新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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~幕間~【ダーマ周辺】①

 

 

 

 もはや陽も大きく傾き、遠い西の空へと帰る頃、一行は険しい山肌を未だに上っていた。

 森を抜けた先にあった山は、今まで歩いて来たような、人が踏みならした山道はなく、岩肌が剥き出しになった部分を捩り登るような作業を行わなければならなかったのだ。

 

「……カミュ! 次に、どこか休めるような場所があれば、今日はここまでにしよう!」

 

「……わかった……」

 

 先を進むカミュと、その後ろをついている筈のサラとの距離が空き始めている。カミュは、所々で、振りかえり、足を止めているが、それでも山を登った事もなく、体力も乏しいサラやメルエにとって、この山はとても厳しい物だった。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

「…………」

 

 それでも、二人は不満を口にはしない。

 サラは、この場所へ向かう事を言い出したのが自分であるからという理由で。

 メルエは、置いて行かれない為にという理由で。

 それでも、その疲れは、もはや隠しようがない物になっていた。リーシャの声に振りかえったカミュは、一つ頷いた後、道なき道を進む。

 その後を最後の力を振り絞るように追うサラとメルエ。そんな二人を頼もしそうに見つめるリーシャは、微かな微笑を浮かべた。

 

 

 

 山肌の脇にぽっかりと空いた洞窟に辿り着き、一行は、そこで夜を明かす事になる。途中、岩ばかりの山肌に落ちている枯れ木等を拾い集め、火を熾した。

 その洞窟は、かなりの深さを誇っているようで、入り口付近で火を熾した一行は奥へと目を向けるが、暗い闇に覆われ、中を窺い知る事は出来ない。一行は奥への興味を失い、熾した火を中心に円を描くように座った。

 

「……ここでどの辺りまで、上ったんだ?」

 

「……何度も言うが、アンタと共に旅をしている俺が、この山の全貌を知っていると思うのか?」

 

 一息つき、自信の膝の上でうつらうつらと眠りに就き始めたメルエの髪を梳きながらリーシャはカミュへと尋ねるが、返って来た答えは、この山を登る前と同じ物だった。

 カミュの回答に噴き出しかけたサラを瞬時に睨み、その動きを石化させたリーシャは、もう一度カミュへと視線を向けた。

 

「お前の予測でも構わない。この先に<ダーマ神殿>はあると思うか?」

 

「……リーシャさん……」

 

 おそらく、リーシャは<ダーマ神殿>の話を、伝承程度にしか考えていないのかもしれない。

 サラやメルエにこの過酷な道を歩かせる意味があるのかを疑問視し始めているのだ。故にカミュへと問いかける。

 『この道を進む意味はあるのか?』と。

 

「あるかないかを問われれば、俺にはわからない」

 

「そうか」

 

 カミュは、少し考えた後、ゆっくりと口を開く。

 その言葉を聞いて、リーシャは目を閉じた。

 

「……メルエは俺が背負おう……」

 

「いや。それは私の仕事だ」

 

「えっ!? あ、あれ?」

 

 サラは、急に転換した二人の言動に戸惑う。

 先程まで、緊迫した空気が流れていた筈だ。

 サラが夢見た<ダーマ>へ向かうか否かで……

 それが、いつの間にか、この二人の間でメルエの取り合いが始まっていた。

 その二人の豹変ぶりにサラは口をぽかんと開けたまま固まってしまった。

 

「メルエがこの山を登る事が無理だという事は、お前には解っていた筈だ。それにも拘わらず、ここまで登らせたお前にメルエを任す事は出来ない」

 

「……」

 

 リーシャの言動に、反論できないかのように黙り込むカミュ。彼の中で、確かに配慮が足りなかったという事を理解しているのだろう。何処となく悔しそうな表情を浮かべるカミュを見て、サラの時間もまた動き出す。

 

「すみません。私の我儘で……」

 

 度重なる自分の我儘によって、大切な者達を傷つけている。

 そんな辛さに、サラは二人に向かって頭を下げた。

 

「別に、サラの責任ではない。行き先を決めたのは、カミュだ」

 

「……」

 

 リーシャの言葉に、カミュは大きな溜息を吐く。

 『ここで、自分の名が出て来るのか』と。

 リーシャとしては、サラの責任に目を背けている訳ではないのだろう。

 純粋に、カミュの責任だと思っているのかもしれない。

 

