哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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完全に風邪をひきました。咳と鼻水がヒドイです。
皆さんも気をつけて下さいね。


第五章一節その二

 官軍の撤退も大方完了し、この場に残っていた黄巾も、ジワジワ戦力を奪った結果降参した。後は春蘭と季衣が戻ってくるのを待つだけだ。捕虜の扱いについても任せることになるだろう。今回も割と上手く事が運んだ。

 ただ……やはり、経験の浅い班長は引き際を誤ることが多く、被害が全く無かった訳では無い。その中で生き残り、経験を積めるよう、周りのベテランがフォローするように言い含めてある。新人には一戦一戦を糧として更に頑張ってもらいたい。そのためにまず今日は帰ってさっさと休ませたいのだが……春蘭、なかなか戻ってこないな。

 

「鑑惺様!黄巾が戻って来ました!!」

 

袁術領の方から戻って来たのは春蘭ではなく黄巾だった。予定通りの動きをしているに過ぎない黄巾に対し、春蘭は孫策と一悶着有る。思えば当たり前の事だ。相手の数は今のところ我が隊の五倍は軽く有る。落ち着け……まだ焦るようなときじゃない。

 

「官軍に伝令出せ。……鑑惺隊は課を三つに振り分ける。左右二分隊はいつも通り敵の横っ腹を剥げ。残り一分隊は正面から当たると見せかけて更に二つに別れて他と合流。すり抜けられても気にすんな。後ろでのろのろ撤退しよる官軍に相手させるから。そんくらいは官軍にも働いてもらう。目的は敵を止めることやない。勢いを緩めることや。戦闘準備して待機。銅鑼鳴ったら動けよ」

 

実際まだ焦るようなときじゃない。距離があるし、官軍も含めたらそこまで数に差は無い。流石に黄巾が到着するまでには官軍も戦闘準備を済ますだろう。

 

「……鑑惺様、黄巾の更に後から大部隊が……」

「おう。……旗は…夏侯と、孫……やな」

 

それにコイツらも来るからな。蒸発でもするように敵が減っていく。この分ではもう仕事は無さそうだ。

 

    ――――――――――――――――――――――――

 

 「―――とまあ、そういうわけです」

 

結局、捕虜は「置いておく場所が無い」という"建前"で武器を奪い放逐して陳留に戻って来た。軍議も終盤。春蘭の報告、と言うか、語り(?)に華琳は深いため息をついた。

 

「……呆れた。それで、孫策に借りを作ったまま帰ってきたというの?」

「え、そこが問題なのか?」

 

一刀は不思議そうに半ばツッコミとも取れる質問をする。……それは私も思った。

 

「当たり前でしょう」

「……そうなのか……?」

「はぁ……早いところこっちの価値観にも慣れてほしいものだわ。……聆、後で説明しておいて。で、春蘭。どうなの?」

 

私も分かってないんだが。……王というものは筋が通った思考と信賞必罰が重要だから、恩と義、つまり貸し借りは大切にしないといけないということか?イマイチだな。ウヤムヤにしとこう。

 

「え、ええっと……連中の領に逃げ込んだ盗賊の退治は手伝ったのですから、差し引きで帳尻は……」

「合っていないわよ」

「合ってないぞ、姉者」

「あんたが連れ込んだようなものと理解されているでしょうね」

「そもそも、他国の領に入る前に黄巾党を片付けておけば、差し引く必要すら無いじゃない」

 

華琳、桂花、秋蘭の連続口撃か……これは辛い。冷静に諭すような口調が辛い。

 

「それが……わたし達が仕掛けた瞬間、ものすごい勢いで逃げられまして……。今思えば、あれも連中の策略だったのではないかと」

「……策略?聆、それは本当なの?」

「桂花、なぜわたしに聞かんのだ?」

 

おバカだからさ……。

 

「私の隊は官軍の支援しとって、実際に追いかけとらんから詳しい様子は分からんけど、まあ、通常の撤退って言うには早過ぎる感じはちょっとしたな」

「どうして止めなかったの?」

「援軍がおるとかって言う情報は無かったし……。そんな『ちょうちょを追いかけてたらいつの間にか森に迷い込んでた』みたいな話が実在すると思うか?」

「はぁ……。聆には春蘭と季衣を止める役割を果たしてもらいたかったのだけれど……」

 

そんな無茶な。

 

「それは私を買い被り過ぎやわ。華琳さん」

「貴女は人の扱いは上手いように見えるけど……?」

 

