夜の神は太陽に恋焦がれた   作:黒猫ノ月

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どうもです。
なんとか間に合った!


第30弾 「待ってたぞ、この時を」

「……どういう事だよ」

 

貴族や要人御用達のシックな雰囲気を醸し出しているバーに、俺の声が静かに響く。

煌びやかに明かりを灯す豪奢なシャンデリア、それに照らされる人影は……3つ。

内2人は俺とこのANA600便に元々乗車していたアリアだ。

 

「お前が……お前が《武偵殺し》だったのか? ……答えろ」

 

俺の隣で油断なく2丁のガバメントを構えるアリアとは対照的に、俺はベレッタを構えることもせず半ば呆然ともう1人に言葉を投げかける。

それを受け止めて相手はバーカウンターの上で優雅に足を組み、カクテルを口に含みながら"普段"では見たこともない妖艶な笑みで俺に答える。

その様子に相手が簡単には答える気がないことを悟り、動揺を押し殺して愛銃を改めて"あいつ"に向けて構える。

そしてそれでもなお、俺の口はこれまでの事件の真犯人に声を荒げて尋ねた。

 

「答えやがれっ! "理子"!!」

 

 

 

 

 

「Bon soir. キンジ、アリア」

 

 

 

 

 

俺に名を呼ばれた最後の人影……峰 理子はコトッとグラスをカウンターに置いて膝の上で指を組む。

 

「……キンジ、あんたアイツがここに来る事知ってて来たんじゃないの?」

 

「……いや、俺は《武偵殺し》がお前を狙って来る事は知っていた。だがそれがあいつだとは知らな…………ッ!」

 

俺はアリアの問いに顔を顰めて返そうとして、気付いてしまった。

 

(おいおい、"こういうこと"だったのかよバカ蒼真っ!!)

 

蒼真と別れた後、アリアに電話が繋がらない事に舌打ちしながらも俺はギリギリこの便が出る前に辿り着けたんだが、やはりと言うか、なんの証拠もなくフライトを止める事は出来なかった。

だから後で叱られる可能性は大だが、武偵ということでこのANA600便に無賃乗車してアリアと共に《武偵殺し》に備えることにしたのだ。

突然やってきた俺にアリアは最初戸惑い半分怒り半分だったが、俺の様子に少しした後気付き、落ち着いてくれた。そしてANA600便が空港を出て飛行機が安定した後、これまでの経緯と蒼真の推理を話した。

アリアは俺の話を聞き終え、「上等じゃないっ!」とやる気と怒りを爆発させた。……とばっちりが来ないか内心ビクビクだったのはここだけの話で。

 

蒼真のことについては……まあ、話はした。《陽》を任せたことだけだが。あの時のやり取りなんかは絶対に話してなるものか。俺が恥ずかしさで憤死する。

アリアはそれを聞くと、先のやる気と怒りを忘れて俺に詰め寄ってきたが、俺が「あのバカを信じろ」と言うと不承不承椅子に掛け直してはくれた。

アリアの心配も無理はないと思う。俺はあいつのアレには慣れたものだが、アリアは目の前で自分の兄と呼べる存在が(見た目)死に掛けたのだ。しかもわざと。

だが、今は目の前のことに集中して貰わないとならないので、あいつの負けず嫌いを利用させて貰った。ああやってアリアに言ってやると、「私も信じてるわよっ!」と黙らざるを得なくなる訳だ。……アリア、蒼真好きすぎだろう。

 

で、それからしばらく警戒しながら待機してると、銃声が聞こえた。俺とアリアは1つ頷き、慌てふためく乗客を部屋に避難させた。そして開け放たれたコックピットを覗くとそこは無人だったが、悪友からのナンチャッテ知識でオート操作になっているのを確認した。

すると突然ベルト着用サインが点滅を始めた。よく見るとそれは和文モールスで、1階のバーに居ることを伝えていた。

俺とアリアはそれぞれ銃を構え、警戒しながらバーに向かい、そうして今に至る。

そう。そして今、俺は蒼真の別れ際の言葉を思い出しながら、この事件全体を思い返していた。

 

『……あの娘"達"を、頼む』

 

(最近の蒼真の隠し事、《武偵殺し》関係の解決への積極性、《陽》の情報、《夜想曲》の暗躍。これらは全部アリアのためかと思っていた。だから俺はあいつに聞きたいこともあったが、野暮なことだと聞くのを諦めていた。

だが、本当は"それだけ"じゃんかったんだ。守りたかったのは、アリアだけじゃなかった。

蒼真は最初から理子とは仲が良かった。この時から……1年前から、あいつはっ)

