夜の神は太陽に恋焦がれた   作:黒猫ノ月

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どうもです。


時間が出来たので、早くも投稿です!!

ハイハイ皆様お待たせ致しました!
蒼真とレキの絆、特とご覧あれ!!

では、投稿です。


第17弾 「私は《夜》を護る者」

‥‥サアアァァァァァァ……

 

雨風が弱まり、霧雨になってきたレインボーブリッジ上で、

 

「蒼真っ! 私の指示なくなにやってンのよっ!! ホントアンタは変わってないわねっ! いつもいつも……っ!!」

 

「…………」

 

赤鬼がキレていた。

セグウェイを全て破壊し、こちらに(文字通り)突っ込んでくる紅い弾丸を受け止めて(頭突きて……)から、ずっとアリアは俺に怒鳴り続けている。

 

(……むう、どうしたものか…………ん?)

 

俺が怒れる赤鬼をどう鎮めようと模索していると、ふと、静かになっていることに気付いた。

 

「…………」

 

先程まで喧しかったアリアが、いつのまにか顔を俯かせて黙りこくっていた。

 

「……?」

 

(……どうした?)

 

今も黙っているアリアに、俺が声を掛けようと口を開けた……。

 

「…………そん……り……‥‥‥ら」

 

アリアがいつもより明らかに小さい声で何かを呟いた。

 

「……アリア?」

 

「……そんなに、頼りないかしら」

 

少しずつ、アリアの声が大きくなっていく。

そして、顔を思い切りあげて、俺に叫ぶ。

 

 

 

「そんなに、私は頼りにならないのっ!?」

 

 

 

「……っ」

 

あげられたアリアの顔は、

 

「キンジも、アンタもっ、レキもっ! 私を除け者にして、勝手に進めてっ!!」

 

涙こそ流れてはいなかったが……、

 

「何で私を頼りにしないのっ!? そんなに私は頼りにならないっ!? そんなに……っ‥‥私をっ! 信じられないっ!!?」

 

……心が、泣いていた。

 

「……アリア」

 

「私だって一生懸命がんばってるのっ! キンジに認めてもらえるようにっ!! アンタにっ……"蒼真に頼ってもらえるようにっ"!!」

 

「……!」

 

俺はアリアの叫びに、その"言葉"に、何かを言おうとして、

 

「…………なのにっ、なのに何で‥‥っ‥‥‥‥」

 

「…………」

 

……言葉が出てこなかった。

 

アリアはまた俯き、肩を震わせている。泣いているのかもしれない。

 

(……やって‥‥しまった……)

 

アリアのことを見ていたつもりだった。

けど、全然見ていなかったんだ……俺は。

見ているつもりで、本当は《陽》のことや俺自身のことしか頭になかった。

だからセグウェイが来たとき、俺は真っ先に"俺が標的"だなんて思ってしまったのだろう。

 

(……ゴメンな、アリア。……そして、)

 

 

 

───ありがとう、アリア───

 

 

 

さっきのアリアの……「頼ってほしかった」という言葉。

俺は、いけないと思いながらも喜ばずにはいられなかった。

ひなたが死に、《夜王》となった日から1人になろうとした俺が、頼ってほしいと……必要だと面と向かって言われたのだ。

あのアリアに、だ。

これほど嬉しいことはない。

が、それだけではない。

 

(……少しずつ、近づいてる)

 

俺は確かに成長している妹の姿に、安堵したのだ。

あとは、他人に頼られてほしい、だけではなく、自分が"頼ること"を覚えること。それだけだ。

 

(……がんばれ、アリア。……さて)

 

今はどんな言葉もアリアは聞いてくれないだろう。

 

(……ここは、頭を撫でる。……いや、抱き締めるか?)

 

俺は思ったことを実行しようと、未だに俯くアリアに手を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‥‥ぞぉっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌な気配に、身を震わせた。

 

(……まずいっ!)

