私は今、黄巾と戦う官軍の援護のため戦場へと向かっている。主将は春蘭。季衣と私が副将だ。まぁ、つまりは私が華琳にとっての「積極的に前に出したい将」となったわけだ。どうしてこうなった。護衛や警備、ちょっとした進言などでは確かに目立つ働きをしたし、私自身それを狙ったが、こういう前線でガッツリ戦うことが予想される仕事は同じような立場なら凪の領分のはずだ。「官軍の援護」と、聞こえは防御重視なようだが、その実「官軍と協力し黄巾を殲滅」である。特性上、私の隊は、面的な動き、即ち大規模な包囲に向かない。虫食いのようにダメージを与えたり、表面をズリズリ削ることはできても握り潰すことができない。他部隊の補助には役立てると自負しているが、それなら私の代わりに凪を入れて火力を増す方が効率が良いだろう。体はって突っ込むのを覚えろってことか?
と、その時部下から声がかかる。
「鑑惺様。官軍の指揮官から、連絡文が来ました」
「現物はよ」
「あ、はい。こちらに」
「うぃ。んだら私は夏侯惇将軍のとこ行ってくるから、その間は一課を割って他に振っとけ」
「了解」
私の直属の課を分解し、再編成してから春蘭の下へと馬を走らせる。分解と編成に慣らすため、些細なことでも動かすようにしている。リーダー格が討死しても混乱する事がないように。鑑惺隊も随分大きくなった。課数が増え、更に一つの課に属する班も多くなっている。我が隊は生存率が高く、戦慣れしたのリーダーや兵が多いから
まだ上手く動いている。しかしこれからも更に大きくなるし、また、そうしなければならない事を考慮すると、やはり何か連絡方法を考えなければならないだろうか。
そんなことを考えている内に夏侯惇隊の中枢に着いた。
「春蘭さん、官軍から連絡文や」
「……読まずとも良いぞ」
「良んけ?」
「いらん。どうせ、到着が遅いだの早く蹴散らせだの書いてあるのだろう。そのような手紙、見ている間も惜しいわ」
「じゃあ私貰ぉとくわ」
「春蘭様!部隊の展開、完了しました!」
季衣が駆け寄ってきて言った。
「よし。官軍の援護は聆、貴様に任せる」
「あぁ、春蘭さんらは直接黄巾に突っ込むんか」
「のろまに合わせてやる道理は無い」
「バッサリやなぁ……。じゃ、武運を」
鑑惺隊へ戻る背後から、春蘭の口上が聞こえる。なるほどな。黄巾程度なら春蘭と季衣だけで十分ということか。官軍との接触と補助なら私が優れているだろう。
「一課は再結集して私に付いて来い。二課以降は初手二班列縦隊で官軍と黄巾を分離させるように横撃。その後は被害を最小にするように流せ」
二班列というのは、班を最小単位と見た二列だ。班長がスペースを測って二列に並び、その周りに班員がワラッと居る。個人行動などさせる気が無いので、この指示だ。
「華雄m将軍!華雄将軍はどちらか!」
かゆうまって言いそうになった。危ない危ない。今は一応かなりの目上だからな。しかも他軍の。
「お、おう!ここだ!ここにいるぞ!貴様らはどこの兵だ!」
ここにいるぞ!って馬岱の一発ギャグだろ。
「私は鑑嵬媼。陳留州牧、曹操の命で参上した。状況は」
「ああ。本隊は既に下がり、こちらも苦戦しておったが、貴公らのおかげで何とか命を繋ぐことが出来た。礼を言う」
「ここは我々が受けます。かゆうま将軍は撤退なされ」
あ、かゆうまって言ってしまった。
「すまん。ならば、その言葉に甘えさせてもらう。張遼にも連絡せよ」
気付かなかったようだ。
「張遼将軍は既に撤退開始しています」
「よし。ならば撤退だ。総員、撤退せよ!撤退だ!」
まだ撤退命令を出していなかったのか。孤立しかけていたが……。官軍は連絡網がガタガタだな。恐ろしいことだ。
「鑑惺様!」
「なんじゃい」
「敵の大部分が逃走し、夏侯惇将軍と許緒将軍が追撃に向かいました」
「今から追いつけるような速さでもないやろ?……じゃあ残った敵の相手と官軍の末端の援助するで。一課も前線に入っていつも通り削ろか」
さて、これから春蘭は孫策と出会うんだろう。一仕事終わりか。
「鑑惺様、またお酒ですか?」
「悔しかったらお前も出世せーや」
「いや……酔わないんですか?」
「一口だけやしなぁ……むしろ、こんぐらいで酔えた方が安上がりで良ぇんやけど」
蒸留は地味に面倒だ。
何か切りが良くなってしまったので一旦出します。
五章一節はどの視点で見るかで話の密度が全然違いますね。
コメントにいい感じに意見が出始めて嬉しいです。
ただ……聆と真桜の書き分けどうしよう……。