哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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オリエンテーリングがくっそ長かったので、拠点フェイズを一話分省略しました。
多分ですけど、西涼編<オリエンテーリングになりそうな雰囲気がします。


第十章一節

 「――己は最後まで漢の臣である。……それが、馬騰のこちらに対する回答でした」

 

春蘭が西涼への遣いから戻った次の日。同行した風からより詳しい報告がなされた。

 

「そう。予想はできていたけど、残念ね。……で、馬騰はどういう人物だった?」

 

そういえば馬騰って人、反董卓連合の時は西方の牽制があるとかで、参加してなかったんだっけ。物語と言うか、歴史としての三国志に馴染の深い現代人としては、西涼談義で馬超より馬騰が先に出るのに違和感がある。この段階では馬騰の方が実績があるから同じ時代の人からすれば馬超なんか大したことないんだろうけど。

 

「はい。公平にして勇敢、一言で表すなら『分別がある華雄さん』でしょうか〜?」

「おい程昱!それでは私に分別がないようではないか!」

「風、私の中の馬騰像が少し残念なものになってしまったのだけれど」

「これは怒っていいよな?私」

「まぁ、それはさておき、五胡の間にも勇名を轟かす豪傑……噂に違わない、高潔な人物という印象を受けましたー」

「それを聞いて安心したわ。馬騰……やはり、惜しいわね」

「西方の蛮族を相手にしているだけあり、戦慣れした騎兵が主体です。反董卓連合の時もそうでしたが機動力に関してはあちらに一日の長があるかと」

「ウチみたいな戦い方が基本になるわけか……」

「うーん、じゃあさ、遠征に出てるレイ姉呼び戻したら良いんじゃねぇか?レイ姉って対騎馬やたら強いじゃん」

「……西涼連中が正面から当たってくれるとは限らないわ。馬騰は確かに武人気質が強いようだけれど、西涼は諸侯の連合。どこがどう動くか分からない。私達が進行する順路を回り込まれて逆に攻め入られる、なんてことも有るのよ。聆はそのための保険に、遠征からそのまま防衛にまわってもらうわ」

 

……華琳、これは嘘っぽいな。最初の間が少し気になる。それに、いつもならここで「時が来れば分かるわ」みたいなことを言いそうなもんだ。

 

「蜀、呉、それぞれが地盤固めにかかずらっている今、この時こそ西涼を倒し、後顧の憂いを絶つ絶好の機会。皆、準備は出来ているわね?」

「もちろんです!」

「ふふ……桂花、良い返事ね。貴女の策には期待しているわよ。皆も存分に奮いなさい。それでは解散!各自戦闘準備にかかれ!」

「「「御意!」」」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「たっだいまー!」

「曹操が動いたって!?」

 

西涼連合本拠……つまるところ馬家の本城。馬岱と馬超は伝令を受け、五胡迎撃より帰還した。

 

「ああ。降伏を断ってからたった数日でな。断ることは予想済み、ってことだったらしい」

 

馬騰は椅子に沈み込むように腰掛け、ため息混じりに応える。何とも言いようのない苛立ちにげんなりしてしまう。ただでさえ最近五胡が煩い上、自分は肺病で満足に戦えない。娘は――

 

「よっし!西涼騎馬の恐ろしさ、思い知らせてやる!真正面から踏み潰してそのまま洛陽まで一足飛びだ!」

 

残念ながら自分の若い頃に似て脳筋だ。違うのは、それを諌めてくれる大人が居ないこと。自分はもう戦場には出られないし。馬岱に期待しているが……。それに、今回の相手は――

 

「お姉様のばかー!」

「ひゃあっ!」

「相手はあの曹操とか、荀彧とかなんだよ?それに北郷と鑑惺なんてのも居るし!」

「そ……そうだったな。女の子を夜な夜な食べちゃうとか、千里先の戦況を千手先読みするとか……。それになんだよ。不死で空間を捻じ曲げる力があって洗脳が得意って……。しかもそれが北郷配下四将の一人に過ぎないらしいし」

「そうだよ!魏は変態の化け物ばっかりなんだから何してでも勝たないとダメなの!」

 

そう。変態の化け物だらけだ。夏侯惇の魔眼というのも、つい先日確認した。連れていた軍師というのも、曲者……いや、変人だった。ここまで来れば、他に色々と聞いている噂もあながち嘘ではないのだろう。

 

「確かに相手は強大だ……だが、相手は歩兵の大軍を主とするはずだ。ここに着くまでには時間が有る。その時間を最大限活かすぞ。癪なことだが……ここは五胡の戦術を真似ることにする。少数の騎馬隊での奇襲をかけ続けろ」

「ん、それっていつもとどう違うんだ?」

「あくまでちょっかいに留めておくことだ」

「相手を眠れなくさせてヘロヘロにしちゃうんだね」

「そうだ。それに、一つ良い話が有る」

 

馬騰にとって、この戦で唯一良かったと思えることだ。

 

「魏の締め付けが酷いらしくてな。賊がこっちに大量に入ってきてる」

「は!?全然良くないだろ!」

「バカだな。経験豊富な賊ってのは、訓練無しで戦場で使いモンになる良いコマなんだよ。報酬だけ払っちまえば良いんだ。それもそいつらが死んだら回収出来る。ちょっとばかし柄が悪いが……なに、五胡に比べりゃかわいいもんだ」

「討伐の手間も省けて一石二鳥だねー」

「まあ、一般の招集もかけることになるから、そっちの訓練は頼む。墜とされる前になんとか仕上げてくれ」

「任せろ!」

「よし……。得体の知れん化け物共からなんとしても西涼を守り切るぞ」

「「おうっ!!」」

 

こうして、西涼連合 対 曹魏 の戦が始まった。

 

 

しかし、同時に終わってもいた。




馬騰さん登場です。
外見イメージは尖さの増した翆です。
内面イメージは親分。何親分とは言いませんがとりあえず親分。
翆って、戦場でオラオラしてるときと、恋愛でオロオロしてるときのイメージばかりが強すぎて普段がどんななのかあまり考えたことがなかったんですよね……。

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