夜の神は太陽に恋焦がれた   作:黒猫ノ月

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どうもです。

いや~、ビックリしました。実にたまげましたよ……。

ふとランキング覗いたら、日間ランキング1位てっ!?
お気に入り件数一気に100以上伸びて550越えてっ!!?

一体何があったのかっ!!?

……ともあれ、滅茶苦茶嬉しかったですけどねっ!
応援ありがとうございます!!
これからもよろしくお願いいたします!!

では、投稿です。


第21弾 「……お前の言う通りだ、アリア」

「……これで最初の事件はおしまい。契約は完了よ。あんた、もう探偵科に戻っていいわよ。さよなら」

 

アリアは俺に、"何も無いように装っている顔"でそう言った。

……俺は最初、蒼真が傷ついたのを俺のせいにしてるのかと思った。

だけど、今なら分かる。

違う、と。

 

(これは……"そんなどころのモノ"ではないんだ)

 

確かに、役立たずだった俺に対する怒りもあるのだろう。

しかし、それだけではない。

 

 

 

 

 

───アリアが最初に見せた表情は……"俺の全て"に対して怒り、絶望したから───

 

 

 

 

 

───アリアが歯を食い縛り、それを全力で堪えているのは……蒼真が俺を"庇っている"から───

 

 

 

 

 

───そして、アリアが次に見せた表情は……何も考えない様にして、この件をさったさと忘れようとしている……そんな表情だった───

 

 

 

 

 

(……ホントに、似てるな)

 

どうやら、俺とアリアはどこか似ているのかもしれない。

何故なら、

 

 

 

 

 

アリアの一連の行動は、俺が半年の間……"俺自身"が経験したことだったからだ。

 

 

 

 

 

「…………」

 

「じゃあね」

 

アリアは無言の俺を無視して、澄まし顔でここから立ち去ろうとする。

 

(……なんなんだろうなぁ)

 

気が付けば、俺は無意識に俯いていたようだ。

床には雨に濡れた俺の体から水が滴り、小さな水溜まりが出来ている。

……それを映す俺の視界は、どうしてか明滅しているが‥‥‥。

 

(…………やっぱり、"似ている"から。なんだろうなぁ)

 

俺はチカチカする瞳を閉じ、息をゆっくりと吐く。

 

……だから、なんだろうか?

 

そして俺は、ロッカールームから出ようとするアリアに言ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、こんなにもイライラしているのだろうか?

俺の"今"の全てを写したアリアに。

 

「…………なんか、言った?」

 

アリアは俺の声に足を止め、背を向ける俺に聞き返す。

 

「ふざけんなって言ってんだよ」

 

俺は閉じた目を開き、アリアに真っ直ぐ向き直る。

 

「なんだよその顔? 何今更大人ぶってんだよ? あれか、自分は大人だから無闇に当たり散らしたりしませんよってか? 終わった事だから仕方ないってかっ? さっさと忘れて、モモまんでも食べようってか!? そりゃ大層大人なことで! あぁ、俺は尊敬するねっ!」

 

「…………」

 

 

 

───俺は気付いてる。

 

 

 

「あれだよな? お前の大好きな蒼真が言ったんだろ? 「キンジは悪くない。アイツも色々あるんだ。これは俺の問題だ」! 大好きな大好きな蒼真がそう言ったんだ。お前は何も言えないよなぁ!」

 

「…………っ」

 

 

 

───俺が今叫んでいる言葉は。

 

 

 

「ふざけんじゃねぇっ! お前らしくもない! 気色悪いんだよっ! 蒼真が言った? 関係ないだろ! 言いたいことがあるならさっさと言いやがれっ!!」

 

「……っっ!」

 

 

 

───全部俺に帰ってくるってことを。

 

 

 

だって…………。

 

俺は激怒した。

自分の兄が死に、世間がそれを非難した。

そんなことがあり、一瞬の気の迷いで蒼真とのパートナーを解消した……愚かな自分に。

 

俺は絶望した。

「"親友"はお互い迷惑を掛け合うもの」なんて偉そうなことを言っておきながら、自分の嫌いな体質に頼らなければ迷惑を掛けるだけの……お荷物な自分に。

 

俺は歯を食い縛った。

自分を蔑む俺に、蒼真が「俺の側に居てくれる。ただそれだけでいい」って言葉に"庇われる"……情けない自分に。

 

そして俺は……考えないようにした。

愚かな自分も、お荷物な自分も、情けない自分も、全部終わった事にして、ただダラダラと蒼真に甘えながら半年を過ごした。

 

