異世界戦記   作:日本武尊

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大分遅れましたが、最新話投稿です。
そういえば、本作を連載してもう2年が経つんですねぇ。当時はまだ学生だったのに、今じゃ社会人……
時間が経つのは本当に早いですね。

では、どうぞ


第六十二話 

 

 

 

 

 時間は過ぎ、日が昇り出して辺りが明るくなり始めた。

 

 

 

 ハヴァ島周辺ではロヴィエア海軍の戦艦や巡洋艦、駆逐艦が絶えず島に向けて砲撃を行っている。

 

「くそ。砲弾の残りが少ないっていうのに、航空機の支援はどうしたってんだよ」

 

 砲撃を行っているガングート級戦艦の艦橋で艦長が愚痴を零す。

 

 あれから航空支援が絶えてしまい、絶えず軍艦からの艦砲射撃を行っているが、その砲弾の残りが心許なくなっている。

 まぁ機動部隊はグラミアム海軍の機動部隊によって壊滅的打撃を与えられているのだが、まだその情報が行き届いていないのだ。

 

(それに増援が来るはずだが、いつまで経っても来ないのはなぜだ?)

 

 艦長が知る由も無かったが、増援としてこちらに向かっていた艦隊は、扶桑海軍の秘匿艦隊である幻影艦隊が他の潜水艦隊と共に最新鋭の誘導魚雷による長距離雷撃を行い、これを殲滅している。

 しかも襲撃された報告を送ろうにも電波妨害を幻影艦隊によって行われたので、増援艦隊が壊滅したことは誰にも伝わっていない。

 

(いったい何が起きている?)

 

 

 

「っ! 艦長!」

 

 様々な考えが頭の中を駆け巡っている中、通信兵が艦長のもとへと駆け寄る。

 

「どうした?」

 

「島々の周囲を監視している駆逐艦からの報告です! こちらに向かってくる飛行体を確認したと!」

 

「なに?」

 

 一瞬味方の航空隊が来たのかと期待したが、すぐに違うと判断する。

 

「味方、ではないな?」

 

「は、はい。明らかに我が軍の艦載機よりも速い速度でこちらに向かってきていると」

 

「……」

 

 つまり、こちらに向かってきているのは、敵機……

 

「各艦に伝えろ! 対空戦闘準備と!」

 

「ハッ!!」

 

 

 

 しかし時既に遅かった……

 

 

 

 

「っ!」

 

 水平線上の向こうから太陽が昇り空と海面を照らしていき、その光に艦長は思わず目を覆うが、その太陽に黒点が現れる。

 次第に黒点は大きくなり、やがてそのシルエットも明らかになってくる。

 

「なっ!?」

 

 艦長は驚愕の表情を浮かべる。

 

 なぜなら、太陽を背にして、無数の見たことも無い航空機がこちらに向かってきたのだから。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「目標捕捉!」

 

 各空母から飛び立った閃雷と水龍、天雷はそれぞれ目標を確認し、攻撃態勢を取る。

 

「天雷隊は攻撃開始! その後に水龍隊が続け!」

 

『了解!』

 

 すぐに閃雷各機が左右に分かれると、天雷と水龍各機はそれぞれの目標に狙いを定める。

 

 

 そして天雷各機は機体下部のウェポンベイのハッチが開かれ、そこから艦載機が持つにはかなり大きい大型の空対艦ミサイルが2発姿を現すと、1基ずつロケットエンジンが点火して勢い良く飛び出す。

 全ての天雷がミサイルを放つと元来た方角へと旋回して母艦へと戻っていく。

 

 続けて水龍各機が両翼と機体下部に懸架されている空対艦ミサイル5基を一斉に放ち、天雷と違い引き返さずに閃雷に続く。

 

 

 先に放たれた天雷の空対艦ミサイルは一段目のロケットエンジンを切り離すとジェットエンジンによって更なる加速を掛けて目標に向かって猛進する。

 

「何だあれは!?」

 

「ろ、ロケットか!?」

 

「う、撃て撃て!! 撃ち落とせ!!」

 

 ロヴィエア海軍の艦艇群はすぐに対空銃座や両用砲を放って弾幕を張り、ミサイルを迎撃しようとするも速度が速すぎて機銃の弾は当たらず、両用砲より放たれる対空砲弾は反応する前に通り過ぎられて見当違いの所で爆発する。

