「わ〜!華琳様、やっぱりすっごく似合ってるのー!」
「ふふっ、いい仕事よ。沙和」
嬉しそうに手をたたく沙和の前で、華琳はくるりと回転する。それにあわせて黒いフリルが花弁のように開き、なんとも可愛らしく、美しい。それがシースルー仕立てのガン攻めネグリジェだということを忘れそうになるくらい。夏侯姉妹と桂花と禀なんか、なんかもう色々と危険過ぎるという理由で部屋の逆サイドに避難している。好き過ぎるというのも厄介なものだ。
「だけれど、沙和のソレもなかなか面白いわね。一刀の意匠かしら?」
「そうなの!確か……『ろまん』とかいう名前なの!」
そして、沙和の方はと言えば所謂『裸Yシャツ』だ。私のイメージでは、裸Yシャツと言えば事後の翌朝の衣装であって、寝間着ではないのだが……、まぁ、その辺は個人の自由か。沙和の勘違いから察するに、一刀はきっと『裸Yシャツは男のロマンだ!』とか言ったんだろうな。分かるぞその気持ち。私も前世で後輩に朝チュン裸Yシャツをキめられたときは思わずロスタイムに入ってしまったものだ。あの時ほど女ながらに敢えてYシャツ派だったことを幸運に思ったことはない。
「へー、結構着易そうやな。ウチも今度からそれにしよっかな」
「そうだな。真桜の寝間着は……あまりにも、な」
そして真桜。コイツは……ちょっと頭おかしいのではなかろうか?下は極々短い短パンで、まだマシなのだが、上は……。何だろう、マイクロビキニってやつか。普段からしてかなりの露出度だからな……。いっそのこと裸の方がまだ清々しい。
対して凪はと言えば、それで体が休まるのかと問いたくなるようなきっちりとした服を着ている。普段は何気に肩出しもも出し谷間出しのニアグランドスラムのくせに。
「でもそれよりも問題なのは聆ちゃんなの……」
「そうねぇ……」
「へっ?」
何だろうか……?私はいたってマトモな服装をしているはず。
「その色気の欠片も無い服は何?」
「枯れてるの?聆ちゃんってもしかして枯れてるの?」
「いや、どう見ても普通やろ!寝やすいし」
Tシャツとジャージの何がそんなにいけないのか。
「寝やすいと言ってもねぇ。寝やすければ良いというものではないでしょう」
「運動もしやすいで?」
「なら向こうに混ざってらっしゃい」
華琳が指差す方向……戦場が有った。
枕が高速で飛び交っている。『鎌輪ぬ』浴衣姿のかゆうまが空中に飛び上がり渾身の一投。キャミ&ドロワの季衣はそれを残像でもできそうなほどの高速ステップで躱し、両手に持った枕を一気に投げる。それに、お揃いの流琉が絶妙なコンビネーションで併せた。四つの枕は未だ空中に居るかゆうまへと殺到する。しかし、そこにチュニック+ショーパン猪々子が割り込んだ。両手両足それぞれに器用に枕を受け止め、そして、躰全体をすぼめるようにして、四つを同時に投げ返した!