 

俺は直感を頼りに、伸ばした手でそのままアリアを突き飛ばす。

 

「きゃっ!」

 

アリアは小さい悲鳴をあげる。

 

 

 

──悪意もなにも感じないが……"空気が震えた"………気がする──

 

 

 

アリアの身体は突き飛ばされて、身体が斜めになり。

 

 

 

──俺の《夜》が何かを捉えた……はずだ──

 

 

 

アリアは雨に濡れた道路に倒れこみ。

 

 

 

──俺は、自分の力を……《夜》を信じる──

 

 

 

………………そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‥‥ッバギュゥウウッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……俺の左肩を、何かが穿った。

 

「……っ……ぐ」

 

"防弾コートをものともせずに"、だ。

 

‥‥ガキンッ!!

 

俺の肩を貫いた何か……弾丸は、勢いを殺さずにアスファルトを削って止まった。

 

("何故だ"っ?)

 

「ちょっと何すん……え…………そ、蒼真……蒼真っ!!?」

 

("何故ここに《陽》がいる"っ?)

 

道路に倒れこんだアリアが、俺の異変に気が付き駆け寄ってくる。

 

(‥‥"奴等"なら、このコートも意味がないっ)

 

「な、何で血がっ……蒼真、蒼真ぁ!!」

 

アリアが俺の穿たれて真っ赤に染まる左肩を抑える。

が、それをやめさせて、俺は駆け寄ってきたアリアを右腕で抱え込む。

 

「…………ぐっ、アリア‥‥掴まってろっ」

 

俺はアリアを抱え、脳天まで突き抜けるような痛みを耐えながら"バスとは反対に"、一気に駆け出す──っ!

 

‥‥ガンッ、ガンッ‥‥ガンッ!!

 

俺達を狙うスナイパーは、的確に走る位置を予想し弾を叩き込んでくる。

 

『「~~っ!~~~~~~っ!!」』

 

俺の側と耳から何か言っているのが聞こえるが、さすがにそれを聴く余裕はない。

 

「‥‥キンジっ、バスを発車させろっ! ‥‥レキっ、ヘリを遠ざけろっ!」

 

俺は一方的にそれだけ言って、ジグザグに走る。

 

‥‥ガンッ‥ガンッ!!

 

俺が一瞬先にいた場所を銃弾が弾ける。

 

‥‥バラバラバラバラ──ッ…………

 

レキが指示通りヘリをここから遠ざけてくれた。

あとは、バスが出るのを待つのみ──!

 

(‥‥あそこ辺りか)

 

その間に、俺は飛んでくる弾の弾道から大体の狙撃場所に辺りをつけるが、

 

(……っ、……とりあえず)

 

右はアリアで塞がり、左はまだ使えない。

これではナイフで対応することも出来ない。

そもそも、立ち止まってしまえば敗北は免れない!

一先ず身を隠さなければ、まな板の上の鯉だな。

 

(‥‥まだか、キンジっ)

 

‥‥ガンッガンッガンッ!!

 

狙撃が単調になってきだした。

どうやら狙撃主は、性格があまり狙撃に向いていない者のようだ。

 

‥‥ブロロロォーー……っ!!

 

遠くでバスが勢いよく発進した音が聴こえる。

キンジは聞き入れてくれたみたいだ。

 

(‥‥よし、これでっ)

 

俺はバスが猛スピードで走り去って行くのを確認して、頭の中で閃いたことを実行するっ!

 

(‥‥っ)

 

左肩がかなり痛むが、気にしてはいられない。

 

‥‥ヒュッッ!!

 

俺の顔の横を銃弾が横切る。

俺は痛みの感覚を押し殺し、

 

(‥‥っ)

 

「‥‥っ!」

 

ギッと歯を食い縛り、全力で走り抜く──っ!!

 

‥‥ガンッガンッガンッガンッ!!

 

さっきよりも後ろの方で銃弾が弾ける音がする。

そして俺はバスと充分距離を空けたことを確認したら、そのままフェイントを含めて、右に逸れる。

そして、

 

「‥‥ぎっ」

 

(‥‥っっっ!!)

 

激痛に耐えながら、レインボーブリッジの欄干に左手をつき、そのまま……っ!

