夜の神は太陽に恋焦がれた   作:黒猫ノ月

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どうもです。

大変お待たせいたしました。
クライマックス突入です!


□ 過去の回想、回想終了


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽ 視点変更

…………。
………。 時間経過
……。


第29弾 「……俺の名は、夜神蒼真だ」

もうすぐ夜になるであろう時間帯、いつもなら朱と黒がぶつかりって空を夕闇に染める頃合いなのだが、今日はどんよりと重く黒々とした雲がそれを邪魔している。

一時は晴天が訪れていた東京も、翌日には雲が太陽を隠し、数日後には曇天に加え強風が舞い、嵐の予感をひしひしと感じさせる空模様となった。

 

「……はぁ」

 

「……」

 

「…………はあぁ」

 

「…………」

 

「………………はあぁぁぁ」

 

「……そんなに、不安か?」

 

「ああ? ……そりゃそうだろうが。今さらどの面下げて会いに行けってんだよ?」

 

そしてそんな生憎の空の下、俺は蒼真を連れてある場所に向かっていた。

因みにいつも蒼真にくっついているアリアはここにはいない。何でも、イギリス武偵局に呼ばれたらしく、1度帰国するらしい。一昨日連絡があったそうだ。

《武偵殺し》を今度こそ捕まえてやるっ!と気合いを入れ直した矢先の突然の帰国命令。昨日は1日不機嫌でしたよ、あの赤鬼。八つ当たりで俺にはいつもより手を上げるは、蒼真には手作りスウィーツをねだるわ。……ザ・理不尽。

……そんなこんなで、俺と蒼真の気遣いも空しく、アリアは不機嫌なまま午後にはここを出ていった。……ザ・骨損。

…………で、アイツが居ないのはいい機会なので、俺は文字通り鬼の居ぬ間に、アリアにあまり話していない《夜想曲》の本部を訪れようと蒼真と足を運んでいる……およそ3か月ぶりに。

 

「……別に…あの娘も、みんなも気にしてな…………」

 

「……『みんなも気にしてな』、何だ?」

 

「…………約数名は、まあ…頑張れ」

 

「……はぁ」

 

俺はもう半ばどうとでもなれとなげやりに止めていた足を動かした。蒼真もそのあとに続く。

 

(とは思ったものの、マジで覚悟しねーと俺の身体と心が持ちそうにないな)

 

何せ、自分勝手に"助ける"ことへの責任を投げ捨て、蒼真と"アイツ"、そして《夜想曲》みんなの信頼を裏切ったのだ。……今さら「あ、すんません。立ち直ったんで戻ってきました」なんて言ってみろ。俺ならボコる、全力でボッコボコにする。

 

(おっさんは大丈夫だろう。言葉には俺の黒歴史の暴露大会を開催されるだろうな。椿さんの説教は何時間だろう? あの生意気な猫からの切り裂き攻撃は顔を優先的に避けるようにしないと。心優しい吸血鬼はよかったと喜んでくれるかもしれない。

…………一番の問題である"アイツ"は……アイリスは、俺と……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───話して、くれるだろうか?───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

……考え事をしていた俺は、ふと足を止めた。蒼真も俺と同時に足を止める。

俺の隣で立ち止まった蒼真を横目で見て、俺よりも早くに気付いていた蒼真の様子に俺は今までとは違う短い溜め息を吐く。

 

(……やっぱ、鈍ってやがるな。特にここ1ヶ月ほどは"こういうこと"が無かったから、訓練をサボってた分も合わせてツケがまわってきてる)

 

俺は頭をガシガシと掻き、周りを見渡した。

そこには、普段ならあまり見慣れない風景が広がっていた。

 

俺達のすぐ横にある4車線のうち、俺達側の2車道には先程は何台も走っていた車が今では1台も見当たらなくなっている。

それだけなら少し先で事故でも起こったのかとも思うのだが、それに合わせて、あれだけいた行き交う人がぱったりといなくなっていた。……"俺達のいる側の歩道にだけ"。

4車線の向こう側の歩道には変わらず人の群が行き交っているのに、だ。

 

 

 

 

 

……そう。まるで"別世界"であるかのように、4車線を真ん中で断ち、"あちら"では喧騒が、"こちら"では静寂が支配していた。そして今、"こちら"には、俺と蒼真しかいない。

 

 

 

 

 

その異様な光景を、向かい側の人達は誰一人として気にすることなく歩き、走り去っていく。……いや、気にしていないのではない、"認識できていないのだ"。

……典型的な何かしらの"人払い"の特徴だ。

俺は現状を再確認して、蒼真にさらに確認をとる。

 

