今回は少し『暁の護衛』の要素が入ってきます。
ですが、知らなくても普通に読めるようにはしているのでご心配なく!
何故要素をいれたかは後書きでお話ししましょう。
では、投稿です。
…カチャ、ガチャ…カチャカチャ
高価な調度品が置かれている薄暗い部屋に、金属と金属が擦れあう音だけが存在を主張している。
勿論、それが独りでに鳴っているはずがなく、それを鳴らしている者はその音に紛れて影を薄くさせている。
暗いといっても、外は夜ではない。豪華な部屋から覗ける大窓の向こうでは、雨の滴がぶつかる音が聞こえる。
例え太陽の光が差し込む隙間がなくとも、厚い雲を通して、その人物を僅かに浮かび上がらせる。
…ガチャガチャガチャ…キュッ、キュッ
「……ん。よしっ、出来た」
どうやら暗闇での作業を終えたらしい。
ボルトを閉める音を最後に、その人物……峰 理子は金属音と取ってかわって、自身の存在を主張させた。
それを軽いのりで、しかし丁寧に扱いながら細かな装飾が施されているダイニングテーブルの端によける。そこには、作られたものと同じものが数個……プラスチック爆弾が置かれていた。
「さってと。最後のチェックも終わったし、アカ姉を呼びに行こっ!」
そう言って、白い毛皮のカーペットからお尻を上げ、ピョンッと跳ぶように立ち上がった。
そして新しく取った横のスイートルームで瞑想している、自身が姉のように慕う人を呼びに行こうと振り返り……
壁に寄りかかる黒のレインコートを見つけ、口の端をヒクつかせた。
「…………ねえ雅樹さん? いつもいつも無言で背後に立たないでって言ってるよね? 来たなら来たで声ぐらいかけてくれてもいいのに」
口を酸っぱくするほど言ってきているのだろう。その言葉には理子の呆れが含まれていた。
しかし、壁にもたれ掛かっている人物……朝霧 雅樹はその言葉を意に返さず、フードの奥から理子に視線をやり、固く結ばれた口から声を発した。
「……府抜けているな。仮にもこの俺が直に鍛えてやったのだ…そのような様を今後も晒すようなら…………」
言葉を最後まで言い切らず、瞬間。
───ギシィィ……!───
……部屋が、軋んだ。
その原因は……雅樹から発せられる気迫。
彼は依然として壁に背を預けたまま腕を組んでいるだけだが、やろうと思えば……1秒とかからず理子をクビリ殺すことが出来るだろう。それは、部屋全体を軋ませながら浴びせられる殺気から伝わってくる。
その膨大で重圧な殺気は、この部屋に留まらなかった。隣の部屋で瞑想していた陽神 茜は、自身に向けられていないにも関わらずその殺気を感じただけで幾つもの自身の死を幻視した。それからすぐに立ち直った茜は、理子を助けるため、殺気を放っている者を殺そうと部屋を飛び出そうとした。だが、直後に茜の部屋を訪れた"客"の存在で、今隣で何が起こっているのかを把握した茜は、舌打ちと共に雅樹への憤怒を膨れ上がらせていた。
それほどまでの殺気。しかし、その自身に浴びせられる尋常ではない殺気を浴びせられてる本人は、
「あ、あはは~。……ご、ごめんなさい雅樹さんっ。次から気を付けるから許して! ねっ?」
それを全く意に介さず、いつも通りに明るく振る舞い、手をパンっと合わせ、ぎゅっと目を瞑りながら頭を下げる。ただ、それだけだった。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「…………え、えと……雅樹、さん?」
さすがに未だ浴びせられる殺気と重みがある沈黙に耐えきれず、恐る恐る瞑っていた片目を開けて上目で雅樹の顔を伺う。
「…………」
それからもしばらく重苦しい殺気は放たれていたのだが……。
…スッ
と、唐突に雅樹は発していた気迫を収めた。
それを確認した理子はパァッと表情を笑顔に代えて、雅樹にご機嫌よく礼を言う。
「ありがとっ、雅樹さん♪」
「…………」
雅樹はそれに無言で答え、理子をレインコートのフードの下からギロリと睨み付ける。
「え、えとえとっ、《夜想曲》の情報だよねっ! それならアカ姉がちゃんと調べてるから、隣の部屋にいるアカ姉から受け取ってね!」
そこそこの付き合いのため、雅樹の機嫌の度合いが分かる理子は、そろそろ不味いと焦りながら慌てて本題に入った。
