夜の神は太陽に恋焦がれた   作:黒猫ノ月

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こんにちは。
少々燃え尽きた、黒猫ノ月です。
理由は後書きで。

あと、理子りんのヒロイン入り確定でございます。
こう、構想がパッと浮かび上がりすぎたので。

では、投稿です。


第3弾 「バカ、アホ、マヌケ、人でなしっ!」

第一次2B大戦 経過・結果報告

 

1 泣いている女子(先生、理子含む)数人を一人に対し二人以上で慰める。

 

2 アリアを2-Bの生徒十数人で取り抑える。

 

3 アリアその全てを撃退(武藤、散る)。

 

4 キンジと不知火、取り抑えている間に銃を取り上げ、何とか2人でアリアに対応。

 

5 蒼真未だ目覚めず。

 

6 A・C組、何事かと乱入。

 

7 B組の惨状を目の当たりにし、どうにかして対応しようとする。

 

8 教師2人(男)、高天原先生の泣き顔に心奪われる。

 

9 キンジ志し半ばで倒れる。

 

10 頭に血がのぼっているアリア、彼らを攻撃。

 

11 そんなアリアにA・C組数十人が迎撃。

 

12 蒼真、数多の銃声により覚醒。

 

13 起床直後、スタングレネード(弱)投擲。

 

14 スタングレネード、起動!

 

15 静かになった教室で、不知火の言もあり、蒼真何とか現状把握。

 

16 蒼真、わめき散らすアリアを子猫持ちする。

 

17 蒼真、アリアと共に退出。

 

18 一時静寂が教室を包むがここで蘭豹乱入。

 

19 場がまた騒然となりかけるが泣き止んだ高天原先生の言により、蘭豹しぶしぶ拳を下ろす。

 

20 奪われた心が戻って来た教師2人と共に生徒に指示、高天原先生威厳を取り戻す。

 

21 指示により負傷者・意識不明者を運び出す。

 

22 いつの間にか元気になった理子により場が締められる。

 

 

 

負傷者 二十九名

 

意識不明者 十七名

 

泣き腫らした女の子 十名(高天原先生含め)

 

心奪われた教師 二名

 

暴れられなくてイライラしている教師 一名

 

何とか無事に乗りきれたもの 六十六名

 

 

 

これらの犠牲者を出し、第一次2B大戦は終結した。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

暖かな春の日溜まりが、一般棟の屋上を優しく包んでいる。

休み時間になると、この時期には人がそこそこ来客する場所であるが、今は授業中。そこには誰もいない。

すると……

 

キィーー~~ガッチャンッ

 

錆び付いて軋む屋上の扉を開き、とある人物が屋上に出てきた。

右手に〈荷物〉をぶら下げたその人の、ダークブラウンの髪を春風がそっと撫でる。

 

「……いい加減、離しなさいよ」

 

右手の荷物……アリアがぶら下げられたまま、自分の襟首を持ちぶらぶらしている人物……蒼真に話しかける。

さっきまで台風の如く猛威を奮った者とは思えないほど落ち着いている。

 

「…………」

 

蒼真は無言でアリアをゆっくり降ろす。

降ろされたアリアはスカートをパンッパンッと数度はたき、上のシャツや髪の身嗜みを整える。

 

「…………」

 

蒼真は黙ったまま、アリアの身嗜みチェックを終えるのを待っていた。

 

「……ん、よし」

 

どうやらチェックが終わったようだ。

今まで蒼真に背を向けていたアリアが、蒼真に向き直る。

 

「…………久しぶり‥‥ね?」

 

「……ああ」

 

アリアの言葉に、蒼真は短く返した。

前に会ったときとは、〈容姿〉が違うため本人確認のために取り敢えずアリアは蒼真に問うた。

 

「…………」

 

「…………」

 

それから、アリアは蒼真を見つめたままなにも話さない。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

ここまでの道中で落ち着きを取り戻したアリアは、ぶらぶらされながら心の中で嘆息していた。

さっきは突然過ぎる再開と久しぶりの〈洗礼〉を受けたため、少々頭に血が上ってしまい、またこいつに弄ばれてしまった。

(これじゃあ、グレイに子供扱いされるのは当然ね)

 

 

