哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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≫これ確実に馬岱に攫われたよな?
落ちのためにテキトーに付けた文だったなんて言えない……。
いっそのことここも分岐点にしてしまおうか!?(狂気)

さて、紆余曲折有りました(主にリアルで)がSEKIHEKI終わりましたね。まぁ全然切り良くないんですけど。
 というわけで、以前言っていたように他の話にも手をつけようと思うのですが何をしようか迷ってます。ハーメルンの東方読者怖い。


第十三章三節その二 〈α〉

 「た、たいちょーが……行方不明………」

「す、すぐに捜索隊の準備を……!」

「そんなことより蜀に追撃隊や!一刀が交戦しとったんは蜀の奴やろ?」

「い、行かないと……(使命感)」

 

戦勝ムードも一転。軍議の場は半ばパニックとなった。特に凪なんかは虚ろな目でうわ言を言っている。

 

「落ち着きなさい」

「で、でも兄ちゃんが!」

「そーや!早よせんと!」

「狼狽えても何も好転しないわ。一刀を早く見つけたいと願うからこそ、落ち着いて対処をするのよ」

「ですが……蜀本国へ移送されては………」

「いや……誘拐とかは無いんとちゃう?」

「な、なら、まさか……」

「いや、そもそも何らかの形で蜀方が隊長をどうにかしたら名乗りがあるはずやろ『討ち取ったり!』とか『捕らえたり!』とか」

「そうですね〜。それが作法のようなものですし、討ち取った側としては味方を鼓舞し、相手の士気を削ぐことができる絶好の材料なのですよ〜」

 

孫呉の場合は逆上して強くなるが、あれは例外というものだ。

 

「必ずしもそうだとは限らないのではないか?嵬媼など何度も敵将を破っているが勝ち名乗りを聞いたことなど無いぞ?」

「私の場合、終わった頃には叫ぶ元気なんか無いんや。おかげさまでな」

「なら、今回の相手も疲れていた……?」

「それは無いでしょう。一刀殿が最後に確認されたのは馬岱との戦闘中だというではないですか……その馬岱は、その後も元気に戦闘していましたし」

「秘密裏に捕える必要が有ったとか……?」

「そんなん、捕らえてなにすんのん」

「拷問とか……?」

「無いわね」

「何で断言できるねん」

「男なんて拷問して何が楽しいの」

「…………」

「…………」

「…………」

「もしかして華琳さんも動転しとる?」

「私は冷静よ?」

 

ああ……これはパニクってはるわぁ………。

 

「華琳さんの趣味はさておきですねぇ、戦況がここまで進んでしまうともはや詰将棋……最短で建業を攻め、その後蜀に入るだけです。わざわざ拷問するまでもなく展開は読めちゃうんですよねー。揺さぶりや交渉の駒として使う方が何倍も効果的です。それが無いということは、一刀さんは敵に捕まっていないと見た方が自然でしょうねー」

「どないかして戦線離脱した可能性が一番高いっつーこっちゃ」

 

まぁ、それでも普通ならすぐ味方に発見されるはずだ。そこだけは腑に落ちない。

 ……まさかとは思うが、いいチャンスだっつって左慈ェが消しに来たとか無いよな………?いや、考えるのはやめとこう。もしそうなら手の施しようがないし、そうじゃなかったら時間と精神力の無駄だ。

 

「っつーワケで野営地近辺と赤壁近辺に少数の捜索部隊を出すんを提案する。逃げたは良えけど怪我とか疲れとかで動けんくなっとるとかあるかもしれんからな。万が一捕まっとるとか有れば……明日には斥候が情報持って帰ってくるやろ」

 

それに六課長も鳳雛を送りに蜀の野営地付近まで行ってるしな。

 

「そうですね。方針としてはそれで」

「なら、捜索部隊には私が出る」

「待ちなさい 凪」

「………」

「大戦から数刻も経たないうちに将軍格が出ては『不都合が起きた』と触れ回るようなものだわ」

「ならば……このまま座して待てと言うのですか!?」

「別に寝て待っt――暴力は良くないッ!」

 

いきなり殴りかかるか?普通……。そこは呆れたように苦笑いするとこだろ。

 