「奴では話が進まない。だからわざわざお前のところに来たのだ」
「……それは雅樹さんがいちいちアカ姉を煽るから……あ、ごめんなさいすぐ用意します!!」
理子はまた雅樹から漏れだした殺気に口をつぐみ、ダッシュで隣の部屋の茜から調べた情報が入ったファイルを受け取り、これまたダッシュで戻ってきた。
ついでにその部屋を訪れていた客に「"久しぶり"っ!」と挨拶するのも忘れない。
「はい、これっ!」
「……ふん。"今"の奴が調べたものが正確であるのか疑問だが……まあいい」
雅樹はそれを受け取り、自身のレインコートの懐に仕舞った。
「えと、ご用事はそれだけ?」
ファイルを渡して一安心した理子は、まるで他にも用事があってほしそうな意味にとれる言葉を口にした。
「……ああ」
「そう……」
雅樹の単調な一言に少しシュンっとなる理子。
その様子を一瞥し、しかし何をするでもなくここから立ち去ろうと理子に背を向けたところで、雅樹はこちらに近づいてくる気配を察した。
「……ふん、帰ったか」
「……ん?」
てっきり雅樹が帰るものだと思っていた理子は、立ち止まり何事かを呟いた雅樹に疑問符を浮かべる。
…ガチャ
と、雅樹が侵入してきた時とは違う、はっきりとした扉が開く音。
(……ここって一応、セキュリティ万全の筈なんだけど)
自分自身でもこの部屋までのセキュリティを上げているのにも関わらず、次々に訪れる来訪者。自信がなくなる理子であったが……理子がダメなのではなく、来訪者達が桁外れなだけなのだ。
そんなことを考えていると、その来訪者の姿が分かるところまで近づいてきた。雅樹と同じ黒のレインコートを身に纏っており、ぱっと見男か女か判断は出来ない。
理子が来訪者を凝視していると、その者は顔を隠していたフードを脱ぎ、髪を整えるように軽く首を左右に振った。そして露になったその顔を見て、理子はパァッと表情を明るくさせた。
来訪者は理子のよく知る少女であった。身長は155㎝程だろうか。拙い明かりに照らされる美しい銀髪。顔の造形は整っており、海を思い浮かばせる群青色の瞳は、見た者を海の底へと誘うようである。しかし表情に色はなく、スレンダーな体型も合間って、まるで生きた人形のようだった。
彼女は理子に声をかけることはせずに、雅樹の所まで歩いていく。また理子も彼女に声をかけることもなく、雅樹と彼女を見ているだけだった。
「……朝霧様、ただいま戻りました」
そして彼女は雅樹の前で、まるで王に謁見するように跪き、頭を垂れた。その拍子に、彼女の白銀の髪が自身の顔を隠すように流れた。
雅樹はその仰々しさを前に、さもそれが当たり前のように彼女を見下し、労いの言葉もかけずに用件に移った。
「奴等はなんと?」
「はい。朝霧様に事前に頂いていた情報を交換条件にしたところ、先方も了承し、『此方としても好都合、奴を好きにするがいい。接触してきたならば知らせよう』と」
「……それで?」
それからしばらく、2人の問答が薄暗い部屋に響く。その様子を理子は相変わらずだと思いながら黙って見ていた。
「今のところ、あの者が仮出所する目処はありません。警察内部でもあの者が言うことを狂言だと取り合わず、信じるものはほとんど居ないというのが現状です。……が一人、疑っている者が居ります。」
「……ほう?」
「名を宮川 清美。暁東署の刑事で、正義感が人一倍強く、前しか見ていない愚者です。利用できるかと」
「…………」
「如何なさいますか?」
彼女の問いに、雅樹は黙したまま何かを考えているようだ。しかし、それも十数秒の間だけだった。
「銀」
「はっ」
雅樹はここに来て漸く彼女の名前を口にした。
雅樹は続ける。
「もう一度、あの町へ迎え。そして奴等に気付かれぬよう、計画に沿った"計画外"の行動を起こせ……巧妙にな」
「承知しました」
雅樹は、理由も聞かずに頷いた少女……銀を一瞥し、すぐに視線を少女から外した。そのまま、雅樹は今まで黙って様子を見ていた理子へと振り返る。
「ん、なあに?」
「……1つ、言っておく」
先程は用事はないと言っていた雅樹だったが、何の気まぐれか。雅樹の心境は分からないが、理子に対して口を開いた。
