ゆるりと酒を口に含み、じわりと躰に染み込ませるように呑み下す。いや、今ちょっと横になってるから下ってはいないな。黄巾討伐から戻った次の日。討伐に出ていた者は休みとなったため、私は完全にオフと決め込んで、こうして日向ぼっこしながら酒を嗜んでいる。四日ほど戦と移動を繰り返していたからな。しかたないね。ただ、そうは言っても文官など普通に働いている人も居るので、人目につかないよう、裏庭だ。空はどこまでも澄んだ青。決して濃くはないが、本当の青とはこれのことなんじゃないだろうか。きれいな色してるだろ。ウソみたいだろ。中国なんだぜ。これで……。
瓢箪の半分ほどを呑み、ちょっとぼんやりし始めた頃。
「あー!聆ちゃんこんな所にいたのー!」
「人に甲冑作らせといて自分は昼寝かいなー。えぇ御身分やなぁ」
「ああん?やりたい言うたんはそっちやろが。そんなん言うんやったら曹操さん付きの鎧職人に作ってもらうわい。ただ、報酬で先に渡しとった絡繰夏侯惇将軍は返してもらうで?」
「この李典、職人の誇りにかけて最高の甲冑を作らせてもらいます」
「おお。期待しとるでー」
絡繰夏侯惇将軍は籠売りの旅の途中で見つけたものだ。私が先に見つけなければ原作通りもともと真桜の物になっていただろうが、甲冑作りの報酬として利用させてもらった。ちらつかせたらソッコーで飛びついてきた。
絡繰が専門の真桜に甲冑作りを頼んだのには訳が有る。まず、技術者として大体何でも熟せる腕があること。次に、私が求めている甲冑が少々特殊なものであること。胴は無いし、少し忍者っぽいが、日本の戦国武将に近い物だ。最後に、後々何か修理をしたり改造を加えたりする時に都合が良いことだ。乙女武将たちと戦って、勝てはしなくてもせめて隙を作って逃げ出せるように何かしら仕込もうと考えている。
「おい聆、こんな昼間から酒を呑んで、だらしが無いぞ」
「ああん?回回炒飯?」
「……酔い過ぎてるようだな。目を覚まさせてやろう」
「今日は休みやし二日酔いせぇへん体質やし人目につかんように配慮したから大丈夫やと思ったんや」
「酒を喰らって寝ころがっていること自体が相当なんだが……」
「あーあぁー。凪ェ、そんな怒りっぽかったら隊長もびびらせてまうんちゃぁうん?」
「一人だけさん付けで敬語やったりしてな?」
「沙和、聆、真桜!今日も頑張ろうな!あ、楽進さんおはようございます。今日もよろしくお願いします。……ぷぷっ」
真桜が付け加え、沙和が声色を作って再現した。
「……お前たち…………」
「あ、楽進先輩チーッス」
「あれ?なんか機嫌悪いっすか?」
「あ、私何か飲み物買って来ましょうか?」
ドゴンゥ
「で、結局、なんの用で私探しとったん?」
「前に来た時はまだだったんだけどー、最近、陳留に怒濤流が開店したらしいのー!」
ドトーr……
「兗州初出店やからなー。行ってみよってことで」
「二人がどうしてもと……」
「そんなん言うて凪も行ってみたかったんやろー?」
「そんなことは……」
真桜と沙和がまた凪イジリをはじめたが、私はあまりテンションが上がらない。沙和の阿蘇阿蘇でチラッと見たことが有るが、ドトーrは恋姫でもオシャレな茶屋だった。現世で、付き合いで行かなければならない感じになって行ったことがあるが、コーヒー一杯で何百円もとられた。駅前の地下街でラーメン食えるっつーの。場所代込みの値段らしいが、私には居酒屋があるからな。それに今日は酒呑んで寝る気分だ。
「私やめとくわぁー。また感想聞かせてな」
「だめなのー!女の子として、こういうオシャレなお店には行っとかないとー!」
「休日は酒呑んで寝るだけとか、完全にオヤジやでぇ」
「……たしかに、どうかと思う」
「おぉ?なんどいやオマエら、私の乙女力にケチ付ける気ィか?あァん?」
「絡み方も完全に酔っ払いのおじさんなの」
「しかもチンピラやな」
「性別が迷子だな……」
「は?おっぱいデカいから何の問題もないし」
「体も大きいから相対的には普通なのー」
「沙和ちょっとこっち来ぃ」
「え、イタいのはやなの」
「凪とちゃうんやから、大丈夫や。ちょっと私の乙女力を魅せたるだけや」
「おい、聆……」
凪がなんとも言えない表情をする中、沙和が戸惑った様子を見せつつも近寄ってきた。ある程度近づいたところで……一気に抱き寄せる。
「きゃっ!?ちょっと、聆tyんむ!……!?」
素早く、且つ優しく唇を奪う。柔らかく艶の有る良い唇だ。普段賑やかな口も塞いでしまえばかわいいものだ。腰に左腕を廻し、右腕で肩から頭にかけて支える。否、捕らえる。押し返そうと力を入れても、無駄だ。
「ン!……んぅ…ンぁ」
沙和の躰がぴくりとはねる。少しづつ覆い被さるようにし、逆に、沙和の躰は仰け反るような型にする。舌を滑り込ませ、全身の力の入り方から、気持ちいいトコロを一秒でさがす。あまり舐め回されても気持ち悪いからな。
「……っ…!!」
どうやら沙和は上顎の裏が好きなようだ。抵抗が無くなってきた。舌先で撫でるたび、背中の筋が収縮し、私の胸に置かれた手がきゅっと握られる。しつこくならないように気を付けつつ、重点的に責めてやる。時折隙間を開けて呼吸を促して、自然に私の吐息を吸わせた。多分にアルコールが含まれ、弱い奴ならこれだけで酔ってしまう。そのうち沙和の躰から"反応"以外の力が抜けて、立っていられなくなった。ゆっくりと寝かせ、唇を離す。頬を染め、蕩けた瞳で私を見つめる。最高に愛おしい表情だ。だか放置。いつもならこのままえっちパターンだが放置。後二人、私の女子力を示さなければならない奴がいる。
「凪ェ、真桜ェ……ほら、おいで……」
最高の微笑みで。
唖然としていた二人がビクンと跳ね、逃げ出した。
「今 愛が全てを超えていきます!!」
私も走り出す。スピードスケートのフォームで。
「ちょ、凪!アレ、氣ぃでなんとかして!」
「ダメだ!精神が乱れて上手くいかない!」
「許そう。凡庸なる者達よ……。全てをッ……!!」
「真桜の螺旋でなんとかならないのか!?」
「それで仕留められんかったらウチがヤられてまうやろ!」
「ボクと契約してオトナになってよ!」
「凪!!落ち着いて氣ぃ撃って!!」
「真桜!!勇気を出して突撃するんだ!!」
「マテマテマテマテまテマてェ!!アハハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ」
第一回拠点フェイズがいきなりキスイベント。
書き始めたときは一刀と鍛練する話になる予定でした。
なんでなん?