俺は、今のアリアを見て……どうしようもなく、イラついたんだ。

 

鏡越しに自分を見ているようで。

 

そんな何処までも小さい自分を……"肯定"されているようで。

 

だから俺は……期待したのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけてんのはどっちよっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そんなどうしよもなく小さい俺を…………アリアがとことん"罵倒してくれること"を。

 

「なんのことだよっ!?」

 

「えっらそうなこと言っておきながら自分は何!? バスの中に引き込もって銃撃戦にビビってっ、蒼真が肩を撃たれても「早く何とかしてくださいお願いしますぅ~」なんて言ってビクビクしてっ!!」

 

「……っ」

 

「それに私はね、期待してたのよ!? 現場に連れてけばまたあの時みたいに実力を見せてくれるって!! 蒼真も認めたその実力をっ!! なのにあんたは「武偵は命を掛けて事件に臨むんだぞ、適当するのも大概にしやがれ」っなんて言っておきながら自分が1番適当してるじゃないっ!!」

 

「……お前が勝手に期待したんだろ。それに、俺は──」

 

「勝手にもなるわよっ! 私にはもう時間が無い! なのに……なのにあんたは、蒼真が傷ついても最後まで実力を隠してっ!! なんなのよっ? 蒼真も何であんたを責めないのよっ!? 何で……何であんたをっ!!?」

 

「…………」

 

アリアの言う時間が無いっていうのは分からないが、それよりも……

 

(…………やっぱ、他人から言われると一層堪えるな……)

 

口を閉ざす俺に、アリアが捲し立てる。

 

「何黙ってんのよっ!? ほらっ! あんたの望み通り言ってやったわっ!! まだ足りない? そう! なら言ってあげる! あんたは蒼真を害する害虫……寄生虫なのよっ!! 昔の蒼真はねぇ、"銃弾が貫通することなんて無かった"のよ! どうせあんたが蒼真を弱くしたんでしょっ!?」

 

アリアは溜め込んだモノを吐き出すように、俺に畳み掛ける。

俺はただ、アリアの罵声を浴び続ける。

 

「そうよっ! あんたが蒼真を弱くしたっ、蒼真を狂わせたんでしょ! だから蒼真もあんたなんかをパートナーにしたんだわっ! あんたみたいな害虫をっ!! そのくせに"あんたから"パートナーを解消したっ!? ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁっ!!!」

 

アリアは顔を怒りで真っ赤にして、俺に向かって叫び続ける。

俺はそれを目を背けることなく見続けた。

……だが、次の言葉で……俺の意識が一瞬トんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんなに優しい蒼真を騙してっ、裏切ってっ! そのくせ"武偵を辞める"っ!? はっ! 辞めたきゃ辞めればっ! 寄生虫のあんたが"武偵を辞める"理由なんて、どうせ"大したことない"んでしょっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

───頭が、真っ白になる───

 

 

 

───…………………………───

 

 

 

───"大したこと、無い"……だと……?───

 

 

 

───そうか……そう、か───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────そうか─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! あああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「っな!?」

 

 

 

 

 

……気が付けば…………俺は、右腕を振り上げていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

ヘリの中で、蒼真が"銀時計"を渡してくれたときに私に言った。

 

『…………キンジには、"色々"‥あるんだ』

 

『…………だから、頼む』

 

『…………これは、俺の"せい"‥なんだ』

 

『…………アイツを、責めないで‥‥やってくれ』

 

『…………"自分"を、責めるな』

 

 

 

 

 

『アリア』

 

 

 

 

 

蒼真が重傷の体で私に言った頼み事。

だから私は蒼真の言う通りにすることにした。

怒りはある。疑問もある。失望もある。

けど、全部押し殺して、アイツとさっさとサヨナラしようとしたのに……。

 

(随分とまあ、私に向かって言ってくれたものねぇ!)

 

アイツは言った。

言いたいことがあるなら言いやがれって。

だからお望み通り言ってやった。

叫びに叫び、押し殺していたものを思いっきり吐き出してやった。

最初は勢いがよかった癖に、私が言い返してやるとすぐアイツは黙った。

それからも、私はずっと叫び続けてた。

 

 

 

 

 

だが、それはすぐに終わりを告げた。

 

 

 

 

 

溜め込んでいたものを半分くらい言ってやった頃だろうか。

アイツの……キンジの様子が一気に変わった。

私が何を言っても、黙って目を背けることなく見ていたキンジが……唐突に目をこれでもかと言うほどに見開いたのだ。

私の、「武偵を辞める理由なんて、どうせ大したことないんでしょ」って言葉を聞いて……。

……私はその様子に、次に吐き出そうとした言葉を飲み込んだ。

キンジは目を見開いたまま、顔を俯かせた。

どれくらいの間だったのか?

