異世界戦記   作:日本武尊

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遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
そして更新が遅れて申し訳ございません。これからも鈍亀更新となりますが、本作もよろしくお願いします。


第七十一話 連合軍の反応

 

 

 

 

 扶桑国が同盟軍に加わって、あっという間に数週間の月日が流れる。

 

 

 

 

「……」

 

 偽装シートを上から被って隠れている扶桑軍の偵察部隊の兵士は双眼鏡を覗き、辺り一面荒野を見渡す。

 

「かれこれもう二日経つが、まだなのかねぇ」

 

「無駄口を叩くな。他の偵察部隊の報告ではやつらの予測進路はここだと言っているのだ。現にやつらはここに向かっている」

 

 呟く兵士に隣で双眼鏡を覗く兵士が不機嫌そうに言う。

 

「……にしても」

 

 水筒の蓋を開けながら兵士は景色を眺める。  

 

「まさか俺達が異国の地で戦うとはな」

 

「今に始まった事じゃないだろう」

 

「まぁそうなんだが、海を越してまでは今まで無かっただろ」

 

 これまで扶桑国が他国に軍を派遣したのは初めてではなかったが、それまでは地上が繋がった国への派遣がほとんどだった。今回の様な海を越して別大陸への海外派遣は初めてだ。

 

「まぁでも、やるべき事はちゃんとやろう。じゃなきゃ、俺たちは死んじまうんだからな」

 

「……」

 

 

「っ!」

 

 雑談を交わしていると、二人の耳に小さくエンジン音が耳に届き、二人は双眼鏡を覗いて周囲を見渡す。

 

 すると森の向こうから次々とロヴィエア連邦軍のT-34やIS-2、更に新型戦車が二車種と言った戦車群が出てくる。  

 

「来たか」

 

 兵士が隣の兵士に目配せすると、すぐに兵士は無線機に付き、暗号にて連絡を入れる。

 

 

 

「偵察部隊より報告! 敵戦車部隊を発見! 予想通りの進路を進んでいます!」

 

「そうか」

 

 第7戦車大隊の指揮官である『西住小次郎』中佐は自身の搭乗する74式戦車の乗員から報告を聞き、組んでいた腕を解く。

 

「各車に連絡! 攻撃準備に掛かれ!!」

 

 西住少佐の指示はすぐに各車輌に伝えられ、丘の陰に身を潜めている74式戦車各車のディーゼルエンジンが始動すると、少し前に前進して停車し、油圧サスペンションで車体後部を持ち上げて車体を水平にする。

 

「全車徹甲! 重戦車を中心に狙え!」

 

 指示が送られると共に各車の装填手は徹甲弾を戦車砲に装填し、それぞれ他の戦車より一回りほど大きいIS-2に狙いをつける。

 

「撃て!!」

 

 攻撃指示と共に各74式戦車の55口径110mmライフル砲が一斉に轟音と共に火を吹く。放たれた徹甲弾はIS-2とT-34の砲塔や車体の側面に命中して行動不能とし、中には弾薬庫が爆発して砲塔が吹き飛ぶ車輌が現れる。

 

「砲撃続行! 目標自由! 狙えるものは全て狙え! 撃て!!」

 

 更なる指示と共に各74式戦車は砲撃を続行し、次々と撃破して鉄屑と化していく。

 

 ロヴィエア側は突然の攻撃に混乱して動きがバラバラになっていたが、3時方向に発砲炎を確認してすぐさま砲塔を向けて砲撃を行う。

 

 しかしロヴィエア連邦の戦車の砲はお世辞に精度が良いとは言い難く、その上距離が離れているとあって74式戦車が居る丘とはあらぬ方向へと飛んでいって掠りもしない。

 その上、74式戦車は車体を丘の陰に隠して砲塔だけしか出していないので、被弾面積が少ないのだ。まず当たらないだろう。

 

 その間にも74式戦車は正確無比な砲撃を続けて、次々とロヴィエア連邦軍の戦車を撃破していく。

 