向こうでもバカにされ、おちょくられては制裁をくだ下そうと躍起になるが、のらりくらりと避けられて最後には無表情で頭を撫でられた。

初めて会ったときはそれはもうイライラしたし、むしゃくしゃした。

けれど、1ヶ月も経つと、いつまでもバカにするのは変わらないが、不思議とイライラすることがなくなっていった。

どうしてなのか気になり、ママに相談したことがある。

ママには、いつもグレイの話をしていた。

気に食わない、それはもう気に食わない奴がいると。

グレイの話を聞くとママは、

 

『あらあら、そんな事する人は私がお話ししなくちゃいけませんね?』

 

と、いつも笑顔で聞いていた。

そして、今回もママは笑って言った。

 

 

 

『それはね、アリア。貴女がグレイさんをね、好きになっちゃったからよ。』

 

 

 

私の時が止まったわ。

私は否定した。目一杯否定した。ものそっい否定した。

そんな私に、

 

『あらあら、ちょっと勘違いさせちゃったみたいね』

 

と、ママが私を落ち着かせながら言った。

私を落ち着かせた後、ママは私を座らせてまた笑顔で話し始めた。

 

『いい、アリア?好きにも色々あるの。友愛、家族愛、恋愛、動物愛……。まだまだたくさんあるわ』

 

『そしてね、一つの愛には様々な形があるの。例えば恋愛だって、必ずしも異性じゃないとダメなんてことはないでしょう?』

 

『家族愛もそう。必ずしも、血が繋がっていなければダメなんて事はないでしょう?』

 

ここまで話してママは私を見つめる。

 

『私には、貴女がグレイさんに対してどんな愛を感じているのかは、まだ何となくしか分からないわ』

 

『でもね?これだけは確かなこと。貴女はグレイさんを愛しているのよ』

 

ママは、『そして……』と続けて

 

 

 

『グレイさんも、貴女を愛しているわ』

 

 

 

私には信じられなかった。

ただでさえアイツを好きなどと認められないのに、いつもいつも私をバカにするアイツが、私を、愛している、ですって!?

ないわ、ないない、あるはずない。

私はママにそう言った。

アイツは私で遊んでいるだけだと、アイツにとって私は玩具なのだと。

だけどママは、

 

『貴女は……知っているはずよ。愛され無いことがどういうことか』

 

私はその言葉にハッとした。

そして思い出す。

数多の悪意ある言葉を、私の存在を無視する者たちを、推理が出来ない私をゴミを見るような目で見るホームズ家の人たちを。

そんなことを思い出している私に、一月前のアイツの、グレイの言葉が甦る。

 

 

 

『……綺麗な‥‥髪だな』

 

 

 

『……どうかしら?アリア?』

 

私はママの言葉でこちらに戻ってきた。

 

『貴女なら、もう分かったことでしょう。アリア、もう強がらなくても大丈夫よ。だって……』

 

 

 

『貴女は見つけたのだから。貴女を貴女として見てくれる、大切な、愛しい人を。だから、もう大丈夫よ』

 

 

 

ママはそう言って、私を優しく抱き締めた。

私は……まだ、信じられなかったけど。

アイツと過ごしたここ一月を思い出していて

 

 

 

知らず知らずの内に…………グレイに誉められた緋色の目から、今までの苦しみの雫と……安堵の雫が頬を伝った。

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

 

『ねぇ、ママ…………?』

 

私は問いかける。

 

『なあに?』

 

『ほんとに、ほんとのほんとに、アイツが私を愛しているなら、どうして私を苛めるの?』

 

私がそう尋ねると、ママはクスクスと笑った。

私が不思議に思っていると、

 

『ふふっ。ごめんなさいね。そうね~~………』

 

ママはひとしきり笑った後、人差し指をあごに当てながら考えて……

 

『……うん、そうね。これは私が貴女から聞いた事をまとめて考えた事なんだけど…………』

 

私はママの考えに耳を澄ませる。

 

『……ふふっ、彼はね…………』

 

 

 

『貴女のことが可愛くて可愛くて仕方ないの。だからね、苛めたくなっちゃうの。小学生の男の子が好きな女の子を苛てしまうように。そして……』

 

 

 

『大好きな可愛い妹に、構って欲しくて苛めちゃうお兄ちゃんのように……ね?』

 

 

 

……………………。

………………。

…………。

……。

 

 

 

ママに相談した翌日。

いつもと同じようにグレイと会ったが、恥ずかしくてグレイの顔を視られなかった。

グレイはいつもと変わらない無表情でそんな私を見つめる。

そして

 

……ぽむっ

 

突然、グレイが私の頭を優しく撫で始めた。

 

『ちょっ!?~~~~~~~~ッ!!!////』

 

私は声にならない声をあげ、目をぎゅっ強く瞑る。

 

(わ、わわわたしぜぜぜったいかおあかいどどどどうしよどうしよどうしよっっっ!!!?)

