今回はいつにも増して誤字、脱字、ねじれが多そうなのでお気をつけください。
「奇襲部隊からの、その後の報告は?」
「特に何も来てないみたい。大丈夫かなぁ……」
鑑惺らが包囲へと動き始めた頃、両軍本隊はまだ接敵しておらず、蜀前陣も割と静かなものだった。
「……そちらの心配ばかりもしていられないようだ」
もちろん、静かと言っても戦場。すぐに騒がしくなる。
敵に備える兵の向こう、道の先を甘寧は睨む。
「ん?」
湾曲した道の先から地響きのように馬の足音が聞こえる。
程なく、土煙と共にその姿が見えた。
「………これは、すごいな……」
「先頭は……夏侯惇、張遼……とんでもない勢いで一気に突っ込んできてる」
「敵ながら素晴らしい士気だな。……けど」
「今は好都合だよねっ」
一気に来てくれる方が、一気に引っかかりやすい。馬岱は上機嫌でその時を待つ。
「走れ走れぇッ!!我々第一陣で包囲を打ち砕くのだ!」
一方の魏軍先鋒。夏侯惇を先頭に、許緒,張遼,華雄,文醜が続く。こちらもかなりの上機嫌である。多少、敵の動きのせいで急かされるような形での開戦となったが、その指示は『全速で突撃』というもの。非常にわかりやすく、趣味に合ったものだった。
「はいっ春蘭様!」
「おお……、この無心で突撃する感覚……これこそ私が求めていたものだ……!」
「あかん……華雄が悪い意味で覚醒しよる」
「そう言う霞もにやけてんじゃん」
「そらそうや。全速突撃は騎馬の華や!」
「蜀の兵よ、覚悟せよ!我は魏武の大剣、夏候元譲なr――」
瞬間、夏侯惇の騎馬は体制を崩す。
蜀の最前線の目と鼻の先、隘路の出口付近を横切る溝のように掘られた落とし穴……いや、対軍団用に作られた『隠し空堀』である。地面を荒らされていたせいで実力を発揮できなかった西涼戦の意趣返しでもあった。
しかし、期待したような効果は発揮しなかった。落ちると同時に、夏侯惇の勉学以外に関しては高性能な脳が反則的な姿勢制御を行い、馬を乗り捨て対岸に着地することに成功する。さらに『ここで立ち止まっては軍の気勢に関わる。よって、止まることは許されない』と判断を下し、そのまま徒歩で敵軍に突進を続けた。
そして、地面が崩れる瞬間をすぐ近くで見た張遼以下猪四名も並外れた反射神経で堀を飛び越えてみせる。
そして一言
「跳べッ!!!」
後続の騎馬隊も次々と堀を跳んだ。『跳べ』と命令されれば完璧に跳ぶのが魏の兵である。
「うそ!?跳び越えた!!」
「なん……」
呆気にとられ一瞬弱気になりそうになった、が、なんとか踏みとどまる。
「いや、それなら定石通り迎撃するだけだ!」
策は空振ったが、それでもなんとかここである程度は削っておきたい。初戦に気を使っているのは蜀側も同じだった。
「歩兵は少し迂回して森の中から討ちなさい!」
「はッ」
荀彧と北郷の指揮する第二陣も前線の異常に素早く対応する。堀は板でも渡せば越えられないこともないが、今回は少し道を避けて動いた方が早いと判断した。
「ちっ……やられたわね」
とはいえ軍師の荀彧は不満顔。
「騎馬隊はうまく跳び越えたみたいだけど……」
「堀を跳び越えるなんて曲芸した時点で戦術的には負けてるのよ。……本隊を突撃させる前に軽く一当てしておけば………」
「最初から最大戦力で突撃ってのは華琳の意向だったろ。桂花が気にやむことじゃないさ」
「何?華琳様が悪いって言いたいの?」
慰めるつもりが思いっきり地雷を踏み抜いた。
「そうじゃないって!時間も無かったし、華琳の指示に不満は無いよ。今回のこの些細な負けはしかたないことだったって言いたかっただけだ」
「些細なんて言葉でテキトーに済ますんじゃないわ――」
「ああ!ほら、敵が変な動きしてるぞ!どうも別働隊を横から廻してこっちの先鋒を孤立させる気みたいだ」