 

 

「扶桑軍より連絡! ロヴィエア連邦軍の戦車部隊を捕捉! 交戦に入ったと!」

 

「うむ」

 

 遠くからする砲撃音を聞きながらゲルマニア軍の戦車大隊を率いる茶髪の女性ことマオ・ヴェステン少佐は自身の乗るティーガーⅡの無線手からの報告を聞き頷く。

 

「ミオ大尉率いる部隊はどうなっている?」

 

「先ほど所定位置に到着してリベリアン軍と共に指示を待っています」

 

「よし。ならば作戦開始と伝えろ」

 

「ハッ!」

 

 無線手が指示をその部隊を率いる部隊長へ伝える。

 

「扶桑軍がロヴィエア軍の戦車部隊を捕捉し、攻撃を開始した。我々も負けてはいられんぞ!!」

 

了解(ヤヴォール)!!』

 

「行くぞ! パンツァーフォー!!」

 

 首に付けている咽喉マイクに手を当てて指示を飛ばし、ティーガーⅡとパンターG型を中心とした戦車大隊がディーゼルエンジンを唸らせて前進する。

 

 

 

「隊長! 大隊長より作戦開始命令です!」

 

「……」

 

 パンターG型のキューポラより上半身を出している明るい茶髪をしてマオ・ヴェステン少佐と顔つきが似ている女性ことミオ・ヴェステン大尉は軽く頷く。

 

「これよりリベリアン軍と共同でロヴィエア軍の敵戦車部隊を殲滅します!」

 

『了解!』

 

「リベリアンの方々もそれで良いですね?」

 

『OK! そっちに任せるわ!』

 

 と、少し離れた所に集まっているリベリアン軍のM26パーシング、その中の一輌に搭乗する指揮官が返事を返す。

 

「……」

 

 ミオ大尉は目を瞑って深呼吸をし、目を開ける。

 

「パンツァーフォー!!」

 

 号令と共にパンターG型を中心にした部隊がディーゼルエンジンを唸らせて前進し、それに続くようにリベリアン軍のM26パーシングもガソリンエンジンを唸らせて前進する。

 

 

 

 隣を走っていたT-34の砲塔が吹き飛ぶ中、新型のT-44に搭乗する指揮官は「くそっ!!」と悪態を付く。

 

「怯むな! やつらの数は少ない!! 数で圧倒しろ!!」

 

 車内で指揮官は無線機に向かって叫び、味方の戦車は砲撃してる方向へ向きを変えるも、その間に次々と味方車輌が撃破されていく。

 

 その中でも新型のIS-3の放った徹甲弾が丘の陰に隠れている74式戦車の砲塔に命中するも、被弾傾斜に優れた砲塔により弾かれてしまう。

 

 

 すると丘の向こうからの砲撃が突然止む。

 

「っ! 砲撃が止んだ! 今が好機だ!」

 

 指揮官は砲撃が止んだ事を好機と見てまだ多く残る味方に前進させた。

 

 

 が、その直後IS-2一輌が後ろから砲撃を受けてエンジンが吹き飛んだ。

 

「っ!?」

 

『た、隊長! 後ろからファシストの戦s――――』

 

 味方のT-34が報告をし終える前にその戦車が砲塔に直撃を受けて黒煙を上げて停止する。

 

 指揮官はペリスコープを後ろに向けて覗くと、丘の向こうから次々とゲルマニア軍の戦車が現れた。

 

「くっ!? こんな時にファシスト共の戦車だと!?」

 

 驚いている間にゲルマニア軍のパンターG型が砲撃を始めて次々と味方の戦車を撃破していく。

 

 

 すると別方向よりパンターG型とは異なる戦車が現れ、こちらに向けて砲撃する。

 

「リベリアンの戦車まで」

 

 それはリベリアン軍のM26パーシングであり、轟音と共に味方のT-34とIS-2に向けて砲撃を行う。その上反対側の丘からは後退したはずの扶桑軍の74式戦車が砲撃を行い、味方の戦車を劇撃破していく。

 もはや味方の数は殆ど残されていない。

 

 しかも別方向から更に新型の豹戦車(ティーガーⅡ)を中心としてゲルマニア軍の増援が接近していた。

 

(完全に動きを読まれていた……!)

