9/1の軌跡は忘れない。
そう言えば私がここに来たのってセブンスドラゴン二次(転生、クロス無し)を書く場を探して漂流してたのがきっかけなんですよね。まだ書いてないんですけどね。
この話するの二度目でしたっけ。
伏兵の影は無し。五胡や江東の残党が動く気配も無し。成都決戦は真正面からのぶつかり合いとなる。
城壁の遠巻きに静止した魏軍に遅れて蜀呉同盟も城門を出て展開を完了し、私はそれを軍の雑踏から少し離れた林で見ていた。
そして蜀から数人が、陣を出て前に出る。桃香、愛紗、鈴々だ。対して魏からも華琳と夏候姉妹が出た。これから最後の舌戦、さて、どんなものになるか。
「せっかくの機会だし、一対一で話したいと思っていたのだけれど」
「蜀の夢はこの三人から始まりましたから」
「『夢』ね。じゃあ、あなたの夢、聞かせてもらいましょうか」
「ただ、皆が幸せに暮らせる世界が欲しい、と」
「それだけ?」
「はい。前に訊かれたときは、弱い者がどうだとか、力がどうだとか、そんな聞きかじった政の言葉に頼っちゃいましたけど」
「そう……そんな子供じみたいい加減な指針で、国が廻ると?」
「廻らないと言って来るのは、今では貴女だけですよ。曹操さん」
「………」
王と王が静かに見つめ合う。蜀軍の両翼が、滑り出すように広がって行く。
「それに……私たちだって、ただ『みんなが幸せになれれば良いね』なんて言って過ごしてるワケじゃありません。外の敵と戦だってしてきましたし、内の罪を裁くことだって、もちろんします」
「国として最低限、当たり前のことしか言ってないわよ?」
「当たり前のこと。そしてそれ以外は……皆が幸せになろうという願い以外は宣言するに値しないと思います。例えば、武人の皆さん。何のために武器を取りましたか?正々堂々、正面から戦うのは何のためですか?本来、大切なものを守るため、勝った負けたの結果以外に、余計な恨みを残さないための流儀だったはず。それが今ではどうでしょう?ただ戦いたいだけ、戦って給料を貰いたいだけの人が武人を名乗っていませんか?自分の力を十全に発揮したいためだけに正々堂々を謳っていませんか?」
「目的と手段が有り、手段を声高に宣言し続ければいつしか目的が歪む、と」
「どんなに緻密な法を作っても、その分犯罪が緻密になって行く。どんなに国を広げても、その外には別の国が有って、それに、国の中を纏めるのも難しくなっていく。王族の独断だって、会議だって、時が経てばやがて腐っていく。じゃあ、自分が、正義を、幸せを行うしかないじゃないですか。そして、現在と未来に、同じ思いを持つ仲間が居ることを願うしかないじゃないですか。だから、バカみたいでも、おかしくても、矛盾してるように見えても、私は『皆が幸せになれる世界』を掲げます」
「そう。理屈は分かったわ。でも、やはり、大雑把に過ぎると"私は思う"わね。今度は、こちらの主張……は、要るかしら?」
「強い国を作る、ですよね」
「そう。もし仮に、皆が幸せな世界を願う民が集まった国ができても、それが攻め潰されては意味が無い。まず強固な国を作る。各々の幸せは、価値観も様々だし、政で左右するものではない。一般に広くその機会、或いはそのための能力を付ける場が与えられるよう工夫はすべきだけれどね」
「……やっぱり、戦わなければなりませんか?」
「まぁ、少なくとも、丁度いま貴女が持っている辺りまでは纏めておきたいというのが、私の考える強い国への歩みの一つだから。……望みは勝って通せ、と言われてだだをこねる貴女では、もうないでしょう?」
「ええ。曹操さんの"おかげ"で」
「誇りに思っておくわ。……春蘭」
「はっ!」
華琳が踵を返した。春蘭が剣を空へ突き揚げた。
「全軍、戦闘態勢!戦乱の終わり、そして次の時代の始まりがこの一戦にかかっている!魏の誇りを胸に、そして己が名を歴史に刻め!」
「はるか千年、子々孫々へと我が国を繋ぐために!」
「曹魏の牙門旗の下、覇を天に唱える。各員、奮励努力せよ!」
続いて上がった魏軍の雄叫びを跳ね返すように、愛紗が一歩前に出る。
「愛紗ちゃん、お願い」
「我らは、多くの苦しい戦いを越えてこの地に立っている。『敵は強大』も言い飽きた。『団結こそ力』も聞き飽きただろう。今はただ、己が心に従い、その刃を振るえ!」
「みんな全力を出すのだ!明日も、明後日も、何年経っても、蜀で笑って暮らすために!」
「劉旗の下、私たちは、私たちの夢を、現実にするんです!!」
そして両軍の主が陣へ戻るより前に、広がっていた蜀の両翼が俄かに一点に突き出すように突進を始める。
開戦だ。
さあ、私も、今まで通り、ただ幸せな明日を掴むためにできることをしよう。
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いよいよ始まった最終決戦。北郷隊は第一の矛たる夏候姉妹隊を補佐する刀の役割だ。相手の攻撃を受けきり、春蘭たちが攻撃に集中できるよう切り払い続ける。
「隊長!敵軍第一陣、突進してきます!」
「旗は!」
「甘。甘寧です!」
「だろうな、って相手だな。浮足立たず、落ち着いて対処しよう。むしろその後来る二波三波の援軍に警戒して、凪と真桜はもっと春蘭たちの近くに居てくれ」
「了解しました!」
流石に俺だって黄巾の頃から始まってもう名が知れたのか、華琳への道を阻まれた甘寧はこっちに来る。
早い。典型的切り込み隊長って感じだ。
「沙和、行くぞ」
「いつでもばっちこいなの!」
トンっっと嘘のように軽く跳んで、遥か頭上から斬撃を落としてくる。
ワザワザ落下点で受けてやる必要はない。背を向けてでも走って逃げる。一手二手は沙和が受けてくれる。その間に構え直し、二対一へ。
「魏軍五本指にも入る大隊長が、小賢しいな」
「バカよりいいだろ?」
隙を伺って互いに円を描く。俺が少し切っ先を下げた瞬間、今だ。
俺の喉元に迫った曲刀を三本の槍が受け止めた。
「なっ……!?」
「驚いてるヒマは無い、のッ!」
反撃、俺の横薙ぎ、沙和の切り上げ。屈強な、信頼すべき兵士たちの一、二、三、四、五、六、七突き。
「さっき、自分で俺のことを大隊長って言ったろ。何でそんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんだ?」
やっぱり、三国志の人気武将。甘寧は強い。でも、最後の一突きで微かながら届いた。
「隊長は部下が居るから隊長なんだぞ?」
「数押しも言い方しだいなの~」
「沙和、そのセリフは余計だ」
「……何を得意になっているのか知らんが」
甘寧は目を細めながら立ち上がる。
「この領域の斬り合いに、今更、雑兵の入る余地が有ると考えるとは思いもよらなかっただけだ。次は無い」
「そりゃ雑兵には無理だろうね。こいつらは精兵だから」
「減らず口を……!」
再びの突進。今度は俺の刀が受ける。俺が掴んだ柄の間を、もう一組の太い腕が握っている。
「……くッ!?」
同時に何本もの槍が甘寧へ突き立てられる。
「こんどはこっちから行くの!」
「そっちが一騎当千ならこっちは千騎当万だ!」
ノスタルジーに溺れそう