哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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安くて如何にも体に悪そうな炭酸飲料が何故かすごく美味しいです。ハッピーな気分になれます。にょわ〜☆ちなみにデレマスでは姫川友紀ちゃんが好きです。みくにゃんのファンはやめました。
あと7ドラⅢ買いました。ノーコメントです。

本編は魏側(魏陣営の話ではない)です。
ここ数話ずっと『もうすぐ戦だ』ばっかりですね。
次の次で開戦すると思います。しばしお待ちを。


第十二章X節その十四 〈β〉

「……もうすぐそこまで来てるんだな」

 

 蜀呉に動き有り、という知らせが届いてからしばらく経った。桂花の計算では遅くてもあと五日もしない内に俺たちのいる城に敵軍が押し寄せるらしい。

 

「ええ。もう三日も経たない内に着くでしょうね」

「まぁ、間を取ればその辺りかな」

「……間を取れば、なんて軟弱な考えじゃないわ。勘よ」

「勘か」

 

勘って言っても華琳のは『様々な経験や知識から無意識に一瞬で高度な思考を行った』ってことだからな。大体当たるだろう。

 だからこそ――

 

「こんなことしてていいのか?」

「………」

 

華琳は『無粋なことを言うのね』とでも言いたげな表情をしながら盃を傾けた。

 俺は今、華琳の私室に来ている。何事かと思えば『呑みたいから付き合え』というもの。小さな机の上に並べられた小料理や酒は前線基地とは思えないくらい質のいいものだが、正直今は魅力を感じない。

 

「いや、さ。軍議とかいろいろ」

「兵に武器に食料に……もうこちらでできることは全てやっているわ。籠城も余裕よ。……するつもりはさらさら無いけれど」

「……そうだな」

 

確かにやれるだけのことはやった。

 

「………」

「………」

 

やったんだけど、やっぱり、だからって落ち着いてのんびりしてられるかと言えば答えはNOだ。

 

「はぁ……分かったわよ。本題に入るわ。……呼んだのは聆のことで よ」

「! やっぱり華琳は何か知ってるんだな!?聆の裏切りは実は策略だって噂も有るし――」

「私は『覇王』曹孟徳。苦肉策なんて使わないし使えないわ。苦肉策はその名の通り弱くて普通に戦えば勝ち目の無いものが仕方なく使う策よ。使えば自らの格を落とすことになり、今までやってきたことが無駄になる」

「なら………」

「一刀……この戦、貴方の隊が聆に当たりなさい」

 

いつものおふざけでも言うような口調で華琳が言った。けど、その内容は信じられないものだった。

 

「なっ……いやいや、ちょっと待ってくれ。凪や沙和はそんなことができるほど立ち直れてないぞ!?」

 

あの日以来、凪は塞ぎ込んでしまっているし沙和も躁鬱が激しい。俺は……何だろうな、落ち込むとか落ち込まないとかじゃなくて……うん、何かよく分からん。きっと客観的に見ておかしいことになってる。

 

「そもそも、そういう精神論抜きにしても俺たちの戦力は半減してる。聆を相手にするなんて……」

「もちろん兵は補充するわ。それに、確か凪は聆に相性が良いのでしょう?一騎討ちでも仕掛ければ良いわ」

「簡単に言うなよ……アイツらはずっと一緒の友達だったんだ。それを正面からぶつけるなんて――」

「だからこそ、よ。友情と忠誠……どちらを取るのか。良い『悲劇』になると思わない?」

「はぁ!?何言って――」

「………」

 

 思わず立ち上がった俺の目に入ったのは、いつもの嗜虐的な笑みだった。

 

「……はは、華琳らしいな」

「理解してもらえたかしら?……なら、貴方も上手く踊って見せなさい」

 

やっぱり、曹孟徳は覇王だ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「………」

「何もできなんだ、か。……ハハ、ワザワザ痣まで作って来たというに。あとは戦のドサクサに紛れて闇討ちできるかだが……周りが全て敵の状態では難しいのう」

 

 鳳雛と黄蓋もまた同じように話し合っていた。……と言っても、こちらは愚痴合戦だが。

 

「……仕方有りません。作戦の前提が、侵攻してきた敵を止めるというものでしたから」

 