「この山すらも登れないようなら、始めから『魔王討伐』など無理な話だ」

 

「そうだぞ、サラ。これから先、もっと困難な道はある筈だ。その予行練習だと思えば良い」

 

 『ならば、何故話題に出した!?』とでも言いたそうに鋭い視線を向けるカミュを無視するかのように、リーシャは優しくメルエの髪を梳いている。

 カミュの鋭い視線は、アリアハンを出たばかりの時のようにサラを凍りつかせる物ではなかった。

 最近、リーシャはカミュの瞳を見て戸惑う事は少なくなっている。本当に呆れたような視線を向ける時は別なのだが……

 

「サラ。もう休め。明日も早くからこの山を登らなくてはならないんだ。体力を回復させておかなければ、厳しいぞ?」

 

「は、はい」

 

 メルエの頭を撫でながら、サラに向かって微笑むリーシャを見て、サラは素直に頷いた。それは、何か逆らう事の出来ない暖かさ。

 まるで、母親が子を寝かしつけるような優しさに満ちた声だった。

 

 

 

 眠りに就いてどのくらいの時が経った頃だろう。

 サラは、何かの叫び声を聞いて、目を開いた。

 

「カミュ!」

 

「わかっている。メルエを頼む」

 

 サラが開いた瞳に、強烈な朝陽が飛び込み、一瞬視界を真っ白に染めて行く。

 陽が出て間もないのだろう。未だに空に暗い部分は多く、大地から顔を出し始めた太陽の光が徐々に空を白く染め始めていた。

 

「ま、魔物ですか!?」

 

「サラ、起きたのか!? メルエを頼む!」

 

 後方から掛かったサラの声に、前方から視線を外さず、リーシャがサラへと指示を出した。

 既にカミュは剣を抜き放ち、リーシャも斧を構えている。二人が相対しているのは、大きな猿。

 洞窟内を目一杯使うように立ち上がった大猿だった。

 

<キラーエイプ>

アッサラーム周辺に住む<暴れザル>の上位種に当たるとされる魔物。その凶暴な腕力で人を打ち砕き、通常の人間であれば即死させる程の魔物である。ただ、<暴れザル>よりも腕力は強いが、その肌を護る体毛は<暴れザル>に比べ、柔らかく、剣や槍等を弾き返す程の強度はない。群れを成す事が多く、同種を呼び寄せる事も多い魔物でもある。

 

「メルエ、起きてください!」

 

「…………うぅぅん…………」

 

 未だに眠るメルエをサラは揺り起こそうと動いた。だが、眠そうに目を擦りながら、メルエは瞳を開けるが、その瞳は再び閉じられていく。

 『このような状況で何故再び眠れるのだ?』という疑問が浮かぶが、そんな余裕がある訳ではない。仕方なくサラは、横たわるメルエを護るように、その前方で槍を構えた。

 しかし、ここに来て、サラはこの状況の奇妙さに改めて気がついた。

 出現した魔物は、一体。本来、群れを成す習性のある魔物が、たった一体で人の前に現れるというのも既に奇妙な話だが、その魔物がじっと一行を睨みつけながら動かないというのは、今までサラは見た事がない。

 いや、正確に言うと、一度しか見た事がない。

 

「!!」

 

 斧を構えたリーシャが動き出そうとした時、そのサラの考えが正しい事を裏付ける者が出現する事となる。

 

「こ、こどもか!?」

 

 リーシャの叫び。立ち上がり、一行を睨みつける<キラーエイプ>の後ろから、メルエ並みの大きさしかない猿が現れたのだ。

 大きな<キラーエイプ>の足にしがみ付くようにこちらを窺う瞳には、魔物特有の悪しき憎悪は見られない。純粋に、初めて見る『人』という物に興味を示しているかのように輝いていた。

 

 サラは言葉を失った。

 こういう場面に出くわす事を予想していなかったと言えば嘘になる。<シャンパーニ>に向かう途中で遭遇した<軍隊がに>の親子の時とは状況が違う。

 何が違うと問われれば、それはサラの心。

 

「……すまない……お前達の住処とは知らなかった」

 

 後方に控えるサラの葛藤を余所に、前線にいるカミュは剣を背中の鞘へと納めた。

 戦闘の意思がない事の表れである。

 以前の<軍隊がに>の時と同じように、カミュは子供を護るように立つ<キラーエイプ>と戦わずに、この場を去る事を考えているのだろう。

 