 

 ミサイルはそのままガングート級や重巡洋艦、ソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦に命中し、元から装甲が無いに等しいガングート級は直撃した箇所の周囲を吹き飛ばされ、更に主砲の弾薬庫を貫かれてそこでミサイルが爆発し、弾薬庫が大爆発を起こして艦体が真っ二つに折れる。

 重巡洋艦はミサイル一発の直撃で艦体が真っ二つに折られて轟沈し、ソヴィエツキー・ソユーズ級に至っては装甲が厚かったのが幸いして数発の直撃に耐えるも、その時点で甲板上にある搭載兵器や設備は壊滅的打撃を負う。

 

 更に水龍の放ったミサイルが軽巡洋艦や駆逐艦に襲い掛かり、次々と大破、轟沈する艦が続出する。

 

 

「く、くそっ!? 何なんだ!?」

 

 ミサイルの直撃を受けたソビエツカヤ・アルメニアは甲板上で火災が発生し、左舷側の対空兵装はほぼ全滅していた。

 

「っ! また来るぞ!!」

 

 今度は閃雷各機より放たれたミサイルが迫ってきて、輸送船へと襲い掛かる。

 

「くそっ!」

 

 船員の一人が対空銃座に着くと本艦に向かってくるミサイルを撃ち落とそうとするも、弾は掠る気配を見せない。

 

 

 と、思われたが偶然にも弾が方向操舵に命中してそれによりミサイルがあらぬ方向へと飛んでいこうとしたが、この戦艦は運がなかった。

 

 そのあらぬ方向と思われた方向にソビエツカヤ・アルメニアの艦橋があり、ミサイルはそのまま艦橋に衝突して爆発し、艦橋に居た艦長を含む乗員全てが戦死する。

 

「あっ……」

 

 乗員は口をあんぐりを開けて呆然と立ち尽くす。

 

 

 だが、艦隊への危機はまだ終わりを告げていなかった。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「オイオイオイ。ほとんど全滅に近いじゃないか」

 

 第一波攻撃隊から遅れてレシプロ機による扶桑海軍とリベリアン海軍の第二次攻撃隊が到着したが、そのときには数多くの艦が沈められ、残ったやつも全て黒煙を上げて傾斜している。

 アベンジャー雷撃機に乗る指揮官のパイロットは殆どが損傷している艦艇群を見て苦笑いを浮かべる。

 

『どうします、隊長? 獲物は手負いで数も少ないですぜ?』

 

「そうだな……」

 

 

『こちら扶桑海軍赤城航空隊。我々は雷撃隊を除いて各島々の陸軍の支援のため、敵上陸部隊の殲滅に入るが、貴隊はどうする?』

 

 と、扶桑海軍のレシプロ機より通信が入る。

 

「こちらレキシントン航空隊。我々も貴隊と共に雷撃隊以外は上陸部隊を叩こう。何せそちらの攻撃隊が大半を喰らったからな」

 

『それは申し訳ない。何せ本格的な実戦は久しぶりですから。大分荒ぶっているのでしょう』

 

「そりゃそうだろうな」

 

 アベンジャーに乗る指揮官は惨状を見て苦笑いを浮かべる。

 

『では、ご武運を』

 

 そして烈風に彗星、爆装流星各機はそれぞれ各島々へと向かっていく。

 

 

「そういうことだ。各機それぞれの島々に上陸した部隊を叩け。雷撃隊は残った艦艇をやれ!」

 

『了解!!』

 

 そうして戦爆隊と爆撃隊は各島々へと向かい、雷撃隊は残った艦艇群へと向かう。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――-―――-―――――――――――――

 

 

 

 

 所は変わって……

 

 

 

「くっ……。まさか、我が海軍が誇る戦艦部隊が」

 

 旗艦であったソビエツカヤ・ロシアが沈められ、5番艦のソビエツカヤ・キルギスに移乗した司令官は悔しげに歯軋りをして手すりに拳を叩き付ける。

 

 ガングート級は殆どが大破しており、速力も10ノットしか出せない状態に陥り、一部に至っては艦橋が破壊されて指揮系統が乱れている艦も居る。

 

