哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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最近、寝ても疲れが取れません。
オデノカラダハボドボドダ


第七章一節その三

 軍議の後、桂花の部屋に呼ばれ、細かい指示を受けた。桂花の補佐、つまりは情報収集の手伝いについてだ。いったいどんなダークな仕事をしなければならないのかと身構えたが、なんということはない。私の役目は偵察兵の工面と、その情報の整理だ。国境の城や砦に何人かずつ入れて、その報告を聞けばいい。潜入系の仕事は桂花がやるらしい。まあ妥当だな。素人がやって上手く行くものでもない。

 各城に鑑惺隊から一班ずつ、全部で一課出すことが決定し、それぞれの城の特徴、土地柄、現状の警備体制についてのレクチャーを受けて話し合いは終了となった。

茶ではなく酒がだされたことと、部屋に対して不自然に大きな机を挟んでの会話だったことには敢えて触れなかった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「華琳!袁紹、もう動いたって!?」

「遅いで、隊長」

 

会議から数日と経たない昼間に、城内の将軍格に緊急招集が掛かった。偵察に出した兵がノンストップトンボ帰りで報告にやってきたのだ。ちなみにかゆうまと霞は昼食に出ている。

 

「馬鹿は決断が早すぎるのが厄介ね。聆、敵の情報は」

「数はおよそ三万。旗印は袁、文、顔。敵の主力は皆おるらしいけど……」

 

たった数日で袁紹領の中央から三万の軍勢がこちらに接近するなど不可能だ。恐らくこちらの以前の軍議の時点で動き始めていたんだろう。

元々袁紹のところに潜り込んでいた斥候もいるのだが、これから軍事行動するって時に中央から早馬で曹操のところへ行く奴なんていたらさすがに止められる。そういう場面では偵察兵が斥候より早い。

 

「え、ちょっと待てよ!そんな大群が……?」

「隊長、まぁおちけつ」

「お ち つ け よね。……聆、その様子だと、報告にはまだ続きがあるのでしょう?」

「『動きがクソ遅え。兵力自慢か?早く滅びちまえ』やって」

「何なの?その報告」

「最高やろ?」

「最低だわ」

「……まあ、桂花の言いたいこともわかるけど……。『兵力自慢』、ね。バカの麗羽らしい行動だわ」

「それで報告のあった城に兵はどのくらいいるのだ?三千か?五千か?」

「七百やで?」

「ほほぅ、七千か。七千ならなんとか時間を稼げば間に合うな」

「よく聞け姉者。七百だ」

「一番手薄な所を突かれたわね……」

「桂花、何を考えこんでいるのだ。秋蘭、こんな時に冗談は良くないぞ!聆、……冗談だよな?」

「七百やで?」

「…………」

「なんで聆はそんなに落ち着いてるんだ?」

「逆に」

 

それに結末知ってるし。たまたま文醜の機嫌が悪くてフルボッコとか無いよな?

 

「桂花、今すぐ動かせる兵士はどのくらいいる?」

「いくらなんでも相手の動きが速過ぎます。半日以内に三千弱、もう半日あれば季衣や凪たちが戻ってくる予定ですから、なんとか二万は……」

 

流琉、季衣、三人娘は黄巾の残党その他諸々の討伐に出ている。普通なら私も三人娘と一緒に出ているところだが、偵察の管理のため残っていた。

 

「一日待っていたら間に合わないわね……。親衛隊を加えればどうなる?」

「華琳様!」

 

秋蘭が諫めるように声を上げる。親衛隊を出せば守りがスッカラカンになるからだろう。

 

「季衣も流琉も討伐に出ているのだから、兵だけ遊ばせておいても仕方ないでしょう。どうなの?」

「なら、もう五千は……」

「……援軍込みで八千か。心許ないわね」

「華琳さん、ゴキゲンな報告はまだあるで」

「何かしら?」

「『兵の増援は不要』」

「なんですって!?」

「まぁそう吠えなや桂花さん」

「馬鹿な。みすみす死ぬ気か、その指揮官は!」

「だって、三万対七百だろ?いくら籠城するって言ったって、限度があるぞ」

 

まぁ動揺するのも分かる。私も知っていなければ反対だっただろう。今でも少し抵抗が有る。

 

「……分かったわ。ならば増援は送らない」

「華琳様!?」

「ちょっとおい、華琳!」

「城の指揮官は何という名前?」

「程昱、郭嘉の二人や」

「なら、その二人には袁紹たちが去った後、こちらに来るように伝えなさい。皆の前で理由をちゃんと説明してもらうわ。……そうでないと、納得できない子もいるようだしね」

「わかった」

「しかし華琳様!説明もなにも、そやつらが生きてここに来られる保証などどこにも……!」

「皆も勝手に兵は動かさないこと。これは命令よ。……守れなかったものは厳罰に処すから、そのつもりでいなさい」

 

結局、春蘭をスルーしたまま軍議は解散となる。華琳も説明してやればいいものを。……確証がないから黙ってるのか?

