しばらくホットドッグともやしで生きていきます。
「じゃあ、そのあとわたしが前に出て……」
「ちぃは右手に動いて……」
「私は左に……」
人和の要望により新たに作られた舞台の上で、三人はリハーサルを行っている。観客も集まりつつあった。
「……凪、沙和」
「……」
「あい」
一刀の目配せを受け、二人が舞台脇の小屋から出ていった。不審人物のチェックだ。……まぁこの段階では見つからんだろうが、一応、である。この段階で見つかるような賊ならそもそもこの作戦の必要が無い。
この舞台は"始まってから"の賊の特定にめっぽう強い。大きな舞台を確保するため、「広い舞台を作る資材が無い?じゃあ逆に客席掘り下げて地面を舞台にすればいいじゃん?」という発想により作られたのだが、この構造が観客の管理において非常に役立った。"観客はココからココまで"という範囲が決まるのだ。穴から出てきた奴は不自然だ、とはっきりする。
「一刀、こっちの準備は出来たよー?」
舞台の上から声がかかる。
「じゃ、私らも出るわ」
「おう。よろしく頼む」
数人の兵士と共に小屋を後にする。私は普段着で、兵も村人の服装に合わせている。帯刀はしていないが皆懐に短刀を隠しているし、私も鳶服風の袴にバールのようなものを隠し持っている。酒入れも瓢箪の形をしているが鉄製だ。
殆ど日が落ちた頃、会場……穴の入り口が開かれると同時に、観客たちがワッとなだれ込む。……総人口より観客数が多い。隣の邑からも来ているらしい。この中に工作員が居るのか……。原作では三人だったか……?
「鑑惺様」
と、ウチの隊から連れてきていた者が声をかけてきた。
「なんじゃい」
「この邑の工作員の頭目の根城が判明しました」
「放置で」
「はい、了解しまし……え?」
「放置で」
「は、はぁ……」
頑張って調べたんだろうが、放置。このコンサートさえ成功してしまえば敵の工作は失敗。頭目を押さえるまでもない。それに捕まえたところでどうせ自害されるだろう。そもそも現地入りしてる時点で、頭目と言っても下っ端臭い。マトモな情報を持っているかすら怪しい。それなら、放置して警備を固めた方が良いだろう。
「……早速発見やな」
観客席後方に怪しい動きをする人影を見つける。数え役萬☆姉妹の方を見るのではなく、キョロキョロと周囲を窺っている。って言うか、思いっ切り帯刀しているんだが……。しばらく様子を見る。観客の中にいるのでは取り押さえに行くこともできない上、まだ工作員と決まったわけでもない。武器マニアの村人かもな!
「みんなー、盛り上がってる〜?」
「おーーーーーっ!」
「まだまだ盛り上がって行くからねー!」
「おーーーーーっ!」
天和と地和の問いかけに、観客が一斉に声を上げて答える。まだあの独特の掛け声は浸透していないらしい。陳留の一部の古参ファンの間で流行り始めたぐらいだ。
「みんな大好きーー!」
「てんほーちゃーーーーん!」
「みんなの妹ぉーっ?」
「ちーほーちゃーーーーん!」
「とっても可愛い」
「れんほーちゃーーーーん!」
そこは、「みんな○○」ではないのか、と。人和なら何だろうか「みんな私の掌で踊ると良いわ」だろうか?おっとそんなこと考えてる内にさっき目をつけていた奴等が動き出した。後方から会場をぐるっと回り込んで小屋の裏から攻めるようだ。
念のため兵士たちに警戒を続けるように指示し、同じく気付いたらしい一刀の合図を受けて先回りする。
袴の左右の切れ込みに手を突っ込み、小屋に背を預けて待つ。足音が近付いて来た。予想通り外野から廻ってきたらしい工作員を、仁王立ちで迎える。相手は私の十尺ほど手前で一瞬立ち止まって互いに目配せし、剣を抜いた。息の合った動きで半包囲するように展開するが……
「そこ、もぉ私の間合いやで?」
ズガンッッ
「ぎゃあァぁッッ」
超高速で振るったバールのようなものの先端が、一人の膝を薙ぎ払った。何か白い円形の物が吹っ飛ぶ。皿かな?