 

沸騰している頭で、そんな事を考えていると……

 

 

 

『……ふっ……何、らしくない‥‥顔してる?』

 

 

 

聞き間違いだと思った。

私は今までの恥ずかしさを忘れて、グレイの顔をすぐに見上げる。

見間違いだと思った。

だって、だって……アイツが…………。

ずっと無表情で、何があっても感情なんか出てこなかったアイツが‥‥‥グレイが…………。

 

 

 

すごく、すごく暖かい顔で、私に微笑んでいたから

 

 

 

『大好きな可愛い妹に、構って欲しくて苛めちゃうお兄ちゃんのように……ね?』

 

昨日のママの言葉が甦る。

 

(……ああ、そっか。…………そっか)

 

私は1人で納得していた。

 

 

 

(もし、もし私にお兄ちゃんがいたら、こんな感じ……なのかな?)

 

 

 

私は目を瞑って涙を流し続ける。

そんな私の頭を、グレイは優しく撫で続けた。

 

 

私は3年前の出来事を思い出していた。

あの後、泣き止んだ私をグレイはまたバカにして、いつもどうりに過ごした。

だけど、だけれど。

私はとても幸せだった。いつも無表情で無口で不器用なグレイだけど、確かに愛を感じたから。

それから1年後に別れてしまったけど、私は信じていた。また会えると。ずっと私を愛してくれていると。

だから……

 

(私から隠れていたのにも理由があるはず……)

 

あれから2年経った今でもそれは変わらない。

私は、素直にそう思えた。

再会したら、言いたいことがいっぱいあったけど……。

ここはまず、グレイに聞こう。

ちゃんと、教えてくれるから。

私は蒼真を見つめたまま、尋ねる。

 

 

 

「ねぇ……グレイ。どうして、隠れていたの……?」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ねぇ……グレイ。どうして、隠れていたの……?」

 

俺の目の前で、そう尋ねるアリア。

まさかの同じクラス。これはまだいい。

だけどアリアの前で、アイツの知ってる癖を出してしまったことと、寝起きだったから思わず、ほんの一瞬《夜》を出してしまったことが痛い。

これだけ見せてしまえば、アリアならまずバレるだろう。て言うかバレた。

目の前では、少し瞳を潤ませて俺の答えを待っているアリア。

 

(……これは‥…詰んだ)

 

そんな顔をされたら言わない訳にもいかないな。

まだ見つかる訳にはいかなかったが、仕方がない。

 

(……すみません‥…かなえさん)

 

俺は心の中で、俺に託してくれた……アリアの母親に謝罪する。

そして、目の前の手の掛かる……〈妹〉に訳を話す。

 

 

 

「……それは…」

 

 

俺はアリアがこちらに来ることを知っていた。その訳も。

だから信じられなかった。

かなえさんが、懲役864年などという途方もない刑を受けていることを。

俺はそれを知ってすぐに、警察の知り合いに電話し、かなえさんに会いに行った。

新宿警察署に着くと、話が通っていたのかすぐに通されて、

 

 

 

留置服を着て、1枚の透明のアクリル板越しにかなえさんが座っていた。

 

 

 

『…………かなえさん』

 

『お久しぶりですね、グレイさん』

 

『神崎、5分だ』

 

警察官がそう言い、部屋を出ていく。

 

『グレイさんはすごいんですね。私の面会は1回3分で関係者だけ、それに……』

 

『今は……どうでもいい』

 

俺はかなえさんの話を遮り、本題に入る。

 

『……何故、貴女が?』

 

『…………狙いは、あの子‥‥なのでしょう』

 

かなえさんは少しずつ俺に話し始めた。

 

『あの子には、何かある。あの組織はあの子の隠された力が欲しいのでしょうね。』

 

