季節の変わり目ですね。皆さん、お体に気をつけてくださいね。
ちなみに私はもう体調を崩しました。体はもちろんのこと、どうやら頭の調子も良くないようです。
さて、内容はエピローグ。上、下、解説の三つに別れる(予定)うちの、今回は上です。
何かスッキリしない、アレだけ引っ張ってこれか、ちくわ大明神、等の不満を持たれる読者様もいらっしゃりますことでしょうが、大団円エンドはα√でご用意する運びとなっておりますので何卒ご容赦いただけますよう(クッソ丁寧な釈明をする作者の鑑)。
ブツリと途切れた視界。本当の意味の一瞬で切り替わる。
標準的な白い壁紙。円形蛍光灯の無機質な光。
懐かしい、我が家の天井だ。
「死ぬ予定ちゃうかったんやけどな」
"戻って"きてしまったらしい。
「先輩!」
「うわっ」
後輩が飛びついてくる。やっぱり、こっちの世界の私はしばらく倒れてたんだろう。そうとう心配していたようで、涙声で『よかった』だのなんだの言っている。
「ちょ、あんたそうやって衝撃加えてまた倒れたらどーすんのよ。……大丈夫なの?」
視界の端からもう一人。片手に持った携帯で今にも119を押そうとしていたところのようだ。
「うん」
「一応病院とか行った方が……」
「いや、恥ずいだけやからええわ」
アル中で救急車とか、ドキュメンタリー番組なんかで時々見る迷惑なオッサンそのまんまじゃないか。
「まったく……完全に酔いが吹っ飛んだわ………」
「もう、今日は寝ちゃいましょうか」
「そうね。また倒れられても困るし。いいわよね?……っていうか、流石にまだ呑むとは言わないでしょ」
「……しゃーない」
念押しされて、渋々頷く。
日本酒なんかをチビチビやりながら色々と考えたいことが有るんだが……そうも言えないだろう。
「ホントに大丈夫ですか?」
「……なんで?」
「何か表情が……」
「んー……ゲームでラスボス倒して、エンディング見る前に電源切ってもたみたいな感じ」
あの世界で、私はラストミッションを確かに遂行した。魏の侵攻を急転させることで呉を地の利のある江東から引き摺り出し、さらに劇的な最期を見せることによって蜀陣営の精神を激しく揺さぶる。そして会戦は混乱し、魏の大勝か、引き分けか……。ともかく、蜀は戦闘能力を失い、そこに魏が譲歩して蜀魏同盟が電撃締結。その後はそれまで以上に増した国力差で呉などどうとでもなる……そういうシナリオ。
そして、そこにはもう一つ仕掛けがあった。
死なないこと。
一刀、華琳との阿吽の呼吸で、体にダメージを受けボロボロになりつつ、しかし致命傷は避ける。最後のトドメですら、だ。一刀の刺突は、以前華雄に貫かれた場所と同じ。つまりそこに攻撃を受けても死なない。その後、華琳の鎌を顔に受けた。だが、それも上顎と下顎の間……つまり、頬の肉を切ったに過ぎない。もちろん、単純に体力と血の消耗で死ぬという可能性も十分に有った。それも予想済みで、もう一つの保険も確認していた。
華佗……あの『五斗米道(ゴッドヴェイドー)』のチート医者。アイツが、戦を予感してか戦場近くまでやってきているという情報を掴んでいた。アイツの治療能力ならば、致命傷以外……特に消耗などは『元・気に なれェェェェッ!!!』でいくらでも対処可能だろう。
そして私は隠居(流石にアレだけ死ぬ死ぬやって政治の中心に居座るのは格好がつかないし嘘臭すぎる)して『この平和は私が作ったんやで……』と内心ドヤ顔で過ごす予定だった。
だが残念。そんな画策も空振って死んでしまったらしい。シナリオもおじゃん……とはならないまでも少なくとも私がその結果を知ることは叶わなくなった。
『ゲームクリア』の六文字も無しにいきなり暗転して はい終わりとはなんというクソゲーだ。ラストにピーチ姫が出てこないマリオみたいなもんだ。
「なにそれ」
「面白い夢見とってん」
「こっちが大慌てしてる間呑気に夢なんか見てたわけ……」
何が呑気なものか。大陸の覇権を掛けた一大スペクタクルだぞ。
と言いたいところだが、よく考えるとエロゲーだったんだよな……。
三十半ばのOLが生死の境で見たものはエロゲー世界のキャラになって三国統一する夢だった。
我ながら酷い。非難も甘んじて受けるべきだな。
「はぁ……まぁ、ええかぁ……」
そう口に出した瞬間、本当に諦めがついてしまった。
元々何で"ああ"なったのか分からなかったんだ。帰ってくるのも何が何やら分からない内で当たり前。
未練がましく悩むのも馬鹿らしい。過ぎ去って戻って来ないものなら、こっちにだっていくらでも有る。『戻ってきたのに納得できない。また"向こう"に行きたい』なんて『時間が過ぎるのは理不尽だ。小学生から人生をやり直したい』と駄々を捏ねるようなもの。
恋姫の世界はおもしろかった。……それでいい。もしどうしても我慢できなくなったら、『真・恋姫†無双』を起動すればいいだけだ。
『寝る前に、お風呂どうします?倒れたばかりだしやめときますか?』という問いにベッドに入ることで答えながら今日を終える。そして見た夢はまた恋姫……などということはなく。何か、ネズミになって配管を走り回るという妙なものだった。その次の日も、そのまた次の日も、ついぞ私が向こうに行くことはなかった。
こうして私はこの『夢想』を記憶の隅に追いやり、いつも通りの満ち足りた生活へと戻る。
強いて変わったことを挙げるなら……格闘技能が引き継がれたようで蚊を箸で摘めるようになったことくらいだ。
聆「でもこの力を使って何かする気は無い。そんな体力も無い」