哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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内科に行ったとき、前をたくし上げるのに未だに抵抗が有ります。


第八章戦闘パートRound2

 「……どう言うことなんや………」

「文醜を包囲したんだが……『最後に一騎討ちがしたい』と言うのでな」

「いや、それで何で私ンとこ来るん?お前らでやっとれや」

「どうせなら一番スゴイのと殺りたいじゃん?不死身なんだろ?」

「普通に死ぬから他当たってくれ。かゆうまも、春蘭さんとか紹介せぇや」

「え……嵬媼は不死身だろう」

「アレはマグレやからな!?」

「まぁ、永い間稽古もしてきたし、受けてやれよ」

「ふざけんな」

 

一騎討ちとかしたくない。勝ち戦でわざわざ一騎討ちという危険を犯す意味がない。それに、かゆうまに勝ったのも、私が死んだと思って油断しているところに不意打ちをかましたからだ。もはやあんな奇跡は起こるまい。

 

「えー、最期のお願いなんだから聞いてくれたっていいじゃんか〜〜!」

「断る!」

 

最期のお願いだから聞きたくないのだ。最期ということはつまり、ガチの全力を出してくるということだ。出し惜しみも油断も無い。私の戦いは基本的に隙に乗じてのものだ。メチャクチャ不利なのである。

それにあの眼。スポーツ漫画とかの最終決戦終盤の主人公か?ってくらい、澄み渡ってやがる。間違いなく、強い。

 

「はぁ……、しかたないなー。じゃ、」

「!!」

 

文醜が馬上から跳ねる。

 

「アンタの首級をとって最後の手柄にしてやんよ!」

 

真上から降る声。

 

「ふざけたこと言っとんちゃうぞアホがッ!!」

「ぬるいぬるいッ!」

 

大量の投具で迎え撃つも、幅広の大剣……斬山刀を高速回転させることによって止められる。更に斬撃を加えようとした瞬間、全身に悪寒が走った。そこに立っていると死ぬ、と。

 

「斬山刀…… 斬・山・斬ッ!!」

ズガァッッ!!!

 

突然真っ白になる視界。吹き飛ばされそうになるほどの衝撃。いや、実際、その衝撃に乗ってできるだけ遠くに退避した。

振り返ると、今まで私がいたところには……何だ、クレバス?地割れ?

 

「へぇ、やっぱ良い動きするじゃんか」

「褒めてもらっても溜息くらいしか出せんけど?」

「冗談も出てるって!……じゃあ、ドンドン行くぜ!!」

「来んなバカっ!!」

 

五間ほどの距離を一足で突進してくる。

 

「ハァッッ!!」

「オラァッ」

ギャリッ

 

大振りの胴を受け流す。普通なら、これだけの重量の攻撃を流されればよろめくものだが、文醜は片足で踏みとどまる。

 

「っ!?」

 

そして空いた片足で蹴りを放つ。何とか避けたが、これだけでも十分勝負が決まってしまう……そんな蹴りだった。そこから更に横薙ぎ、二段蹴り。

 

「避けてるだけじゃ面白くねぇぞ!!」

「攻める暇が有ったら攻めるわいや!」

 

凪に迫る速さに、かゆうまに迫る重さ。そして、賊上がりのトリッキーな動き。完全にペースを握られている。避けるのに必死で攻めることができない。……「避けるのに必死で攻めることができない」?避けながら攻める技が有ったではないか。やはり技術を学んでも、咄嗟に出なければ意味がないか。今回は思い出せて幸運だった。

 

首を刎ねんと放たれた一閃。コレに"合わせる"!

 

「ふっ」

「ちッ!」

 

上体を倒して斬撃を避け、その反動でハイキックを放つ。回転で避けられ、その回転から更に低い一撃が迫る。なるほど。この技術も使って、やっと打ち合えるということか。だが、それで十分。

身体を深く沈め、滑り込むようにローキック。跳ねて躱しつつの突きを、踏み込むことで避ける。踏み込みとはつまり攻撃の予備動作。浮いた相手に一撃。しかしスカされる。地面に刺さった剣を支点に避けられたのだ。振り向きざまに針をばら撒く。バックステップと斬山刀で防がれた。

 

「急に動きが変わるからびっくりしちまったぜ……」

「そのままやられてくれればええのに……」

「そんなのできねぇって。やっと面白くなってきたんだからな!」

 

そう言って、斬山刀を真っ直ぐ上に構える。

 

「――斬山刀ノ極」

 

光の刃が天に伸びる。それ何てシャイニングフィンガーソード?

 

「こいつをどう思う?」

「すごく……大きいです……」

 

正確には四間ほど。やめてくれよ……飛ぶ斬撃の十四尺で喜んでたのがバカみたいじゃないか……。

 

「せっかくだから全力出させてもらうぜ!!しっかり生き残ってくれよな」

「やめてくださいしんでしまいます」

「じゃあやっぱ死ねっ」

 

真っ直ぐに振り下ろされた。遠巻きに観戦する部下の足下まで地割れが広がる。

とにかく、速く間を詰めないと。投具を使えば少なくともその間は防御してくれるはずだから、その間に!

 

「うおおおおおおオオ!!!」

「くっ、情熱的な雄叫びの割に面倒くせぇの投げてくるじゃん!」

 

ここからは手数の戦いだ。受ければどうせ即死だし、半端な攻撃じゃあ当たってもらえないだろう。

 

「ッしゃオラァッッ!!」

「エッ!?ソレもなげるのかよ!?」

 

足を薙ぎ、地面を抉る一振りを跳ねて躱しながら、黒くて長いのを投げつけた。リーチも破壊力も負けた今、コイツは用済みだ。最後に、相手を驚かせるのには役立ってくれた。今は叩き落とされて真っ二つである。お前の遺志は細剣が継いでくれるよ。

 

「イェェェェェガァァァッ!!!」

「もしかして二重人格?」

 

いいえ、ヤケです。

ともあれ、尊い犠牲のもと、何とか間合いに入れた。

左腕で相手に対処しつつ、右腕はこれまで学んだあらゆる技術を行使する。投具、鎖、二刀流、徒手……。まあ、全部防がれたんですけどね!