「……ならば同じ理由で正規の戦闘員も動かせない、か………」

「普段から何やってるのか分からねェ奴らの仕事になるな」

「その言い方は語弊が有るけど。まぁ、諜報員とか工作員とか……微妙なところで工兵ね。あと、鑑惺隊は出せる?」

「問題無く」

「くっ………隊長にはあれほどお世話になったというのに、……いざ事が起こると何もできないのか、私は」

「そんな気にすんなよ!たまたま凪と相性が悪い状況だってだけじゃんか。次は活躍できるって」

「………」

「………」

「………」

「………」

「たいちょーが居ったら『そもそも次が有ちゃダメだろ!』って言うねんやろな………」

 

 

 (え、え、何だこれ……。みんな何言ってんの…………。鳳雛探してたら集合遅れたとか言えない………)

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 赤壁の戦いから数日後。大敗を喫した呉は緊急の軍議を開いていた。

 

「――そう。曹操が建業に来るのね」

「はい……。長江沿岸の仮拠点に二泊した後、陸路にて進軍を開始したみたいですー」

「二日?」

「それほど消耗していましたか?」

「いや、確かに物資の補給も行われたようだが……。なんでも、北郷を吊るし上げていたらしい。精神的にも物理的にも」

「何かやったの?確か、北郷って夏侯姉妹に次ぐ魏の最古参よね?」

 

それも、鑑惺、楽進、李典、于禁というそこらの将軍に引けを取らない部隊長を従えているという。

 

「そうじゃのう。儂が見る限り、曹操にも対等な立場で話をしておった」

「理由までは伝わって来てないので何とも……」

「……そう言えば、北郷って途中で居なくなってたわよね」

「つまり、敗走したことへの処罰ですか!?」

「そこまで勝利に拘るか……」

「……問題なのは、こんな時に仲間を処罰しているような余裕があること」

「……計略が成っておれば兵の半数は削れたろうに………」

「実際は呂布が敵左翼を押さえ込んだ程度。苦戦は免れないだろう……。済まない。雪蓮」

「冥琳も祭も良くやってくれたわ。ただ、それより魏軍が上手だっただけ……悔しいけどね」

「あの曹操という輩、一体何物なのですか?まるでこちらの作戦を初めから見抜いていたかのような……」

「そうかも知れない……。そうとしか思えないところが多々有る。……でも、そんなことはあり得ないはずなのよ。今回の計画の全貌は、誰も知らなかったはずなのだから」

「あの……どういう事ですか?誰も知らないって、冥琳様も策の内容を知らなかったという………」

 

防がれこそしたものの、本隊と黄蓋と蜀が噛み合っていたはずだ。周泰はその巧妙さに半ば感動していたのだが……。

 

「冥琳と祭の喧嘩に打ち合わせが無かったことは知っているが……その他も?」

「……そもそも、私は"軍議で"喧嘩するつもりではなかった。別の機会に、打ち合わせのもとでするつもりだったわ。だが、祭殿から口論を仕掛けてきた。まず、そこから予想外」

「それに、儂も冥琳も風向きのことは知っておったが……二人共がそれを機に攻めようと考えていたのは偶然」

「じゃあ、祭が誰かに連れられて城を出ていったのも?」

「祭殿が脱出しやすいように兵を少なくしていたのは確かです。が、諸葛亮の手引きが入ったのは予想外だった」

「船の鎖も、言い出したのは蜀から来た小娘だしのう」

「だから私はその工作は知らなかった。諸葛亮も、私たちが本気で仲違いしたわけではないことを知らなかった」

 

ワザワザ蜀の使者が黄蓋は裏切っていないということを知らせに来たものだ。

 

「そんな運任せな作戦だったのですか……」

「もちろん、火計に至るまでの道筋はいくつも考えていたさ。誰がどう動いても対応できるように。……だから敢えて誰にも相談せず、祭殿や諸葛亮の動きに合わせていたの」

「儂らの喧嘩に始まり、魏への火計に至るまで……あらゆる分岐を含めたその全てが、すなわちこの策だったのじゃ」

「それで、誰も知らない策だと……」

「そう。誰も読めないこの策が、曹操と互角に戦うための切り札だった……」

「その綱渡りの計略の道筋を、曹操は全て見抜いていたというの……?」

 

