その分有能なのも問題です。
華琳さんのカリスマがあと少しでも低ければ、魏は瓦解するに違いない。
「……となると、残りはいくつ?」
「……ん?今、桂花の声がしなかったか?」
「ええ。聞こえましたね……」
近くで子供達の騒がしい声に混じって桂花の声が聞こえたような気がしたんだけど、気のせいじゃないらしい。
「どこから聞こえて来たんだ?」
「隊長、あそこにいるのー」
沙和が指さしたのは、小屋の一室だった。
「四つ!」
「無」
「あ、あのねぇ……あんた達、適当に言ってるんじゃないでしょうね」
「わかんないからてきとー!」
「まず宝とは何かの定義から……」
「あ、あんたねぇ……くっ、ここで怒ってはいけないわ。怒ったら余計に話を聞かなくなる……」
「あいつ……あんなとこで何をやってるんだ?」
粗雑な椅子に子供達を座らせ、教壇らしきところに立った桂花が、なにやら必死の形相で喋っているのが見える。
「公立の私塾……公塾?やな。広く臣民に基本的な学力をつけさせて、国力の増大を図る試みや。で、実験としてまず桂花さんがやっとるんやろ。まあ、教えられる人材は不足気味やから実践に移ってもしばらくは桂花さんも前線に立つことになるやろな。……天の学校とか言うんが元になったらしいけど……隊長、知らんかったん?」
「……むしろ聆はなんでそんなに知ってるんだ?」
「常識やで?」
とびっきりの笑顔で返された。
「だから何度も言っているじやない。良い?孟徳様が十の宝物を手に入れました。それを強欲な部下の元譲が勝手に三つ取っていきました。
更に何を考えているか分からない嵬媼が、怪しげな細工をして二つ台無しにしてしまいました」
「……へぇ」
あ、聆さん?
「半分になってしまった宝物を見て、孟徳様は謝りながら、一番忠実で、心から愛している文若ちゃんに……」
「笑わせてくれる……」
聆さん?
「おまえはいつ見ても可愛いし、心から愛しているから私の宝物をあげようと言って、一番綺麗で価値のある宝物を一つ、文若ちゃんにあげました」
「宝物か……名誉の戦死とかかな?」
聆さん!
「……さぁ残りはいくつ?」
「……なんか今、すごい例えをしたような気がしたんだけど、気のせいだよな」
「春蘭様は強欲で、聆は何を考えているか分からない。桂花様は一番忠実で有能……」
「何を考えているか分からないとか言うんは別に構わんけど、台無しにしたってぇのが気に入らん」
「……抑えてくれよ?」
「抑える抑える。こ こ で は な」
さよなら桂花。
「隊長」
「なんだ?」
「一番綺麗で価値のある宝物をあげたら、残りは……ゴミですか?」
「いやいや、それはなんか違うだろ。桂花のやってる授業は算数だぞ?」
「算数だったんですか……」
「ウチも一瞬分からんかったわ。余計なこと言いすぎて算数の問題に聞こえん」
これは……人選ミスか?
「二つじゃなかったから三つ!」
「無」
「何言ってんだよ、一つに決まってるだろ!」
子供達は口々に好き勝手な数字を言っては騒いでいる。授業を受ける気はあるみたいだけど、教養自体はまだそんなにレベルが高くないってとこか。
「答えは八、若しくは五。やな」
「聆?」
いや、四だろ?
「台無しになった二つ以外、それぞれ場所が移動しただけで存在しとる。それで八。宝物庫か何かからの出入りで考えるんやったら、まず五つに。で、文若ちゃんにとって一番綺麗で価値のある宝物とは?」
「……孟徳様、か」
「そう。で、残りは五つ。ま、捻り無く考えたら四つやけど」
こっちはさすがに余裕があるけど、子供達の方はやっぱり答えを出せていないみたいだ。桂花のこめかみがヒクヒク動いてるのが、ものすごく気になるけど……まさか子供達にキレることはないよな?
「よーく考えてよ?強欲な元譲と不気味な嵬媼が、三つと二つ、宝物を失わせたのよ?」
お、頑張ってる頑張ってる。有能な軍師にとっては簡単すぎて苦痛であろう初歩的な引き算を、こらえて教えようとしてるんだから、邪魔せず見守ろう。
「とはいえ……例えがなぁ……」
「聆は何でか知らんけど、春蘭様と桂花の二人はホンマに仲が悪いな」
「顔を合わせても合わせんでもこうやって貶め合っとるからなぁ」
「恋敵だからなの」
「……少し面白いですね」
「……まあ、面白いっちゃ面白いよなぁ」
でも、なんだかんだ言ってお互いの才を認めてて、しかもそれが必要だから、憎んでも憎みきれないって感じなんだろうな。
「ん、そこにいるのは北郷か?こんなところで何をやってるんだ?」
「うぉっ!?なんだ、春蘭か。驚かすなよぉ」
「普通に声をかけたと思うのだが」
そこに突然聆が声をあげた。
「自分のなかの普通と世間一般の普通が同じやと思ったらアカン!」
「お、おう?」
「ほら、城に帰って一般教養の勉強するで!」
なるほど、春蘭を強引にでもここから遠ざける作戦か。
「いや、私も用事があって街まで来たんだが……」
「そんなんは後や!」
「華琳様に差し上げる菓子の買い出しを『そんなん』とはどういうことだ!!」
「華琳様も菓子より春蘭さんの方が大事やろ」
「む、まあ、それはそうだが……」
い、いける!