 

 

 

 

 

「っっきゃーーーーっ!!?」

 

 

 

 

 

アリアの悲鳴を連れて、…………レインボーブリッジを飛び降りた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「……ク、クククっ‥‥クハハハハハハっっ!!」

 

とあるビルの最上階付近のビジネスルーム。

そこに、聴くだけで不快になる高笑いが木霊する。

 

その部屋は何十畳もあり、床には一目で高級だと分かる赤いカーペット。

そしてその奥では、真ん中に《○○コーポレーション"社長" ■■ ■■》と書かれたネームプレートが鎮座している社長デスクがあり、その椅子には初老の男性が座っている。

が、笑い声の主はこの人物ではない。

その男性はすでに意識はなく、生死は分からない。

 

「いいぜいいぜいいぜーっ! あの《夜王》をっ! この俺がっ! 貫いてやったぜーーーっ!!」

 

さらに木霊する不快な声。

それは、社長デスクの隣にある、レインボーブリッジを見渡せる大窓がある場所から聴こえる。

 

その声の主は……陽神 朱美。

 

たった今、アリアを狙い、蒼真の左肩を撃ち抜いた人物だ。

 

「あああっ!! このいたぶる感覚っ!! たまんねぇーなぁおい!!」

 

朱美は頬を真っ赤にそめ、顔をとろけさせて身悶える。

 

「だが、まだだっ! こんなんじゃ終われねぇぞぉっ! 夜神 蒼真っ!! もっともっともっとテメェをいたぶらねぇーと気が済まねぇんだよーーーっ!!!」

 

さっきまで悶えていたのに、次の瞬間には鬼の形相を浮かべながら絶叫する。

 

「早く出てこいよぉ。さもねぇと……カワイイカワイイ生徒ちゃんを殺しちゃうぞっ♪ ギャハハハハハハハっっ!!!」

 

彼女は特注のスナイプライフルのスコープを覗く。

そこは、晴れならば一面を素晴らしい景色が広がっているのだろう。

だが、今は霧に……下りてきた雲に覆われて、外は何も見えない。

それでも彼女には狙撃するのに何も支障は来さない。

 

 

 

 

 

何故ならば、彼女は《陽》なのだから。

 

 

 

 

 

そして、彼女が狙うその標準は……猛スピードで走り抜けるバスの中で、何かを叫んでいる武装した男子に狙いを定めていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「おい、おいっ!! 返事しやがれ蒼真っ!!」

 

異変に気付き、窓が割れた後部座席から外を見た俺は……アリアを抱え、バスから遠ざかりながら走り回る蒼真を見つけた。

 

『‥‥キンジっ、バスを発車させろっ! ‥‥レキっ、ヘリを遠ざけろっ!』

 

「おいっ、どういうことだっ!? 蒼真っ、おいっ!!」

 

俺の言葉を無視し、蒼真は本当に余裕のない声でそれだけを言って、また沈黙した。

俺はクソッと舌打ちし、状況確認のために蒼真がいる方を見やる。

と、その視界の端で、ヘリが遠ざかっていくのが見えた。

レキは蒼真の言う通りにしたらしい。

 

「一体、何が起こってやがるっ!?」

 

俺は周りで騒ぐ生徒を無視し、状況把握に努める。

すると、

 

‥‥ガンッガンッガンッ!!

 

蒼真が踊るように走り回る場所で、何かが道路を穿つ火花が見え、音が響いてきた。

 

(‥‥アイツ、狙撃されてるのかっ!!?)

 

俺はやっと何が起こったのかを確認して、前にいる武藤に、

 

「おい武藤っ! バスを発車させろっ!! 今すぐっ!!」

 

「え、おいどういう……」

 

「いいから早くっ!!」

 

「わ、分かったっ!! 任せろっ!!」

 

武藤はそう言って、運転席の方に生徒を掻き分けて向かう。

 

その間に、俺は生徒に再度呼び掛ける。

 

「みんなっ!! まだ終わっていないっ! だからまだ伏せていてくれっ! 頼むっ!!」

 

‥‥ブルンッブロロロッ!!

