デートイベント終了。
これでやっと本編に戻れますね。
次回からは
七乃さん無双
開 幕 だ
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「やー、結構買ぉたなぁ」
あれから、服屋街を少しずつ北に移動しながらたくさんの店を見て廻った。買った服は城に送ってもらうようにしたから、荷物自体はあまり増えてないけど……、いや、だからこそ、ついついいっぱい買っちゃったんだよな。
「何か悪いな。俺の方が楽しませてもらっちゃってて」
「私は着せ替え人形ちゃうで……もぉ」
たくさん買った理由にはもう一つ。聆が大抵の服を着こなしてしまう、ってのもある。
「聆に着てもらうって思うとさ、何か張り切っちゃって」
「そーゆーこと誰にでも言うとーと思ったら複雑やわぁ」
「誰にでもってわけじゃないんだけどなぁ……」
「もー……そこは、私だけにしか言わん、ってはっきり言ぅてくれるとこやろ」
「ご、ごめん……」
「隊長の人柄からしたら、しゃーないんやろけどな……。あ、そろそろお腹すかん?ご飯代くらいこっち出すわ」
「いや、俺が出すよ。さっきは俺が振り回す形になっちゃったし。聆は何か食べたい物、ある?」
「うーん、汁跳んだり臭いキツいんはアレやから……」
と、真新しいニット生地を撫でながら呟く。良かった。結構気に入ってくれてるのかな。
「やっぱ焼き系の点心とかやな」
「点心か。じゃああそこがいいかもな……」
東地区に最近できた飲茶屋が、落ち着いた雰囲気で料理が美味しいって評判だからそこにしよう。ちょっと値が張るみたいだけど……聆にはいつもお世話になってる(?)し、そのくらい良っか。
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「むぐ……美味いな!これは。もぐ……んぐ、むぐ………」
「そうですね!春蘭様!はむ……もぐ、もぐ………」
「姉者、もう少しゆっくり食べてはどうだ?そう急いで食べずとも、誰も盗りはしないぞ?」
「季衣も!そんなにぽいぽい口の中に肉饅詰め込んでると喉に詰まるよ?」
「ふん。甘いな秋蘭。盗られはしないかも……ングしれんが、売り切れてしまうかもしれんではないか……もぐ」
「流琉は心配症だなー。ボクが、喉に詰まらせるなんてドジ――んググ!?」
「言い終わらないうちから!?」
「ほら季衣、茶だ」
「ゴクゴクゴク……ッッぷはぁっ!喉に詰まってもお茶が有るから良いよね?」
「飲茶のお茶はこんなことのためにあるんじゃないよ……」
「えへへ、ごめ〜ん」
「季衣にもそろそろ作法の学習をさせた方が良いか」
「そうですね……。周りの目も気になりますし」
「あぁ。こういう静かな店では特に……おや?」
「どうした秋蘭……お、アレは北郷ではないか」
「あ、ホントだ!聆ちゃんも来た!おーiもガガ!?」
「(しーっ!ジャマしちゃダメだよ季衣)」
「(お、おい……何だあの聆の服装は……?)」
「(ん?よく似合っているではないか。どうしたというのだ、姉者)」
「(いや、確かに似合ってはいるが……)」
「(兄様と聆さん、楽しそうですねぇ)」
「(『仲睦まじい』とはこのことだな)」
「(聆なのか?あれは本当に聆なのか!?)」
「(あ、聆さんが兄様の口元を拭いてあげてますよ!)」
「(肉饅が急に甘くなったんだが……)」
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「思った以上に旨かったな」
「肉饅売り切れとったんは残念やったけどな」
「それはまぁ、な。でも代わりにたのんだ焼売もなかなかだったろ?」
「あの海老焼売な。あれ好きやわぁ……ってか海老が好きや」
「じゃあ今度流琉に何か作ってもらおうか。海老料理」
「料理自体は自分でも出来るんやけど、殻剥きがめんどいわ。牛とか熊とかの解体やったらスッキリするから良えんやけど海老はなぁ。クシャクシャしてイラッとするやん」
あー、そう言えば俺も同じような理由で、蟹が「好きだけど嫌い」だった。
「じゃあ俺が剥こうか?」
「カッコ意味深」
「やめろ!」
「くくく……。五十匹とか百匹とか、心乱さんとやれる?」
「どんだけ喰うつもりだよ」
「他人が剥いてくれるんやったらそんくらい軽いやん?」
「『やん?』って言われてもな」
「まーそれはまた今度の楽しみとして、これからどこ行くー?」
「うーん、本屋とかは聆が普段から行ってるしな」
普通なら、どんな本が好きかとか、本についての感想とかで盛り上がるんだけど、聆と俺とじゃ知識量が違いすぎるしな。
「あ、そー言や最近 隊商が来てたっけ」
「警備隊に連絡来とったな」
「そ。たしか羅馬からだったよな。それ、行ってみないか?」
「良えな。西地区の広場やったっけ」