それに理子は嬉しそうにするが、雅樹の様子を見てすぐに顔を真剣なものとした。
それはすぐ、雅樹の次の一言で崩れたのだが。
「お前はまだ、"弱者ではない"」
「えっ?」
目を見開き、驚愕する理子。無理もない。あの雅樹が、自分を弱者ではないとその口で言ったのだ。端から見れば明らかに弱者である自分に、だ。驚くなという方が無理な話だった。
未だに信じられないという顔をしている理子を無視して、雅樹は続ける。
「しかし、強者でもない。それは次の一戦で決まるだろう」
「…………」
「そこで強者へとなったならば、"好きにするがいい"。だが、もし弱者へと身を堕とすのならば……」
そこで雅樹は言葉を一旦区切り、先程とは比べ物にならないほど研ぎ澄まされた殺気を理子に"だけ"ぶつける。
しかしそれでもなお、理子の表情には苦痛は見られない。ただ、驚愕に染めた表情を覚悟に塗り替えていた。
雅樹はその様子を確認したあと、理子に言い放った。
─────殺す─────
「…………うん」
理子は、ただ頷くだけだった。
雅樹が何故改まってそんなことを告げたのかは分からない。しかし、理子の心の中は不思議な暖かさとやる気に満ちていた。……絶対に気のせいだとは思うが、"期待されている"と、感じたからだろうか。
殺気はいつの間にか止んでいた。それを放っていた雅樹も、理子が気付かぬ間に未だ跪いている銀の後ろに立っていた。
「メアを連れて行くがいい。隣にいる」
「はっ」
「早急に済ませろ」
「必ず」
それだけ言い、雅樹は玄関へと向かう。そんな雅樹を、銀は立ちあがり頭を下げて見送った。そして雅樹は1度も振り返ることなく部屋を後にしたのだった。
…………。
部屋全体の重力がフッと軽くなった様な感じと共に、ほんの少しの間、静寂が部屋を包んでいたが、
「ぎ~~んちゃんっ♪ 久しぶり~!」
理子の変わらない元気な声と共に、静寂が取っ払われた。
いきなり後ろから首元に抱きつかれた銀は、驚くこともなく顔だけ振り返り、すぐそばにある理子の笑顔を見据えた。
「お久しぶりです、理子様」
「んもうっ、何回も言ってるでしょっ! そんな堅苦しくしないでって」
「これが私ですので…」
「ぶ~~~っ」
子供のようにむくれる理子は群青色の瞳を見つめる。そこには少し戸惑いが見てとれた。
それを察したのか、理子はすぐにむくれるのを止めて、ピョンっと銀の背中から離れた。
「ま、いっか! じゃあちょっと待っててね、今お茶出すからっ」
「いえ、これからすぐに向かいますから…」
「ダーメ♪ 久しぶりに会ったんだからお話ししようよっ。それに少しぐらい休んでも雅樹さんは怒らないよ! …………多分」
「あの…」
理子はそれでも言い募る銀を無視してソファに座らせ、自身はパッパと熱い紅茶を用意してその銀の隣に座った。
「はい、とうぞ♪」
「……いただきます」
観念したのか、銀は軽い溜め息を吐き、紅茶を口にゆっくりと含んだ。それを見た理子もカップを持ち、紅茶で唇を潤して、銀に話しかけた。
「銀ちゃん、ちゃんと休んでる? ……まあ、さっきの問答が答えっぽいけど」
「休む暇などありません。私は朝霧様のご命令をこなさなければなりませんから…」
「そうだけどそうじゃなくて! 任務の合間合間でってことだよ。ちゃんと休まないと身体を壊しちゃうよ?」
理子は心配そうに銀を見やるが、しかし銀はカップをテーブルに置き、なんでもないように口にした。
「私は朝霧様の"道具"ですので、壊れても問題ありません」
「…………」
その言葉に理子は黙って銀を見つめる。
「道具はいつか壊れる。当然のことです。そして、朝霧様にとって私は"壊れる為にある使い捨て"。私は使い潰される為だけに存在します。これは前にも話しましたよね? ……ああ、私が壊れてしまったとしても問題はありませんよ。私は塵の如く捨てられ、次の道具が使われるだけです。あ、しかし朝霧様のお手を煩わせる訳にはいきませんね。壊れるときは朝霧様の邪魔にならぬようにしなければ……」
「…………」
「……むむ、えっと、それは後で考えるとして。私は朝霧様の道具として、寿命が尽きるまでは所有されてますので、今しばらくはこうしてお話が出来ますよ。だから理子様はご心配なさらずに。……ああ、ましてや同情等も無用ですよ。私は、朝霧様に道具として使われることが……大変幸せですから」