……って何だこれ。枕投げってそういうことじゃないだろう。もっとこう、きゃいきゃい言いながら笑顔で楽しくやるものであるはずだ。いや、一応あいつらも笑顔か。バトルジャンキー特有の獰猛な笑みではあるが。
「遠慮しときますわァ」
「んー、でも聆ちゃんならあそこに混ざってもいい勝負できると思うのですよ〜」
ここで丸っこい珍妙な生物が登場。……まぁ、着ぐるみ服を着た風なのだが。
「はぁ……それにしたって、枕を投げてる娘たちの方がまだ洒落てるじゃない」
と言うか普通にセンスが良い。特にかゆうまの浴衣なんか凄く良い。『鎌輪ぬ』とは、鎌の絵、○、平仮名の『ぬ』が繰り返される文様であり、『構わぬ』と読む。もともとは江戸時代に流行ったもので、意味するところは『火水も厭わず弱い者を助ける』である。これも一刀からの入れ知恵だろうけど、なんとなく意外だ。一刀、萌え文化だけに詳しいわけではなかったのだな。
「でもな、洒落とるとか洒落てないとかに拘るあまりに着たい服を着れんのは滑稽なことやと思うんや」
「むー、また聆ちゃんが小難しいこと言ってごまかそうとしてるの〜」
「それに、そもそもおしゃれな服が着たい服なのが普通で、着たい服がおしゃれな服なのが理想よね」
「え〜、実用性が第一で、見た目は後からついてくるもんやろ、な?風さん」
「風、貴女の意見はどうなの?」
「……、ぐぅ」
「寝たか……」
「すぐ寝られるという点では、風の寝間着は実用性が高いわね。聆、これと同じものを着てみたら?」
「いやー、たまたま風さんやったから寝たんかもしれんし?再現性実験のために服飾に積極的な華琳さんが着てみたらどないですのん?」
「……風の寝間着がまるで厄介な罰のように扱われているのですよー……」
「あ、起きたの」
「聆ちゃんは狸寝入りすると起こしてくれないから難しいのです」
「狸寝入りって自分で言うのですね……」
「ウチ的には禀とかのんがやりにくいけどな……」
「ボケ殺しの聆、突っ込み殺しの禀様、ですか」
「でもその二人だと、聆ちゃんが禀ちゃんの鼻を塞ぐことで決着がつくのです」
「それはそれでおもろいな」
―――――――――――――――――――――――――――
台風一過、とでも言うべきか。
一種異様な盛り上がりを見せたパジャマパーティ(?)もメンバーの就寝により徐々に静まり、城内はいつも通り夜の静寂に包まれた。
が、未だ起きている者もちらほらと居るようで……。
「今夜は月を肴に一人酒を、と思とったねんけど……けっこう起きとるヤツ居ったんやな」
「とは言え少人数ですがねー」
「まぁこの取り合わせも珍しくて良いじゃァねェか」
パーティ会場として用意された急造の大座敷を離れ、月明かりの下、杯を傾けるのは三人。霞、七乃さん、靑だ。
「そ~いえば七乃っちは何で?一旦寝とらんかったっけ」
「少し前にお嬢様を厠へお連れしまして」
「で、そのまんま目が冴えちまった、と」
「だってお嬢様のお小水の音なんか聞いちゃったらそりゃ目も覚めますよ。冴えわたっちゃいますよ」
前半はうっとりと、後半は興奮気味に七乃さんは言う。
「おおっと未だに一人で厠に行けん美羽たんに突っ込み入れるつもりやったのにもっと突っ込み所の有る発言が」
「あ、でもお嬢様も進歩なさってるんですよ?以前はそのままおねしょしちゃってましたから。……そっちはそっちでステキだったんですけど」
「あっちゃァ騙された。アタシゃ七乃のことは数少ない常識人だと思ってたんだが」
「何言うとんねん。七乃っちはこの魏でも三本の指に入る歪んだ愛情の持ち主やで」
「そもそも歪みだらけですけどねー。この前なんとなく相関図書いてみたらとんでもないことになりましたもん」
「うん。まぁ予想はできるわ。一刀は節操無しやからなー」
「何他人事みたいに言ってるんですかー。霞さんもややこしい人間関係の要因の一つなんですからね」
「うそん」
「まぁ、分からなくもないが……意外ではあるなァ。もっとめんどくさそうなヤツがうじゃうじゃ居るじゃねェか」