 

俺の声に伏せながらざわめく車内で、エンジンがかかりバスは急発進する。

 

そして、俺は蒼真から遠ざかるバスの中で……見てしまったのだ。

アイツは……あろうことか、

 

 

 

 

 

ここから……レインボーブリッジから飛び降りたのだ。

 

 

 

 

 

それからしばらく叫び続けるが、蒼真の応答がない。

 

「っっくそがぁっ!!」

 

俺は拳を握り、それを思い切り壁に叩きつける!

 

‥‥ドンッッ!!

 

「ひっ!?」「お、おい‥‥どうしたんだよキンジ?」「お、落ち着けよ‥‥なっ?」「‥‥何かあったの?」

「‥‥どうやら夜神に何かあったらしい」「嘘っ!?」

 

俺の蒼真を呼ぶ声と怒声、そして壁を殴った音に周りのみんながざわめきだす。

 

(クソックソックソォッ……くそぉ…………)

 

……俺はっ‥‥‥‥俺は……なにしてんだよ、チクショウ…………。

 

叩きつけた拳を強く‥‥強く握りしめる。

 

 

 

『キンジさん』

 

 

 

自分の情けなさをどこまでも痛感していると、インカムからレキが俺を読んだ。

 

「っレキっ、蒼真は‥‥蒼真は大丈夫なのかっ!?」

 

俺は叫びながらレキに問う。

 

 

 

 

 

『はい』

 

 

 

 

 

レキは確かにそう、答えた。

 

(……蒼真のバカ野郎がっ!!)

 

「‥‥どういう状況か説明してくれるか?」

 

俺は一瞬安堵するが、そうしてもいられない。

すぐレキに今の状況を問いかける。

 

『その前にしゃがんで下さい。狙われる可能性があります』

 

「分かった」

 

俺は言う通りにしゃがんで、続きを促す。

 

『では、…………!』

 

「? どうした?」

 

レキは何かを言おうとして、突然黙りこんだ。

すると、

 

 

 

 

 

『……悪いキンジ。……待たせたな』

 

 

 

 

 

切られていたインカムから、あんちくしょうの声が聞こえた。

 

「‥‥バカ野郎が、なにしてんだよ」

 

本当のバカ野郎は俺なのだが、それでも何かをぶつけなければ気が済まなかった。

 

『……狙撃から逸れるため‥‥下層道路に隠れた』

 

(……忘れてた。そういえば下があったな……)

 

なるほど、確かに隠れるにはうってつけだな。

俺は言葉を続けようとして、

 

 

 

 

 

『ちょっと蒼真っ! 動かないで、止血出来ないわっ』

 

 

 

 

 

少し遠くから聴こえるアリアの震える声。

 

(そういえばっ!!)

 

「そうだ蒼真っ! お前ケガは!? 大丈夫なのかっ!?」

 

飛び降りたことに頭が一杯で忘れていた。

アイツ、撃たれてたんだった!

 

『……アリア、いい。……今は余裕がない』

 

『なに言ってるのっ! 血が全然止まらないじゃないっ!? それに相当痛いはずよっ!! なのに……っ!!』

 

『……アリア、キンジ‥‥聞け』

 

アリアの静止の声も、インカム越しからでも分かる蒼真の有無を言わせぬ声に、アリアが黙る。

 

「……なんだ蒼真」

 

黙るアリアに変わり、俺が蒼真に尋ねる。

蒼真は撃たれてるにも係わらず、いつもの調子で告げた。

 

 

 

 

 

『……この事件‥‥《陽》が関わっている』

 

 

 

 

 

「『‥‥なっ!!?』」

 

蒼真は信じられないことを告げ、俺とアリアはまたハモって驚愕した。

 

(……待てよ?)

 

もしかして、アイツが隠してたことってこの事か?

 

『蒼真、アンタまさか……っ!』

 

『……話は後だ。……キンジ、バスは今どうだ?』

 

アリアも何かに気が付いたようだが、蒼真は意に介さない。

俺も気になることはあとで聞くことにして、今はやるべきことをやる。

 

「もう少しでレインボーブリッジを抜ける」

 

『……分かった。……こちらは任せろ』

 

「どうする気だ?」

 

 

 

 

 

『……レキと‥‥"繋がる"』

 

 

 

 

 

その言葉に、俺は納得する。

 

「そうか‥‥。ちゃんと落とし前つけろよ」

 

『ああ』

 

(溜めなしの返事……。もう安心だな)

 

蒼真が溜めて話さないときは、自信ややる気に満ちている証拠だ。

 

『……奴等のことだ‥‥早くしないと、お前らを狙う』

 

(‥‥‥‥確かに)

 

……………………。

 

(つかヤバイぞそれっ!?)