 油断しきった相手のにやけ面をぶん殴る作戦だ。『赤壁での火計に至るまでのあらゆる流れ』に対応できるようになってはいたが、そもそも赤壁までやってこないのでは破綻は必至。しかもこうも守りが硬くなっては本国との連絡もおぼつかない。……逆にこの城と魏との行き来は活発になっているから情報だけは豊富に手に入るから余計にヤキモキする。

 

「ふむぅ……。ますます鑑惺の裏切りが策略じみて見えるのぅ」

「そのことについて一つ。魏の市民が落ち着いている理由が分かりました。……有力な商人が揃って『鑑惺の裏切りは策である』とそれぞれの地域の組合で宣言しているようです」

「商人が嘘をついている……とは考え難いな。もし裏切りが策でなかった場合、魏に留まって割を喰うのは自分たちじゃ。裏切りが本物だと思っていたなら早々に引き上げるはず。……やはり、黒か」

「……ですがこうも考えられます。現在の魏と蜀呉は五分と五分……しかも単純な物量だけで見ればまだまだ魏が有利。となれば、商人が然るべき支援を行えば戦況は覆らず魏が勝つのではないか、と商人が予想している……」

「商人は弱い国に厳しい、しかし、魏はまだ弱くない、ということか。それも筋の通る話ではある。ならば商人の動向から判断は難しいか。……いや、どちらにせよ鑑惺が危険なことには変わりない。策殿らが厳粛な決断をしてくれていれば良いのじゃが……」

「難しいでしょう」

「……随分ときっぱりと言うのう」

「『怪しいから消す』というのは桃香様にはできません。……できない人だから皆が付いてきたんです」

 

黄蓋は喉元まで出かかった『甘いな』という言葉を飲み込んだ。今思えば、そうやって切り捨てる妙に張り詰めた考えがこの戦を産んだような気がしたからだ。

 

「………実際に動いてからでないと対処できぬ、か。……はぁ、手玉に取られておるのぅ。全く、あの鑑惺とかいう輩は何者なんじゃ」

「やはり、背が高いのが大きく関係していると思います」

「背?……いやいや、チビでも強い奴など掃いて棄てるほど居るぞ。お主を筆頭にチビで賢い者もな」

「背が高いと自然と相手を見下ろすことになり、相手を見下ろす表情は目の開き方が小さく静かなものとなります。静かな表情をしていると底知れぬ余裕があるように感じるでしょう。それに、潜在的に『上』は尊い者が居る場所という認識が有ります。……つまり、同じ舞台に立ったときには既に鑑惺さんが有利な状況に居て、私たちは彼女と対峙するだけで圧されるのです」

「……そこまで分析しておったのか」

「黄蓋さんにも増して私は何もできない状態ですから。……それに、鑑惺さんの危険性については私たち自身が大きくしている面も有ります。夜が怖いのと同じです。……暗闇に何があるのかと想像し、勝手に恐ろしい物怪を作り上げ、物音がすればソレが出たと騒ぎたてる」

「儂らが『蛇鬼』を作り出した、と……」

「鑑惺さんはそれを敏感に感じ取り、利用し、増幅させてきたのです」

 

怪しいとか心を操るとか不死身とか……良からぬ噂を立てて妨害しているつもりが自らに暗示をかける結果となっていたというのは皮肉なものだ。

 

「しかし、単に苔脅しなのではなく実際にある程度は危険なのも夜と同じです」

「恐れてはならんが恐れないのもまた危険。……思考は無意味よのう。実際に起きたことにそのつど対処していくしかないのか」

「現状、そういう結論になります。……しかも、私たちはことあるごとに鑑惺さんに注目していますがそのせいで魏の他の面々の策を見落としたことも少なくありません。……探り合いをするにはもう下手を打ちすぎました。あらゆる予想は裏目に出るでしょう。迷信じみた考えですが、そういう『流れ』です」

「そのことに気づいてくれておれば良いが……」

 

 ……更に二人はもう一つ根本的なことも感じていたが、それはあまりにも元も子も無さすぎるので言わなかった。




最近プライベートが忙し過ぎてヤバイ。秋ヤバイ。

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