 

 こうなってしまえば、もはや逆転の術は無い。

 

 それを理解した途端、74式戦車が放った徹甲弾がT-44の車体正面に突き刺さり、乗員を殺傷した後弾薬が爆発して砲塔が吹き飛んだ。

 

 

 その後その辺り一帯のロヴィエア連邦軍は扶桑軍、リベリアン軍、ゲルマニア軍によって一掃されるのも、時間の問題であった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、砂地が広がる砂漠地帯……。

 

 

 

「撃て!!」

 

 西大佐の号令と共に砂漠迷彩の施された74式戦車の戦車砲が一斉に火を吹き、砂漠を行進しているブリタニア帝国陸軍のセンチュリオンの砲塔側面にHEAT(対戦車榴弾)が直撃して貫徹した弾頭が砲塔内で爆発し、砲塔が一瞬持ち上がって黒煙が上がる。

 同時に数台も同じように砲塔や車体側面にHEATが直撃して行動不能となる。

 

「弾種徹甲! 残敵を掃討しろ!」

 

 指示が送られると装填手が徹甲弾を装填し、直後に戦車砲が吠える。

 

 突然の襲撃を受けたセンチュリオンは砲塔を旋回させて発射点を探ろうとしたが、直後に反対側の砂丘の陰に隠れていた74式戦車が油圧サスペンションで車体後部を持ち上げて砲塔だけを出し、砲撃を始める。

 

「くそっ! こいつらどこから現れたんだ!?」

 

 センチュリオンの車長は狼狽してただ味方の戦車が次々と撃破されていくのを見ることしか出来なかった。

 

 すると砂丘の陰から砂漠迷彩が施された61式戦車が現れて、センチュリオンに向けて砲撃を行い、センチュリオンの砲塔基部に徹甲弾が命中して貫徹し、乗員を殺傷する。

 

 

 

『こちらB小隊! 襲撃を受けた! 応援を請う! 応援を請う!』

 

『くそっ! 待ち伏せだ! 後退しろ!』

 

『こいつらゲルマニアやリベリアンの戦車じゃないぞ!? 一体どこの戦車だ!?』

 

 無線は混乱して様々な通信が飛び交っていた。

 

(くそっ! これは例のフソウ国とやらか!)

 

 センチュリオンの砲塔内で指揮官は事前に聞いた報告にあった、同盟軍に新たに加わった国のことを思い出していた。

 

 各戦線にゲルマニアやリベリアンの戦車とは異なった戦車が現れ、我が軍の戦車隊と、ロヴィエア軍、メルティス軍の戦車隊に対して攻撃を行い、殲滅していた。

 その上見たことの無い航空機までもが現れて、各戦線は混乱していた。

 

 

 すると前方を走っていたセンチュリオンの車体側面に何かが直撃すると、内部で爆発が起きて黒煙が隙間から漏れ、停車する。

 

「っ!?」

 

 指揮官は目を見開いて驚き、キューポラにあるペリスコープを攻撃が来たと思われる方向に向けると、遠くでマズルフラッシュが瞬く。

 それを見たと同時に指揮官が乗車しているセンチュリオンが揺れ、車内で爆発が起きて指揮官は永遠に意識を失った。

 

「指揮官がやられたぞ?!」

 

「くそっ! 後退しろ!!」

 

 すぐに撤退しようとしたが、死神は彼らを逃がしはしなかった。

 

 

 バタバタという音と共に砂丘の陰から現れたのは、攻撃回転翼機の小鷹と大鷲であり、それぞれ3機ずつの6機はセンチュリオンに向けて対戦車ミサイルヘルファイヤーとTOWを放ち、各センチュリオンに命中して車内で炸裂して弾薬庫に誘爆し、砲塔が吹き飛ぶ。