 

俺は蒼真の言葉に納得し、瞬間メチャクチャ焦る。

 

「そういうことは早く言えや!! アイツらの氣が篭った銃弾なんか食らったら即死ぬぞっ!?」

 

俺は知っている。

氣が篭った武器の前では、装備など紙に等しいことを──っ!

 

(だからバスとヘリを遠ざけたのかっ!)

 

氣の篭った弾丸は、バスやヘリの装甲を軽々と貫く。

俺は焦りに焦り、武藤に叫ぶっ!

 

「武藤っ! もっと飛ばせっ!!」

 

「これでも精一杯だっ! ていうか俺……」

 

「うるせぇっ! 死にたくなかったら言う通りにしろっ!!」

 

「ら、ラジャーっ!!!」

 

俺の気迫に武藤はバスの速度を上げる。

 

「ということで蒼真っ! 早くなんとかして下さいお願いしますっ!!」

 

『……了解』

 

蒼真は俺の情けない返事を聞いて、インカムを切った。

 

「……頼むぞ‥‥蒼真、レキ」

 

俺は口に出して言うが、それほど心配していない。

なんせ……、

 

 

 

 

 

───あの2人が組んで、負けることなどあり得ないからな───

 

 

 

 

 

俺はそう思い、胸に黒い感情を残したまま……全力で身体を伏せさせた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「……さて」

 

俺はキンジとの通話を終え、狙撃手を潰すために上に向かう。

 

 

 

 

 

「……待ちなさい蒼真っ!!」

 

 

 

 

 

……否。向かおうとして、アリアに止められた。

 

「……アリア、時間が」

 

「そんなこと分かってるっ!! ……だから1つだけ聞かせなさい」

 

アリアはそう言って顔を俯かせたまま、俺の血に濡れたコートをキュっと掴む。

そして、顔を上げて……

 

 

 

 

 

「……私って、頼りにならない‥‥‥‥?」

 

 

 

 

 

アリアは今にも泣きそうな顔で、そう呟いた。

 

普通なら今の状況が理解出来ないのか、と誰もが言うだろう。

だけど、今のアリアにとって……これは死活問題なのだ。

おそらく、今後の武偵活動に支障を来すほどの。

 

(……だが、本当に時間がない)

 

だから俺は……

 

 

 

 

 

「‥‥きゃっ」

 

‥‥ぎゅうぅぅぅっ……

 

 

 

 

 

痛む肩を無視して、気持ちを込めて強くアリアを抱き締めた。

 

「そ、蒼真っ!? え、えっと……」

 

「……そんなことない」

 

そして俺が声に出して言い、それが嘘ではないと言う意味を込めて抱く力を込める。

 

「そ、うま……」

 

「‥‥そんなことないぞ、アリア」

 

俺はアリアもう一度だけ言うと、

 

‥‥ぎゅうぅぅぅっ……

 

返事代わりに、アリアも俺に負けないくらい抱き返す。

 

「……分かったな?」

 

「‥‥うん、うんっ」

 

そして、了承得て身体を離しアリアの頭をヘルメット越しにぐりぐりする。

 

「……あとで話そう。……行ってくる」

 

「‥‥分かった。気を付けなさいよ、蒼真」

 

「ああ」

 

俺は力強く頷いて、アリアに背を向ける。

そして、今まで黙って見ていてくれていた相棒に声をかける。

 

「……待たせたな、レキ。……"繋がる"ぞ?」

 

『はい、蒼真さん。いつでも構いません』

 

そして、俺は一気に……

 

 

 

 

 

‥‥〈空間の氣〉を、ある一点に絞って広げる。

 

 

 

 

 

それは狙撃手がいると思われる方向。

先程、逃げ回っている間に銃弾が飛んできた方向だ。

そして俺は〈空間の氣〉を広げたまま、左右のブーツからナイフを取り出し、そして……!

