ぬいぐるみうさま見て爆笑されたんですけお
「皆の者!最後までよう付き合うてくれたのぉ!褒めてつかわすぞよ!」
「有り難き幸せッッ!」
「袁術ちゃーん」
「孫にきてくれーーー!」
「また次回もよろしくおねがいしますねー♪」
「ほっほっほ。それじゃァまだ死ねんのぉ」
「張勲さーん」
「息子の嫁にきてくれーーー!」
「それでは皆さん、気をつけて帰ってくださいねー」
「うむ!妾のふぁんは妾の許可無しに死ぬことを許されないのじゃ!」
…………
………
……
…
「あら、聆さん」
「よー。相変わらず惹き込まれる歌やったわ」
「そうであろそうであろ。何せ妾が歌っておるのじゃからな」
「七乃さんの二胡もええ味出しとるしな」
七乃さんとちゃん美羽の路上ライブは大盛況。
実は少し前から二人はこのように都でのゲリラライブを繰り返している。……と言っても、警備隊も一応気にかけてはいるし、曲調も穏やかなものが多いため大きな混乱にはならない。ファン層の中心がシニアとジェントルマンなのもある。
切っ掛けは定軍山の宴会での余興の評判が華琳に伝わったこと。その後華琳直々による審査が行われ、国として歌手活動を正式に支援(とは言えそもそもあまり金が掛からないのだが)することが決まった。その時の華琳の一言。『一刀は天の御使い。美羽は天使』
ゲリラライブなのは、やはり客層に原因がある。……お年寄りにとっては、わざわざステージまで足を運ぶのは大変だからだ。ちゃん美羽の気の向いたときに気の向いた所に行き、客寄せも何もなく歌い始めるのだ。ぽつりぽつりと人が集まりだし、五十人にもなったか、というところで切り上げる。あまり人が集まって体調が悪くなる人がでてはいけないからだ。張三姉妹とのバッティングを恐れている、といえのも理由の一つだが。
「ありがとうございます。ところで今日はどうしたんですか?いつもなら鍛錬していらっしゃる時間ですよね?」
「良い蜂蜜が出来たから妾に献上しに来たのであろう。そうであろう?そうに決まっておる」
「うんまぁそれもあるけど……」
妙ちくりんな決めつけが入るが……実際、質の良い蜂蜜が収穫できたという報告も挙がっていたので別に否定はしない。
「主目的はこっち」
七乃さんに華琳から預かった資料を渡す。
「張三姉妹との合同公演の計画な。何かわからんとこは口頭で説明するわ」
「だからその辺の下っ端ではなくて聆さんが来た、と」
「そ」
おそらく七乃さんなら資料を読めばすべて理解できるだろうから、どちらかと言うとちゃん美羽との交渉のためだが。この時間を狙ったのも、ファンの歓声に気分を良くしているだろうからだ。
「ふむ、張三姉妹……あの面妖な歌を歌う者たちじゃの?」
「面妖……まぁ、美羽様にしたらそうなんかな」
「…………はい、全て把握しました」
七乃さんがいつの間にか資料を読み始めていつの間にか読み終わっていた。
「つまり、それぞれのファン同士の衝突を避けるため、私達本人同士の良好な関係を印象づけるということですか」
「そーゆーこっちゃ」
ファン層の中心が大人しいと言っても、最近は若者のファンも増えている。合同公演は、その若者が張三姉妹のファンと衝突することを恐れて企画された。『袁術様←天使、地和←小娘という風潮』とか、『袁術袁術言っても所詮路上だよなwww』とか、『地和と張勲のどちらが腹黒いか議論』とかは、ステージの上で協力して称え合う姿を見せれば多少収まると思うのだ。あと、普通に兵の慰安の目的も有る。
「ほっほっほ。妾の完璧な歌を聞けばあやつらのふぁんもこちらに流れるじゃろうなぁ」
……つまり、こういう態度は非常にマズい。
「お嬢様ぁ、そーやってすぐ調子に乗るんだからー、ま、そこが可愛いんですけどね!」
「むふふ、そうであろそうであろ?」
「でもそーゆーこと舞台上で言わんとってよ?」
「む?何故じゃ?」
「そうですよ。向こうのふぁんから大顰蹙ですよ」
「むしろ、張三姉妹とは仲良ぉしてな」
「しかしのぉ、あの地和とかいう者はどうも好かんのじゃが」
地和も自信家なところがあるからな。同族嫌悪か。
「でもな、考えて見ぃ?地和と美羽様が仲良くなって、地和が『美羽のことも応援してあげてね』とかファンに言うやん?そーなったら、奪うとか奪わんとかそんなケチ臭いこと言わんと、地和のファンがゴッソリ美羽様のファンになったのと近似やん」
まぁ、実際のところそういうわけでもないのだが……
「仲良くするのじゃ」
ちゃん美羽なので大丈夫だ。
「さっすがお嬢様!王者の余裕ですね!」
「すごいわぁ〜惚れ惚れするわぁ〜」
「うははー♪なのじゃ!」
――――――――――――――――――――――――――――