人として絶対におかしい発言が飛び出てくるが、それでも理子は目を反らすことなく、恍惚とした表情で語る銀を見つめ、黙って聞いていた。
「このように理子様やジャンヌ様達と知り合うことが出来ました。それは全て朝霧様が私を使ってくださるお陰です。そして何よりも……もともと無くす筈だったこの命が朝霧様の覇道の道作りに少しでも役立つのなら。もともと穢れていたこの身体が朝霧様の快楽を得るのに使われるのなら、これ以上の喜びはありません」
「…………」
「……フフっ、いけませんね。道具の分際で感情を持つなど、許されません。今のは忘れてください、理子様。…………理子様?」
話している間も、話終わっても何も話さない理子を不思議に思った銀は、今も自身を見つめる理子を見て首を傾げる。
……いや、傾げようとして
「ていっ!」
「うぬゅ!??」
理子の掌によって、両頬を挟まれた。
「全く……銀ちゃんは、な~~にも分かってないんだからぁ」
「にゃ、にゃにおしていりゅのでしゅかっ!?」
突然の出来事に思考が停止する銀。
それでもなんとかしようとするが、理子に手を上げる訳にもいかず、うまく口が回らないながらもなんとか理由を問いただす。……がしかし、理子は全く聞き入れず、今度は銀の頬をびよーんと引っ張り出す。
「いい銀ちゃん? 銀ちゃんが雅樹さんの事が大好きなのは十~分わかったけど、そんな心構えじゃダメだよ」
「うにゅう~~~っ。ひ、ひひははははひへふははいっ!(い、いいから離して下さい)」
理子はあたふたしながら訴える銀の言葉に、もう一度だけ思い切り頬を引っ張ったあとで離してあげた。
「い、いたたたた……。り、理子様、いきなり何をっ!」
「いいから聞きなさい銀ちゃん」
「むっ」
「……ん、よろしいっ」
取り合えず、銀は理子の話を聞くことにしたようだ。
目だけは責めるように自身を見る銀に、理子はその目を見つめ返し、真剣な表情で話始めた。
「……銀ちゃんは、自分がどれだけ優秀か理解してる?」
「…………まあ、それなりには……」
「じゃあ、銀ちゃん以外に雅樹さんの道具足り得る人に心当たりある?」
「……え? えっと、メア…は道具とは違いますし、蓮華は朝霧様の直弟子ですし……」
「居ないでしょ?」
「え、ええ。しかしそれが……」
「銀ちゃん、いい? じゃもしも、もしもだよ? 銀ちゃんっていう道具が壊れちゃったとして……"次の道具は何処から調達するの"? 銀ちゃんくらい持ち主のために使い潰される覚悟がある、優秀な道具をだよ?」
「えっ……あ……」
「どうなの?」
「そ、それは……」
理子の度重なる質問に、とうとう何も言えなくなる銀。
……そう。銀は漸く、理子の言いたいことを察したのだ。
黙したまま俯く銀に、理子は溜め息混じりにドカっとソファに背中を預け、紅茶で喉を潤す。
「銀ちゃん風に言うなら、それは雅樹さんにとって何よりも負担でしかないよね? 煌めく金の卵を探し出したり、色々教育したりさ。そんな面倒なこと、雅樹さんにさせるわけにはいかないでしょ?」
「…………はい」
「ん、やっぱり銀ちゃんは分かってるんだね。そう、銀ちゃんは"特別"なんだよ。銀ちゃんみたいな人、そうそう居ないからねぇ。だから……」
身体を起こして、カップをテーブルに置いて立ち上がる。そして銀の方を振り返り、ぽむっと銀の頭に手をのせた。
「ちゃんと栄養を取って、身体を休めて! 雅樹さんの役に立てるよう、道具として長持ちするようにしないと、ねっ♪」
「……はい」
「ん、よろしい♪」
素直に頷いた銀に理子は、わからず屋だった小さい子に良くできましたという感じで頭をなでなでしてあげた。
それからほんのしばらく、そんな微笑ましい状態が続いていたが、そんなところに
…ガチャ
っとちょうどタイミングよく玄関の扉が開いて、誰かが入ってきた。
「あら? …クスクス♪ とても仲がよろしいようで何よりねぇ」
「あ、ヤッホーっ。さっきぶり、メアさん!」
理子は部屋を訪れた人物に笑顔で出迎え、撫でられていた銀もソファから立ち上がった。