 

 

 

 

 

「……『我が《夜》に魅入られし永遠の奴隷よ。今ここに、我が《夜》を授けん』」

 

 

 

 

 

俺がその言葉を発した。

瞬間。

 

 

 

 

 

‥‥コオオォォォォ……

 

 

 

 

 

俺の胸の中心で黒い光が淡く輝き、

 

 

 

 

 

‥‥ゾォンッ!!

 

 

 

 

 

遠くで、確かに《夜》を感じた。

 

〔蒼真さん、お願いします〕

 

〔分かった〕

 

頭の中にレキの声が響き、それを聞いた俺は一気に高速道路上にかけ上がる──!

そして俺が欄干に手を掛け、道路に身体を乗り出すとすぐに、

 

‥‥ガンッガンッ!!

 

俺のすぐ側を銃弾が掠める。

 

「……お遊びもここまでだ‥‥覚悟しろ」

 

俺は広げたままにしてあった〈空間の氣〉で、大きなビル群が並ぶ……狙撃手がいるであろう方向を上から少しずつ下に向かうよう意識を集中する。

"探る"のではなく、ただ少しずつ意識を下に向かわせて。

 

(……探るのは、レキがやってくれる)

 

そして、それに平行して……

 

‥‥ギイィィンッ、ガイィンっ!!

 

両手に持ったナイフに"淡い青黒色"の氣を纏わせて、左脚と右肩に飛んできた銃弾を、切り上げ、切り下ろし……一息に切り捨てた。

 

 

レキがキンジに説明しようとしたとき……

 

〔レキ〕

 

俺は、俺とレキだけが使える……所謂テレパシーを使い、レキに呼び掛ける。

 

〔なんですか?〕

 

〔狙撃手の居場所は分かるか?〕

 

〔……いいえ。大体の場所は分かりますが、下りてきた雲が邪魔をして、詳しい場所が把握出来ません〕

 

〔やはりか〕

 

確かに、狙撃手がいるであろう場所には雨雲が降りてきていて、俺も見えなかったのだ。

ダメもとで聞いてみたら、案の定流石のレキでも駄目だったか。

だから俺は、〈空間の氣〉を広げたのだが……

 

〔俺は《陽》の氣が込められた銃弾で撃たれた〕

 

〔相手が《陽》ならば、あちらからはこちらが筒抜けですね〕

 

〔ああ。だが気になるのはそこじゃない〕

 

〔"見つけられない"んですね〕

 

〔その通りだ〕

 

そうなのだ。

相手が《陽》なら絶対に分かるはずなのに、俺の網に引っ掛からないのだ。

 

〔だが、今は四の五の言ってる時じゃない。……レキ〕

 

〔はい〕

 

しかし、心配はない。

 

〔俺"だけ"では無理だ〕

 

〔はい〕

 

不安はない。

 

何故ならば、

 

 

 

 

 

〔手を貸してくれ。お前の力が必要だ〕

 

〔はい、貴方の望むままに〕

 

 

 

 

 

今の俺には最高のパートナーがいるから。

 

〔ありがとう〕

 

俺はレキに感謝の言葉を言って、作戦会議に移る。

 

〔……なら、俺は〈空間の氣〉を広げる〕

 

〔そして、蒼真さんが私との《契約》の"繋がり"を開き〕

 

〔俺は氣を広げたままヤツの視界に入り〕

 

〔蒼真さんが時間を稼ぐ〕

 

〔その間に、レキが俺の〈空間の氣〉から狙撃手を探し当てる〕

 

〔蒼真さんが見つけられなくても、私が必ず見つけます〕

 

〔レキが狙撃手を見つけたら〕

 

〔"繋がり"により、扱えるようになった《夜》の氣を込めた銃弾を〕

 

 

 

 

 

〔〔敵の眉間に叩き込む〕〕

 

 

 

 

 

俺とレキは阿吽の呼吸で一気に作戦を練り上げる。

 

〔不甲斐ない俺に代わって頼むぞ、レキ〕

 

〔はい。ご褒美を楽しみにしています、蒼真さん〕

 

ちゃっかりしている相棒に苦笑し、俺は意識を現実に引き戻し、キンジに声をかけた。

 

 

‥‥ヒュンッ、ヒュヒュンッ!!