「司令。上陸部隊の事もあります。ここは一旦戻ったほうが」 

 

「戻るだと!? やつらに尻尾を見せて逃げろと言うのか!?」

 

 艦長の提案に司令官は怒りの形相で睨みつける。

 

「ですが、司令。相手が引いたのなら、すぐにでも島に戻るべきです。少なくともすぐにこちらを再捕捉するのに時間は掛かります。なので戦力を整えてからでも―――」

 

「黙れ!」

 

 司令官は艦長の肩を掴むとそのまま壁へと強く押し付ける。

 

「貴様は私の顔に泥を塗りつけるつもりか!!」

 

「で、ですが、今の状態で再び敵艦隊と砲撃戦を行うには、あまりにも分が悪すぎます! 機動部隊と連携すれば、殲滅は不可能ではありません!」

 

「航空屋共に戦果を奪われて溜まるか!!! あんな腰抜けどもに!!」

 

 思想の違いからか、ロヴィエア海軍の機動部隊と戦艦部隊は折り合いが悪く、手柄の取り合いなど珍しいことではない

 まぁ、それ故に色々と問題が絶えない。

 

 

 

 すると突然艦隊の周囲に巨大な水柱が上がる。

 

『っ!?』

 

 凄まじい衝撃が船体に襲い掛かり、二人は思わず倒れ込む。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ロヴィエア海軍の戦艦部隊から離れた海域には、扶桑海軍の戦艦部隊の紀伊と尾張がロヴィエア海軍の戦艦部隊に止めを刺さんと主砲を向けていた。

 

 

「全弾至近!!」

 

「砲術長! 次で決めろ!」

 

『ハッ!!』

 

 すぐに紀伊と尾張の各砲塔の砲身が上下する。

 

「まさかこうも早く戦艦部隊を捕捉できるとは」

 

「幸先が良いですな」

 

「うむ。それに、敵戦艦もその殆どが損傷が激しいようだな」

 

「よほどグラミアム海軍が頑張ってくれたようですね」

 

「これならば、紀伊と尾張だけでも済みそうだな」

 

「他の艦の砲術長からは文句を言われそうですけどね」

 

 参謀は苦笑いを浮かべる。

 

「それにしても、この砲撃支援システムは凄いですな」

 

「うむ。電探からの情報のみでこの精度だ。もし観測機からの情報もあれば、ほぼ必中と言っても過言ではないだろう」

 

「と言っても、戦艦が運用することを前提ですがね」

 

「まぁな」

 

 

 ――――砲撃支援システム――――

 

 扶桑海軍が戦艦向けに開発した補助システムで、電探や観測機から送られる標的物の距離と速度、角度などの情報を計算し、標的物の未来位置を即座に算出することができるシステムだ。

 これを用いた扶桑海軍の戦艦の命中率は平均して7割から8割と驚愕な命中率を誇る。

 無論従来通りの砲撃も抜かりなく訓練されているので、砲撃支援システムがなくても高い命中率を誇る。

 

 尚グラミアム海軍でもこの砲撃支援システムが導入されており、先のグラミアム海軍がすぐに命中弾を与えられたのもこの砲撃支援システムによる恩恵が大きい。

 

 

『砲術長より艦橋! 諸元入力完了! 次は絶対に当たります!』

 

 紀伊の艦長は大石を見ると、大石は軽く頷く。

 

「砲術長! 主砲、撃ち方始め!!」

 

『撃ち方始めぇっ!!』

 

 砲術長の復唱後、紀伊の4基ある主砲から伸びる3本の砲身の内、中央の1本から計4本より砲弾が放たれて爆煙とともに轟音を発し、衝撃波が海面に大きな凹みを生み出す。

 続いて尾張も4基ある主砲の中央の砲身より轟音とともに砲弾が放たれる。

 

 音速に近い速度を出して8つの砲弾が弧を描いて飛翔し、ロヴィエア海軍の戦艦部隊を目指して突き進む。

 

 

「だんちゃーく、今っ!!」

 

 

 そして砲弾は狂い無くそれぞれの戦艦に命中し、通常ではありえない大きな金属がひしゃげるような音がしてガングート級が着弾点から周囲が粉々に粉砕される。

 そしてソビエツカヤ・キルギスにも3発の直撃弾を受ける。

 