新たに訪れた人物……メアと呼ばれた長身の女性は、雅樹や銀と同じレインコートを羽織っているが、フードは脱いでおり、さらに2人とは違い身体のラインが浮き出ている。
日焼けを嫌うような真っ白な肌が首元から垣間見え、豊満な胸はコートを苦しそうに押し上げている。そして滑らかなカーブを描く腰つき、慎ましくもキュッと引き締まったヒップ、そこから伸びる長い脚。それら全ては男性の情欲を掻き立て、妖艶に誘う美しい肢体であり、レインコートに隠されていながらもそれは確認できる。
そんな女性なら誰もが憧れる身体を持つ彼女は、その切れ長で紫色の瞳で理子と銀を優しく見つめ、真っ赤な唇は自然と笑みを溢していた。
「ええ。雅樹様に虐められていたみたいだけど、その様子だと大丈夫だったようねぇ、理子」
「あ、あははは。ちょっと修行不足を叱られました……」
「フフっ。気を付けないと……いくら気に入られているとはいえ、引導を渡されるわよ?」
「うっ。しょ、精進します……」
「クスクス♪ ……さて、銀? 雅樹様からの指令は?」
メアはダークバイオレットの腰まである長い髪を背中に流しながら、銀に尋ねた。
「受けています」
「そう、じゃあ行きましょうか。内容は車の中で聞くわ」
「はい」
「あ、メアさん。……アカ姉は?」
理子は立ち去ろうとしたメアに、隣で瞑想をしていた筈の茜の様子を尋ねた。
メアは溜め息混じりに肩を諌め、
「あれはもうダメね。あれじゃあ雅樹様や《教授》、《太陽》が"見限る"わけね。せいぜい、《夜王》の業を1つ暴く当て馬ぐらいにしか役に立たないわ。……それすらも出来ないかもね」
「…………」
メアの言葉に顔をしかめる理子。
そんな理子にメアは含みある笑みを浮かべる。
「まあ、私は彼女がどうなろうとどうでもいいけど……"やるなら早くしないと"、ねぇ?」
「……っ」
「ウフフ♪」
…とん
「あうっ」
さらに顔をしかめた理子の額を人差し指で軽く突っついたメアは、満足したように理子に背を向ける。
「それじゃあ"またね"、理子。クスクス♪」
「理子様。忠告、ありがとうございました。……御武運を」
「……バイバイっ。銀ちゃん、メアさん!」
顔をしかめていた理子も、2人の見送りぐらい笑顔でいようと元気に見送った。
そして2人は部屋を出ていき、また薄暗い部屋に1人になった理子は、先程のメアの言葉に思考する。
(…………やっぱ、"気付かれちゃってた"か。……それでも見過ごされているってことは…)
脳内を掠めた結論にさらにブスッと顔をしかめた理子だが、次には疑問が浮かんだ。
(……あれ? ならなんで雅樹さんはあんなこと…)
雅樹は言った。「お前が強者になるか弱者になるかはこの一戦次第だと」。しかし、
(雅樹さんにとって、この"茶番"はどうでもいいはずなんだけど…………ま、いっか!)
見過ごされていて何も介入されないのなら、私"達"はやりたいようにするだけだ。それに……。
「……雅樹さんが、理子をまだ"弱者じゃない"って言ってくれたんだ。絶対に勝たなきゃ!」
雅樹は理子を理子として見てくれた2人目の人。
本人にはその気はないだろうけど……いつもブラドから守ってくれていた恩人。
そして、触りだけでも戦い方を教えてくれた師匠。
そんな自身にとってはとても大切な人をガッカリさせぬよう、また……殺されぬようち気合いを入れねばと、理子はやる気を奮い立たせた。
大窓の外では、徐々に雲の色が黒さを増していっている。大窓に近づき、窓に右手を添えて、理子は暗灰色の曇天を見上げる。
「さあ、キーくん、アリア。…………終わりを始めようか……」
如何でしたか?
今回は1話丸々裏側の話にしました。……てかなってました(--;)
次回からクライマックスに突入致します!
ここまで長かったですが、最後までお付き合いくださいませ!!
そして、何故『暁の護衛』の要素を少し加えたかというと……いつか時間が出来たら、外伝として『暁の護衛』ルートを作ろうかなと考えているからです。
まあ、やれるかどうかは別ですが(--;)
これからしばらくは要素はしばらく入ってこないので、『暁の護衛』を知らない方は安心してください。
それでは(^-^)/
感想、意見をいつでも心よりお待ちしております!!
これからも応援よろしくお願いいたします!!!