「……カミュ……」

 

 そんなカミュの姿を見て、リーシャが斧を下ろした。

 『ふっ』と力を抜いてしまったその瞬間、目の前の<キラーエイプ>が動いた。

 

「グォォォォォォ!!」

 

 <キラーエイプ>の凄まじい雄叫びと共に、その太い幹のような腕が唸りを上げる。力を抜き、カミュへと視線を向けていたリーシャを横から襲う衝撃。

 身体の緊張を解いた所に衝撃を受けたリーシャは、轟音を残して、そのまま洞窟の壁へと吹き飛んで行く。

 

「リーシャさん!」

 

「うぅぅ」

 

 慌てて駆け寄ったサラが、蹲るリーシャの身体に手を翳した。呻き声を上げてはいるが、骨や内臓に異常はないと思われ、サラは安堵の溜息を漏らす。

 念の為、リーシャの身体全体に<ホイミ>を掛け始めた時、サラは自分の背筋が凍る程の何かを感じた。

 

「……住処を荒らした事は謝罪した。それでも向かって来るのなら、容赦はしない……」

 

 それは明確な怒気。

 再び剣を抜いたカミュからは、いつものような冷静さは全くと言っても良い程に感じる事が出来ない。それが何に対しての怒りなのかは解らないが、カミュが<シャンパーニ>で盗賊達に向けた怒りと同等の怒りを表面に出している事だけはサラにもはっきりと認識する事が出来た。

 

「グォォォォォ!」

 

 再び剣を抜いたカミュを睨んだ<キラーエイプ>は、大きな雄叫びを発した後、その両手で胸を数度叩いた。

 それは、威嚇の証。

 魔物の多くは人語を理解する事等出来ない。つまり、カミュの謝罪などは理解出来る方が可笑しいのだ。

 カミュの怒りは、身勝手な怒り。

 住処を荒らした事を魔物が怒り、我が子を護る為にカミュ達の前に出て来たとすれば、謝罪よりも早くに、この洞窟を出るべきだったのだ。

 

「カミュ様! 待って……」

 

「やぁぁぁ!」

 

 サラの声を掻き消すかのようなカミュの叫びが洞窟内に響いた。

 飛び掛って来たカミュに、振り下ろした<キラーエイプ>の腕は、虚しく地面を陥没させる。見失った相手を探すように首を動かした<キラーエイプ>には、決定的な隙が生じていた。

 

「グギャァァァァァ」

 

 <キラーエイプ>の腕を横に避けた後、懐に飛び込んでいたカミュの剣が、その胸板に吸い込まれていた。強烈な痛みと、不愉快な音を立てながら噴出す体液に、<キラーエイプ>は苦悶の叫びを上げる。

 

「ふん!」

 

 突き刺さった<鋼鉄の剣>をカミュが真上へと引き上げる。手入れを怠った事のない鋭い刃先が、<キラーエイプ>の肩口までを大きく斬り裂いた。

 天井に向けて体液を噴出しながら、<キラーエイプ>は仰向けに倒れて行く。このまま放置しておけば、助かる事はない程の傷。

 

「……あ……ああ……」

 

 その光景を見た時に、サラの中で自分でも解らない戸惑いが生まれた。

 魔物が死に逝く様等、ここまで何度も見て来た。

 『魔物は絶対悪』

 『魔物は滅ぼす物』

 『魔物に情け等無用』

 そう信じて生きて来た。

 そう憎んで生きて来た。

 その『憎悪』こそ、サラが前へ進む活力だと信じていた。

 

 だが、今、サラの瞳に映る光景を受け入れる事が出来ない。

 目の前で我が子を護り倒れて行く<キラーエイプ>。先程まで、好奇心に彩られた光を宿していた瞳が、驚愕に変わってしまった幼い魔物。

 親の元に走り寄ろうとするその幼い魔物も、カミュの振るう剣の餌食になろうとしている。

 

「カ、カミュ様! 待ってください!」

 

「なっ!?」

 

 サラは無意識に駆け出していた。突如前に出て来たサラに、驚き剣を止めるカミュ。そんなカミュの驚きに目もくれず、サラは呼吸も乱れ始めている<キラーエイプ>の前に膝を落とした。

 

「キィィィ!」

 

「……大丈夫です。大人しく待っていて下さい」

 

