この作品内には誤字脱字、主述のねじれ、矛盾点が今なお初心者レベルで存在している・・・?
すこし歩いてやって来たのは成都城から南への中心を貫く大路から一本外れた通り。路地というほど細くもなく、むしろ道の幅自体は広いくらいだが店の軒先からはみ出した品物や席で込み合った印象を受ける。そして何より遊び場の側面が強く、並んだ店構えも人々の面構えも少々浮かれたような雰囲気だ。
「あら、新しい店ができてますわね」
私がここに来て日が浅いというのもあるが、通りに足を踏み入れてすぐさま変化に気付けるというのは麗羽がいかにここに入り浸っているかをよく表しているように思う。
「料理屋、ですかね?」
「ちょっと入ってみる? 小腹も空いてきたし」
「小汚いですけど、まぁ、かまいませんわ」
こういう小さな料理屋は小汚いくらいが丁度良いのだ。
なんて思いながら入ってみたものの。
「一番、全抜きに全額、ですわ!」
料理屋の皮を被った超高レートの賭場だった。賭け仲間たちが、もっとデカい勝負をしたいと、性に合わない貯金なんかしてやっとこさ立ち上げたらしい。ヤバい店という自覚が有るのか、店主は私を見たとたんマズそうな顔をしたものだ。今はこの街の警備を担っているということは知っているらしい。一応、今この街で適用されている旧魏の法は犯していないものの。そして麗羽の顔を見た途端もっと顔を青くしていた。どうやら有名な勝負師になっているらしい。
申し訳程度に料理も出るようで「食事しながら遊べるなんて得ですわ」と麗羽はさっそく不健康そうな顔色のオッサン連中の卓に殴り込んだ。
そしてまた少し経ち、それぞれ一通り遊んで(私は初戦でちょい負けして、それを取り返したらすぐやめた)麗羽が今やっているのはトランプのポーカーのような遊びで、誰がどのように勝つかも賭けの対象である。「一番」というのは麗羽、「全抜き」というのは手札すべてが他者の手札に含まれる四方と柄と異なるというもの。やはりポーカーで例えることになるが、自分の手札が♥23456だった場合、残り三人の手札に♥が入っていたらダメ。2,3,4,5,6がどれか一つでも入っていてらダメという超高難度である。その分高倍率なんだけども。加えてさっき山札を切ったばかりのタイミングであった。外野から小声で理由を訊けば「私以外が勝つ予想などありえませんの」だの「全抜きって言葉の響きが好きですわ」だの「今いくら持ってるか分かりませんからとりあえず全額で」だのと。斗詩が「麗羽様は賭ければ勝つ」なんて言っていたが、ここまで、まぁ運で挑んだらそうなるわなという順当なペースで負けている。長い目で勝つだけで、負けることも有るんだろうか。そしてそれが今回なのかもしれない。というか勝つ勝つと言ってもこの人戦で負けて一度全て失ってらっしゃるしなぁ。おまけに今の手札はストレートみたいなものだ。強さは微妙だし全抜きを狙うには最悪である。始めは麗羽を警戒していたディーラー役のババアや同卓のオッサンたちも今や余裕の表情である。
亞莎が不安げに口を開いた。
「その、全額を賭けて負けるとどうなるのですか?」
「借金だねぇ。大丈夫。いい金貸しを知ってるよ」
そしてババアによるこの無慈悲を超えた恐ろしさのある答えである。
「姫ぇ、やっぱやめときましょうって」
「うるさいですわね。さぁ、さっさとおやりになって」
麗羽の催促、オッサンたちの無言の了承により、卓上の五組の手札が表に返される。
そして、賭博者たちの夢は本日で破産となった。創業から三日目のことである。麗羽の並外れた資金と倍率の暴力がしがない市民の金庫を粉砕したのだ。半分自業自得だが。
「さすがに店潰した上に借金っちゅうのは忍びないわ。私が麗羽にとりあおか?」