『………………』

 

『お願い、グレイさん。あの子を、アリアをこっちに来させないで。あの子には、まだイ・ウーは』

 

『嘘だ』

 

『……っ!』

 

世界最大の秘密組織《イ・ウー》。

あの組織の名前を〈ここで〉話したのなら、奴らが絡んでいるのは本当なのだろう。が、彼女は何かを隠している。

俺には分かる。

何故なら、

 

 

 

〈世界一の正直者〉を俺は知っているから。

 

 

 

『……貴女は‥‥何を、隠してる?』

 

『…………』

 

『…………』

 

『…………』

 

がらんとしたこの部屋に沈黙が続く。

彼女には、話す気は無いようだ。

 

『……なら‥‥好きにやらせて‥‥もらう』

 

『……っ………』

 

俺は席を立ち、かなえさんに背を向け

 

 

 

『…………待ってっ!!』

 

 

 

かなえさんは、何かを振り払うように叫びながら立ち上がり、俺を呼び止めた。

 

『…………今はまだ、何も‥‥言えないの』

 

何かと葛藤しているのだろう。かなえさんは絞り出したような細い声で俺に話しかける。

 

『……ずるいとは思うけど、もう少しだけ私の話を聞いてくれないかしら?』

 

『…………』

 

俺はその言葉に、

 

ガタンッ

 

椅子に座って返す。

 

『……ありがとう』

 

かなえさんは俺にお礼を言って、自身も座りなおす。

面会時間は残り3分といったところか。

残り3分で何が聞けるのか。と思っていると、

 

『……グレイさん、一つ聞いてもいいですか?』

 

かなえさんが俺に尋ねてきた。

 

『……何を?』

 

『貴方は……あの子のパートナーになる気はあるの?』

その問に、俺は……

 

 

 

『……ありません』

 

 

 

『……えっ?』

 

尋ねた本人であるかなえさんが驚きの声を上げた。

 

『貴方は……あの子と約束したのでしょう?』

 

『……俺に‥‥勝ったら‥です』

 

『じゃあ、貴方は最初から……』

 

『……なる気は‥‥ありません‥でした』

 

ここまで聞いて、かなえさんはかなり拍子抜けた顔をしていた。

 

『……悪い人。あの子は貴方をパートナーにする気満々で頑張っていたのに…………』

 

かなえさんは俺をジト目で見つめる。

俺は、そんなかなえさんにこう言った。

 

 

 

『……俺は‥‥《夜王》‥ですから』

 

 

 

『……っ』

 

かなえさんは俺の言葉に表情を曇らせる。

 

『……俺の〈運命〉には‥‥敵が‥‥多すぎる』

 

『貴方……』

 

曇らせた顔は、悲しみの色に染まっていた。

やはり、この人は〈知っていたか〉。

 

『……この道は‥‥1人道。……巻き込む訳には、いかない』

 

俺はそう言って、未だに悲しい顔をしているかなえさんに苦笑する。

面会時間の残りは2分。

かなえさんは頭を振り、話を戻す。

 

『…………今は、その話は置いときましょう。貴方にパートナーになる気がないなら、話は早いわ。グレイさん、お願いがあるの。』

 

『……何ですか?』

 

俺は表情を引き締めて、かなえさんの願いに耳を傾ける。

その願いは……

 

 

 

『……アリアの、家族に……兄になって欲しいの』

 

 

 

俺はそれを聞いて、この人の正気を疑った。

俺の道に安住はない。そんな危険な道に誰も巻き込んではいけないと思っている。

そういう意味を込めて先ほど話したのに、パートナーを越えて家族だと?

さっきの悲しい表情はどした?理解してなかったのにそんな顔をしてたのか?

 

『…………どうやら、私と貴方の価値観が少し違うみたいね』

 

かなえさんは、貴方失礼なこと考えているでしょう、という顔で話を続ける。

おかしい、俺の顔はいつもと同じ筈なのになぜバレた?

まぁ、時間も無いので視線で続きを促す。

 

『私の考える家族はね、〈その人が安心して落ち着けて、どんな辛いことも分かち合うことができる人たちの集まり〉だと思うの』

 

俺もそうだろうと思う。だからこそ、許容できない。

俺の側など、決してそんなところではないから。

 

『……分からないかしら?つまり、この際危険かどうかなんてどうでもいいの』

 

(……どうでも、いい…………?)

