でも逆に冷めないか心配です。
クオリティ低い絵を出すとまた黒歴史が……。
関係ないですが全裸で寝るの気持ちいいです。
「あーぁ……暇やなぁ……」
窓の外を眺め、湿気を吸って広がった髪を掻く。
今日は月に一度の休みだ。いや、非番で仕事が無い日はもっと有るんだが、普段はその日にも鍛錬や学問をする。月に一度の休み、というのは、それもしないと自分で決めている日だ。
それに今日は生憎の雨。出かけるのは面倒だ。昼寝もあまり気持ちよくない。
「どーすっかなぁ……」
私が非番でも、北郷隊自体は別に休みでも何でもない。三人娘と一刀は気の毒なことに警邏に出ている。居ても少し喧しいが居ないと暇だ。夏侯姉妹は討伐に行ってるし、霞も然り。季衣流琉は怪力恐い。……またかゆうまか。いや、でもなぁ。あまりかゆうまと一緒にいて、セットと思われたら困る。戦闘で近くに配置されたりしたらこっちの行動に支障が出かねない。
「んー……」
そもそも圧倒的に娯楽が少ない。酒は高いし、ゲームも殆ど普及してない上に、できる奴はクソ強いから面白くない。
……………読書か……。気が進まないが、それくらいしか無いかもしれない。晴耕雨読って言うし。書庫で三冊くらい借りよう。ついでに前借りた本も返すか。
――――――――――――――――――――――――――――
管理官から鍵を受け取り、書庫への渡り廊下を進む。
これは一刀の提案により作られたものだ。それ自体の要望は前々から有ったらしいが、木造の場合は火災の延焼が、石造りの場合は耐震性が懸念されて実現しなかったらしい。だが、一刀の「え、じゃあ一部だけ延焼防止に石造りにすれば良いんじゃないか?」という一言で問題が解決された。
おかげで雨の日でも本が濡れるのを気にせずに済む。
「さて……何読もか」
外した錠前をポケットにつっこみ、中に入る。ただでさえ薄暗い書庫が空模様のせいでさらに厄介なことになっている。
せっかくの休みに政治とか思想とか、小難しいものは読みたくない。小話みたいなサクッと読めるヤツって有っただろうか……。まぁ、ゆっくり探すとしよう。
「『妙高の頂上で仁を叫ぶ』?……秀逸やなぁ……」
妙高とは須弥山。仏教などで世界の中心に有るとされる山だ。つまり、セカチューってことか?愉快なタイトルに釣られて中を見たが、なんということはない。ただの儒教教本だった。タイトル詐欺もいいトコだ。
「うーん、あと一冊がなかなか決まらん」
二冊はなかなか良いのが決まったのだが……。
「なにかお探しですかー?」
背後から急に声がかかった。
「びっくりするから後ろから急に声かけるんやめてな。風さん」
「……そう言う割には動じていないように見えるのですが……」
「あ、稟さんチーッス」
「それは……あいさつ……なのですか……?」
「違うで?」
「ならば一体……」
「あいさつやで?」
「??」
おお……混乱してる混乱してる。まだ出会ってちょっとしか経たないが、稟イジりは結構面白い。
「で、風さんはどういう用事なん?あぁ、ちな私は何か適当に読めるモン探しとるんや」
「すこし、投石を使った戦闘の記録を確認しに来たのです。それにしてもすごいですねー。以前見たのですが、貸出記録の半分が聆ちゃんでした」
そういえばそんな数になるのか……。簡単な部類のものをできるだけ幅広く読むようにしていたからか。あとは意外なところで凪も月二冊くらいのペースで借りてるんだよな。
「いやー、まだまだ勉強不足やからな」
「ええ、すごく勉強熱心なようでー。分野も多岐に渡ってますねー」
……こいつ、探ってきているな。孔明と同じ目をしてやがる。私の一挙手一投足、呼吸のリズムや視線の動きからでさえ思考を読み取ろうとする。ならば……。
「……!?」
左右の眼を別々に動かしてやった。
「あ、そうそう。何か愉快な読み物無いか?」
「……さぁー。風はなにぶん新参なものでー。稟ちゃんはなにか知りませんかー?」
「……聆殿」
「なんや?」
「あいさつではなくあいさつである、とはどういうことなのですか?」
「まだ考えてたのかよ……。まったく冗談の通じない嬢ちゃんだぜ」
「これこれ宝譿。聆ちゃんの思考に付いていけというのは酷というものですよー」
「本人前にして言うかね普通」
「……………ぐぅ」
出たテッパンネタ。
「稟さん、あれ適当言っただけやから気にせんといて。で、何か知らん?」
そして華麗にスルー。風みたいなワールド展開系ボケは一度突っ込むとめんどくさいことになる。そのまま寝てろ。
「そう言われましても私も新参者ですし……。そもそも聆殿がどういうものを好むのか……。その二冊ではいけないのですか?」
「あー、もう一冊ぐらい欲しいかなって。てか、何で敬語なん?」
「やはり目上の方には敬意を……」
「!? 待って、私将軍未満やで!?」
「え!?ですが華琳様と対等に話していましたし……少なくとも一刀殿と同様、華琳様の助言役とばかり」
「隊長もそんな大層な扱い受けとらんからな?……まだあんま日ぃ経たん奴から見たらそう映るんか……。あぁ、やからこれから敬語いらんで」
「……いえ、もう敬語じゃない方が違和感有るので敬語で行きます」
……曹魏御意見番熟女枠私?
「じゃあまぁ別にえぇけど……。あーあ。あと一冊どないしょっかなぁ」
「むしろ私は聆殿が選んだ二冊が気になります」
「見るか?」
左手に乗せていた本を手渡した。……あ、ミスった。
「『黙察天子小獨呂』……『館父子娘吻編』!? な、何ですか一体これは!?」
「いやー……古い館に住まう父と娘との禁断の愛を繊細な描写と計算された修辞法で描き切った空前の……」
「こんな薄い本がそんな作品なわけ無いでしょう!ほら!一頁進んだだけでもう……寝…所に………」
稟の目がめくったページの上に釘付けになり、どんどん顔が赤みを増す。ヤバい……!
「ぶ「させるかァッ!!」
ズボッ
「ふがが!?」
そのまま稟を抱え上げ、書庫から飛び出した。
「ふがが!ぐががが!!」
腕の中の稟が痛そうにジタバタともがく。もうここなら大丈夫だな。汚れる本も無いし。
ズボ
ブシャアッッ
「……………」
……本は無くても汚れるものは他にも有っだんだよなぁ。足下から頭のてっぺんまで嫌に艶のある赤と鉄臭い臭いに包まれる。戦場でもこれほど酷い返り血はなかなか無い。
「……すびばぜん」
自らも自分で作った血の海に沈みながら謝る稟に、私は憐れみ憤りの混じった複雑な笑みを返すことしかできないのであった。
有言逆行!
それが作者の合言葉!