前まだ地球いたのかよ」
「ちょっと、レディの顔を見ていきなり『げえ』はないでしょ!! それに、地球にいるにきまっているじゃない! 私はミソラの家族なのよ」
「ちぇ……」
「ポロロロン!! 何舌打ちしているのよ!?」
ウォーロックとハープの痴話喧嘩が始まった。いつものことなので放っておく。
「ところで、またすごいタイミングだったけれど、今日はどうしたの?」
「うん、それは……って着いちゃった」
ミソラが足を止めた。スバルはその場所を見上げて肩を落とした。自分の家に着いてしまったのだ。早くこの荷物を置いて母親のご飯を食べたかったはずなのに、今はそれを先送りにしたかった。
「じゃあ、入ろっか?」
「え? う、うん……」
声をかけたのはミソラの方だった。彼女はまるで自分の家かのように敷地内に入っていく。ここはスバルの家であってミソラの家ではない。ミソラらしくないあつかましい行動に疑問を浮かべるスバルだが、それはすぐに解決することになる。
◇
「スバルったら幸せものね~? 大人気アイドルのミソラちゃんが、わざわざ貴重な休みを利用して遊びに来てくれるなんて」
「そ、そうかな……」
あかねのご満悦そうな声をできる限り聞き流しながらスバルは夕食を口に運んだ。テーブルには様々な料理が並んでおり、いつもより豪勢だった。息子の友人が遊びに来てくれたため、あかねが腕をふるったのである。
「ミソラちゃんが遊びに来てくれたのは良かったんだけれど、スバルったら委員長さんたちと旅行中だったでしょ? 今日帰ってくるからそれまで待ってもらっていたのよ」
「いえ、私も料理を教えてもらえて嬉しかったです」
ミソラが作ったというきんぴらを口に運んでみる。料理の腕は相変わらずのようで、あかねの指導を受けたのにもかかわらず微妙な味付けだった。
「スバル、明日はちゃんとエスコートするのよ。ライブ前の貴重なお休みを使って、彼女がデートに誘ってくれてるんですからね」
「うん」と答えるべきなのか、「違う」と否定すべきなのか迷う内容だった。ウォーロックといい、あかねといい、なぜこうもミソラを意識させることを言ってくるのだろう。
ミソラも気まずいのか手を横に振っている。嘘が苦手なのも変わっていないようで顔はトマトのように赤かった。
「べ、別に彼女じゃ……」
「ミソラちゃん。将来はうちに来なさい。あなたにならスバルを任せられるわ」
「そ、そんな……でもうれしいです」
それじゃ立場が逆だと言いたかったが、それ以前に突っ込みたい部分が多々あった。話題をそらせるため、赤い顔をうつむけさせながらスバルはミソラに尋ねた。
「み、ミソラちゃんは明日どこに行きたいの?」
「ろ、ロッポンドーヒルズとか良いかなって思ってるんだけど?」
ミソラも顔を隠しながら答えた。
ロッポンドーヒルズなら、ついこの前ルナ達と一緒に行ったところだ。この前みたいなオドオドしたみっともない態度を見せることは無いだろう。特に不満もなかったので、スバルは快く了承した。
加えて、明後日にはルナ達とも会いたいという彼女の意見も受け入れた。ルナたちなら喜んで時間をとってくれるだろう。ただ、ツカサはこの夏休みを利用して一人旅に出ているため、会えないだろうということは伝えておいた。
こうして、二晩の間ミソラがスバル宅に泊まることになった。
◇
夕食もお風呂も終わり、スバルはミソラを部屋に招いていた。スバルの話を聞いて、椅子に腰かけていたミソラは「う~ん」と腕組みをしてみせた。
「TKタワーの時も、ヤエバリゾートの事件も、犯人は電波人間だったんだ?」
「うん、どっちもなかなかの強敵だったよ」
ファントム・ブラックは驚くほどに素早く捉えるのが困難だった。電波人間との戦いが久しぶりだったとはいえ、苦戦を強いられてしまった。
イエティ・ブリザードはバカだったがパワーは侮れなかった。オックス・ファイアと張り合っていたのが良い証拠だ。
「それに、ハイドは『我々』とか『オリヒメ様』って言ってた。たぶん、まだ仲間がいて、オリヒメっていう人が率いているんだと思う」