 

「ちょっとは、勘付いたみたいだねぇ。キ・ン・ジ」

 

「っ!?」

 

今まで会話をしようとしなかった理子が、初めて俺に話しかけた。

 

(キーくんじゃなくてキンジ、か。コッチがこいつの素か)

 

「……ああ。おそらく、そういうことなんだろうな」

 

「え、何? どういうことよ!」

 

アリアはそんな俺たちのやり取りについていけず、声を上げる。そんなアリアと未だ優雅に佇む理子に答え合わせを含めて教えてやる。

 

「アリア。今から俺が話すことで、心を乱すなよ?」

 

「な、何よ? いいから早く言いなさいよ!」

 

そんな俺たちの様子を、理子はただ笑みを崩さず見ている。

 

「……ふぅ。まず、理子。お前が《武偵殺し》か?」

 

「ああ、そうだよキンジ。私が《武偵殺し》だ」

 

「っコイツ!!」

 

「アリアっ、落ち着け! ……そうか、ならお前に尋ねるが……

 

 

 

 

 

蒼真とお前は、"仲間"だったんだな」

 

 

 

 

 

「…………ぇ」

 

「…………」

 

絶句するアリアと笑みを崩さず沈黙する理子。俺は構わず続ける。

 

「アリア、最初に言っておくが、あいつが俺たちを裏切っているということは絶対にないぞ。これは証拠とかじゃなく、あいつのことをよく知るお前ならそんなものいらないだろ?」

 

「っわ、分かってるわよそれぐらいっ!!」

 

「ならいいがな。……でだ。最初はお前が蒼真を利用している、騙していると考えたがおそらくそれはない。まあ、あいつなら利用させられてあげるぐらいはするかもしれないが、それもないだろう。蒼真は入学当初からお前のことを心から信頼してるからな。そして、俺の間違いじゃなければお前も」

 

「…………」

 

「いや、蒼真の話じゃもっと前にお前達は知り合っているらしいから、入学当初から仲が良かったのは当たり前か。あいつ、驚いてたよ。「"行方が知れなかった"のに、こんなところで会うなんて」ってな。

今までの蒼真とその周囲の行動と《陽》の一族の襲来、そして行方不明だった少女との再会。そこまで考えて、俺は1つの解に至った」

 

俺は一息ついて、理子の目を真っ直ぐに見つめる。その目からは何も窺い知れない。

 

「お前は、何かしらの能力を持っていたためにイ・ウーという組織に強引に加入させられた。そしてしばらくして武偵高への潜入を命令され、そこで偶然にも蒼真と再会したんだ。

再会した後、蒼真はお前の現状を知る。蒼真はどうにかしてお前を助け出せないかと考えたが、何かの理由で出来なかったんだろうな。そうじゃないと、あいつがお前をそのままにするはずはないからな」

 

「……元相棒のアンタが知らなかったのも理由があったから?」

 

「と、信じたいがな。……もしかしたらレキは知っているかもな。俺は……まあ、色々あったから、そっちのせいかもしれん」

 

俺に話せるようになった時には、俺が『武偵辞めるぞ宣言』を発した後だったってのも十分あり得る。

 

「そんな時、理子に指令が下された。それが《武偵殺し》の活動命令だった。

……お前は最初、それを蒼真に伝えなかった。伝えなかった訳も、そうだと断じれる理由も、ある」

 

伝えなかった理由は、俺の兄貴が絡んでたから。断じれる理由は、蒼真がそれを知っていたら自己犠牲の塊のあいつが俺にそれを話さないはずがないからだ。……理子を少しでも俺から庇うために。

 

「そして年が明けて、蒼真がお前の活動を知る機会が訪れた。……アリアの来日だ」

 

「えっ。私?」

 

「…………」

 

「アリアがなぜこっちにやって来たかを調べている最中にでも知ったんだろ。イ・ウーに幾つもの罪を着せられた神崎かなえさん。これを聞いて、蒼真が悟らないはずはない。そして、蒼真は理子から計画の大方の全容を知ったんだ。いつ誰を襲うかも、《陽》が途中からやってくることも、俺が襲われることも、アリアが本当の狙いなのも……全部。

…………全ては、誰1人死者を出さずに守れるように。そして、アリアと理子の2人を守るために」

 

「っ!?」

 

「…………」

 

ここまで誘導されたことに腹が立つが、矜持を捨てた陽から人々を守り、理子が何かのミスで誤って人を殺さぬように見守るためと考えるなら、少しは溜飲も下がる。……あとでぶん殴るが、アリアと。

 