「いや。私どもも勝負人。自分が受けた勝負の結果なら、どんなに大きくても背負わなきゃァならないんでさァ」
「それに、あの賭けっぷりを見ちゃうとねぇ。あれだけの金が有って、あの場面、その全額を賭けた。まず勝負に賭けた思いで負けてたのかもしれないねぇ」
たまにここを根城にして泊りがけで遊ぼうなんて算段を立てている麗羽たちの後ろで、店主とババアは妙に晴れやかな顔だ。
「それに、ありゃァ袁紹様ってんでしょ? 噂に聞けば曹操に散々に負けて、着の身着のままお付きたった一人といっしょにこっちに来たってェ話じゃァないですか。それが今じゃァ一等羽振りが良いんだから」
このギャグ担当代表のような麗羽も、他の恋姫たちとは違った方向ではあるが、皆に劣らず大きな夢や尊敬の対象になっているのか。少し新しい一面を見た。本人は賭けとか覚悟とか全く分かって無いただの運だとかいう無粋な突っ込みはしない。
次に行ったダーツのような遊びの店。ここでは私は見学となった。祭り屋台の射的みたいに景品のが出るのだが、「鑑惺将軍は本職でしょう」と。将軍ではなく部隊長だという訂正はさておき、長物以外に投具も使うことが市民にまで知られてしまっているらしい。その横で亞莎が眼鏡が無いなんて泣き言を漏らしながら十発十中を披露し「そりゃあお付きもただ者ではないか」と店主を悔しがらせた。亞莎を私の侍女かなにか(配慮した表現)と勘違いしたのか。亞莎があまり名乗りを上げたりしないない方の人間だというのもあるだろうが、やはりさっきの桔梗のように、本当にあまりにも雰囲気が違い過ぎて分からないのかもしれない。
その後も通りを縦断しながら色々な店に入った。ボウリングに似た球ころがしでは猪々子がピンを粉砕し、ストリート将棋では亞莎がこれまた十戦十勝し……。南の端まで来た頃には両手は景品で、周りは見物人でいっぱいになっていた。
「このままでは交通の邪魔に……」
「ああ、マズいわなぁ」
亞莎の言う交通の問題もそうだが、それより注目されていることに気を良くした麗羽がまた無茶をしないかが気がかりだ。そうして何か解決策を探ろうと辺りを見回し始めた時には、斗詩がそれを見つけていた。さすがに慣れている。
「麗羽様、劇団が来ているようですよ」
指さしたのは街の南端の門前広場に開かれた芝居小屋だ。小屋に入って見物人をやり過ごす算段である。が、麗羽は渋い顔。
「ふぅん、演劇……でも、わたくし、これから通りを今度は北上しながら遊びたいと思っているのですけれど」
「でもほら、今からやる演目は項羽様が出るようですよ」
「それを早く言いなさいな」
麗羽の歓楽街蹂躙計画はあっけなく取り下げられた。項羽様というのは、もちろん項羽と劉邦、楚漢戦争の項羽である。以前垓下の戦い(「四面楚歌」で有名な楚漢最後の戦い)の劇を見てからすっかりファンらしい。
ちなみに、今回の演目は「鴻門之会」……項羽が軍師の提案を聞き入れず劉邦を殺しそこない、地味に身内から裏切者も出るわ軍師も憤慨するわという項羽ファンからすれば散々な内容である。今にも舞台に上がって劉邦を殺すよう大声で主張しようとする麗羽を静かに大人しくさせるのに死ぬほど苦労した。
芝居小屋から出て、席料代わりの団子一皿とともに甘味処に腰をおろす。一幕分も時間が過ぎればさすがに人も散っている。さっきの演劇小屋での荒ぶりようはどこへやらころっと上機嫌に戻って、服屋を出てからまた新しく手に入れた品々を取り出しあーだこーだとまだまだ元気におしゃべりを始めた麗羽の対角の席で、亞莎はグイッと伸びをした。
「ふう、初めてのことが多くて少し疲れましたが、とっても楽しいですね」
「そーやなぁ。私もこないして、街遊びに時間使うんは久しぶりかも。休みでもグダグダ話しながら茶か酒呑むばっかやったし」
疲れた原因は慣れないことよりも麗羽による部分が多いだろうけどな。