「……蒼真、《陽》か?」

 

「……ああ」

 

「居場所は?」

 

「……"今は"分からない、が…どうやら、誘ってはいるようだ」

 

「誘っている?」

 

蒼真は無言で少し先にあるこの辺りでは珍しいそこそこ広い公園を指差す。

 

「……あそこか。人払いの方式は?」

 

「……術式型の、術者を媒介とした…展開形。……それと、範囲内の対象者は…出れないという、おまけ付き」

 

「……つまり、術者見つけて気絶でもさせないと出れない、と。

なら、さっさと行くぞ。お前なら力ずくで解けるだろうが、せっかく人払いしてくれてんだ。他の人達を巻き込む前にカタをつけるぞ」

 

「……おう」

 

苦笑を浮かべた蒼真と共に、人払いの術式の中心であり、俺達を待ち構えている者がいるであろう例の公園へと足を踏み入れた。

 

 

 

…………。

………。

……。

…。

 

 

 

俺はベレッタを、蒼真はデザートイーグルを手に、辺りを警戒しながらも歩くペースは落とさずに公園内を中心に向けて歩いていく。

いつもなら蒼真の《氣》で敵の位置を把握できるのだが、今回はそれが出来ない"パターン"だ。

こういうときは俺は前を、蒼真は後ろを意識的に警戒するようにしている。

そうして、俺達はそのまま術式の本体……つまりは《陽》の術者がいる公園の中心、そこにあるモニュメントの噴水へとたどり着き……そうになったとき、とうとうそれは起こった。

 

 

 

 

 

…ヒュヒュヒュンっ!

 

 

 

 

 

「……っ!!」

 

その噴水の水柱が上がったと同時に、その水柱を突き抜けて飛んでくる"ナニカ"。

《氣》で強化された肉体で投げられた"ナニカ"は、人が投げたにしては明らかに異常な速度で飛んでくる。

俺は投げられたと把握する前に、直感でその場から横に跳び、そのままベレッタを発砲する。

 

…パンパンパンっ!

 

弾は水柱を突き抜けて向こう側を抉るが、手応えはない。

俺は俺と逆側に避けていた蒼真とアイコンタクトして頷き、お互いを背にするようにして辺りを警戒する。

辺りを警戒しながらも、先程立っていた場所の後ろにあった木々を横目で見やり、次には背中に冷たいものが流れた。

 

(おいおい……。本っ当に懐かしいなチクショウっ!)

 

中々の太さのある幹を持つ木々を易々と"貫通"していた"ナニカ"。もし警戒していなかったら、鈍っている俺を確実に捉えていただろうそれを目にし、俺は心の中で改めと誓う。

 

(……鍛え直そう。これじゃあ今日明日には死ぬっ!!)

 

…ガサッ

 

「「!」」

 

冷たいものがだらだらと背中を滝のように流れ続けるなか、物音が耳に入ってきた。

瞬間にそちらへ向けて銃を向ける俺達。……しかしそれらを意に返さず、警戒している俺達を前に人影が悠々と姿を表した。

 

 

 

 

 

「……こんばんは、夜神蒼真。…………あのときの宣言通り、貴方の命……貰いに来たわ」

 

 

 

 

 

その人物は女性であった。

《陽》特有の明るい髪色は薄暗い時間帯でもよく目立つ。

顔の造形は整っており、女性でありながらの170㎝程の高身長と短めのセミロングも合間って、女性の魅力を醸し出しながらも、どこか中性的な雰囲気を持っていた。

しかし今の彼女は、それらの魅力をすべて台無しにするほど窶れていた。顔色は最悪といっていいほど疲労が滲み出ており、誰がどう見ても体長が優れているとは言い難い。

……だが……、

 

(……なんつー眼をしてやがる)

 

視線で人を殺すとはこの事か。

窶れた顔の中、それも相まって一際目立つギラギラとギラつく瞳。

そこにあるのは…………「ただ、殺す」。その一点しか存在していなかった。

そしてその対象は、言うまでもない。

 

(こういう眼をしているやつは大体"あの娘"の関係者……)

 

俺はその視線を受けながらも、涼しい顔で受け流す蒼真に眼を向け、尋ねた。

 

「……知り合いか?」

 

「……ああ」

 

「…………」

 

「……陽神茜。……ひなたの」

 

 

 

 

 

「あの方の名前を貴様が口にするなあぁぁーーっ!!!!!」

 

 

 

 

 

…ヒュヒュヒュヒュヒュヒュンっ!!