 跪き、<キラーエイプ>の傷口に手を翳すサラに向かって、幼い小猿が悲鳴にも似た叫びを上げながら拳を振るう。

 まだ成長もしていない幼い拳は、サラの背中をポカポカと情けない音を立てながら叩くが、サラは一度小猿へと視線を向けた後、自分の身近に居る幼い魔法使いに掛ける様な言葉を発した。

 

「べホイミ」

 

「……おい……」

 

 サラの二の腕までを覆う淡い緑色の光は、<キラーエイプ>の身体を包み込み、癒しの風を送り込んで行く。後方で剣を持ったままのカミュが、訝しげな視線をサラに向けていた。

 カミュは、相手が魔物であろうと、自分に襲い掛かって来ない魔物は見逃して来た。だが、一度自分に襲い掛かって来た者は容赦なく斬り捨てる。手加減をし、逃がす事等もあるが、回復呪文まで使ってその命を救った事はない。

 それを、目の前の、魔物を憎んでいた僧侶が行っている事に、カミュは困惑していたのかもしれない。その証拠にカミュの口から出た言葉は、問い掛けのものだけだった。

 

「キィィィ」

 

「もう少しです。もう少し待っていて下さい」

 

 傷が塞がって行くのを見て、先程とは違う弱々しい声を上げる小猿に、サラはもう一度言葉をかける。

 『必ず命を救って見せる』と。

 サラのその想いは、魔物と呼ばれ異種族の子供にもしっかりと伝わった。サラの顔を覗き込むように見た<キラーエイプ>の子供は、静かに座り込んだのだ。

 

「うぅぅ……サラ……?」

 

 その様子に困惑している者が、もう一人。先程、吹き飛ばされ、ようやく意識がはっきりしてきたリーシャである。

 はっきりして来た視界の中で、魔物に向けて回復呪文を唱えるサラと、その後ろで呆然と佇むカミュ。

 そんな奇妙な光景に、リーシャもまた困惑していたのだ。

 

「……さぁ、これでもう大丈夫です。しばらくすれば意識も戻りますよ」

 

「キィィィ」

 

 そんな二人の困惑を余所に、回復を終えたサラが、自分の横で大人しく座っていた小猿に笑顔を見せる。

 サラの言葉を理解したように、小猿は一つ叫び声を上げた後、<キラーエイプ>の傍に駆け寄って行った。

 

「メルエ、いい加減に起きて下さい」

 

「…………うぅぅん…………」

 

 小猿の姿を見て軽く微笑んだサラは、後方に移動し、メルエの身体を再び揺り動かす。気持ちの良いまどろみから強制的に引きずり出されたメルエは、不機嫌そうに唸りながらも、目を擦り立ち上がった。

 

「カミュ様、行きましょう」

 

「……ああ……」

 

 メルエの手を取ったサラが後ろを振り返り、カミュへと出発を促す言葉に、カミュは頷くしかなかった。

 未だに意識の戻らない<キラーエイプ>を置いて、一行は洞窟を離れる。

 既に太陽は完全に地面の上へと昇りきっており、山肌を明るく照らし出していた。

 

 

 

「サラ、先程の事だが……」

 

 再び山を登り始めた一行に会話はない。そんな中、意を決したように、最後尾を歩くリーシャがサラへと口を開くが、その事をリーシャは後悔してしまう。

 背中から掛かるその言葉に、びくりと肩を震わせ、振り向いたサラの瞳には色々な感情が宿り、今にも泣き出しそうな表情をしていたのだ。

 

「……はい……」

 

 観念したように、返事を返すサラの声は震えている。

 サラが振り返る事で、一行はその場で立ち止まり、先頭を歩くカミュもまた振り返っていた。

 

「……何故、魔物に回復呪文を掛けた?……いつかアンタが言ったように、あの魔物がこの先『人』を襲ったとしたら、どう責任を取るつもりだ?」

 

「カミュ! お前がそれを言うな!」

 

 サラの表情を見て、何も言えなくなってしまったリーシャの代わりに口を開いたのはカミュだった。

 ただ、その内容に、リーシャは怒りを表す。カミュが言う言葉は、カミュに向けられていた言葉だからだ。

 

「……私は、既にカンダタという人を逃がしました……」

 

「それとこれとは別の話だ」

 

 カミュの方へ振り返る事なく呟いたサラに、カミュが追い討ちをかける。そんなカミュを鋭い視線で睨むリーシャであったが、カミュの言葉に反論はしなかった。何故なら、カミュの言う事が正しいからである。