「これが、蒼真がアリアと理子、民間人を守るために《武偵殺し》と半ば協力関係にあったと考えた俺の推理だが……どうだ、《武偵殺し》?」

 

「…………」

 

俺が話している間、黙したまま笑みを浮かべ続けていた理子は、俺が話し終えてもなおそれを崩すことはなかった。いや、笑みは確かに変わらなかった。しかし……その目は違っていた。

感情の読み取れなかった目は、今では明らかな意思を持ってこちらを見ていた。

それは……。

 

「……ふふ」

 

「「!」」

 

そして奴は、口元だけを崩した。

 

「やあーっぱり、"今"のお前じゃこんなもんか……キンジ」

 

理子は足を組み替え、カクテルで唇を濡らす。

 

「……その言い草だと、間違っていたらしいな」

 

「安心しなよ。及第点はあげれるからさ」

 

俺はその言葉に心を乱すことなく、静かに嘆息する。

そんなこと理子に言われるまでもなく、俺自身が一番よくわかっている。俺自身、ところどころ曖昧で脆い推理があることを自覚していた。が、俺は話した。

なぜなら、カウンターの上で佇む理子が俺に言ってみろと言っているように見えたのだ。

だから話したのだが、及第点らしい。まあ、よくできた方だろう。

 

「……なら、どこが違うのか教えなさいよ」

 

アリアが怒気混じりに理子に問う。因縁の相手を前に、いい加減我慢できないようだ。しかし、蒼真の話題となれば話が別だ。アリアも捕縛したい衝動を押し殺して答えを待つ。

だが、それで返ってきたのは、

 

 

 

 

 

…ヒュオッ

 

 

 

 

 

俺とアリアを大外から襲う両手刀だった。

 

「なッ!?」

 

「クッ!」

 

俺は半ば無意識に後ろへ、アリアはいきなりの攻撃でも慌てることなく片手で防ごうとする。

が、しかし……。

 

…ミシィッ

 

「シィッ!」

 

「くぅっ!?」

 

そのまま左手の手刀を振り抜き、アリアを横へ吹き飛ばす!

 

「っおい待っ!」

 

「ふっ」

 

理子は振り抜いた勢いを殺さず、そのまま回し蹴りを俺に叩き込もうとするが、俺はそれも反射的にバックステップで躱す。が理子の手は止まらず、そのまま身体を回転させて見えたのは右手に輝く鈍色。

 

「チィッ!」

 

そして輝くマズルフラッシュ。

チュインッと頬を銃弾がかするが、俺は横へ転がりながら理子から距離をとる。

 

「ッハァ、ハァ、ハァ…」

 

「……ふぅん」

 

理子は追い打ちをかけず、右手にワルサーP90を持って鼻を鳴らす。

俺は銃をあえて構えず、意識をただただ避けることだけに集中する。今の攻防だけで理解した。"今"の俺では如何あっても"勝てない"!!

 

「っつぅ…」

 

机や椅子を巻き込みながら吹っ飛んだアリアもなんとか無事だったようで、防いだ右腕を左手で抱えながらよろよろと立ち上がる。

 

「アリアもキンジも分かりやすいねぇ。お陰でアリアは大ダメージ」

 

理子はそれを見ても、嘲笑するでも見下すでもなく淡々と言葉を紡ぐ。

俺はそれを聞いて、行動を読まれていたことに気付く。

 

(クソッ! 俺への右の手刀はフェイク。最初から俺がビビって避け、アリアが前に出ることを予想して左に力を集中していたのか!)

 

俺は理子から視線を外すことなくアリアに状態を尋ねる。

 

「アリア、平気か?」

 

「……ふん、大丈夫よこれくらい」

 

アリアは思ったよりもしっかりと答え、庇っていた左手を下ろしてまた理子に2丁のガバメントを向ける。

 

「アリア、銃を下ろせ。避けることだけに集中するんだ」

 

「何言ってんのよ。それじゃあコイツとっ捕まえらんないでしょ」

 

「聞け、アリア!」

 

俺はアリアに叫ぶが、アリアは聞き入れてくれない。

 

(……クッ。さっきの理子は明らかに俺を殺しに来てた。俺の予想じゃ闘うことはあっても、殺意はないだろうと予想していたのにっ)

 

ということは、理子は俺たちを殺す明確な理由があるということ。蒼真はこれを知って……。

 

「蒼真は知ってるよ。私がお前達を殺そうとしていること」

 

「えっ」

 

「…! なに?」

 

理子は自然体にいながら、俺の思考に割り込んで言葉を放つ。

それに動揺するアリアをよそに、俺は冷静にポンコツ頭を回転させる。

 

「私の初手を逃れたお前に免じ、お前の推理の間違いを指摘してやろう」

 

理子はアリアを見ることなく、俺の目を見続ける。そこにあるのは……"憎、悪"?