「……スバルくん、また戦うの?」
ミソラと目が合った。碧色の目の奥では星が悲しそうに揺れている。
スバルはすぐに答えなかった。姿勢を変えて丸い天井を見上げる。腰かけているベッドがギシリと音を鳴らした。
「僕自身から戦いに行くつもりはないかな。やっぱり戦うのは怖いし、オリヒメたちの目的も、どこにいるのかも分からない。調べる方法も見当がつかないからね。もしかしたらサテラポリスが解決してくれるかもしれないし。
でも、あいつらが僕の前で誰かを……大切な人を傷つけようとしたら、僕は迷わないと思う」
スバルは途中でミソラを見ながら答えた。シャンプーの良い香りが鼻をくすぐってくる。可愛らしいパジャマ姿も相まって、少しドキドキした。
「そっか……何かあったら言ってね!? 私だって一緒に戦うから!!」
「……うん……」
「あれ? どうかした?」
「いや、何でもないよ」
切れの悪いスバルの返事にミソラは首を傾げた。「よろしくね」とか言ってもらえると思っていたのだろう。スバルはどこか拗ねたような顔をしている。
「……そういえば、スバルくん。これ見て」
「え?」
ミソラが首元に手をやった。よく見ると銀色のチェーンが首にかかっている。それを引き上げると、ハート形のペンダントが顔を見せた。ミソラの胸元でピンク色に煌めいている。
「あ、それって! まだつけてくれていたんだ」
「もちろん、肌身離さず持ってるよ。スバル君が買ってくれたんだもん」
以前一緒に遊びに行ったとき、スバルがプレゼントしたペンダントだ。ミソラは大事にしてくれていたらしい。
「と・こ・ろ・で~、スバルくん。8月2日は何の日か覚えてるかな?」
「……もちろん、覚えてるよ。ミソラちゃんの誕生日でしょ? もうすぐだね?」
「さっすがスバルくん! ちゃんと覚えていてくれたんだ!?」
『先程ブラザー画面を覗いた時に、ちらりと見たから思い出せた』とは言えない。
「明日、何かプレゼント買ってあげるよ」
「きゃはっ、本当? 楽しみだな~。明日はこの前以上のデートにしようね?」
「で、でででデートって!!」
「……冗談だよ」
「……そ……そう……だよ、ね。もう、からかわないでよ~」
「エヘヘ、ごめんごめん。あかねさんの真似しちゃった」
ミソラはペロッと舌を出しておどけて見せた。それがちょっと悲しかった。
「さてと……そろそろ時間だから、私あかねさんの部屋に行くね?」
「そうだね、お休み」
「明日、楽しみにしてるよ」
「うん」
ミソラを見送って、スバルは机の上に置いてあったビジライザーをかけた。思った通り、空中ではウォーロックが犬のように横たわっていた。大量の弦でがんじがらめにされており、布かタオルで拘束されているのかと見間違えそうなほどだ。スバルとミソラが2人っきりになれるよう、余計な邪魔をさせるものかとハープが縛りつけていたのである。そんな彼女は当然のごとくミソラと共に退出している。
「お疲れ様ロック。ハープとの時間は楽しかった?」
「……楽しかったように見えるか……?」
笑いたくなるのを抑えながら、疲れ切った顔に向かって首を横にふる。
「全然」
「チッ、お前もさっさと寝たらどうだ? 疲れてたんだろ?」
「あ、忘れてた」
よく考えたら、今日スキー旅行から帰ってきたばかりなのだ。
「明日疲れていたら遊びに行くどころじゃないよね。じゃあ、お休み」
「おう」
スバルはさっと部屋の明かりを消すと、ベッドにもぐりこんだ。
「……あ! おいスバルこの弦を……」
ベッドから寝息が聞こえてきた。もう寝てしまったらしい。
「早すぎんだろ!! ……まあ、しゃあねえか……」
スバルを起こすのを諦め、ウォーロックはそのまま寝ることにした。弦は明日ハープに解かせよう。
今年の抱負は二つ!
①アレオリ2完結
②プロの小説家たちのようなスッキリとした文章を目指す
②は完全には無理でしょうが、頑張っていきたいところです。
今回からスバミソ回が始まっていますが、前作のようなものにはなりません。お話が進まなくなるので。