「次っ」
ドスッッ
鳩尾に一撃。死なないように手加減はした。ほぼ持ち技になりつつある「飛ぶ斬撃」だが、雑魚相手には驚くほど強い。身体の柔らかさを最大限利用して、破格の射程と速度を産み出すの技術。しかしながら、正味、乙女武将の連撃は体感速度音速なんてザラなので埋没しがちである。利点は、珍しいことと、最速だと脆い服なら衝撃波で破けることだ。お色気アクションアニメみたいに。でも武将っていい服着てるから、破けるのは雑兵のおっさんの服ばかりだったりする。
そんな謎技術で仲間を二人倒され、相手は戦意喪失したらしい残りの一人は、私に背を向けて一目散に駆け出した。でも残念。その先には三人娘が待ち受けていた。
「逃げようとしても、そうは問屋が卸さないの!」
「残念やったなぁ」
「ここから先は通さない」
立ち止まった男を四人で取り囲み、ジリジリと詰め寄っていく。
「抵抗は無駄」
「観念するの!」
「へいへ〜い」
「へいへいへ〜い」
「…………グッ」
追い詰められた男は、一瞬顔を歪めた後、突然その場に崩れ落ちた。凪が駆け寄るも、抵抗はおろかピクリとも動かなくなっていた。
「やられた……自害しよったわ」
「あ!聆ちゃんが先に倒したのも……!?」
「えー?一人は気絶させたし大丈夫やろ?」
と、振り返ると足を潰した奴が気絶した奴のところまで這いより、まさに始末しようとしていた。
「ちぇいさっ!」
ゴスッッ
あ、頭吹っ飛んだ。ちょっとバールのようなもの投げるの強すぎたか?
「おぉう、やってもた」
「……ともかく、これで一人は確保だな」
「とりあえず、死体は山ん中に隠しとこ」
「特にこの頭と脚が半分無いのはヤバすぎるの……」
「待って。真桜の螺旋槍で突かれた方がよっぽどヒドい状態になるやん?」
「それやったら凪かて平気でふっ飛ばすやん」
「聆ちゃんも真桜ちゃんも凪ちゃんも残酷すぎるのー」
「沙和のようなのほほんとした奴に斬られる相手の無念は計り知れないだろう」
「のほほんとなんてしてないの!」
「いや、しとるしとる」
「しーてーなーいーのーー」
「おいおい、何やってるんだお前ら」
「お、隊長」
「戦闘が終わったなら早く……ってうお!?ちょ、何だコレ!!」
「せやったせやった、早よ処理せな」
「凪ちゃん、報告しといてねー」
「任せたでー」
「か、軽いな……」
その後、山に穴を掘り、死体を埋め、現場の血を流した。その後警備を続けたが、新たな不審者が現れることは無かった。
三人娘と私は猿轡と目隠しをしてグルングルンに手足を縛った工作員を陳留に運ぶため、一足早く帰ることとなった。去り際の、一刀の「やっぱり皆、武将なんだなぁ」というセリフがやけに印象深かった。
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「工作員、縛られてたわねぇ……」
「次コイツが何て言うか当ててみせようか?」
「いい……。聞きたくない……」
「ハァ……。目隠しってステキね……」
「あ、予想と違ってた」
「私も情報を漏らせばあるいは……?」
「頭ふっとばされるだろ」
「それは………それで有り……っ!」
「キモッッ」
「俺は一軍人として、コイツの下で働く三課が切実に心配だ」
気の強いあの子はもちろんこれまで何百何千と殺人しています。
恥ずかしがり屋のあの子もいつもは人殺しの方法を考えています。
でもそんなこと誰も気にしません。
だって恋姫はギャルゲーだから。