 

『だって、仮に危険な目にあったって好きでその人のところにいるんだから関係ないじゃない』

 

 

 

『私ね、蒼真くんの行くとこならどこでもついてくよ!』

 

『え?危ないから来るな?嫌だよ!』

 

『例え危なくったって、死ぬかもしれなくったって、私が好きでついてくんだからいいでしょ?』

 

『だって、蒼真くんと離れたくないもんっ!』

 

『‥‥ふふっ。どうやら、お前の負けのようだぞ蒼真』

 

 

 

『ッ!』

 

突然、あの頃の事が甦る。

 

『そしてね、家族になったなら必ずその場所が〈その人の帰る場所〉になるでしょう』

 

『…………』

 

(……帰る、場所…………?)

 

 

 

『お帰りっ!蒼真くん、お師匠様!』

 

『今夜はシチューを作ったのっ!』

 

『ほう、相変わらず旨そうだな?』

 

『そうですか?えへへ』

 

『どう蒼真くんっ、美味しい?良かった~♪』

 

 

 

『…………』

 

またしても甦る、あの頃の記憶。

かなえさんの話は進む。

 

『家族はね、パートナーとは違う。ありのままの自分をさらけ出す場所……』

 

『今までひとりぼっちだったあの子に今、そんなところは存在しない』

 

『このままでは、いつか潰れてしまうわ』

 

『あの子は貴方の隣なら、少しだけ素直になれるの』

 

 

 

『アリアは【独唱歌】でないといけない。でも、家族を……家族を頼るぐらいはしてほしいの!』

 

 

 

『……誰かに、頼ることを覚えてほしいの』

 

面会時間は残り1分

かなえさんは言いたいこと言い終えたのか、俺を見つめたまま俺の答えを待っている。

 

『…………』

 

(……そう、だった‥‥な)

 

俺も家族がいたから……ひなたと師匠がいてくれたから、救われた。

俺はまだ、全然、ひなたとの〈約束〉を守れていないかったみたいだ。

 

『……貴方に‥‥もう一度、聞きます』

 

『‥‥‥‥何かしら?』

 

俺は、かなえさんに問いかける。

 

 

 

『……俺の‥‥《夜王》の宿命を知ってて…………言ってるんですか?』

 

 

 

『‥‥ええ、そうよ。……お願いできないかしら?』

 

 

 

しばらくお互いに見つめあう。

そして……

 

『…………ふぅ』

 

俺は、

 

『……分かりました‥‥俺は、』

 

覚悟を決めた。

 

 

 

『アイツの‥‥アリアの家族に‥なります』

 

 

 

『…………ありがとう、〈蒼真さん〉』

 

かなえさんは、ほっとしたのか胸を撫で下ろす仕草をした。というか今……どうでも、いいか。

面会時間は残り30秒。

 

『まぁでも、あの子が認めなくちゃ何も始まらないから、ここでいくら言っても意味ないのだけれどね』

 

…………。そりゃそうだ。

さっきまでのシリアスな雰囲気を返してほしい。

 

『だから、ね?今はまだ、そのままでいいわ』

 

『……?』

 

そのままで…………あぁ、そうか。

 

『貴方があの子のことを家族だと、妹だと思ってくれていたら、それでいいの』

 

『……はい』

 

確かに、な。

 

『そうすれば、いつかはあの子も……』

 

かなえさんはそこで区切り、

 

『蒼真さん』

 

俺を、呼び掛ける。

俺はかなえさんに向き直り……

 

 

 

『アリアをよろしくね、お兄ちゃん?』

 

 

 

少し意地悪な顔をしているかなえさんに苦笑した。

 

 

「……お前に‥‥自力で見つけて‥ほしかったから」

 

俺はあの時のやりとりを思い出し、表情を変えず心の中で、ため息をつきつつ訳を話す。

 

「‥‥確かにそういう約束をしたわ。でもっ!隠れることないじゃない!私、アンタをどれだけ探したと」

 

「‥‥嘘だ」

 

「ッ!?嘘じゃ」

 

「嘘だ」

 

アリアは必死で否定しようとするが俺はそれをも切り捨てる。

俺は知っているからな、こいつが……

 