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「糧食は後続に持たせろ。我々が持つのは最小限で良い!とにかく、機動力を高めろ!」

「なにをノロノロやっている!さっさとしろ!」

 

いつも通り裏庭で鍛錬をしていると、中庭から騒がしい声が聞こえてきた。……ダブル猪か。かゆうまェ……帰ってきてたのか。

 

「何やっとん春r「お、おい、何やってるんだよ、春蘭!華雄!」

「あ、隊長」

「聆!何があったんだ!?」

「それ今から聞くとこ。……何やっとん?」

「見て分からんか!出撃の準備だ!」

「それって、華琳に禁止されてただろ!」

「かゆうまもやめぇや」

「寡兵で苦しむ仲間を放っておけるか!」

「夏侯惇様!出撃準備、完了しました!」

「よし!ならば先発隊、出るぞ!」

「全速前進だっ!」

「はっ!」

「こら、春蘭っ!待てっ!」

「かゆうまェ!止まれ言うとるやろうが!!」

「おいこら!自分ら、何やっとんねん!」

「ちっ……厄介なのが」

 

よっしゃ霞姉来た!これで勝つる!

 

「霞!春蘭たちが例の城の応援に行くって……止めるの手伝ってくれよ!」

「……ったく。ここもイノシシか!華雄もええ加減懲りぃや!」

「貴様も似たようなものではないか!」

「今回は別に挑発に乗ったわけではないぞ!」

「あーー!もうっ!!一刀はさっさと華琳呼んで来ぃ!」

 

ん?呼び捨て?

 

「わ、わかった!」

「聆は二人止めるん協力してくれ」

「言われんでも」

「貴様ら……!どうしても止める気か!」

「そもそも何で命令無視してまで行くんどいや」

「袁紹ごときに華琳様の領土を穢されて、黙っていられるものか!華琳様がお許しになっても、この夏侯元譲が許さん!」

「で?華雄はそれに便乗したと?」

「違う!私は仲間を助けるために行くのだ!」

「戦力差考えろや」

「不利だからと言って仲間を見捨てるのなら、己の欲のために悪逆を尽くした十常侍と変わらんではないか!!」

 

かゆうまの猪思考ってそういう理由だったのか。

 

「ぶつかったところで被害増やすだけやろが!」

「それでも!!」

 

言いたいことは分からんでもないが、やり方がアホすぎる。

つーか、種明かししたほうがいいんじゃないか?……ああ、いや、ダメだ。そういえば程昱って失敗したら死ぬ気だった。

 

「自分ら、どうしても行くっちゅうんなら……」

 

霞が飛龍偃月刀を構える。……どこから出した?

 

「ふっ……あの時の決着、もう一度着ける気か?」

 

春蘭が七星餓狼を構える。

 

「嵬媼、お前なら分かってくれると思ったんだがな」

 

かゆうまが金剛爆斧を構える。

 

「分かった上で止めるんどいや」

 

そして私も訓練用ダガーもどき(刃引き済)を構えた。

……… や ば い 。

しかも私今甲冑装備してないから針とか鎖とかサブウェポンが無い。

 

「今度はどこからも矢なんぞ飛んで来ぃひんで?」

「上等だ!ならば……行くぞ!」

「来ぃ!」

 

春蘭と霞はさっそくおっ始めた。できるだけ長く睨み合いを続けてほしかった。

 

「……ではこちらも始めるか」

 

こうなるから。

……空気的に応じないわけにも行くまい。死なないようには加減してくれるよな?