そんなことは常人には不可能だ。天才と名高い孫策も、策の流れは読めなかったのだ。

 

「『計略とは、敵の死角から迫り、手の廻らぬ所を刺すこと。なら、目と手を増やせば……?』」

 

得体の知れぬ相手の力を実感し、黙り込む面々の中、黄蓋が口を開いた。

 

「それは………」

「炎の上がる船の上で、鑑惺が言ったことじゃ。……そもそも『数多に分岐するから見通せない』という考えが甘かったのじゃ」

「なんと言う……そんな力技が」

「もちろん……と言ってはなんじゃが、分岐を起こさせないような工作も見事なものだったがな。挑発を無視し、儂の話に尽く割り込み失速させた。鑑惺と曹操など儂の目の前で口論して見せたぞ。おかげで儂は鑑惺の下につけられることになった」

「?……口論と何か関係が?」

「祭殿は呉に古くから仕える人物。武官の中では最上だ。その威は、例え敵国であっても無視できるものではない。特に、覇道を示さなければならない曹操はな」

「裏切りを恐れて劣悪な扱いをしては、臆病者だと揶揄されるってことね」

「だが、だからと言って高い位を与えて好き勝手されるのも恐ろしい」

「曹操が儂を受け入れようとし、鑑惺がそれは危険だと反論する。そして、『不安ならお前が見張れ』と。曹操は覇王の余裕を見せながら、一方で儂を部隊長の更に下に押し込んだのじゃ。その後は鑑惺によって警邏と酒宴に貼り付けにされ、情報収集など全くできなかった。他愛も無い世間話ならたっぷり聞かされたがな」

「小癪な蛇が……」

「ほんっといけ好かないわよね!一騎討ちでも毒なんて使ってきたんでしょ?」

「勝つために手段を選ばない……それも強さの秘訣なんでしょうね………」

「いや、寧ろ奴は勝ち方を選びに選んで決めたのだろう」

「鎧に毒針を仕掛けていて、しかも開戦すぐに毒矢と煙幕をバラ撒いたのだろう?清々しいほどの外道ではないか」

「奴の戦いはそれはそれは抜かりのないものだった。……儂を"保護する"為に、な。思春、明命。敵を殺すことと捕えること、どちらが難しい?」

「捕える方、ですね……やっぱり」

「………」

「そうじゃ。捕えるためには、相手を殺さずに無力化させねばならん」

「常に加減を気にすることになるものね。……鑑惺はワザワザ麻痺毒を使った………」

「そうじゃ。死に至る毒を使っておれば今ごろ儂はこの世に居らん。それどころか、奴は"儂が回復できるよう"に調整しおった。……儂の傷を見ろ」

 

そう言われれば、黄蓋の傷は全身至るところに有るように見えたが実は急所はおろか腱や主要な血管まで避けられていることが見て取れた。

 

「……何故」

「曹操が欲したのだろう。奴は人間を篩にかけるつもりらしいからな」

「神にでもなったつもりか……?」

「案外そうかもね。覇王に蛇鬼に天の御使い……。今にも神竜の首くらい獲りそうだわ。……だから、負けるわけには行かない。建業は孫呉の聖地と言うべき場所。私たちが自らの力で生きる場所。他所から来た神様気取りに渡すわけにはいかないわ」

「そうだな。敵は強大だが、逃げることはあり得ない。戦い抜くのみ」

「お供致します。雪蓮様。……我が命、尽き果てるまで」

「蓮華、小蓮。あなた達も良いわね?」

「当たり前でしょ!あのちんちくりんに一発お見舞いしてやるんだから!」

「その通りです。我らが受けた屈辱、必ず曹操に思い知らせましょう」

「老兵の浅知恵も役に立ててくれ」

「ありがとう。……ならばみんなの命、私が預からせてもらうわ」




魏ルートの呉はホント痛々しいです。呉ルートはもっと痛々しいです。幸せなのは蜀ルートだけです。

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