数秒か、十数秒か、はたまた数分の間か?

俯いたままのキンジが発する尋常じゃない雰囲気に、私は口を閉ざし黙って様子を見ることしか出来なかった。

 

 

 

そして……キンジは…………

 

 

 

 

 

「っ! あああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「っな!?」

 

 

 

 

 

突然声を荒げて、普通じゃない雰囲気のまま……いきなり、右腕を振り上げた。

 

(まずいっ!?)

 

私は突然のことで避けることも出来ず、とっさに顔を腕でガードして、来るはずの衝撃に備えた。

だけど…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‥‥ガッッシャーーーーーーーィインッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何も、来なかった。

聞こえてきたのが、何かを殴り付けた音なのは確かだ。

だけど私を殴った音じゃない。

私は恐る恐る構えを解き、もう一度キンジを見やる。

そこには、

 

 

 

 

 

「…………」

 

自分の横に並んでいたロッカーの1つを、思いきり殴り付けた状態で静止しているキンジの姿があった。

 

 

 

 

 

その顔に浮かべている表情は……何とも言えない…………強いて言うなれば、激動し、苦しんでいる顔だった。

けど、これだけは分かる。

ロッカーを殴ったから、そんな表情をしているのではない……ということぐらいは。

 

「っ!!」

 

ガシャンッ! ガッシィンッ! ガッシャィンッ!!

 

何度も何度殴り付ける音がロッカールームに響き渡る。

 

「……あっ! ちょ、ちょっとっ!?」

 

キンジは無言でロッカーを殴り続ける。

突然のことに呆然となったが、ふと我に返り、私は止めようとキンジに駆け寄る。

 

‥‥ガッッシャィィーーーンッ!!!

 

………………。

 

………………。

 

………………。

 

けれど、私が止める前にキンジは殴る腕を止めた。

あれほど五月蝿かった部屋を、今は静寂が支配している。

何度殴ったのだろうか?

ロッカーは並ぶ2つがボコボコに凹んでおり、両手の拳はじんわりと血が滲んでいる。

 

「…………」

 

「な、何モノに当たってんのよっ! 言いたいことがあるなら……なっ!?」

 

私は剣呑な雰囲気を纏うキンジに話しかけるが、途中でまたその言葉を飲み込んだ。

何故なら、キンジはボコボコのロッカーに両手を付き、頭を上に振りかぶったかと思うと……

 

 

 

 

 

‥‥ゴォォンッッ!!!

 

 

 

 

 

ロッカーとロッカーの境の、1番硬いところにおでこを思いっきりぶち当てた。

 

「……っ、つぅ……」

 

「…………」

 

……もう、言葉が出てこなかった。

いきなり何してんのっ!?っていう気持ちもあるが、それよりも……さっきまでと違い、額をロッカーに押し当てているキンジの横顔が、見てられないほど悲痛なものに変わってたから。

 

(……なんなのよ、ホント)

 

自分からケンカ売ってきたくせに、黙ったかと思えば突然暴れだして、さらに最後にはそんな顔しちゃって……何がしたいのよ?

 

(……何で、何でなのよ? 何で…………)

 

 

 

 

 

───何で、私が泣きそうになってんのよ───

 

 

 

 

 

急に冷めた頭の中で、私は戸惑っていた。

何でかは分からない。

同情か?

良心の呵責か?

ただ、当てられただけなのか?

でも、分かることもあった。

それは……

 

(……す、少し‥‥言い過ぎちゃったかも……)

 

………………。

 

今さらだった。

私は少し……少~~~~しだけ反省し、キンジに声を掛けようとして、

 

「………と……だよ」

 

キンジが先に何かを呟いた。

 

「?」

 

聞き取れなかった言葉を聞こうとして、キンジに近づき……今度は、はっきり聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く、お前の言う通りだ。アリア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が聞こえた瞬間、私は目を見張った。

 

 

 

俯いてた顔を上げ、私を見るキンジの顔を、目を見て、声を聞いて……私は自分の目を、耳を疑った。

 

 

 

何もかもが、ついさっきまでとは全然違った。

 

 

 

キンジの……額を思いきりぶつけたにも関わらず少し赤くなってる程度の顔には、鋭く真剣な面持ちが。

 

 

 