 

「…………」「っ!!?」

 

突然の場を裂く激情の叫び。それと共に此方に投げ放たれる複数の"ナニカ"。

俺は叫びが聞こえたと同時に、身を投げるように横に跳び、転がりながらそれらをかわす。

蒼真はそれに対しても冷静に、顔色を崩さず最小の動きでそれらを交わした。

俺は転がった勢いでそのまま立ち上がり、ベレッタを彼女に向けて臨戦態勢をとるが、それも意味がないことにすぐに気付き、少しだけ肩の力を抜く。

何故なら、彼女の目には……蒼真しか映っていなかったからだ。

俺はそれに対して何も思うことなく、先程立っていた場所を見る。コンクリートの地面はひし形の形で地面を貫いた痕が多数残っており、どうやら地面に埋まっているようだ。

しかし、蒼真がかわす際に弾いた物を見て、それでやっと何を投げられていたのかを悟った。

それは刃が幅10㎝程の、忍者が扱うクナイとダガーを合わせたような形をしていた。

 

(なるほど、手で扱うことに特化した形状だな)

 

蒼真の元に静かに戻りながら、相手がとても"手先が器用"であることにあたりをつける。

彼女……陽神茜は、肩で息をしながらもただ……蒼真をギラついた眼で見つめていた。

 

「っはあっ、はぁ、はぁ…」

 

「……"あの娘"の世話係、兼護衛を…務めていた。……あの娘の、一番親い者…だった人だ」

 

蒼真はわざわざひなたさんの名前を言い直しながら、俺に説明した。

 

「……恨みは、人一倍か」

 

「……そうだな」

 

「…………お前、」

 

「……くっ、クク。ふふフフフッ」

 

"何もかも"知ってやがったな? そう訪ねようとしたとき、不気味な笑い声が聞こえてきた。

俺は尋ねることを中断し、目の前で顔を下に向けて笑う陽神茜を見る。

 

「他人事のように話しているが、いいのかこんなところで油を売っていて……遠山金次?」

 

「……なに?」

 

先程まで俺に見向きもしなかったのに、いきなり名を呼ばれ、果てには含みのあるその言い方に眉根を寄せる。

 

「言っておくが、私は《武偵殺し》ではないぞ?」

 

「……そりゃそうだろーな。本家を離れ、秘密結社に所属して、憎しみに囚われているといっても、あんたは《陽》だ。人の害をなすことを率先してするはずがない。ましてや、あの娘の一番親い奴がな」

 

「分かったような口を聞くな"穢れし者"。その体を八つ裂きにするゾ? ……フフフッ、そうか。そうかっ! まだ分かっていないのかっ!! あまりにも愚かだなぁ遠山金次ィ!」

 

「一体なんだって……」

 

気が狂ったように笑い出す陽神茜。俺はそんな奴の言葉を話し半分以下で聞いていたが、次の奴の言葉に思考が停止し、真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様の兄を殺したのは件の《武偵殺し》だと言うのになぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………え」

 

 

 

…………な、ん、だと………?

 

 

 

「始めて《武偵殺し》が現れた時期を思い出してみろ?」

 

 

 

…………去年の…冬………。

 

 

 

「最初はバイク、次に車……。世間ではそこで《武偵殺し》は逮捕されたと報道された。……ククッ、しかし公沙汰にはされていない"3件目"が存在した」

 

 

 

…………3件目…………。

 

 

 

…………っっ!!!!!

 

 

 

「クハッ! 気付いたか? 気付いたか! そうっ! その3件目こそ! 浦賀沖海難事故として処理された事件であり! 貴様の兄が死に! 世間で酷評され! 貴様が武偵を辞める切っ掛けとなった事件だ!!」

 

 

 

…………事故じゃ……なかった………。

 

 

 

…………事故じゃなかった………。

 

 

 

…………事故じゃ………。

 

 

 

「その事件は事故ではない! 我々の仲間がシージャックし! 貴様の兄と殺し合い! 《武偵殺し》が勝利した! れっきとした殺人事件っ!! 貴様の兄はっ! 《武偵殺し》にっ!! 殺されたのだよっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───アニキハブテイゴロシニコロサレタ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キンジ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どす黒いナニカに塗り固められていく俺を、寸でのところで止めたのは…………親友の俺の名を呼ぶ声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………そ、ぅま」

 

「……奴の言うことには、何一つ…証拠はない」

 

「っ!」

 

「……信じるか、奴を?」

 

「…………」

 

「……俺にも、奴が言っていることが…真実かどうかは、分からない」

 

「…………」

 

「……"現状"では、分からないんだ」

 

「…………」

 

「……だから、」

 

「…………ああ」

 

俺は自分の肩に置かれた蒼真の手をゆっくりと払う。

先程とは違い、頭の中はひどくクリアーだった。

……そう、"現状ではどれが真実なのかは分からない"んだ。…………なら、

 

「……蒼真」

 

「……なんだ?」

 

 

 

 

 

知ってる奴をぶっ飛ばして、話を聞きだしゃあいいだけの話だ!