鑑惺隊のことを言っているのか?アレは地道に苦労して、頭が良くて臆病と言っても良いくらい慎重なリーダーを探し当てて育成した結果だ。例え私が居なくてもある程度動けるのだ。

 

「調教済の犬は扱えても、猛る狼は御し切れんわぁ」

 

立場的にも実力的にも流れ的にも。

 

「ほぅ……猛る狼か……」

「……褒められていないぞ?姉者」

「聆には追い追いその術を覚えてもらうとして……。今回はその将を討てて幸いだったわね。……春蘭や季衣相手だったとはいえ、黄巾党は策を展開出来る指揮官を得たことになるわ」

「黄巾党の弱点って、練度と将の質の低さだったよな……?マズくないか?」

 

先日の、糧食の焼き討ちによって黄巾の勢いは一時的には小さくなった。しかし、今日の軍議で、既に以前の勢力をほぼ取り戻している、と情報が挙がった。本部の特定の手掛かりにと期待していた物資の流れも、組織として統一されていないのが裏目に出たようで、役に立たなかった。どこも大体均等に復旧したのだ。

 

「予想としては折り込み済の事項だから、驚くことではないけれど……」

 

今のところ手がつけられないんですね分かります。

 

「これからは苦戦することになるでしょうね。以後、奴らの相手は気を引き締めるように。とくに春蘭と季衣、いいわね!」

「はっ!」

「はい!」

 

とか言っても、次も何か有ったら引っ掛かるんだろうな。

 

「……それから春蘭。その孫策という人物。どんなものだった?確か、江東の虎、孫堅の娘よね」

 

あー、孫堅も褐色で巨乳でエロエロなんだろうなぁ。堅どのが荒ぶったときは祭さんが相手していたらしい。ウヒョーー!……もう死んでるから仕方ないが。

 

「はい。風格といい、雰囲気といい、気配といい……袁術の食客と名乗っておりましたが、とてもそのようには見えませんでした」

「それってどれも同じじゃないか?」

「う、うるさいっ!」

「でも、同じ意味の言葉が三つ咄嗟に出るんは凄いことやと思うんや。春蘭さん、そんな落ち込まんで……」

「落ち込んでない!」

「難しい言葉を無理に使わなくても良いのよ?」

「華琳様までぇ……」

「フフ……。変に飾り立てずに、武人の夏侯惇としては、どう見たの?」

「……檻に閉じ込められた獣のような目をしておりました。袁術とやらの人となりは知りませんが、ただの食客で収まる人間では無いでしょう」

「檻に閉じ込められたら曲がりなりにも大人しくしてる辺り、春蘭よりは丸いな」

「春蘭さんは今回も飛び出してもたしな。さすがやでぇ」

「れーいぃぃぃ!ほーんーごぉぉ!!」

「すみませんでした隊長にこう言わないとカキタレにするぞって脅されたんです」

「ちょ、何言ってんだ聆!……はは、もうこの子ったらホント冗談が好きで……。だから春蘭剣を仕舞ってくれ頼む秋蘭も矢を番えるんじゃない!」

「はいはいどぅどぅ。春蘭、その情報に免じて、今回の件は不問とするわ。孫策への借りは、いずれ返す機会もあるでしょう」

「……ありがとうございます」

「それでは、他に何か報告すべき事項はある?」

「いえ、春蘭の件で最後です」

「そう。……黄巾の成長は早く、官軍もあてにならないけれど……私たちの民を連中の好きにさせることは許さない。いいわね!」

「分かってます!全部、守るんですよね!」

「そうよ。それにもうすぐ、私たちが今までに積み重ねてきたことが

実を結ぶはずよ」

 

……アレか……。

 

「……どういう事だ?」

 

一刀さんはまだエンジンかかってないな。

 

「我々と連中との、決定的な違いよ」

「なんだそりゃ」

「その時になったら分かるんちゃう?」

「そうね……。その時が奴らの最期になるでしょう。……それまでは、今まで以上の情報収集と対策が必要となる。各員、十二分に奮いなさい!」

「「「御意!!」」」

「民の米も血も、一粒たりとて渡さないこと!以上よ!」




無印のアンソロジー読み返してたんですが、面白いですね。
秋蘭がボケで春蘭がツッコミだったり、華琳が男口調だったり。
愛紗の(ゴキブリ)ホイホイチャーハンは変わりませんが。

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