そんなことを考えながら一息ついたところに、慌てた様子で部下がやってきた。
「鑑惺様、華蝶仮面が!」
「あー……分かったすぐ行く」
「いえ、その、華蝶仮面が出た街の北側には楽進様が向かわれたのですが、西の通りにもむねむね団?とかいうのが現れまして、鑑惺様にはそちらに……」
その二グループが別のところに? となると、華蝶仮面が名もなきゴロツキ(或いは仕返しする友の会)の退治に出たところに、むねむね団の悪ふざけが運悪く重なったという形か。むねむね団というと、麗羽たちがここにいるのを抜いて、南蛮組。意図的に隙を狙ったということも無いだろう。麗羽たちを抜かなくてもそうだが。
「任せえ。……ってことなんで、悪いけど私はこれで……って、麗羽さんおらんやんけ」
「え、あれ!? いつの間に……」
嫌な予感がした頃にはもう遅かった。
「おーっほっほっほ!」
辺りに響く高笑い。むねむね団本隊のお出ましだ。これで三面になってしまった。華蝶とゴロツキのところには凪が行き、私が一つ収めるとしても足りない。残るは美以率いる南蛮幹部か袁家の二枚看板。どちらにしても一般兵の手には余る相手だ。
「亞莎、その、悪いんやけど」
「は、はい!」
相性や実力から考えて、私が袁家、亞莎は南蛮組の相手をするのが妥当か。
代金を残して勢いよく飛び出す……つもりだったのだが、亞莎がつっかかったように立ち止まった。
「どなした!?」
「そ、そう言えば、この格好……」
調子にのって亞莎で遊んだことが今になって返ってきた。今の亞莎は武器を持っていないし、何より防御力無さそう過ぎて逆にレア装備補正で良いステータスもってそうな高露出衣装だ。亞莎のいつもの服も、それに隠されていた武器も、前半の荷物といっしょに星が持って帰ってしまった。
ふと我に返ったか、それとも遊びと任務は別ということか。こっちが乗せたとはいえ本当に今まで気にしてなかったのかという私の内心とは別に、亞莎はモジモジと二の足を踏んだ。そうやって顔を赤らめると余計に扇情的になる。
「大丈夫やって、堂々としとけば」
「そ、そうですね。それに、今は非常事態。こんなことを気にしている場合では……」
まるで歩兵隊の最前列に置かれた新兵のような顔をする。こんな調子では例え解決に向かったところで美以たちの勢いに呑まれてしまうだろう。しかしそこをなんとか戦ってもらわねば困るのだ。私は、二本の剣を渡し、亞莎の手を握った。
「お前はお前やない……」
「私ではない……?」
「……そう、この攻めに攻めた服装で恥ずかしい仮面の軍団と戦うんは呂蒙軍師やないんやと………」
今となっては他にやりようがあっただろうと後悔している。しかし、この時私はこの言葉を思いついてしまい、亞莎はそれを実行した。
「分かりました。では、行ってまいります!」
「おう、任せた!」
そしてやっとこさ二手に分かれる。亞莎は店を出てすぐ路地に消えた。
私の場合はさっきまでいっしょにいた相手。すぐに対峙することになる。
「何のつもりかは知らんが、こんなバカ騒ぎは止めてくれんかなぁ」
「おーっほっほっほ!やめろと言われてやめるバカがどこに居ますか」
「そんなバカは居ない」という意味か、自分がバカだと認めた上で「バカは言うこときかない」という意味か。
「っていうか遅かったじゃんか、れ――おっと、鑑惺さんよー」
「そっちのせいやわ。無駄に同時多発騒動起こしよってからに」
「ふふん、この私の策に翻弄されるとは、蛇だの鬼だの外道だのド畜生だの言われてる鑑惺も大したこと有りませんわねぇ」
「私たちも寝耳に水で便乗しただけですけどね……」
「お黙りなさい! おほん、さて、ちょうちょ仮面をギャフンと言わせる前にまずはこのお邪魔なウドの大木をやーっておしまいなさい!」