 

 

 

 

 

「さっさとあいつ、ブッ飛ばすぞっ!!!」

 

 

 

 

 

お前女を殴れるのかだって? 知るかっ! 今の俺は素面だっ! やってやらねーこともないっ!!

 

「……キンジ」

 

「……ほう、いいのか? 私の話はまだ終わってないのだけど?」

 

「それもあとで聞けばいいだろ。そんな勿体ぶった話し方で聞くより手っ取り早い!」

 

「……キンジ」

 

「おい蒼真! 俺がなんとか時間稼ぐから《一次開放》しろっ! そうすればこんなやつ!」

 

「キンジ」

 

「!」

 

俺はいつもなら苦笑で応じる蒼真がいつまで立っても戦闘準備をせず、ただ俺の名を呼ぶ姿を見て……今度こそ頭が冷えた。

 

「…………わりぃ。なんだ?」

 

「……奴の言いたいことが、分かった」

 

「……?」

 

俺は次の蒼真の言葉で、さっきとは違う驚愕に頭が染まった。

 

 

 

 

 

「……次の《武偵殺し》の狙いは…"アリア"だ」

 

 

 

 

 

「なにっ!?」

 

俺は蒼真の言葉が信じられず、蒼真の顔を見返すがかなり確信を持っているようだった。

俺はそれを見て一旦黙って、蒼真に続きを促すように進める。

その間も俺と蒼真は陽神茜と向き合って警戒しているが、なぜか向こうから攻撃してくる気配がない。先程の膨大な殺気と狂乱した姿が嘘のような静けさだった。

その間に、俺は蒼真の拙い言葉から話を整理していく。そして…………納得してしまった。

 

曰く、アリアは最初から《武偵殺し》の手のひらの上だった。

曰く、最初の事件3件をかなえさんに罪を着せてアリアに宣戦布告。

曰く、今回の事件3件目でアリアと直接対決をする。……兄貴と3件目で直接対決をしたように。

曰く、以上より兄貴の件は下地であり、《武偵殺し》のすべての目的はアリアである。と。

 

…………つまり、

 

 

 

 

 

アリアは現在進行形で"飛行機" で襲われそうになっている。

 

 

 

 

 

…………って、

 

「ここでおっちらこっちらしてる場合じゃねーじゃねえか!」

 

「……それを、さっきから言ってる」

 

「~~~だーーっくそっ!!」

 

頭をガシガシと掻きむしりながら、目の前にいる障害に苛立ち声をかける。

 

「で、あんたの言いたいことはそれが全部か?」

 

「……ええ、ほぼほぼね。あと少しあるけど、聞く?」

 

「さっさと言えよ。こっちは今からでも全力でやってもいいんだ」

 

「そ。なら……行っても良いわよ、遠山金次。神崎・H・アリアのもとへ」

 

「…………はぁ?」

 

俺は奴の言っていることが……いや、奴の意図が見えなかった。

 

「私の目的はあくまで夜神蒼真の抹殺。貴方には興味ないの。だから、行くのなら見逃してあげるわ」

 

「…………っ」

 

それはこちらとしては願ってもないこと、だが……。それは同時に、ここに蒼真に任せるということ。

俺としては、それも避けたい。

未知の技術で蒼真の肩と腹を抉った技術。それも不安要素としてはある。だけど、何より。

 

(ひなたさん関連でこいつを一人にするのは違う意味でかなり不安だ)

 

特に今回は蒼真と面識があり、ひなたさんと一番親い人物が相手なのだ。

 

(こいつなら今度こそ陽神茜の攻撃を全ての無防備に喰らうなんてバカをしてもおかしくない!)

 

だが、このままではアリアが……!

 

(どうするっ? どうする!?)

 

俺の頭の中を、蒼真とアリアの顔が交互に浮かび上がってくる。

 

……………。

 

それは数秒か、はたまた数分か。……そして、俺は…。

 

 

 

 

 

「……っっ!!!」

 

 

 

 

 

…ゴッッ!!

 

ベレッタのグリップを思いきり俺の額に叩きつけたっ!

