哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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テトラポットとか見てるとゾクゾクしますよね。しませんか?


第十二章拠点フェイズ :【北郷隊伝】特訓のご褒美は…… その一

 「――ふー満腹満腹、なのー!」

「いやー、こっちの料理も良えもんやなー」

「ご馳走さまでした。隊長、それに聆」

 

 今は呉との戦争中。そしてここは呉からの占領地。とはいえ、だからって人々の生活が大きく変わるわけではなくて。むしろ占領地だからこそ治安維持と人心掌握のために警備が重要だったりする。……という事で久々に北郷隊幹部全員で警邏に出てみたんだけど………案の定昼飯をたかられた。聆だけ、凪だけの時はたかられないし、真桜だけ、沙和だけの時は金額が低い。しかし、これが同時に来ると手がつけられない。今回は聆が半分出してくれてるんだけど、そもそも聆は凪に次いでこの中じゃ二番目によく食べるから、結局俺が一番損している。

 

「おうよ。惚れても良えんやで?」

「はぁ〜……聆は財布に余裕が有るから良いよな……」

「色々とやりたいほうだいやもんな」

「『最大手で最安値』それが我が嵬媼商会の社訓や」

「いつの間に商会なんて作ってたの!?」

「いや、適当言うただけやで?」

「真顔で冗談言うんやめぇや」

「あーあ。俺なんて毎月ギリギリなのに」

「よぉ奢りよるもんなぁ。張三姉妹に季衣流琉に霞に……」

「一番頻度が高いのは真桜と沙和だけどな。いつの間にか奢る流れにされてたりする分余計に質が悪い」

「可愛い部下のためにお金を使うのも上司の役目だと思うなー」

「そーそ。それに腹が減っては戦は出来ぬ、って言うやんか。つまりよぉけ食べるんは戦への意識の高さの現れ……」

「いや、そんなことで納得しないけどな。……そうだ、戦と言えば、お前らって泳げるか?」

「え、何でそんなこと急にきくの?」

 

珍しく喰い気味に質問をしてくる沙和。……あー、これはダメかも分からんね。

 

「いや、この前華琳と話したんだけど、呉を制圧したら本格的に水軍が必要になるな……って」

 

一見取らぬ狸の皮算用っぽい話だけど、計画を立てるのは早い方が良いし、負けた場合についても軍師たちが考えている。

 

「なるほど、そういうことですか。次の戦闘が水上に決定したのかと身構えてしまいました」

「決定はしてないんだけど、一応そっちの方も考慮に入れてるんだよ」

「……それやったら話が遅すぎるんちゃう?もう兵の訓練間に合わんやろ?」

「ああ。それなんだが、戦闘そのものについては一般兵の水泳技能の重要性は低い。考えてるのは水難事故の対応なんだよ」

「ふーん。じゃあ沙和たちも別に今やらなくてよくない?」

「そっちはなぁ。リスクとメリット……代償と利益の兼ね合いでな。たった四人が泳げるだけで戦術的に幅が広がるし」

 

幾度と有る戦闘の中で、水上戦というのは頻度が低い。それに、これまでは河川や水堀の横断を必要とする作戦も少なかった。だから一般兵のうち、一部の隊しか泳ぎの訓練を行っていない。それは呉に入っても同じこと。大きい川なら船で移動するし、微妙な大きさの川は順路に入らないように調整する。でも、将軍格が泳げないのと泳げるのとでは、一般兵が泳げないのと大きく結果が変わってくる。

例えば、赤壁の戦が起こったとしよう。船団のうち一つが沈むとか炎上するとかして水中に逃げたとする。この時、一般兵たちは、船が沈んだ時点で戦術のサイクルから外れてしまっているから、戻ってきたらラッキーくらいの意識だ。もちろん、死んで良いというわけじゃない。あくまで戦術的な話だ。しかし、将軍がその沈んだ船と一緒にログアウトしてしまえば、その船だけではなく船団自体がダメになる。

 

「……だからきいてみたんだけど……さっきの反応を見る限り沙和はダメっぽいな」

「ちっ、違うもんっ!泳げないんじゃなくって、泳ぐのと相性が悪いだけだもんっ!」

「同じやっちゅーの」

「変わらんやろ」

「あぁ。同じだな」

「うぅ………」

「うん、まぁ、そこは練習で何とかするとして。沙和以外の三人は泳げるんだよな?」

「ん?何かさらっと変な宣言が聞こえたけど……?」

「練習するとか言ってた気がするけどきっと沙和の聞き間違いなの」

「いや、練習するぞ?当然だろ」

「そんなこと言うて泳ぎ方教えるフリしつつおっぱい触ったり太もも撫でたり下半身押し付けたりする気ぃやろ!いやらしい!さすが変態長いやらしい!!」

「ひくわぁ〜。ドン引きやぁ」

「……不潔です」

「勝手な妄想で罵声を浴びせるのは止せ!」

 

一瞬そんなことも頭をよぎったけどな!