「そうなんですけどね……。まず、一刀さんについてですが、実を言っちゃうとわりと当たり前なんです。一人の権力者、或いは重要人物に妻が何人も付くというのはよくあることですから。そして華琳様も同様に。ですが、この二人がくっつくことによって状況は一変します」
「ああ、二股状態になる奴が大量に……」
つまりは、一つの団体にハーレムの中心が二つ有る状況だ。
「そうです。例えば春蘭さんを例にすると、まず華琳様と……ぶっちゃけ肉体関係がありますよね?それで、なんだかんだ言って一刀さんともそういう仲です。そして華琳様と一刀さんは当然恋仲。これで三角形ができて、それがいくつもあるのが華琳様に親しい者達の小集団。ちなみに、これまた春蘭さんが例ですが、秋蘭さんとも姉妹以上の絆で結ばれています。そうやって横の繋がりもあるわけですから……相当みだれてますよね」
「うわぁ……華琳の周りヤバいな」
苦笑いとため息がないまぜになったような微妙な反応。
「まだ辟易するのは早いですよ。この小集団は最大ですが、まだ三つの内の一つでしかないんですから。ちなみに張三姉妹は一刀さん以外との関係が薄すぎるので除外ですけどね」
「……あと二つも狂ったしがらみが有るんか」
「……そうですね。そして第二の小集団が、霞さんに親しい者達です」
「え、ウチ!?」
「知ってるんですよ〜。凪さんや真桜さん、沙和さんと友人としての触れ合い以上の肉体的接触をしていることは」
「あ、そう言や何かそんな感じの関係臭いな」
「……黙秘権使えるか?」
「この場合沈黙は肯定とほぼ同義ですけどねー。ま、つまるところ霞さんの集団は華琳様の集団の規模が小さくなったものですね」
「で、最後なんですが、聆さんに親しい者達の小集団」
「あー、なんとなく予想はついてたな。あからさまに集団持ってるもんな。バ会、だったか?」
「それとは少しだけ違うんですけどね。ここの特徴としては……まったく冗談のように綺麗な関係」
「魏国曲者筆頭の集団がなんでそんな」
「やっぱり集団の要の聆さん本人が性に消極的と言うか落ち着いてるからじゃないですか?かゆうまさんなんか、聆さんに惚れているのは明らかなのに、本人は恋愛に疎すぎて自分の気持ちの正体に気付いてないし、聆さんもそれにあえて触れないし。聆さんが華琳様くらい積極的だったならここも相当なことになっていたはずですよ」
「……拗れまくっとる割に明るいよな。魏」
「二股相手ごと一刀さんが食べちゃいますからね。二股にならないんですね」
所謂セット販売である。
「聆が人材確保して華琳が管理して一刀が喰っちまうんだな……」
「でも、この中じゃ一刀さん経験者は霞さんだけですよね。……どうでした?一刀さんの夜間戦術は」
「なんや七乃っちさっきから下世話過ぎん?」
「うふふ、そうかもしれませんね。なんせ酔ってますから」
「で、どこに惚れたんだ?アタシにはアイツの良さがピンと来ねェんだ。何か良いとこ有るか?偶々位の高い男がアイツだからモテてるんじゃねェの?」
「何言っとんねん!優しいし!それに偶に頼りになるし、頭も良えし……………」
「………」
「………ぷふ」
「ちょ、嵌めたなっ!?」
「いやー、おアツいこって」
「ベタ惚れじゃないですかー!ヤダー」
砂糖吐いた。
「オイオイ赤くなってねェで続きを話せよ。アタシゃ適当に馬に乗るのが上手いやつを見繕って子供産んだクチだからそういう話に興味津々なんだ」
「まずはきっかけから話してもらいましょうかー」
……そろそろ戻るか。ここにこのまま居たら糖尿病になるかもしれん。
普段は起きてる時間だからとふらついてみたが、なかなか面白い話が聞けたもんだ。……七乃さんの予想に反して、かゆうまについては私は全然気がついてなかったしな。
そのかゆうまの寝相でひどい目に遭うシーンは割愛。
長丁場もいよいよ終わり。
本文内でオチがつかなかったという異例の自体です。
今回の拠点フェイズはもっと膨らませることができたはずだと悔いが残る感じになってしまったので、一通り終わったらリメイクすると思います。