「実力行使っちゅーことになると、私も妥協できんが……」
「望むところだぜ! へへっ、ワクワクしてくるなぁ」
「すみません、鑑惺さん」
済まないと思うならやめて欲しいものだが、そうもできないのが袁家の付き人の性なんだろう。ノリノリで一足に突っ込んで来た猪々子の一太刀。それを滑るように退いて避けた私の頭上に斗詩の大槌が降ってくる。
大戦を一線で戦い抜き、輪をかけて強くなっている二枚看板なんて呂布ほどではないにしろ相手にしたくない存在。しかしこの成都、仮面騒ぎの裏で正規の警邏隊への不満が高まっているなか、外様とはいえその指揮官である私がいい加減なことはできない。
私の実力、それに騒ぎを収めるという一番の目的のためにも、……いつもの小細工だ。
「斗詩、上だ!」
上からの叩きつけに巻き付くように更に上を取った。が……さすがに長いこと私といっしょに居た猪々子。読んで警告する。そしてその一言に一瞬で対応し、槌の柄を支えに全身を使ったアクロバティックな対空蹴りを繰り出して来る斗詩も斗詩だ。
「気付いてるって!」
更に一発。猪々子が跳び上がりざまに一閃。槌の先から伸びる紐を切った。アンカー代わりに地上と私を繋ぐ手綱。槌の上でまた一段跳び上がって蹴りを避けていた私は、正に宙ぶらりんになってしまった。
だが、死に体になってからが私の本領というもの。
数本の針を下に投げる。猪々子は「そんな小細工効かねぇよ」と余裕の表情で防いで見せた。向こうも跳び上がっていて、防御に貴重な滞空時間を使ってはいられないだろう……そう踏んでいたが、どうやら組体操のように足下を斗詩が支えているようだ。
実を言うと嬉しい誤算である。
「その防御が命取りやァッ!」
勝利宣言と共に片足を蹴り出す。私の言葉に一瞬身を固くした猪々子の斬山刀を足場に、斗詩の支えをしっかりと利用して三度目の跳躍。今度は横方向だ。
「逃がすかッ!」
空中で追いつかれ、叩き落される。冷静に考えれば、飛行能力が有るワケでもなし、地に足付けずになにやってるんだか私たちは。
それはさておき、さぁ、今度は本当に私の勝ちだ。
「ひっ!?」
「むねむね団団長、爆乳の袁。この鑑惺が確保した。これより城に連行する」
叩きつけられた先はまさに麗羽の目の前。さっき猪々子の叩き付けを防ぐため抜いた懐刀をそのまま麗羽の首に突きつけた。
槌やら蹴りやらを上に避けたのも、紐も針も何もかも、上からの攻撃だとか間合いを取るだとか猪々子たちとの戦いを考えた行動ではなく、ただ飛び越えるため。このおバカな首謀者さんに接近するためのことだったのだ。
あとは本当に城へ逃げ帰るだけ。開けた直線はダメだろけど、民家の間や人々の間を縫って走るのは私の方が慣れている。麗羽を盾にすれば攻撃も受けまい。というか、そもそもこのお嬢様が命令しなければ二人がどうこうすることも無いワケで。さっきの「ワクワク」とやらも流石に霧散しただろうし。
音に聞く蛇鬼鑑惺の戦いを楽しみに集まりつつある野次馬の皆さんには悪いが、ここからは気の抜けた四人のかけっこ大会だ。
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「むねむね団の正体が麗羽様たちだった……通りで今まで捕まらなかったわけです」
亞莎はほうっと息を吐きながら言った。
あれから数日。仮面こそ禁止されたが、麗羽たちは今日も能天気に遊び回っている。非常に迷惑だったとはいえ重大な罪は犯していないこと、それに終戦直後、国主が居ないところで下手に有力者を裁いては余計な混乱の元になるだろう(やはり実権は鑑惺が握っている、なんて思われてはかなわん)ということで注意だけに済んだのだ。