「……私達も急ぐわよ。歩兵隊!森を抜けたらこのまま突撃!!」
沸点の低い荀彧だが、仕切る場面では切り替えも早い。この戦の後でたっぷり文句を言ってやろうと心に決めながら私語を切り上げた。
「むむむ……ダメな展開ですねぇ………」
後方の陣の中で陸遜は頭を抱えた。まさか堀がこうも簡単に越えられるとは。隠蔽工作を施すが故に多少幅が小さかったことは確かだが、それでも十分機能するはずだった。魏がなんだかんだと解決策を見つけることは分かっていたが、時間はかかると予想していた。そして初激を弱め、あわよくば先鋒の将を討ち取れるとも思っていたのだが、全て皮算用となってしまった。
予定を前倒して放った別働隊も、想定よりかなり早い第二陣の到着で相殺されてしまう。
言い訳がましいが、こうも兵の技量が高くてはかかる策もかからない。
「穏様ーー!」
「明命ちゃん!無事だったんですか!良かった〜」
「……美以殿も、一応。……ですが、今はそれどころではありません!」
「そうですねぇ。敵の勢いが想定の五倍以上……」
「それもそうですけど、そうじゃないんです!山から――」
言い終わらない内から、周囲の山林の木々がザザと揺れて矢が降り注ぎ、抗戦にあたっていた蜀の兵を追い立てて黒い魏の兵が駆け下りてくる。
色々と察した。
「退きましょう!」
「はい!」
負け戦でぐずぐずその場に留まるほど愚かなことは無い。それに、ここでの退却は想定内……というよりかはむしろ大前提。決断は早かった。
陸遜の指示により全軍へ退却の号令がかかる。
「くそっ……もうちょっと互角に戦いたかったけど、しかたない」
「包囲されていたのはこちらというわけか……」
「来るよっ!」
しかしそこへ蜀軍とは真逆の有り余る勢いとともに兵の垣根を割って飛び込んでくる、張遼,華雄,文醜の三騎と、それに続く騎馬隊。(徒歩になった夏侯惇は歩兵隊と合流。許緒もそっちについている)
「馬超!いざ尋常に勝負や!!」
「そうやってるヒマも無いんでね。ここは逃げさせてもらう」
「落し穴まで作って、しかも先頭には立たないで、いざ顔合わせたらしっぽ巻いて逃げるとか……小物すぎるぜ」
「武人の風上にも置けん」
「あんたたちみたいな突進だけの猪を基準に考えないでよ」
と言いつつ、やはり刃を交わす六人。しかし、それも所詮は兵が退くまでの時間稼ぎだ。頃合いを見て逃げに転ずる。
「逃がすかいな!華雄、猪々子、追うで!」
「当たり前だ」
「応よ!」
対して、更なる追撃を加えようと勇ましく加速する三人。
「うわッ!?」
が、その鼻先を一本の矢が掠め飛んだ。振り返った先、夏侯淵が駆けてくる。
「何すんねん!」
「ああでもせんと止まらなかったろう。事実、私がさっきまで大声で呼んでいたのに気が付かなかったしな」
「そうなん?……いや、言うて加減があるやろ。結構な威力やったでさっきの」
「ワザと多めに氣を込めて気づきやすくしていたのさ。……ともかく、先鋒も追撃はせず本隊と合流、ここで進軍は一時停止だ」
「何故だ!敵がせっかく逃げ腰だというのにトドメを刺さずしてどうする!」
「それにここで逃がしたらまたあいつらと戦うことになるんだぜ?」
「ここで殺っとけば相手の戦力も士気も削れるやん」
口々にそれらしい理由を挙げて文句を言うが、実のところ単に思いっきり戦いたいというのが一番の理由だ。そんな心中を知ってか知らずか、夏侯淵は冷静に反す。
「馬超が本気で逃げれば、この程度の足ではない。霞と同程度かそれより少し早いだろう。甘寧と馬岱も実力より速度を落としている」
「な………そういうことかいな」
「この後の話がある。華琳様のところへ行くぞ」
これでも原作よりゴリ押しを軽減しているという事実