 

「……キンジ?」

 

「……っ! 何をしているのかしら?」

 

「…………」

 

じんじんと痛む額を押さえることもせず、俺は一回ゆっくりと首を振る。

周りの様子から、どうやら数秒から十数秒程しか経過していないようだ。

そんな周りの動揺を無視し、俺は警戒もくそもなく蒼真と向かい合う。

 

「……蒼真」

 

「……なんだ、キンジ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリアは、俺に任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ああ」

 

「ここはお前に任せる。相手のご指名だしな。ただ、1つ……言いたいことがある」

 

「……なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼真、お前は"何も悪くない"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

「何も悪くないんだよ、お前は。あの娘の……ひなたさんに対しても、そいつに対しても」

 

「貴様! あの方のっ!!」

 

「黙れ」

 

「っ!?」

 

「何も知らない"外野"は大人しく黙ってろ」

 

「き、さま……」

 

「いいな、よく聞けよ蒼真。俺はお前と決別したあの日から、言葉にして言うことはなかった。けど、今日この日からテメーに何度だって言ってやるぞ」

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は、悪くない。誰がなんと言おうとも、俺は……"俺達"は、お前の味方だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ああ」

 

「だから、変な負い目をあいつに……アイツらに"2度"と! 感じるんじゃねーぞ。今度無防備に傷を負うようなことがあったら、東京タワーから紐無しバンジーさせるからな」

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……"信頼"、してるぞ。"相棒"」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ俺はじゃじゃ馬を助けに行ってくる」

 

俺は言いたいことだけ言って、蒼真と陽神茜から背を向ける。

 

「……キンジ」

 

「あん?」

 

俺はそれに首を後ろに向けて、蒼真を見やる。

 

 

 

 

 

「……ありがとう…"相棒"。……あの娘"たち"を、頼む」

 

 

 

 

 

「……? ……ああ、任せろ」

 

俺は蒼真のいった言葉に違和感を感じたが、アイツが俺は頼んだんだ。やってやろーじゃねえか。

俺はその問答を最後に、その場から駆け出した。

 

 

 

アリアを助けるために。

 

 

 

相棒の信頼を信頼で返すために。

 

 

 

 

 

───俺自身の決意と覚悟を確かめるために───

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

…ポ、ポツ……ポツポツ…

 

…ヒューヒュヒューっ!

 

 

 

とうとう振りだした雨は、暴風に乗って俺と彼女を叩きつけ始める。

先程のキンジとの問答で沸点を軽く達したのだろう。

1度は冷静になったが、再び激情に駆られている。

 

「クッソガキがぁ! この! 私に! 何も知らないだと! 外野だとっ! ふざけるな! ふざけルナッ! フザケルナァァァッ!!!」

 

「…………」

 

「あの娘が奴を捕らえたあかつきには、私が四肢を引きちぎって彼等に差し出してやるっ!! だが、その前にィ……」

 

「…………」

 

「貴様をズタズタに! グチャグチャに! 跡形もなく! 挽き肉にしてヤルゾォッ!! 夜神蒼真ァァァァ!!!」

 

「……悪いな」

 

俺は、確かに彼女に負い目があった。

彼女が《陽》の中で誰よりもひなたの味方だった。

ひなたが本家を脱走する手助けや、旅を見守っていたのも知っている。

……《夜》である俺の側にいることを心の中では反対していても、ひなたの笑顔のためにそれを最後まで本家に伝えていなかったことも、知っている。

そして、俺は……彼女の信頼を裏切った。…………最悪の形で。

だから、レインボーブリッジでは抵抗しなかった。

今回も、"アレ"のために最初からしばらくは死なない程度に抵抗しないつもりだった。

けれど……、

 

 

 

『蒼真、お前は何も悪くない』

 

 

 

もう一度、俺は悪くないと言ってくれる友人がいる。

 

 

 

『俺は……俺達は、お前の味方だ』

 

 

 

もう一度、こんな俺の味方だだと言ってくれる親友がいる。

 

 

 

『……"信頼"、してるぞ。相棒』

 

 

 

もう一度、俺を相棒だと言って信頼してくれる相棒がいる。

 

 

 

……俺は、自分の通る道だと思っていた"自己犠牲の道"よりも、"グレイ・S・Y・シルバリオとしての道"よりも、貫きたい道があるんだということに……気づかないフリをするのをやめようと思う。

 

 

 

俺は、俺の"名は"…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……陽神茜。……俺は、"夜神蒼真"として…お前と対峙するっ」

 

「あアアぁァァァあアぁーーーーっ!!!!」

 

風雨が荒れ乱れる都内のとある公園で、《陽》と《夜》が激突した。




如何でしたか?

しばらくクールに参ります。
感想意見、心よりお待ちしております。

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