 

「まず、私は自らの意思でイ・ウーに所属した。強くなるためにな。

次に、私は蒼真に計画の全容は知らせていない。蒼真のことは大切だが、イ・ウーにも私にとって大切な人達がいる。その人達を裏切ることはしない。蒼真は私がいつ誰を襲うかなんて知らないし、《陽》がいることも知らなかった」

 

「……なら、あいつが見逃してたっていうのか? 無関係の人が巻き込まれるっていうのに」

 

「っそ、そうよ! アイツはそれを何よりも嫌うのに、アンタの計画を 知らされてないなんてことっ!」

 

「蒼真は私を"信じてくれていた"からな。私が誰も傷つけないことを」

 

「なっ!」

 

「…………」

 

理子の言葉に再度驚くアリア。逆に俺はその言葉で、自分の間違いに気付いた。

 

「……なるほど、な。蒼真はお前を信じた。そして、お前を大切に思っているからこそ、お前の意思を尊重し、深く聞くことをしなかったのか」

 

「そうだ。蒼真が知っていることなど、精々が今戦っている《陽》の"状態"とこの状況を作るための誘導方法を話し合ったくらいだ。

……蒼真は、こんな私を軽蔑することなく、責めることもせず、許してくれた。それだけじゃない。なにが起きるか分からないのに、私の尻拭いをしてくれると言ってくれたんだ。ただでさえ、自分が陽に狙われているくせに……ほんと、バカだよねぇ」

 

そう言う理子の顔は、言葉とは裏腹に慈愛に満ちている顔をしていた。そこに先程一瞬垣間見えた憎しみは見受けられない。

 

「…………仮に、アンタの言うことが全部本当だとして、矛盾があることを分かってる? "アンタが誰も傷つけないことを信じている"蒼真が、"私達を殺そうとしていることを知っている"ですって? バカにしてんの!」

 

アリアは仮にとは言っていたが、おそらく理子の言っていることが正しい事を悟ったのだろう。蒼真ならばあり得ると俺と同様に考えたんだ。だからこそ信じられない。あの蒼真が、何よりも大切に思っているもの同士の殺し合いを許容し、尚且つ見逃している事を。

その時、理子の身体が揺らいだ。

 

「ッアリア!!」

 

「…ッ!」

 

俺の声にアリアは反応するが、少し遅かった。

理子は一瞬でアリアとの差を詰めたかと思うと、既にワルサーP90のグリップがアリアの右肩に振り下ろされていた。

 

…ゴッ!

 

「ッッぐうぅ!!」

 

そしてそのままアリアの喉元に銃口を押し付け……、

 

「らあっ!」

 

間一髪俺の蹴りが間に合い、理子は飛んで回避するが、宙返りの最中に銃口をこちらに向ける。

 

「クッソッ」

 

…パンパンパンッ

 

俺は咄嗟にアリアを抱えてその場を横に飛び、近場のテーブルを盾にして銃撃を避ける。

 

「な、んで…アイツっ」

 

「おいアリア、しっかりしろっ! ……ッ肩外れてやがる。はめるぞ! 1・2の3っ」

 

「…ッッッ!! くうぅ…」

 

俺はアリアの肩の調子を確認した後、アリアをその場に待機させて銃撃が止むと同時に理子の前に踊り出る。理子の速さは視界に入れておかないと詰むレベル。俺は何処ぞの武闘家のように気配など読めはしない。これが最善手だ。

テーブルの裏から出てきた俺を、理子は撃とうとはしなかった。

 

「……その矛盾の真意に気付けないんなら、お前に蒼真の側にいる資格はないぞ、オルメス」

 

「…ッな、なんですって?」

 

「……オルメス?」

 

俺は理子のアリアの呼び方に疑問を持ったが、今は傍に置いておくことにする。それよりも…。

 

(あの速さはなにかしらの体術を会得しているとみて間違いない。そしておそらく……。

それに、矛盾の真意だと? それが分からないと蒼真の側にいる資格がないとはどういう事だ?)