 不思議そうにカミュとサラを交互に見つめるメルエの眉尻が下がって行く。何故、カミュ達がお互いを攻撃しているのかが理解出来ないのだ。

 

「あの魔物を見ていたら……私達『人』と同じ様に、必死で生きているという事を感じずにはいられませんでした」

 

「……そんな事は、アリアハンを出た頃から見ている筈だ」

 

 カミュの言葉に容赦はない。サラはアリアハンを出た当初、そう話すカミュに憎しみすら感じる程の視線を向けていたのだ。

 ただ、カミュの言葉は、突如としてそのような事を言うサラに対し、憤りを感じたのではなく、その感情が弱気から来る物かどうかを探っているようだった。

 

「わかっています。私は、ルビス様を裏切ってしまいました。もう、僧侶として生きて行く事は出来ないのかもしれません」

 

「……サラ……」

 

 顔を俯け、言葉を漏らすサラの声は、涙で掠れていた。

 剥き出しになった山肌に落ちて行く小さな雫は、地面を濡らして行く。そんなサラに声をかける事も出来ず、ただ呆然と立ち尽くすリーシャ。

 それでも、カミュは言わなければならなかった。

 

「ルビスの事等どうでも良い。要はアンタの問題だ。アンタは後悔していないのだな?」

 

「……わ、わかりません。もし、あの魔物が『人』を襲っている姿を見てしまったら、私は後悔すると思います……」

 

 全世界の信仰の対象である精霊を呼び捨てにするだけでなく、『どうでも良い』と吐き捨てるカミュを、誰も咎めなかった。

 今、焦点になっているのは『精霊ルビス』ではないのだ。

 

「この先、俺達は数多くの魔物を殺して行く事になる。逃げる魔物を敢えて殺そうとは思わない。だが、俺達に向かって来る魔物は、例え子がいようと、妻がいようと殺さなければならないだろう。アンタにそれが出来るのか?」

 

「……カミュ……」

 

 カミュは、魔物を逃がす。だが、殺すとなれば、『魔物』だろうが『人』であろうが容赦はしない。それが、サラとカミュとの決定的な違いなのだ。

 カミュは『綺麗事』として、魔物を逃がしている訳ではない。要は『殺す必要がない』というだけ。子供を護っているから殺さないというのではなく、自分に向かって来ないから殺さないという物なのだ。

 

「……」

 

「アンタは俺達に『人を救いたい』と言った。あの魔物を救う事は人を危険に晒す事になるぞ?」

 

 だが、リーシャから見れば、カミュの言っている事は身勝手な物。

 自分は良いが、他の人間は認めないとすら感じずにはいられなかった。

 

「……ルビス様は、私をお許しにはならないかもしれません……」

 

「……またルビスか……」

 

 ようやく口を開いたサラの口から出た言葉に、カミュは再び溜息を漏らす。

 呆れたように、カミュは、もうこれ以上口を開く事なかった。

 

「それでも……それでも私は、これから先、もし同じ様な事があれば、同じ事をすると思います」

 

「……サラ……」

 

 口を閉じたカミュへ、サラは初めて視線を向ける。

 涙に濡れ、赤くなった瞳には、強い意志が宿っていた。

 

「カミュ様と旅をする中で、この世界に生きている物が『人』だけではない事を知りました」

 

 それは、比喩。

 サラとて、この世界で生物が『人』だけだとは思っていなかった筈。ただ、他の生物達にも意思があり、願いがあり、生活がある事を考えた事はなかったという事だろう。

 

「私が生まれる以前は、魔物も人もエルフもこれ程いがみ合ってはいなかったと云われています。勿論魔物に襲われる人は居たでしょうが、これ程魔物が凶暴化したのは『魔王』という存在が大きく影響している事は間違いないと思います」

 

 カミュは黙して何も語らない。

 ただ、厳しい瞳をサラに向けていた。

 

「……私は……私はルビス様のように全知全能ではありません……ただ、『魔王』がいる限り、『人』も『エルフ』も『魔物』も本来の生を全う出来ないのなら、私は『魔王討伐』へと向かいます」

 

「……全知全能であるなら、このような状況にも陥ってはいない筈だが……」

 

「カミュ!」

 

 この世界の信仰の対象である『精霊ルビス』を侮辱する言葉を発するカミュに、我慢出来ず叫んだのは、僧侶であるサラではなくリーシャだった。

 

