哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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みかん美味しいです。
みかんに蜂蜜をかけるともっと美味しいです。
寒くて動きたくありません。


第七章一節その二

 「……呂布が見つかった?」

「あの戦いの後、南方の小さな城に落ち延び、そこに拠点を構えることにしたようです」

 

碁石が示すのは卓上に広げられた地図の右下辺り、はるか南西。少勢力が小競り合いを続ける無法地帯のようなところだ。南蛮にも近く、はっきり言えばハズレの地域。……この時代、アタリなど何処にも無いが。

 

「なるほどね……。秋蘭、呂布が逃亡した時、呂布の隊はほぼ無傷だったのよね」

「はい。軍師の陳宮も健在という情報が届いています。いくらかの武将も呂布に同行しています」

「……どうしますか?呂布が本気になれば、こちらはかなりの損害を被ることになりますが……」

 

誰かが息を飲むのがわかる。

空気が重くなる。袁紹につぎ、袁術と並んで大陸全土でも三強と言って差し支えないであろう曹操の軍勢が、呂布たった一人の名に怯む。虎牢関と洛陽での二度、それぞれ五人ずつの将を破ったという実績は天下を"ビビらせる"のに十分すぎるものだった。

 

「……今は放っておきましょう」

「何ですと!」

「華琳様、それはいくらなんでも危険すぎます」

 

華琳がため息をつくように呟き、それに対して春蘭と桂花が異を唱えた。

呂布に手を出すのは危険な上、そもそもこちらも迂闊に動ける時期ではない。後の軍議であがるであろうことだが、今は袁紹が活発に領土を広げており、呂布討伐の為に遠征するなど考えるのも馬鹿馬鹿しい。放置という選択は消去法的に確定する。

桂花が反対したのは、華琳の口ぶりから無かったことにして忘れようというようなニュアンスを感じたからだろう。多分。

現状放置しか方策は無い。

呂布と戦わなければならないという前提ならば。

 

「……霞。呂布は、王の器に足る人物かしら?」

「…………正直、よう分からん」

「よう分からんってのは、それを測れるほど接触してなかったんか、したうえで判断がつかんのか……?」

 

考えるのをやめているのか。……普通に無しだろ。

 

「まさか、かつての味方だからといって……」

 

春蘭が軽く睨む。

 

「ちゃうちゃう!聆の言うとおり、判断つかへんねん。ここに名代で来たことあるやろ?恋……呂布はほとんど喋らんかったけど、実際ずっとあんな感じやねん。雰囲気としても……秋蘭、流琉、正面からやり合うたアンタらなら分かるやろ?」

「……む。それは確かに」

「えっと、武将っていうより、威圧感と緊張感は呂布の方がかなり高かったんですけど、野生のクマや虎を相手にしているのと同じ感じでした」

「……相手にしたことあるんかい」

「え?季衣もそうですし、聆さんも有るらしいんですけど……皆さんはないんですか?」

「あるかいなそんなん」

「旨いで?」

「食料としてしか見てないんやな……。で、とにかく、そういうこっちゃ」

「だから、どういう意味なんだってばっ!」

「春蘭さん、そんな熱うならんで」

「周りが変な知恵を付けない限り、こっちが手を出さなければ襲いかかっては来ない、って事か?」

「せや。軍師の陳宮はそこそこ切れ者やけど、まだまだおこちゃまや。政とか、長期戦略に関してはそこまで恐ない」

 

……つまり、誰かに変な知恵を付けられれば襲ってくるかもしれないということだ。本気で、なりふり構わず勝ちに行くのなら、そのポジションに立つ……つまり呂布を抱え込んでしまえば良い。それが話に出ないのは不思議だ。……反董卓連合のときに、華琳が呂布を欲しがって周りが半ギレになるっていうイベントが有ったような……。それが効いているのか?

 

「そういうこと。あの辺りは治安も悪いし、南蛮の動きにもきを配る必要があるわ。しばらくは動けないでしょう。ただ、監視だけは十分にしておくように」

「華琳様がそうおっしゃるなら……」

「皆も異議は無いわね。……それに今はもっと警戒するべき相手がいるわ。――――――」

 

話が袁紹に移ったから適当に聞き流す。馬鹿だから劉備よりこっち狙ってくるって話だろ?

それよりも問題は呂布だ。パワーバランスの改変を恐れて、取り込むのを提案しなかったが……。敵に回すのも相当嫌だ。何とか、上手く歴史の表舞台から消せないだろうか。ノーベル殺人賞のバケモンだ。敵として当たれば多くの仲間を失うことになるだろう。

独自に呂布とコンタクトをとって、私の故郷にでも隠遁させようか……。そこ出身の高官からの頼みとあらば女二人とペット百数匹の世話ぐらいしてくれるだろう。動物は山に放っとけばいいし。多少のパワーバランスは…………良くないな。最近部下とは言え雑兵にまで愛着を持ち始めてしまった。雑兵と英傑のどちらの命が重いかと言えば……正直、英傑だろう。英雄の死は永く語り継がれ、民族の思想にまで影響する。今の部下を守るためにバランスを操作し、流れを変えるのは愚かだ。

私は恐らく無能ではないが、そう上手く因果を操作できるわけではない。シナリオに干渉するのは恋姫達の命に関わることだけ。今決定した。

もう既に結構やっちまった感が有るが……大局には影響無いよな?蜀とマブダチでも戦うときは戦うし、これから予定している袁術と張勲と黄蓋の保護も、在野行きとか死亡するとかの奴らを魏に置いておくだけだし……。死んだことにして、決着ついてからネタばらしすれば何も問d

 

「――では聆を」

「そう。聆、桂花の手伝いを頼むけど、構わないかしら?」

「うっさいんじゃ今考え事しとるんどいや話しかけんな」

 

かゆうまっていう戦力が入ったけど……、統率面で難有りな上、華琳も積極的には使いたがらないから問題n……さっきの声、華琳だった!?

 

「あ、はい、何ですか!!」

 

思わず普段の口調を忘れて敬語になってしまった。急いで顔を上げる。

うわぉ……空気凍り過ぎだぁ………。みんなポカ〜んとして……。

よし!無かったことにしよう!!

 

「桂花さんの補佐やな?詳しい指示は後で直接受ければ良えか?」

「え!?……え、えぇ。二人には悪いけど、通常の任務に加えて各方面の情報収集を強化しておいて。特に袁家と呂布の周辺。他の皆は、いつ異変が起きても良いように準備を怠らないこと。いいわね」

「は……、はっ!」

「りょ、了解です!」

「……さぁ〜て、そうと決まったら早速調練しにいかなきゃ」

「確か急ぎ片付けないといけない案件が有ったわね……」

 

解散の声も無く皆ゾロゾロと玉座の間をあとにする。

……私から目をそらすようにして。

 

そして侍女が走って酒を持ってきた。

いや、だからイライラするほど酒が欲しかったら自前の飲むって。




七章は麗羽様サイドのシーンが多くて、
この作品では短くなってしまいます。

麗羽様も好きです。
麗羽様と美羽様を仲良くさせたい。

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