 

「キンジ、それはお前にも当てはまる。……その様子では分からないようだな」

 

「…っ」

 

「……ふん。確かにキンジ、お前はそこの"オルメスの出来損ない"よりは蒼真とともに闘えるだろう」

 

「…ッ!!?」

 

「……」

 

「ただし、"見た目"だけだがな。それはお前自身がわかっている事だろう、遠山キンジ」

 

「…………」

 

(……ああ、言われるまでもねーよ。クソッタレ)

 

さっきからなんとか理子についていけてるが、こんなのただの"慣れ"だ。それに、避ける事に全集中を注いでやっとだ。話にならん。

 

(…………いや、"そんなこと"じゃないんだろうな。こいつが言いたい事は)

 

……ここに来て、やっと理子が今こちらに向けている憎悪の一部を察する事ができた。

 

(矛盾だなんだは後回しだ。先ずは……)

 

俺が理子を注意しながらやる事をまとめている時に、大分調子が戻ってきたのか。アリアがテーブルの裏から出て、理子に吠えた。

 

「……さっきから人の事を侮辱するのも大概にしなさいよ! アンタに蒼真の事に関してとやかく言われる筋合いはないわ! イ・ウーの命令で殺しに来たのなら余計な事を言わずにかかって来なさいよっ!! それとも、アンタ私になんか因縁でもあんの!?」

 

「ッこのバカ!!」

 

俺はアリアが思い切り理子の地雷を踏み抜いたであろう事に、思わず叫びアリアを庇うために身構える。

がしかし、予想は裏切られた。

 

「……因縁、ねぇ」

 

理子は怒り狂う事もなく、先程と変わらない様子でそう呟く。

しかし、瞳の奥の見慣れた憎悪は消えないが。

 

「まぁ、あるといえばある」

 

「……なんだと?」

 

「……そうだな、ここら辺りで私の目的も合わせて言っておこうか」

 

アリアも理子が理性を忘れて向かってくると思っていたんだろう。それへの備えが無駄になった事に肩透かしを食らっている。

そんな俺たちの警戒を他所に、理子はワルサーで肩を叩きながら不敵な笑みを浮かべて自分の正体を明かした。

 

 

 

 

 

「私の本名は……理子・峰・リュパン4世。お前と同じ"出来損ない"だよ、オルメス」

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

(リュパン…だとっ!)

 

あの大怪盗、リュパンの子孫だってのか! あの理子が!!

 

「そう、因縁で言えば私とお前は闘う宿命にある」

 

「……そうね。私はそんな因縁を超えてアンタをぶっ飛ばすけど」

 

理子とアリアはお互いに目線を合わせ、メンチを切り合う。

俺は理子を警戒しながら、頭を働かせる。

 

(……闘う宿命、それは一体…)

 

しかしそれはすぐに活動をやめたが。

 

「ま、今となってはそんな事"どうでもいい"がな」

 

「えっ」

 

「……?」

 

理子はあっさりと視線をアリアから外し、鼻を鳴らす。

その様子に理子の名を聞き、因縁があるらしい事で闘志を燃やしていたアリアは拍子抜けと顔を戸惑いに変える。

 

「私がお前達と闘う理由は、殺し合う理由は! そんな事じゃないんだよ!」

 

ここに来て、初めて声を張り上げる理子にアリアは驚くが……俺は驚く事はなかった。因縁がある事には驚いてたが、もとよりなんとなく察しているからな。……そして、このままでは"本当に勝てなくなる"事も。

理子は叫ぶ。陽の奴らみたく荒れ狂い、怒り狂う訳でもなく……ただ、想い、怒る。

 

「そんなくだらない事はとうの昔に断ち切った! ……断ち切って、貰えた! 私が今、こうして、ここでお前達に対峙してるのはっ!!」

 

そして、理子は俺たちに銃口を向けて……言い放つ。

 

 

 

 

 

「お前達が、許せないからだ!」

 

 

 

なんで俺たちが勝てないかって?

 

 

 

「 片や蒼真を最後まで信じる事もせずに、そのくせ彼の優しさに甘え、果てには彼からのその優しさをドブに捨てる腐れ貴族! 神崎・H・アリアっ!! 」

 

 

 

そんなの決まってる。

 

 

 

「片や蒼真の信頼を! 約束を! 運命を! くだらない理由で裏切り、逃げ、彼の優しさに寄生し、挙げ句の果てにはそれを全部なかった事にしようとしている最低最悪の裏切り者! 遠山キンジっ!!」

 

 

 

こんな半端者じゃあ勝てやしねーよ。

 

 

 

「例え蒼真が許したとしても……私は、お前達を決して許しはしないっっっ!!!!」

 

 

 

あいつの……蒼真の為に、純粋に想い、これまでずっと信じ合い続けてきた奴に。

 

 

 

「お前達はここで、蒼真の為に死んでもらうぞっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………だが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………まけるわけには、いかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……負ける訳には、いかないんだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負ける訳にはいかないんだよっ!!! 理子ぉっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はここに来て、初めて攻勢に出た。




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