 

「……で、真面目な話、泳げるのか?」

「……実は、私もあまり得意ではなくて………」

 

うーん、凪は運動神経が良いからいけるかと思ってたんだけど……。

 

「ウチはまあ、なんとか……」

 

真桜も歯切れが悪い。でも、何かと抜け目無い真桜のことだから一定レベルはできてるんだろうな。……なんて希望的推測をしてみる。

 

「ククク……一日二回の水浴びで日頃水に親しんどる私に死角は無い」

 

そして自信満々の聆。……普通なら嬉しいところなんだけど、聆の場合は違う。本気ですごいことをするときの聆はもっとしれっとしている。『ああ、できますけど、何か?』みたいな感じで。ドヤ顔のときは……何かしら妙なオチをつけてくる時だ。

 

「四人中三人がダメか……。仕方ない。この後全員で水泳の特訓するぞ」

「えー!沙和だけとちゃうん!?」

「これから阿蘇阿蘇に載ってた雑貨屋さんに行こうと思ってたのにー!」

「す、水泳……そんな………」

「私は一向にかまわんッッ」

「何と言われようと水泳の特訓はやめないからな」

「横暴やー!」

「横暴なのー!」

「あうぅぅ………」

「ええぞもっとやれ」

「ほら、三人はもたもたしてないで水着を用意して来い。……あと聆はくれぐれも自重してくれよ?」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 四人を城外まで連れ出し、俺達は割と川幅の広い場所までやって来た。広いと言っても小川だから大したことはないんだけど、それでも泳ぐには十分だ。

 

「よし、じゃあ水泳教練を始めるぞ」

「そんなこと言わんとぉ〜。せっかく川まで来てんねんから、たっぷり遊ぼうで」

「真桜……これから重要になることだと隊長も仰っていただろう。もう少し真面目にやれ」

「さっきまでは凪ちゃんも文句言ってたくせにぃー」

「もう決心はついた」

「さっすが公私の切り替えに定評の有る楽進先輩は一味違とるなぁ」

「なんやかんやでやることやっとるのに初心気取っとるもんなぁ。ウチらには真似できんわぁ」

「マジ尊敬するの〜」

「お前たち……」

「あ、楽進先輩じゃないっスかチッスチッス」

「いや〜、今 丁度楽進先輩マジッべぇなって話してたトコなんスよ!」

「あれ?先輩、何か機嫌悪いっスか?何か飲み物買ってきましょうか?」

 

ドッゴーラ

 

「はい。一爆破いただきましたー」

「何かアレやなぁ。最近威力グングン上がっとるなぁ」

「ああ。戦も近いし、無意識にだが気合の入り方も違ってきている」

「……その威力のせいで俺まで巻き込まれたんだけど」

「申し訳ございませんでしたこの度のご忠告を真摯にうけとめ以後の再発防s」

「ストップストップストップ!お前らふざけまくって水練を先延ばしにしようとしてないか!?」

「そうだが?」

「そうだが、って……。さっきも言った通り、水練は戦略的に重要なんだよ。呉攻略にあたって将軍格は最低限泳げたほうがいいし、いずれは新兵訓練にも水練は組み込まれるだろうしな」

「それは、……せやな」

「それに、だ。今までできなかったり苦手だったりしたことをできるようになれば、自分に自信を持てるようになるだろう?……四人にはいつだって自分に自信を持って生きていって欲しいんだ」

 

俺は四人の目を順に見つめる。

とりあえず、格好つけてみたけど――。

 

「隊長……そんなにウチらのこと……」

「我ら四人、どこまでも隊長についていきます!」

「沙和、隊長のために頑張るのっ!」

「ククク……小僧、なかなか言いおるわ」

 

みんな納得してくれたみたいだな。

……けど聆は何キャラなんだソレは?酔っ払っているのか?

 

「よし。じゃあ、特訓を頑張ったら、俺からご褒美を出っ……」

 

気分良くご褒美なんて言っちゃったけど……。沙和が服を大量に要求してくるだろ……で、真桜は貴重な絡繰の部品(もちろん高額)。凪は自重してくれるだろうけど、それに甘えて何もしてやらなかったら色々とマズいことになりそうだから結局はこっちで思案してご褒美を出すことになる。そして聆は何を要求してくるか分からなくて怖い。

 

「うん。特訓を頑張ったら疲れてるだろうから早く帰って早く寝ようか」

「今ご褒美出すって言いかけてやめたやろー」

「そういうのが一番ダメだと思うなー」

「……仕方ないか。言っとくけど、あんまり無茶な注文はするなよ」

 

俺も一応将軍だってのに毎月のように食堂のおb……おねぇさんに頭下げて恵んでもらってるからな……。

 

「さて、それじゃ特訓を始めようと思うけど……」

「はい。しかし……いったいどうすればいいのでしょう?」

「そやなぁ……。ウチら水泳の練習なんかしたことあらへんもんなぁ……」

「沙和も分かんないの……」

「まぁ、隊長の手腕に期待やな」

「……地味にハードル上げてもらっちゃったけど、そんなに難しいことはしないよ。まず、水に慣れてもらう。とりあえず、俺がいいって言うまで好き勝手に遊んでていいよ」

「へ?あんだけ言うといてそれかいな」

「なぁ〜〜〜んだ、ビクビクして沙和、損しちゃった」

「馬の子も遊びの中で走ることを覚えるって言うし、まぁ妥当やな」

「それはそうだが……よろしいのですか?隊長」

「いいよ。ただし、水から出ちゃダメだからね」

「それは潜水的な意味で?」

「……水から離れちゃダメだからね」

「は〜〜〜〜い。そんな命令だったら大喜びなの」

 

思ったより時間がかかったけど、ようやく水泳の特訓が始まったのだった。




さっさと次に行きたいときにうっかり長いイベントを書いちゃうパティーン。その長さ、実に平均の三倍以上(作者調べ)。

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