「それに、エルフや魔物の脅威となる者は、『魔王』ではなく『人』だ」

 

「!!」

 

 サラは、カミュの言葉に目を見開くが、何も言い返す事はなかった。

 おそらく、サラもそれを感じてはいたのだろう。

 だが、敢えて目を背けていた。

 

「アンタが『人』を救おうと思えば、当然魔物を殺さなければならなくなる。だが、魔物を救おうと考えるのであれば、アンタの敵は『人』だ」

 

「し、しかし、『魔王』を倒せば、魔物の凶暴性もきっと今より治まります!」

 

 サラとカミュの言葉の応酬。

 それは、本当に久しぶりの光景。

 カンダタの時は、軍配はサラに上がった。

 しかし、今回は明らかにサラの旗色は悪いだろう。

 

「……それでも、魔物の食事を制限する事など出来ない。魔物が生きている以上、『人』は襲われ、食される」

 

「くっ……」

 

 傍観していただけのメルエの瞳にも涙が滲んでいた。

 自分の大好きな人間達が互いに言い争う姿は、見ていて哀しみを感じる物だったのだろう。幼いメルエにはそう感じたのかもしれないが、リーシャはただの言い争いとは見ていなかった。

 

 これは、自分達の成長の証。

 アリアハンを出た当初では考えられない内容。

 サラが、『人』を救うのではなく、『魔物』を救う事で悩んでいる。

 ただ、サラにしても、『全てを救おう』等とは考えていないのであろう。

 故に悩む。

 

「それこそ、アンタが魔王を倒した後に『王族』にでもなり、魔物と人の住み分けでもすれば、話は別だろうがな」

 

「!!」

 

 そして、意外な場所から道が示される。ただ、闇雲にサラの言葉を否定するのではなく、何かを暗示するような内容。

 しかし、それは一介の僧侶であるサラにはとても厳しい条件でもあったのだ。

 

「……そ、それは……」

 

「話が逸れた。俺が聞きたいのは、『魔王討伐』に向かう為にこれから数多くの魔物を殺す事になる。アンタにそれが出来るのかという事だけだ」

 

 確かに、この先、リーシャ達は数多くの魔物と遭遇し、そしてそれを倒して行かなければ『魔王』という存在に辿り着く事は出来ないだろう。

 『魔物を倒す』という事は、相手の命を奪う事。命の尊さに違いがないという事を悩み始めているサラにとって、それは余りにも酷な注文なのかもしれない。

 

「……それが出来ないのであれば、アンタとは<ダーマ>で別れる事になる……」

 

「!!」

 

「カミュ!」

 

「…………サラ………いない………だめ…………」

 

 一拍置いた後のカミュの言葉に、三者三様の答えが返って来る。サラは息を飲み、リーシャは叫ぶ。メルエは、まるでサラを手放さないとでも言うように、カミュの傍からサラの下へと駆け寄り、サラの身体にしっかりとしがみ付いた。

 

「……私の目指す物は『魔王討伐』です。それを成し遂げるまでは死ぬつもりはありません」

 

 サラの言葉の最後は、しっかりとした力が籠っていた。それは、どこか危うい雰囲気さえ持つ気迫。そして、サラの頭の中に『魔物』という種族を殺す事への確かな抵抗感が生まれた事を表すもの。

 

「……しかし、ルビス様は、私をもうお許しにはならないでしょう……」

 

 何かを思い切ったサラの顔が、再び地面へと下がって行く。それは、僧侶としての想いが強すぎるサラだからこそ感じる苦悩なのかもしれない。

 ルビス教を信じて歩んで来たサラにとって、そのルビス教の教えを根本から裏切ってしまった事は、想像以上の罪悪感だったのだろう。

 

「例え、ルビス様がお許しにならなくとも……」

 

「えっ!?」

 

 しかし、その顔を持ち上げる声が後方から掛る。

 それは、サラを何度も救い、強引に引き上げ、そして道へと戻して来た声。

 

「私は、今のサラを誇りに思う」

 

「……リ、リーシャさん……」

 

 リーシャの声はサラの心へと浸透して行く。

 その言葉は慰めの様でいて、実に厳しい。

 

「私達の手は、実に頼りない。世界中にいる『人』の為に『魔王討伐』に向かってはいるが、その『人』全てを救う事など出来はしない」

 