キンジの……暗闇を称えて潤んでいた瞳には、"何か"を決意した色彩が。

 

 

 

キンジの……喚き、叫び、ボソボソと呟いていたその声には、何かを……私の知らない"何か"を乗り越えた力強い響きが。

 

 

 

 

 

すべてにおいて何もかもが以前と違った……おそらく、蒼真が認めた"相棒"の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

「俺がビビってた? 適当してた? 何か隠してる? 害虫? 寄生虫? 裏切った? 武偵を辞める理由が……"大したこと無い"? あぁ、全くもって"その通り"だ。アリア」

 

「…………」

 

キンジは真っ直ぐ私を見つめながら続ける。

 

「だけどな、違うところもある。それはな、俺"なんか"が蒼真を弱くするなんて、狂わせたりなんて出来るはずがない。何でかって? 確かに蒼真は優しすぎるけどな、"甘い"訳じゃねーんだよ」

 

「害虫で寄生虫な俺を、今まで"飼って"くれてたが、決して間違った方向にだけは行かせなかった。間違ったことを言ったら全力で俺を殴った。知ってるか? アイツ怒らせたら霊長類の中で1番怖ぇーんだぞ?」

 

「そんな真ん中に1本真っ直ぐなもんが突き抜けてる蒼真に、俺が何か出来るかよ。……アイツはな、弱くなったんじゃない。お前も知ってるんだろ? アイツはな、また変なもの1人で抱えてんだよ。俺が情けないばっかりにな」

 

「…………」

 

(……これが、今までのキンジ?)

 

今ここには、卑屈で根暗な遠山 キンジは何処にもいなかった。

ここにいるのは、間違いなく……蒼真の"親友"だった。

 

「だからアリア。呼び止めた俺が言うのもなんだが、今は俺"なんか"ほっといて蒼真のとこに早く行け。そしてぶん殴れ。俺にはその資格は無いが、お前にならあんだろ。蒼真のその"宝物"を"触れている"、預けられてる……お前ならな」

 

そう言って、キンジは私の横を通りすぎようとする。

 

「あっ。ま、待ちなさいよっ!」

 

「後でまたお前の罵詈雑言を甘んじて受けてやるよ。だから……ホントに勝手なんだがな、少し……1人にしてくれ」

 

「キンジ……」

 

私に背を向けてそう言うキンジの背中には、少しだけさっきの悲痛な雰囲気が戻ってきていた。

それを感じた私は何も言うことが出来ず、ロッカールームを出ていくキンジを見送ることしか出来なかった。

 

「……あぁ、それと」

 

「……何よ?」

 

最後に、取っ手に手をかけ、出ていく直前にキンジは背を向けたまま私に声をかけた。

 

「蒼真はな、別にお前を頼ってない訳じゃないぞ」

 

「っ!?」

 

「アイツは……こんな自分の側に居てくれる、ただそれだけで何よりも嬉しいそうだ」

 

「…………」

 

「じゃあな」

 

そしてこの部屋に残ったのは、私とボコボコのロッカー。そして……取っ手に血がこびりついたこの部屋のドアだけだった。

 

「…………」

 

(……何でか、今分かった)

 

今の話を聞いて、何となく分かった。

私がさっきのキンジの顔を見たときに、泣きそうになったわけが。

 

("似てる"んだ、私たち)

 

私が泣きそうになったのは……共感。

何か途方もないモノを抱えて、もがいて、足掻いて、どこかで叫び続けているところが。

そして、お互いが蒼真に何かしたいと思っているところも。

 

(さっきのキンジは、どこかで私が行き着くはずだった……"もう1人の私")

 

きっとキンジも同じことを考えていたんだと思う。

さっきの罵り合いは、多分……同族嫌悪も混じっているから。

 

(キンジは今、泣いてるのかしら)

 

そう理解したら、唐突にそう思った。

だって……

 

(私なら、泣いてると思うから)

 

なんだか心細くなった私は、右手に持った蒼真の銀時計を胸にぎゅぅっと抱き締めた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

アリアがモモまんを食べ終え、ゴミを捨てに行ってる間に、俺は飲み物を買いに席を立っていた。

 

「‥‥くしゅっ! っあぁ~」

 

(……これは風邪引いたか?)