 直後に周囲に展開している歩兵に向けて機首の20mmと30mmの機関砲と機体側面のロケットを放ち、歩兵を駆逐していく。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所変わって戦線から離れた某所。

 

 

 

「……」

 

 執務室で報告書を読む男性は顔を顰めて口に咥えている葉巻を吸って紫煙を吐き出し、葉巻を手にして灰皿に灰を落として置く。

 

(まさか扶桑国が……西条弘樹がこの世界に来ていたとはな)

 

 スーツに蝶ネクタイをしたいかにも紳士な雰囲気の金髪の男性は報告書にある扶桑国にため息を付く。

 

 男性こと『ジャック・ジョンソン』。かのブリタニア帝国の首相であり、弘樹やトーマス、アリアと同じオンラインゲーム『Another World War』のトップランカーの一人だ。

 

(まぁ、トップランカーが揃っているのに、彼だけが居ないと言うわけではないだろう)

 

 いかんせこのトップランカー達の中でもトップ3に入る実力を西条弘樹は有していたのだ。彼だけが除け者になるはずがない。

 

(その上、兵器技術が進んでいるとはな。まぁヴェネツェアより古いといっても、我々からすれば進んでいる)

 

 現状各国の兵器技術はどれもばらばらだが、どこも大戦中期から大戦後期辺りの技術を有している。だが、例外ではヴェネツェアと扶桑が抜き出ている。

 

(それに、海軍力は明らかにリベリアンより上。まぁ、そのリベリアンに劣っている我々が言える事じゃないのだがな)

 

 まぁ、戦艦のみならばリベリアンに負けない戦艦は現在建造中だが、扶桑国のモンスターには敵わないだろう。尤もを言えば、建造中の戦艦はロヴィエア連邦海軍のソヴィエツキー・ソユーズ級に対抗するのが目的で建造しているのだがな。

 

(やはり、全体的に戦力の増強を行いつつ、空母と戦艦が更に必要になるか)

 

 将来的に必要となる海軍の増強計画を浮かべつつ、その後一旦棚上げにして別の事を考える。

 

(陸では五分と五分かもしれない。いや、今の扶桑なら、既に第三世代のMBTの開発を行っていてもおかしくないか)

 

 ジャックはそう予想するが、実はその通りであった。

 

(やれやれ。あの女の勘が鋭くなければ、扶桑と密かに接触を図れるのだがな)

 

 ため息を付きながらソーサーに置いているカップを手にして入っている紅茶を飲み干す。

 

 

「失礼します、マスター」

 

 と、執務室の扉が開けられると、古風なデザインのメイド服を身に纏う女性が入ってくる。

 

「やぁマリア。手にしているのは報告書かい?」

 

 カップをソーサーに置きながらジャックは女性に問い掛ける。

 

「はい。パスタに関する報告書です」

 

 マリアと呼ばれるメイドは手にしている報告書を執務机に置くと、ソーサーごとカップを持ち上げて執務机の傍にある台に置いて紅茶の入ったポッドを手にしてカップに注ぐ。

 ちなみにパスタとはヴェネツェア王国の事である。

 

「……」

 

 報告書を見たジャックはため息を付く。

 

(やはり性能の差が大きいか)

 

 報告には、砂漠地帯でヴェネツェア王国軍との戦闘結果が記されていたが、戦車隊は壊滅。撤退を余儀なくされた、と言う散々な結果だ。

 とは言えど、これは仕方無いところがある。

 

 いくら主力戦車の基となったセンチュリオンでも、何十年も後に開発されたイタリア軍の主力戦車が相手じゃ手も足も出せないわな。

 

 しかし彼とて、結果が分かり切った戦闘にわざわざ戦力を送るような真似はしないが、ロヴィエア連邦側の要請で増援を送ったのだ。まぁ、結果はご覧の通りだが。

 

(可能なら、どうにかしてロヴィエアの彼女の機嫌は損ねないように、水面下で進めるか)