「え、西地区か。ちょっと遠いな……」
「散歩がてらゆっくり行ったら気にならんやろ」
「それもそっか」
べつに、スケジュールをイベントで埋め尽くすこともないもんな。
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「ほう……なかなか珍妙な品が揃っているな」
「ええそりゃあもう。なんせ西方何万里ともつかねェ国々から集まった品でごぜェやすから」
「アタシは何度か見たことが有るものも多いが……やっぱこっちじゃ珍しいのか?」
「大商人とか豪族貴族の家には結構有るけど、こう気楽に露天で見るんは、ウチは初めてやな」
「ここ十何年かは国が荒れてやしたからねェ。でも最近西涼からここまでの街道が整備されて、治安も前に増して良くなったんで」
「小規模な商隊もここまで来られるようになったということか」
「ここまで完璧に統治されるとアタシの元頭目のメンツが……」
「なに、寿成の力もあってのことだ。気にするな」
「……うーん、でも西涼から羅馬まではこっから西涼までの何倍も有るやんな?そんな変わるもんなん?」
「羅馬から魏の間に通る国は交易が要だから保護が手厚いんだ。……そうだよな?確か」
「へい。それに見通しの効く道が多いんで。……これからはもっと増えると思いやすよ。こっちの新しい服とか美術品は向こうでも大受け間違いなしですからねェ。……ほら、向こうのあの女の人が着てるような」
「うん?………うん!?」
「え!?」
「いやいやいや、まさか、えーーー」
「どうしたんですかィ?……確かに少し……いやかなり背が高い気がしやすけど」
「そうやない……そうやないんや………」
「嵬媼か?……嵬媼だよな………」
「お、おい、それより、こっちに来るぞ!」
「うぇ!?あ、ほな、おっちゃん、またなっ」
「へ、へい。…………Nescio quare」
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「んー、もぉさすがに無理かな」
不満げに銀のネックレスをいじりながら聆が呟く。
「うん。俺もそう思ってたんだ」
デート自体は凄く上手くいったんだけど……。商隊でアクセサリーを見た後、演劇を観賞したり、屋台を食べ歩きしたり。大道芸を見てたらなぜか聆と芸人との技比べが始まるなんてパプニング(聆の 全関節パージ→不思議な踊り で圧勝)も有りつつ、とても楽しく過ごしていた。
けど、途中から背後が気になって仕方なくなった。俺たちが移動する度に、十何人もの気配がザザザッと動く。そっと後ろを見ると、曲がり角から長いお下げが飛び出し……看板のかげからアンテナのような髪が飛び出し……。ちょっと手をつなごうともするとドヨヨっとばかりにざわめく。もう、雰囲気がどうとかの問題じゃない。
「聆はいつから気づいてた?」
「……朝、出るときから」
「え、その時点でもう居たのか」
「少なかったけどなー」
「俺はお昼過ぎから薄々……」
「あーあ。揃いも揃って無粋な奴らやで」
「どうする?頑張って撒こうか?」
「それこそ大騒ぎされるやろ。そろそろええ時間やし、大人しーに帰ろ」
「聆とのせっかくのデートだったのにな」
「言うて結構やり尽くした感有るけどな。……あとはもぉ、さすがに、なぁ?」
「ナンダローユウショクトカカナー」
うぅ……考えると悔しすぎる………。
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「じゃ、また明日」
「おー。今日の分の書類仕事とか溜まっとるやろから気合い入れ直さなな」
「やっぱ真っ先に仕事のことなんだな」
「何?次のデートの算段でもして欲しかった?」
「割と」
「おお、素直」
「意地張ってもしかたないしな」
「んだら戦争が終わった次の日から十日間ほど予約しとこっかな?……あ、これって『死亡フラグ』?」
「死亡フラグって自分で言ったからセーフ……大丈夫だ」
「ふふ……逆に生存が確定したかもな。……じゃあ、ちょい早いけど、お休みー」
「ああ。お休み」
くそう。あっさり終わってしまった。それもこれも、今「さて、私たちも部屋に帰るか」みたいな雰囲気を出しているあいつらのせいだよ全くもうプンプン。……しかたない。俺もさっさと部屋に帰ってふて寝――
「……!」
不意に甘い香りに包まれ、次の瞬間には柔らかくて暖かいものが唇に触れた。それが聆の唇だと気づいたのは、心地良い感覚が離れた後。
一瞬のことだった。
「今日は、ありがとぉな」
そして、踵を返してさっさと行ってしまう。
明日は忙しいってのに、悶々としたこの気持ちはどうすればいいのさ……。
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