「……かなえさんの‥‥ことは‥知ってる」

 

「ッ!」

 

かなえさんのためにだけに動いていたから。

アリアはそれで全て分かったのか、顔を下に向け、小さな両手でスカートをキュッと握りしめる。

 

「……俺は、お前に‥‥頼って‥ほしかった」

 

アリアの顔は下を向いたまま、こちらを見ようとしない。

俺は慣れない独白を続ける。

 

「……お前の声で、助けてと‥‥言ってほしかった」

 

「……少し、時間を掛ければ‥‥俺に、たどり着けた」

 

「……《夜王》が、ここにいることは‥‥裏では、知られていること」

 

「……だから」

 

 

 

「そんなの、探してる時間なんて無いじゃないっ!!」

 

 

 

突然、アリアは大声で叫ぶ。

 

「アンタも分かってるんでしょ!早くしないと、ママが‥‥ママが出てこれなくなっちゃうって!!」

 

「頼ってほしいなら、なおさらなんで隠れてたの!?」

 

「それじゃあ助けてなんて、言えないじゃない……」

 

こういうとき、口下手な自分が情けないと思う。

だって‥‥

 

「……それは」

 

「‥もう、いい…‥」

 

伝えたいことを、

 

「もういいわよ!」

 

半分も伝えられない。

 

「私が今、どんな気持ちか知らないで!訳の分からないことして、なんなのよっ!!」

 

「……言っとくけど、もうアンタの助けなんていらないから!」

 

「私はとっくにパートナーを見つけてるのっ!」

 

「……そうよ!アンタは、アンタはもうお払い箱なのよっ!!」

 

アリアは半ば、自分に言い聞かせるように俺に向かって叫ぶ。

 

「私はもう、昔の私じゃないっ!だから、」

 

 

 

「アンタは好きなだけ隠れてなさいよ、この人でなしっ!!!」

 

 

 

アリアはまくし立てた後、俺を置いて屋上のドアに向かって走っていく。

 

ガッシャーーーーンッッッ!!!

 

俺の背後でものすごい音が聞こえた。

どうやら、扉を蹴破ったようだ。…………あれ、俺が直すのか?

 

「………………ふぅー」

 

全く儘ならないものだ。

そう思い、俺はため息をつく。

 

(……昔の私じゃない…………か)

 

そういうことを意識してるのは、変わってない証拠なんだけど……な。

俺は過去の経験から、分かっていた。

 

(……変なところで‥‥似ているな)

 

俺はアリアを昔の自分と重ねて、苦笑する。

まぁ、それはさておき。

 

(……すみません‥‥かなえさん)

 

俺は心の中でもう一度呟く。

 

(……思ったとおり‥‥)

 

 

 

「……面倒なことに‥‥なりました」

 

 

 

めんどくさい状況になり、かつアリアの機嫌をすこぶる損ねてしまったにも関わらず、俺はあまり嫌な思いはしていなかった。

何だか懐かしいこの状況に少し嬉しさが混じっていたから。

昔は〈こういうこと〉が何度もあった。

だから俺はどこかで、何とかなるだろう、と考えていた。

そういえば、何度か〈そういうやり取り〉を繰り返すうちに俺たちのそんなのやり取りをしているところを見たかなえさんが、笑いながら言っていたな‥‥‥‥。

 

『貴方たちのそうやって言い合っているところ、まるで』

 

 

 

───兄妹ゲンカみたいね───

 

 

 

その言葉を思い出した俺は、スッと目を瞑る。

すると、俺の思っていることを肯定するように、春の暖かな風が髪を優しく撫でた。

しばらくそうしていたが、ゆっくりと目を開け、現実に戻ってくる。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

彼の表情は相も変わらず色はなかったが、どこか機嫌が良いように見えた。

彼は振り返り、歩き始める。

 

(……さて‥‥まずは)

 

 

 

───…………扉の‥‥‥修復、か───

 

 

 

一気に気が滅入った。




いかがでしょうか?
もうね、かなえさんのね、表現が難しい事この上なかったのです。
いやはや、苦労いたしました。

今回は8500文字オーバー、こんなものなのでしょうかね?

ではでは、いつもどうり。

感想と優しい批評、評価お待ちしております!
ヒロインも変わらず募集中!!!

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