「――というわけで、兵士からの要望で企画された慰安公演、お嬢様と私は予定通りに出られます」
「張三姉妹も問題無しだ。後は本人たち同士がうまく折り合いをつければ……」
そして次の日の軍議。
ちゃん美羽と七乃さんのユニット『蜜∞姫』と張三姉妹の『数え役萬☆姉妹』とのコラボレーションライブに関する報告が一通り終わった。どうやら張三姉妹の方も上手く交渉できたようだ。……こう見ると、一刀も随分と落ち着いて様になってきたものだ。現世に帰ったら高卒でも速攻で就職できるだろう。まぁ、現世帰還は阻止するつもりなのだが。
「良くやったわね。なら、二人はそのまま調整に入ってちょうだい。時間もないから、手が足りないところは他の部署にも協力を要請して構わないわ」
「ん、分かった。会場の設営は、工兵隊に『訓練も兼ねて』ってことでやってもらうのでいいんだよな」
「あの娘たちの人気じゃそんな建前 今更必要ない気もするけれど、ね」
「後は指示を出すだけよ……これで兵の士気も十分。ようやく孫呉攻略の準備が整いましたね。華琳様」
「ええ……」
「あの、華琳様……」
「なぁに、流琉」
「この間の軍議では、攻めるなら蜀と呉、同時に、って決まりませんでした?」
「そうだよな。方針変わったのか?」
「それについては後々、と思っていたのだけれど……ふふ、気になって仕方がないって娘もいるようね。……桂花」
「はっ」
歩み出て、咳払いを一つ。
「皆、先日の定軍山の件は覚えているわね?」
「ああ。黄忠と馬超を返り討ちにしたやつだな」
「そう。あれ以来、蜀……つまり諸葛亮は必要以上にこちらを警戒するようになったのよ。ならばこの機に呉を潰してしまおう、というのが軍師会議での決定よ」
「もちろん、質問は受け付けますし、皆さんの意見次第では変更も有り得るのですが〜」
と、風も続く。
「うむ。機を見て敏なり、だな!」
「おっし!斬山刀が光って唸るぜぇぇっ!!」
俄に色めき立つ者達を他所に、渋い顔をする面々も。
「警戒しているのなら、こちらの動きに敏感になって尚更迅速に後ろを取ってくるのではないか?」
「それに、動かんのが最善策ってこの前言いよっやん」
「ん、霞は呉の英傑共と早く戦いたくないのか?」
「いや、そこは嬉しいんやけど……戦略的な面が不思議でもあるやん」
「そうですね。確かに、お二人の疑問も分かります」
「まぁ色々と複雑やからなぁ」
「実際、軍師会議でも意見は割れたわ」
「まず、蜀の行動だけれど……かなり鈍いでしょうね」
「それは何故だ?」
「定軍山の戦いの後も、将軍格は出ないものの、蜀との衝突は何回かありましたよね?」
「ああ。朝の定例軍議で何度か報告が有ったな。……はぁ、つまり、何かしたんだな」
秋蘭は全てを察したらしく、やれやれとでも言うようにため息をつく。……実際小声で言ってるっぽい。
「お察しの通り。小規模な戦闘だから内容までは軍議で発表されなかったけど、その衝突の全部に伏兵戦法を使ったの」
「もちろん、全てが成功したわけではないですが、人は失敗の方をより鮮明に記憶し、意識するものです」
「諸葛亮さん、今なら『十万の大軍より空城が怖い』って言うんじゃないですかねー」
分かりやすく言うと逆オオカミ少年である。
「向こうが引っかかったふりをしているという可能性は?」
「その線も薄いなぁ。向こうが擦った兵数はフリにするにはちょい多すぎるわ。士気も最悪。ここで私らが呉を攻めたら……」
「借刀殺人を狙うか……或いは、立ち向かってくるにしても空城を恐れて呉と合流するか。なるほどな。危険は以前より格段に小さくなっているというわけか。……けど、守りが最善手ということには変わりないんだろ?」
一刀さんが借刀殺人とか言ってる!……勉強したんだな。私は嬉しいぞ。
「そうやな。どの戦法が一番負けへんか、って聞かれれば、引きこもるんがダントツや。実際、私もそれが良えかな〜と思とるんやけど」
でも、よくよく考えると、防御に徹して相手が攻めきれずに体制を崩したところで動く、という戦略は達成されている気もする。
「……大陸が三国に分裂したまま睨み合うのと、さっさと私が平定してしまうのと。どちらがこの大陸のためになるかしら?」
「なるほど。つまり多少の危険は有っても得られるものは大きいのか」
「その危険も以前に比べて格段に小さくなっているしね。後を取られる可能性がグンとさがったし、そもそも向こうが空き巣に来ても撃退ができないわけではないわ」
「かと言ってダラダラやっていては蜀もさすがに立ち直るでしょう。そうなればまた厄介なことになる」
「この戦い、とにかく時間が勝負よ。皆、互いに連携して迅速に行動してちょうだい」
「「「はっ!!」」」
ちなみに淑女にも人気。