 

 内心で様々なことを考えながら、マリアが淹れた紅茶が入ったカップをソーサーごとジャックに差し出して、彼はそれを受け取ってカップの取っ手に指を掛けて持ち上げ、口元へと運んで一口飲む。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わってブリタニア帝国ではない某所。

 

 

「……」

 

 執務室で報告書を見る中性的な顔つきの女性は報告書を読み終えると執務机に報告書を置いて椅子の背もたれにもたれかかる。

 

(やっぱり、君もこの世界に来ていたんだね、ヒロキ)

 

 彼女は友人の顔を思い浮かべながら微笑を浮かべる。

 

 豪華な意匠がそれほど施されていない軍服を身に纏い、金髪のミドルヘアーを根元で結んだ一本結びの髪形をして、アメジストの様に透き通った瞳を持っており、その顔つきは美少年を思わせる顔つきであった。

 

『シャーロット・レイミス』。メルティス王国の首相であり、弘樹やトーマス、アリア、ジャックと同じオンラインゲーム『Another World War』のトップランカーの一人だ。

 

(彼が、扶桑国が居れば、きっとこの戦いは大きく変わる)

 

 いや、必ず変わる。彼女の中では確信があった。彼女の中ではそれだけ西条弘樹を評価している。

 

(機を窺って、扶桑と接触したいけど、あの女はそう隙を見せはしないだろうね)

 

 シャーロットの脳裏にロヴィエア連邦の大統領の姿が脳裏に浮かぶ。

 

(もしあの女に牙を向けられたら、陸も海も空も、防げる手段は無い)

 

 メルティス王国の戦力は他の国と比べると目立って少ない。兵器技術は戦後基準だが、他国に対してほとんど意味はない。そんな状態で圧倒的な戦力を有するロヴィエア連邦に宣戦布告されれば、一ヶ月持てば良い方だろう。

 宣戦布告されてもジョンブルの狐は増援なんか送る気は無いだろうし、期待するだけ無駄か。

 

「はぁ。つまりは、機を窺いつつ、いつも通り、か」

 

 深くため息を付く。

 

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

 と、執務室の扉が開けられると、軍服を身に纏う男性が入ってくる。

 

「どうしたの?」

 

「ハッ。先ほどディオティス荒野での戦闘の報告が上がりました」

 

 ディオティス荒野とは、先ほどのロヴィエア連邦軍とゲルマニア、リベリアン、扶桑三ヶ国連合との戦闘が行われていた場所である。

 

 

「……」

 

 報告書を受け取ったシャーロットは報告内容を見て男性に気付かれないほどに薄く微笑を浮かべる。

 

(これなら、あるいは)

 

 彼女の中で少なくとも、確信的な予想が組み上がる。

 

「いかがなされますか?」

 

「いつも通りだよ。ロヴィエア連邦の要請があれば戦力を派遣する」

 

「畏まりました。それで、いかほどの戦力を?」

 

「彼らの小隊を四つと、機甲大隊を五つだね」

 

 彼らとは、現在メルティス王国が保護して協力体制を取っているとある種族であり、今彼らはその恩義を返す為にメルティス王国の陸軍に協力している。

 

「分かりました。陸軍にお伝えしましょう」

 

「お願い。それと、海軍はまだ動かせないんでしょ?」

 

「えぇ。ブリタニアから技術支援があるとは言えど、すぐにとは行きません」

 

「まぁ、そうだろうね」

 

 シャーロットはため息を付く。現在メルティス王国は海軍の再編成を行っており、空母の建造技術をブリタニアから提供してもらっているが、すぐに物に出来る訳がなかった。

 一応メルティスには『ベルアン』とブリタニア海軍から供与された『ディクスミュード』と呼ばれる軽空母と護衛空母があるが、その程度である。

 現在『ジョッフル級航空母艦』と呼ばれる史実では未完成に終わった同名の航空母艦を先ほど言ったブリタニア帝国から技術提供を受けて建造中だ。工期が遅れなければ年内に一番艦が竣工する。まぁ、就役はかなり先になるだろうが。