 

‥‥ギイィンッ!!

 

俺は〈空間の氣〉をコントロールしながら、眉間に飛んできた銃弾を右のナイフで切り上げ、両足を狙ったものは後ろに飛んで回避する。

 

(……あれから3分。……よく弾がもつものだ)

 

相手もやはりバカではないようで、たまに間を開けてフェイントで撃ち込んでくる。

 

(……大分"慣れてきた")

 

どういう理屈か分からないが、相手には俺が察知できないようにした〈何か〉があるらしい。

が、もはや関係ない。

〈空間の氣〉を使わなくとも、後顧の憂いがない今飛んでくる方向が分かっているのだ。

後は直感と視覚、風を切る音などで見切れる。

だから、

 

(……俺に‥‥俺達に敗北はない)

 

‥‥ガギンッ、ガギギィンッ!!

 

そして俺が額と腹に飛んできた銃弾を、左で額を狙う銃弾を凪ぎ払い、腹に向かってきたものは峰で弾いたところで、

 

 

 

 

 

〔蒼真さん、見つけました〕

 

 

 

 

 

レキからの発見報告が届いた。

 

〔いけるな?〕

 

〔問題ありません〕

 

〔なら頼む〕

 

〔はい〕

 

やり取りを終え、一瞬の間の後、俺の背後‥‥遠くから、

 

‥‥‥‥ァラバラバラバラバラァァァ…………ッ!!

 

と、ドップラー音を残し、ヘリが俺の頭上を一気に駆け抜ける──っ!

そして、

 

 

 

 

 

『───私は《夜》を護る者───』

 

 

 

 

 

インカム越しにレキの詩の朗読が始まる。

と同時に、俺のところに3発の銃弾がタイミングをずらして向かってくる。

 

先ず1つ目。

胸の中心を狙った銃弾を右のナイフで切り上げ、

 

『《夜》に紛れ、《夜》を纏い、どこまでも《夜》と共に駆けていく』

 

2つ目。

左のナイフで叩き落とし、

 

3つ目。

その叩き落としたままの姿勢で待機。

 

‥‥ヒュゥンッ!!

 

俺の顔のすぐ横を銃弾が通りすぎ……、

 

‥‥ガギンッ!!

 

後ろのアスファルトを穿った。

 

 

 

 

 

『───私は《夜》を護る者───』

 

 

 

 

 

レキは繋がった時用の詩を謳い終え、

 

‥‥パァンパァンッ!!

 

その後に、前方でレキのドラグノフが火を吹く音が聞こえて……しばらく‥‥‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目標、撃破。これより追撃を開始します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インカムから、レキの作戦成功の報告を聞いた。

 

「……ありがとう、レキ」

 

俺はそれだけ言って、インカムを切る。

 

‥‥ザアアァァァァァァ……

 

また少しずつ強くなる雨。

 

「…………」

 

俺は空を見上げ、その場に立ち尽くす。

雨は俺の血を洗い流すが、流血は止まらない。

 

「……なあ」

 

そして俺は一言呟き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……満足か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‥‥グチュギギギュゥゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‥‥バ、チャンっ…………

 

俺の、身体が…………倒れる。

 

‥‥ザアアァァァァァァ…………

 

冷たい雨が、俺を容赦なく打つ。

 

俺は、なにかが抜けていくのを感じなから、目を瞑る。

 

そして、そして、そして…………。

 

 

 

 

 

世界に静寂が戻った。




如何でしたか?

フェイントーーーっ!
ま・さ・か・の・フェイントーーーーっ!!

……ゴホンッ。失礼しました。
ノリにノった筆で、一気に書き上げてしまいました(テヘッ♪
次回は多分時間かかります。ご了承下さいませ。

ではでは(^-^)/
感想と意見、案などをお待ちしております!
切に、切にです!!
これからも応援よろしくお願いいたします!!

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