私はテキトーに、そんなに勉強しなくても行ける大学に行ったので必死な受験生を見ていると不思議な気分になります。
家で、即席ラーメンの余ったスープを使って一人しゃぶしゃぶしたら何かお腹壊しました。
「姉様ー。第三捜査班、全滅だって……」
「なんだって!?捕まえられないばかりか、全滅!?」
「攻め急いで突出したところを的にされたみたい」
「くそっ!落とし穴とか薬物散布とか、アイツ等、卑怯すぎだぞ!…………で、奴らは大体どの辺りに居るんだ?」
「それが、そのまま見失っちゃって……」
「ちっ……またもう一度、捜査網を広げないと」
「これが鑑惺と夏侯淵の実力……やはり、一筋縄ではいかないわね」
「ああ。だけど、鑑惺は母様の仇だ。何が何でも倒さなきゃならない。それに、アイツ等を倒せば、曹操にとっては大きな痛手になる。しばらくは南蛮討伐の邪魔もして来ないだろ」
「だと良いのだけれど……翠ちゃん。少し、慌てすぎではなくて?」
「慌ててなんかいないってば。……ここまで引き付けたんだ。連中を仕留めるなら今しか無いだろ」
「うん!おば様のためにも頑張らないと!」
「ああもう、あたしが行こうかな……」
「はぁ……お待ちなさい。もう日が暮れてしまうわ。ただでさえこの手こずり様なのに、暗くなってから突っ込んでも自殺行為よ」
「う……」
「夏侯淵の弓の腕では、この森の暗さでも狙ったところに寸分違わず当ててくるでしょうし、罠の危険度も増すでしょう」
「そっか……姉様」
「うー」
「相手の伝令は今のところ全て捕らえているわ。援軍は来ない。だから、歩兵部隊が連中を燻り出すのを待ちなさい。山の中にそう何日も篭っていられるはずは無いわ。二、三日の内に、必ず麓の平原まで降りてくる。そのときこそ、貴女たちの機動力の出番よ」
――――――――――――――――――――――――――――
「敵が不憫で飯が旨いのじゃ」
「なんだろうか。もう、ここで暮らせそうなんだが」
「元々持ってきとった食糧に種々の山の幸が合わさって最強に見える」
「綺麗な川もあったしのぉ」
「それに、援軍の方も問題無しですしねー。打ち合わせ通り、夜中に山の一部を焼きました」
「ちゃんと応答有ったか?」
「はいー。ばっちりですよ。ついでに隠蔽工作も」
「これで援軍は確保できたか」
「どないする?これで、適当に移動しつつ篭っとけば多分もう負けは無いやろけど」
「はい篭もりましょう!……と、言いたいところなんですが、ここは打って出ます」
「何故じゃ?山の中の方が有利なのじゃろ?」
「有利は有利ですけどー、相手が発狂して焼き討ちでもしてきたら大変じゃないですかー」
「あー、そらヤバイわぁ……」
「だが、出たとしてどう戦うのだ?相手はこちらが山から出るのを待ち構えているだろう。兵数も今のところこちらが劣っているぞ?」
「でも、向こうには明らかな弱点がありますので。そこを突けば……」
「……策が有るのだな」
「ええ。ちょーっと聆さんに頑張ってもらわないといけませんけどねー」
――――――――――――――――――――――――――――
「まだ奴らは見つからないのか!」
定軍山麓の平原。今日何度目かの怒声が響く。この定軍山の計、既に二日目の昼頃にまで達していた。二日目、というのは罠に魏軍が掛かってからの数えである。実際の潜伏期間はもっと長い。もう半月にもなるだろうか。
故に、敵が掛かった喜びは大きく、それを仕留められない焦りと落胆は大きい。
「慎重に捜しているのだから仕方のないことよ」
「でもなぁ!昨日の夕方から今の今までの敵状報告が『飯の美味そうな匂いがする。どうやら食事をとっているらしい』だけって何だよ!」
魏軍の暢気とも言える態度もまた、馬超の神経を逆なでする。昨晩の小火も、どうやら調理中に起こった事故らしい。焼跡からいくらかの魚の骨が見つかった。「夜は攻めては来れまい」と高を括っているのがありありとうかんでくる。
「私が出た方がいいのかしら……」
「昨日はあたしに『行くな』って言ったくせに」
「あれは、もう日没前で、貴女達が山に不向きな騎馬隊だからよ。私達は弓兵隊だし、それに、私が居れば索敵範囲において負けることはそうそう無いわ」
と、言いながら、黄忠は自分の言葉に違和感を感じる。「山に待ち伏せて敵を翻弄するのは自分達の方ではなかったのか?」と。
そして、今更ながら、背中にざわざわと冷たい感覚がのぼってくる。幾多の戦いを経験した勘が俄に騒ぎ出す。「この戦いは"終わっている"のではないか?」と。
(策の中に在って、その策に敵を、仕掛けた本人すら引きずり込む……"蛇鬼"鑑嵬媼、そしてそれを可能にする魏の兵。……朱里ちゃんの言うとおり、只者ではないわね)
そう、心の中で、重々しく呟く。口に出せば、この隣にいる若い将の癇癪が爆発しそうだったから。新たに捜索隊の準備をしつつ、溜息。本来ならば、隣には厳顔が居たはずだったと。それなのに、「母様の仇が討ちたい。打てないにしろ、この手で一泡吹かせてやりたい」と申し出たのだ。それを、情に厚い劉備たち、古参の将が聞き入れた。その情によって蜀は存在しているのは理解しているが、山間部……それもここのような、森林が発達した山での待ち伏せなど、弓兵隊が強いに決まっている。逆に騎馬隊では満足に動くことすらできない。そして何より、そういう不満を吐き出せるような相手がこの場にいないという状況が黄忠を疲労させた。
「じゃあ、行ってくるわね」
「……おう」
「いってらっしゃーい」
ともかく、捜索隊を新たに組織し、打って出る。
その時だった。
「おい、見ろ!やっと掛かったみたいだぞ!」
馬超の声に、山の麓へ視線を向けた黄忠の目に映ったのは、蜀兵と交戦しつつ山を降りてく魏軍だった。
「よし!こっちからも突っ込んで一気に潰しちまうぞ!行くぞ!たんぽぽ!」
「うん!みんな、行っくよー!!」
「「「おおおおおぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉッッ」」」
「待って!!」
色めき立ったのもつかの間。ただ事ではない黄忠の声に、蜀軍は再び静まり返る。
「何だよ……せっかく機が巡ってきたんだ。逃さないように、こっちからも畳み掛けるべきだろ!?」
「違うの……これは、罠よ」
弓兵……それも、大陸一、二と言われる弓の名手の眼は、魏の策略を見透した。
「あの、山を降りてくる蜀軍と魏軍……交戦はしてるけど……どちらにも死人が出ていないわ」
黄忠「勝った!第十一章 完!」