 

流石に雨に打たれ過ぎたか。

ロッカールームを出たあと、自分の部屋までまた雨に打たれながら帰ったもんだから、風呂に入るときには体が完全に冷えきっていた。

 

「……全く、言ってくれるぜ。アリアも」

 

想像以上に効いたアリアの嵐のような暴言。

しかも殆どがどれも的確すぎて、ダメージが半端なかった。

 

(まぁ、1番効いたのは"あれ"だったがな)

 

 

 

 

 

『寄生虫のあんたが武偵を辞める理由なんて、どうせ大したことないんでしょっ!!?』

 

 

 

 

 

「…………」

 

思い起こされるあの言葉。

そんな俺に今ある感情は……思いの外、清々しいものだった。

 

(俺は誰かに言ってもらいたかったんだ。 ……責めて、ほしかったんだ)

 

1人じゃ立ち上がれない俺に、手を貸してもらうために。

 

(でもまさか、その相手があのアリアだったとは……)

 

世の中分からないものだ。ホントに。

そして、そんな情けない俺に終止符を打つために殴りに殴った右手と左手。

……正直、かなり痛い。

 

(1番硬いところにぶつけたデコはそんな痛くないのに……。やっぱ遠山家は石頭なのか?)

 

そんなことを考えながら、不自由な両手を動かし、自販機のボタンを押す。

温かいコーヒーとお茶を買い、それを持ってアリアのところに向かう。

 

(……大したことない、ねぇ)

 

兄さんが死に、世間で酷評され、自分の目指した武偵という職業に絶望した。

それが、俺が武偵を辞める理由。

 

 

 

 

 

「……ああ。本当に、"大したことないな"」

 

 

 

 

 

今なら、正々堂々と言える。

兄さんが死んでしまったのは、今でも辛い。

"あの事件"を世間が酷評したことで、家族が……俺が、どれだけ非難されたか。今でも鮮明に覚えている。

辛くないはずはない。

苦しくないはずがない。

だけど、だけれど……。

 

 

 

───今なら、乗り越えられる。

 

 

 

───今まで支えてくれた蒼真と。

 

 

 

───俺のケツを蹴り飛ばしたアリアの。

 

 

 

───2人のお陰で。

 

 

 

(……認めたくはないがな。……だから、あとは‥‥)

 

ようやく前を見れるようになった。

ならばやることは1つだ。

それは……

 

(どうやって蒼真に"あれ"を切り出すか。だな)

 

さて、どうしたものか。

俺は不出来なノーマル頭脳を必死で働かせる。

すると、

 

「バカキンジっ! 遅いじゃないっ! 何してたのよこのうすのろっ!」

 

……デコチビに思考を中断させられた。

どうやらいつのまにかフロントに戻ってきていたようだ。

 

「はいはいご免なさいでした。ほら、コーヒー」

 

アリアの言葉を適当に流し、コーヒーを手渡す。

 

「……ふんっ。ホントにあんたは使えないんだから」

 

そう言ってアリアは缶のプルタブを開け、コーヒーを一口……

 

「っ!? にゅうぅぅぅぅ~~~~っ!!?」

 

奇声を発した。

 

「? どうした?」

 

「こ、こえ……にゅがい‥‥」

 

「は? にゅがい? ……ああ! 苦い! …………あれ?」

 

(……これ、不味いやつじゃ‥‥?)

 

俺がそう思い至った瞬間、

 

 

 

 

 

‥‥ゴッッッ!!!

 

 

 

 

 

「ぐぉっ!!?」

 

……アゴに赤い弾丸(頭突き)がクリティカルヒットした!

 

(な、んつう一撃っ。か、顔の形が変わるっ!!)

 

「なにこれ!? あのときの私への当て付けっ!? せっかく少し見直し‥‥じゃなくてっ! えっと‥‥そうっ! よくもやってくれたわねっ、上等じゃないっ!!」

 

「がっ、つぅ‥‥ま、待てアリアっ! 話を! 話を聞いてくれっ!!」

 

「問・答・無用っ!! 風穴ぁぁぁーーーーっ!!!」

 

「ちょっ、まっっ!!?」

 

 

 

 

 

のああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……───

 

 

 

 

 

……このとき、俺はまた2つ学んだ。

 

1つは、考え事をしながら行動しないこと。

 

もう1つは……

 

 

 

 

 

───アリアは、苦いものがニガテ───




如何でしたか?

今回のキンジもアリアもらしくないですねぇ。
自分で書いてて違和感バリバリですわ。
皆さんはこんな2人どうでしたか?
良ければ意見お願いします!

さてさて、やっと立ち直ったキンジとアリア!
次回はどうなるのか!?
お楽しみにっ!!

では(^-^)/
感想と意見、地平線の果てまで待っています!
これからも応援よろしくお願いいたします!!

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