 

「……そうやナッ」

 

言い終わる前に突っかける。

 

「そんな陳腐な奇襲が通じると思ったか!」

「思とらんわ」

 

目的は防御の隙に乗じて間合を詰めることにある。

 

「シィッッ!!」

「クッ」

 

両腕両脚を使っての連撃。……だが防がれる。まだ速さが足りないか……。

 

「今度はこちらからだ!!」

「チッ」

 

普段なら落ち着いて流せるようになったかゆうまの攻撃だが、今の武器はダガーもどき。心許ないにもほどがある。ならば……。

 

「ラァッ!」

「なっ!?」

 

斬撃を受けると同時に無理遣り踏み込み、上段廻し蹴りを放つ。かゆうまは更に斬撃を押し込み、前進することによって回避した。私はそれを流し、振り向きざまに"飛ぶ斬撃"を放つ。……まぁ止められるんですけどね!位置が入れ代わった。

 

「どうしたどうした!止めると言った割には覇気が無いぞ!」

「覇気なんか無くても止められる。……せいっ」

「ヒヒンッ!?」

「馬が!?」

「将を射んと欲すればまず馬を射よ。これで城に向かえんやろ」

「クッ……だが換えの馬などいくらでも居る!」

「用意する度に気絶させる」

「ぐむむ……貴様っ!卑怯だぞ!」

「それだけお前が大切なんや」

「……っ!嵬媼……!」

「かゆうま……」

 

そして抱きしめあった。ふわりとかゆうまの体が持ち上がる。

 

「――プロレスに就職します――」

 

ゴしャッッ

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「華琳!こっちだ!」

 

気絶したかゆうまを日陰に横たえたころ、やっと一刀が華琳を連れて来た。

 

「遅いで、隊長」

「これでも必死に走り回ったんだぞ!?」

「何をしているの!」

「かっ!華琳様!」

「春蘭!聆!霞!これはどういう事!説明なさいっ!」

「今ええ所なんやから、邪魔せんといてっ!てええええええいっ!」

「……くぅっ!」

「さて、今度はウチの勝ちやなぁ。春蘭」

「いっ、今のは油断して……っ!」

「言い訳がましいな」

「かっこ悪いぞ」

「見苦しいわよ、春蘭」

「うぅ……華琳様まで……」

「で、何をしているの。答えなさい」

「い……いかに華琳様のご決断とはいえ、今回の件、納得いたしかねます!袁紹ごときに華琳様の領地を穢されるなど……あってはなりません!華雄も、見捨てるわけには行かないと……」

「そういえば華雄は?」

「あっちで寝とる」

「……それで兵を勝手に動かしたわけね?」

「これも華琳様を思えばこそ!華琳様の御為ならば、この首など惜しくはありませぬ!」

「……はぁ。あなたにはもう少し、説明しておくべきだったわね。いいわ、出撃なさい」

「華琳様っ!」

「華琳!?」

「おぉ……」

 

三百人縛り来るぞ……。

 

「ただし、これだけの兵を連れて行くことは許さないわ。あなたの最精鋭……そうね、三百だけ動かすことを許しましょう」

「逆に私行ってええか?」

「なっ……!?」

「聆!?」

「春蘭さん、三百は正直、勝ち目無いやろ?」

「……お前には有るのか?」

「無いで?」

「だったらどうして……!」

「鑑惺隊やったら、失敗して、敵に追われても九割以上生き残ったまま逃げ延びることができる。勝算の方は策に任せるわ。有るんやろ?何か」

 

何か、と言うより、運だめしが。確率は低いだろうが、原作と違って袁紹が攻めてくるかもしれない。それをカバーするための出撃だ。恐らく春蘭では郭嘉と程昱を守って戻ってくることはできない。鑑惺隊なら、それができる。(確信)

 

「……わかったわ。聆に任せましょう」

 

華琳が面白そうにニヤリと笑った。

 

「ほんだら残っとる四課全部連れて行くわ。だいたい三百やから」

 

もともと、五課を残して凪達に貸し、そこから一課を偵察に出しているため四課。戦時体制なら一課百人越すが、普段は当初と同じく、十人班八つで一課である。つまり現在三百二十人。文醜の闘争心を刺激する人数ではないだろう。逆にこれ以上少ないと城の七百人の誘導に人手不足だ。

 

「構わないわ。……ではここにいる残りの兵は、盗賊団の報告が入っているから、このまま霞が率いて討伐に出発なさい」

「そりゃええけど……それってどういう……」

 

未だ戸惑っている面々を置いて出撃準備をする。予想より大分早く済んだ。三課長曰く「鑑惺様が出撃なさるのは半ば予想しておりました」とのこと。キモイなぁ。これから、場合によっては暫く山籠りしなければならないかもしれないというのに、あんまりテンションの下がることを言わないで欲しい。




また途中で消えましたよちくしょい!
調子良く書いてるときほど途中保存しなくなるので消えたときが酷いです。
呆然とします。

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