 

 唯一海軍で目立った活躍があるのはリシュリュー級戦艦であり、ブリタニア海軍と共同で支援砲撃に加わっている。そして現在リシュリュー級を強化発展させた新型戦艦を建造中だ。

 

「まぁ、兎に角今はやれる事をやるだけだよ」

 

「分かりました」

 

 男性は敬礼してから執務室を出る。

 

「……」

 

 男性が出たのを確認してからシャーロットは椅子を回して後ろに向くと、立ち上がって窓の前まで歩いて外の景色を眺める。

 

(今後、世界はどうなるかな)

 

 彼女は外の景色を眺めながら、内心呟く。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 某所。

 

 

「……」

 

 執務室で明らかに不機嫌なオーラを醸し出している女性は目の前で冷や汗を掻いて直立不動の姿勢で立っている将校を睨む。

 

「さて、この報告について、どう説明する、同志よ」

 

 腕を組んで将校を血の様に紅い瞳で睨みつけている女性こと『アリシア・ヴェネチェフ』は冷たい声で問い掛ける。彼女もオンラインゲーム『Another World War』のトップランカーの一人で、ロヴィエア連邦国の大統領だ。

 

「だ、ダー、同志ヴェネチェフ。これは、ファシストと資本主義者共に新たに加わった扶桑国と呼ばれる国が大きく関わっていまして」

 

「それは海軍と空軍の連中から同じ事を聞いた」

 

「……」

 

「海軍や空軍ならまだしも、我が国で一番力のある陸軍が連敗とは」

 

 実質海軍はようやくリベリアンと渡り合えるほどのレベルまでに戦力が充実してきたが、質に関してはリベリアンに劣っているのが現状だった。

 

「……」

 

「それに、この報告書にはファシストと資本主義者共との戦闘しか書かれていない。それについてはどう説明する?」

 

 女性は手にしている報告書を将校に見せ付けるようにして執務机の端に向かって投げる。

 

「そ、それは……」

 

「そこの戦線には新型のT-44とIS-3を多く送っていたはずだ。それでこの結果か」

 

「……」

 

 返事を返さなければならないのだが、返すことも出来ず顔色は真っ青になり、顔中に汗が浮かび上がる。 

 

「……粛清」

 

「っ!」

 

 粛清の言葉がアリシアから発せられて将校は目を見開く。

 

「後二回だ……」

 

「意味は分かるな?」と言わんばかりに視線を向ける。

 

「は、はい!! か、必ずや、同志ヴェネチェフの期待に添えましょう!!」

 

 将校は背筋を伸ばして大声で答える。

 

「期待しているぞ」

 

 アリシアはため息を付くと、ジロリと睨む。

 

「もういいぞ。私の気が変わる前に、私の前から消えろ」

 

「は、ハッ!!」

 

 将校は敬礼をしてから急ぎ足で執務室を出る。

 

 

「……」

 

 アリシアはため息を付き、椅子の背もたれにもたれかかる。

 

「やれやれ。柄じゃないキャラを演じるのは、疲れるな」

 

 彼女とて、独裁者の様な性格は持ち合わせていない。だが、部下への示しと言うのもあって、こんな演技をしている。

 

「しかし」

 

 アリシアは先ほど投げた報告書を手にしてその中身を見る。

 

(扶桑国、西条弘樹。やはりお前もこの世界に来ていたか)

 

 彼女は報告書にある写真に写る74式戦車を見る。

 

「フフフ……」

 

 小さく声を漏らし、ロヴィエア連邦国内の人間は滅多に見ないような微笑を浮かべる。

 

(これで、目的が果たせそうだ。あとは、その時を待つだけ)

 

 どうやら彼女には彼女なりの目的があるようだ。

 

(全てはお前に掛かっているぞ、西条弘樹)

 

 彼女はある目的を思い浮かべると、執務に戻る。

 

 

 


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