 

「煩い右手だぜっ!」

「褒め言葉として受け取っとくわ」

 

その煩い右手での一閃。ピッ と、文醜の頬に赤い線が走る。瞬間、腕に激痛。

 

「へへっ。肉を切らせて骨を断つ、ってね」

 

関節じゃないところで腕が曲がっている。篭手ごと蹴折られていた。

 

「は、はは……そのまんまの意味で使っとる奴初めて見たわぁ」

「おかげでちょっと避け遅れて掠っちまったけどな。でも、もうその腕は使えねぇだろ?」

「いや、使えるかもよ?ちょっと思いつかんけど」

「じゃあ、またうるさくされても困るし、さっさと倒しちまうか」

「もうちょっと遊んでくれてもええんやで?」

 

痛みのせいで頭がくらくらする。冷や汗が吹き出る。

おい、痛がってる場合じゃないぞ私の身体!あともっと本気出せ!リミッターとかかけてると死ぬぞ!

 

「行くぜッ!!」

 

仕切り直し、とでも言うような、大上段からの斬撃。

来い!スローモーションに見えるやつ来い!!

……よっしゃキタ!!止まって見えるぜ!

 

「トオォォォォリャアァァァアアア!!!」

「うわっ!?」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!」

 

速いッ強いッ勝てるッ!勝てる……勝て……あるぇーー?

 

「速いけど……やっぱ単純だよなー」

 

あー、基礎能力の差が……。

 

「右腕潰したのは失敗だったかなぁ……」

 

左腕を撥ね上げられ、細剣が跳ね飛ばされる。

 

「思ったより弱かったぜ」

 

返す刀が胴に接近する。

 

「クソがァッッ!!」

「グアッッ!?」

 

斬山刀が胴を掠めて飛んで行った。

 

「あんまり残念がるから使ったったわ……」

 

右腕の鎧の尖った指先が相手の二の腕に深々と突き刺さっている。

 

「な……っ!?」

「何を戸惑っとんじゃい……。尖ったもんを思いっきり叩きつけたらそら刺さるやろ……。それよりもっと喜べや。お待ちかねの右腕やぞ?」

 

骨が折れたのは肘から先。つまり、肘までは正常に動くのだ。そして肘から先を質量武器と考えてぶつけた。今まで尽く防がれていた奇襲だが、今回ばかりは意表を突くことに成功したらしい。

刺さった右腕をそのままに、アッパー気味の左フックを放つ。

 

「くっっ」

 

防がれる。予想済みだ。

 

「世界八番目の不思議!!」

 

ゴしャッッ

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……で、どうゆう用件でここへ?」

「ただでさえ満身創痍なんやからそんな睨まんでもらえます?」

「そうそうどのの はどうに かんめいを うけ、 びりょくながら わが ぶも その いちじょと……」

「分かったから……ハァ、もういいわ。処遇は追って連絡する。下がりなさい」

「了解しましたー」

 

元々堅苦しい場面が苦手だったらしい猪々子が、いそいそと天幕を後にする。

 

「……で、どういうつもりかしら?」

「覇道に感銘を受けた、って言うてなかった?」

「あんな棒読み聞いたことないわよ」

「行くアテが無いからとりあえず働かせてくれってさ!」

「……また忠誠心の無い将が増えていく………」

「霞も同じようなモンやん」

「そうだけれど……それにしてもどうして文醜なのよ。どうせなら孫策とか、せめて顔良にしなさいよ」

「それはかゆうまに言うてほしいわ。突然目の前に連れて来られて、『一騎討ちしろ』やからな」

「……一騎討ちで勝ったのよね?」

「そうやで?」

「……どうして貴女の方が重傷なの?」

 

担架の上の私の体をサッと一瞥する。

右腕は言わずもがな、残る四肢と体幹は極度の筋肉疲労その他でガタガタ。首も最後のヘッドバットに全力をかけすぎて鞭打ち症気味だ。今マトモに動くのは目と口と尻穴ぐらいなものだ。

 

「……華琳さんへの愛が私に無理を強いるんや」

「貴女の口からの言葉じゃなければ素直に喜べるのだけれど」

「私からの言葉やったら……『複雑ながらもやっぱり嬉しい』って感じ?」

「ふふっ……もうそれでいいわよ。……下がっていいわ。疲れたでしょうし、もう休みなさい」

「戦勝祝いの宴会に参加してからな」

「そんな状態でまだ呑むの!?」

「酒と世界平和に命懸けとるから。……おい、戻るぞ」

「「はっ」」

 

呆気に取られている華琳にドヤ顔をかましながら天幕を出た。

 

 

 「鑑惺様……下の世話はお任せくださいね」

 

担架の足側から声がかかる。

 

「下の世話限定とか……」

「下の世話以外も任せていただけるのですか?」

「おー。任せたる任せたる。具体的にはかゆうまの稽古の相手と猪々子の教育」

「やめてくださいしんでしまいます」

「死んでくれてもええんやで?」

 

最高の笑顔で。




予定外の仲間二人目。
隠れ常識人の猪々子ちゃんだァッ!
斗詩ネタ無しにどこまで頑張れるかガクブルなのは内緒だ!

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