「じゃあ一つずつ考えていきましょう。孟徳様が十の宝物を手に入れました。このときの宝の数は十よね?」
「ん?あの声は桂花か。なにをやってるんだ、あいつは?」
「子供達に学問を教えてるんだよ」
「そうやで。これからは民の全てがある程度の教養を持つようになるから、『私は学問は苦手だから秋蘭任せた』なんか言っとったら笑われてまうんや。やからな?早く帰って学問を」
「だーかーらー、それを強欲で頭を全然使わない元譲が勝手に三つ取っていったのよ?じゃあこの時点での宝はいくつ?」
「なん……だと?」
「あ、もしかして……聞こえた?」
「ウチはなーんも聞こえへんかったでー?」
「私もです」
「幻聴やろ?」
「みんな耳が遠くなったの?沙和はちゃんと聞こえたよ?強欲でzむぐむぐぐんぐむむぐむーーーっ!」
「……馬鹿、いちいち繰り返すなっ!」
「北郷、私の耳はお前達と違って良いんでな。なるほど……聆の勢いが強めだったのはこれを誤魔化すためだったのだな。あの女狐め……こんなところで狼藉を働いているとは……」
春蘭から物凄いプレッシャーが放たれる。まずい。このままじゃ下手すると小屋ごと桂花を破壊しかねない。
「仕方ない。聆、凪、真桜、沙和……春蘭を取り押さえるぞ!」
「やるしかないみたいやな……」
「沙和の腕の見せ所なの!」
「ほう。お前達、この夏侯元譲の前に立つか……。止められるとでも思っているのではあるまいな」
「私ってば経験者やから止めるんは上手いでぇ」
「ならば存分に楽しませてもらおう」
「何度も言ってるように、そこから更に奇っ怪な変態芸術家(笑)の嵬媼が二つ台無しにしたの!さっきの七つから、いくつになった?」
「通ってええで」
「ああ。この怒り、お前の分まで晴らしてやる」
「ちょ、聆!そこは頑張ってくれよ!」
「うるさーーーーーい!外で暴れているのは誰?授業の邪魔になるから立ち去りなさい!」
「げっ、桂花!?なんで出てくるんだよ!」
「なんであんたがこんなとこにいるのよ?って……げっ春蘭!?」
「へい!嬢ちゃん、私もおるで」
「聆!?」
「そうやでー。何考えとるか分からん不気味な変態芸術家(笑)の鑑嵬媼さんやでぇ」
「こんなところで陰口を叩いていた割には、威勢よく出てくるじゃないか」
「別に陰口なんて叩いてないわよ?あなたの勘違いじゃない?」
桂花の顔がサッと一瞬青ざめたが、すぐにいつもの高圧的な態度に戻る。引いたら負けだと思ったんだろうな。
「ならば聞くが……子供達に物を教えるのに、どうして私の悪口を言っている!」
「悪口じゃないでしょ。ついでに事実を教えてあげてただけじゃない」
「へぇ〜〜。んだら私は変態芸術家の名に恥じんようにこのステキな素材を使って何か奇っ怪な作品を作らななぁ」
聆がガッシと桂花の頭を掴んだ。
「じゃあ私も何も考えずにこの場で血祭りを開催してやらねばな」
春蘭が指の骨をパキリと鳴らした。
あぁ……また桂花の顔色がすごいことに…………。
「どうせやからかゆうまも呼ぼか」
「ふむ。それも良いかもしれないな。あやつは中々話の分かる奴だ」
「殺したら華琳さんに文句言われるから、せめて泣いたり笑ったり出来んようにしてやろーや」
「……隊長」
「ああ……」
随分と物騒な流れになってきた……。そろそろ止めないとまずいな。……止められるか?
「おい……聆、春蘭。子供達もいるんだからその辺で……」
「そ、そうよ!私には授業が有るの!この辺で失礼させてもらう 「ァン?」 ……ってもいいですか!?」
「……せやな。子供らもおるしな。……春蘭さん」
「……まぁ、仕方ないか。私は菓子を城まで届けてくる」
お、意外と行けた。やっぱ子供達は大切なんだな。桂花もほっとした様子だ。
「じゃ、授業終わるまで待っとくから」
「私もすぐに戻ってくるからな」
縋るような瞳で見つめてくる桂花に、俺は敬礼を返すことしかできない。
人を呪わば穴二つ。荀彧先生の体を張った国語の授業だった。
今、エロをどう書くか考えているのですが、
クッソむずかしいですね。てか、向いてない…?
でも、何事も挑戦だと思うので、頑張ってみます。