「なんせ高官やからな。警備の薄いところ……というか、あいつらの実力やったら隊長格の順路だけ知っとけばええか。簡単なことやな。今回は他の団員の独断行動に焦って便乗しての失敗か」
「お騒がせ軍団が減って良かったですね」
「そうやなぁ……でも残念ながら頭を獲ったからって、むねむね団残党は健在やし?」
絡繰博士こと真桜は麗羽からむねむね団の「爆乳」の名を継いで絡繰の試し打ちにいそしんでいるし、沙和は「並乳」を拝命して悪の仮面軍団向けの派手な衣装作成を楽しんでいる。
「新しいのんも増えたしなぁ……」
それに最近は「風月天女」なるヒーローまで出現した。これは仮面ではないが、同じような存在だからと仮面として一纏めにされている。
「実は他の仮面も身内なんやないかと思っとるんやが」
思っとるというか知っているが。
「うーん……そうなると、いまだに活発であるどころか新たに登場していることが不自然なのでは? 本当に内部に居るなら、警戒して行動を控えるかと思います」
確かに、「身内に仮面が居ることが明らかになった」と知っているのは身内だけ。だから、もし身内に他の仮面が居るならば「身内も疑われるようになる」と警戒して仮面騒動は収まるはず。というのが亞莎の論。
しかし、だ。「次は無い」という注意だけで殆どお咎め無しだったことを知っているのもまた身内なのだ。顔出しでおふざけして罰を受けるのだって平気な面々。お面で遊んでお咎め無しと来ればやらない手は無いのだろう。糞が。本当に"次は無く"してやろうか。
それに加えて、である。こうして相談を受けている自分が仮面だと思うと警戒もクソも無いよなぁ? 風月頭巾こと亞莎さんよぉ……。
あの日の一件が、この娘を変身させてしまったのだ。エロエロ衣装でキザな言葉を吐きながらド派手に戦う快感に目覚めさせてしまったのだ……。
どうやら本当に、あのベリーダンサー風衣装を着た亞莎を亞莎と認識できる人間は稀有らしい。亞莎は折を見て風月天女に変身しては、人知れず街の平和を守っている。
……人知れず……と思ってるんだろうなぁ………。
「いやいや裏の裏も……」
「ふふっ、なんだか今の聆さん、聆さんを相手にしたときの私たちみたいです」
なに笑っとんねん。
この苦悶こそ本物だが、悩んでいる理由は口に出している内容とは全く違う。増えていく仮面と、雰囲気変えたり仮面被ったりしただけでばれないと思っているバカちんどもと、それで実際に大多数が誤魔化されてしまう事実と、こうして平気な顔で相談に乗ってくるご本人のせいで、困惑と疲労がないまぜになって溢れてくるのだ。
今まで仮面の正体に気付いていない体で相手になってきたが……。いっそ大人気無くマジ対処してやろうか。いや、しかし、正体が分かっているとして、どうすれば良いのか。バカ共は仮面が無くてもバカだ。無駄にしらばっくれたり反省が無かったりだろう。南蛮組だって、ジャングルから遠く離れているストレスをこの形で発散しているのかもしれない。そして、元凶の星。あいつに至ってはあいつなりの正義を行っているつもりだ。哲学的な内容にも触れることになるだろう高度な論議や、それがうまくいかなかったときには討ち合いにもなるだろう……。正体を暴いた上で当たれば、それが「正体不明の仮面」と「警邏隊指揮官」ではなく「趙雲」と「鑑惺」の戦いになってしまうのだ。
「か、鑑惺様!」
慌ただしく駆けて来た衛兵に向き直り、一旦思考は隅に置く。蜀の兵たちと任務を重ねて信頼関係を築けたのは、ある意味仮面たちのおかげかもしれない。全然有り難くないが。
「何や。また仮面や言わんやろな?」
「……仮面です」
「……どこや」
「……酒蔵です」
「酒蔵ってどこの? まさか城っちゅーことは無いやろ?」
「……城の酒蔵です」
「殺すわ」
くそ陰気作者特有のクッソ曖昧な遊び描写恥ずかしくないの?(嘲笑)