 

「ぬぉっ!?」

 

 大きな衝撃が艦全体を揺らして司令官は手すりにしがみ付いても倒れそうになる。

 

「な、何だこの衝撃は!? 明らかに16インチの威力ではないぞ!?」

 

「ひ、被害報告!」

 

『二番砲塔に直撃! 砲塔損壊!』

 

『バイタルパートに亀裂が! 艦内に浸水発生!』

 

『ボイラーに異常発生!! 速力低下!!』

 

 次々と上がる被害報告に司令官は顔面蒼白になる。

 

「ば、馬鹿な。計算上18インチの砲にも耐えられる装甲を持っているはずだ。それが、こうもあっさり……」

 

 司令官が知る由も無いだろうが、紀伊型戦艦の持つ主砲は20インチ砲だ。まぁそれだとしても、通常の徹甲弾ではソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦のバイタルパートを一撃で亀裂が生じさせるほどの威力は距離にもよるが、現在の距離からでは不可能だ。

 だが、現にバイタルパートに深刻なダメージを与えられたのには理由がある。

 

 先ほど紀伊型戦艦が放ったのは実質紀伊型戦艦専用に開発された、一撃必殺の破壊力を求めた『重量徹甲弾』と呼ばれ、その名の通り従来の徹甲弾よりも重量のある徹甲弾で、その重量は驚愕の2.7tを誇る。

 少なくとも32.000m離れた大和型戦艦の砲塔天板を貫徹できるし、バイタルパートもうまく行けば貫徹可能とある。

 

 まぁ無論これだけ色んな意味でオーバースペックの砲弾だ。以前の紀伊型戦艦の砲だと全力を発揮できないだろうが、現在の紀伊型戦艦の持つ主砲は最新鋭の技術で砲身を50口径から55口径に延長して作り直し、更に発射時に使用する炸薬も海軍内で新しく更新された全く新しく強力な物を使っているので、重量徹甲弾のスペックを全力で発揮できる。

 

 

 とまぁハッキリと言えることといえば、彼らに襲い掛かっているのは、想像を絶する破壊力を有する超戦艦が2隻も相手であるということだ。

 しかも後続は18インチ砲を搭載した戦艦ばかりというオマケ付きだ

 

 

 その直後更に重量徹甲弾8発が艦隊に降り注ぎ、重量徹甲弾はソビエツカヤ・キルギスのバイタルパートを打ち砕いて貫徹し、艦内で爆発を起こして竜骨をも粉砕する。

 

 しかも運が無いことに他に一番砲塔と三番砲塔にも直撃弾を受け、しかも弾薬庫で爆発して弾薬に誘爆し、ソビエツカヤ・キルギスの3箇所で大爆発を起こして船体は3つに分断され、直後に更に大爆発を起こしてソビエツカヤ・キルギスは一発の反撃もできずに乗員全員と共に冷たい海へとその巨体を没した。

 

 

 その後大和型戦艦と岩木型巡洋戦艦、新金剛型戦艦による砲撃が開始され、残った戦艦群も一矢報いようと砲撃するも、精度があまりにも違いすぎて抵抗も空しく一方的にやられてしまい、しばらくすると海上にロヴィエア海軍の戦艦の姿は無くなってしまっていた。

 

 

 ちなみに遅れてリベリアンの戦艦部隊が到着するも、海上に目標が居ないことに各戦艦の艦長は「残しておいても良かっただろうに」と文句を呟いたそうな。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後テロル諸島周辺にいる艦艇群も扶桑とリベリアンの空母より飛び立った攻撃隊によって運よく生き残って投降した艦を除いて全てが海の藻屑と化した。

 

 

 上陸部隊もその後いくつかの島の飛行場経由で到着した空軍の『連山改二』と『10式襲撃機 雷電』による地上攻撃隊によってその多くを排除され、残りも到着した扶桑海軍の海兵隊によって投降する者以外は全て駆逐された。

 

 

 

『第二次テロル諸島の戦い』と後に呼ばれたこの戦闘は、ロヴィエア連邦軍の上陸部隊の事実上の全滅を以って終結した。

 

 

 

 

 

 


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