 そしてリーシャは語り出す。

 騎士としての誇りも、戦士としての誇りも、全てを捨てた赤裸々な心中。

 その言葉を、表情を歪める事なく、リーシャは口にしていた。

 

「だが、それでも自分の手が届く位置にある『命』を救おうと悩むサラの心を、私は何よりも尊いと思う。例え、ルビス様が許されなくとも、この先にある<ダーマ>が私達を拒んだとしても、私はサラを……サラの成長を誇りに思う」

 

「…………メルエ………も…………」

 

 『サラは間違ってはいない』

 そう告げるリーシャの言葉は、サラの涙腺を崩壊させてしまう。

 誰からも認められはしないと考えていた。

 むしろ糾弾されると思っていた。

 

「アンタ方がどう考えようと勝手だが、この先の道で魔物を救う事など出来はしない。立ち向かって来る魔物は排除しなければ死を迎えるだけ。俺は数え切れない程の魔物を殺す事になる」

 

 しかし、良い雰囲気に変わりかけた空気を再び張り詰める言葉が紡がれた。

 それは、何者も区別する事無く、本質を見極める目を持つ青年。

 『人』の希望とまで呼ばれ、世界を救う為の存在。

 

「……カミュ……」

 

「その時に、一々魔物を回復していたら、命がいくらあっても足りはしない」

 

 話が纏まりかけたにも拘らず、再び話を蒸し返すカミュをリーシャは不思議に思った。

 何故、今までのように、何故黙って歩き出さないのか。

 何故、そこまでサラをいたぶるのかと。

 

「『人』を救う事と、『魔物』を救う事は、絶対に相容れない物だ。俺は、自分に敵意持って向かって来る者は、『人』であろうが『魔物』であろうが、殺して行く」

 

「……」

 

 サラは厳しい視線をカミュへ向け、その言葉の真意を探ろうとする。

 この旅で解った事。それは、カミュが口を開く時は、その言葉に何らかの意味があるという事だった。

 それはとても些細な事から、サラの根底を揺るがしかねない物まで様々ではあったが、必ずと言って良い程に何かが含まれていた。

 

「……今度は、アンタの番だ……」

 

「……」

 

 しかし、それだけを言って、カミュは踵を返して歩き始めてしまう。結局、サラには、カミュが何を伝えようとしていたのかが、全く理解出来なかった。

 

 リーシャは、黙ってカミュの背中を見つめていた。

 この広く優しい青年の背中を。

 リーシャには、最後のカミュの一言で何を言いたいのかを悟ったのだ。

 

 『必死に護って見せろ』

 

 その一言をカミュは伝えたかったのかもしれない。

 アリアハンを出た当初から、カミュは魔物を逃がして来た。その時、それを咎め、逃げる魔物に追い討ちを掛けようとしたサラを止めていたのもカミュ。

 誰にも認められなくとも、『憎悪』に近い感情をぶつけられても、彼は魔物と余計な戦闘を行わなかった。

 

 それをサラにしろと言っているのだ。

 自分は、容赦なく魔物を、そして人を殺して行く。

 ならば、次はサラの番だと。

 『勇者』としての責務を全うする自分を止めて見せろと。

 

 最後に口端を軽く上げたカミュの表情がそれらを全て物語っていた。

 サラの考えや理想を否定はしない。

 ただ、その理想の先は険しく辛い道なのだと。

 

「……リーシャさん……」

 

「ん?……なんだ?」

 

 カミュが歩き出し、その後をメルエが追って行った。

 必然的に、立ち止まっているリーシャとサラだけとなる。

 その時、カミュの背を見つめていたサラが口を開いた。

 

「私は……私もこの先、数多くの魔物を殺して行くのだと思います。あのような事をカミュ様へ言いましたが、魔物と遭遇し戦う時、私は救う事など出来ずに殺して行くのでしょう。自分が生き残る。ただ、それだけの為に……」

 

「……サラ……」

 

 弱音を吐くような口調ではなく、しっかりと自分を見つめて話すサラの言葉は現実を見ている物だった。故に、リーシャは何も言わず続きを促す。

 サラの胸の内に生まれ始めている新たな『覚悟』を明確にさせる為に。

 

「私は……卑怯者です。カミュ様のしていた事を否定し、蔑んで来ました。その行為の苦悩も、辛さも、そして尊さも知らずに」

 

「……それで良いじゃないか……」

 

 思わぬリーシャの回答に、サラは弾かれたように振り向く。

 そこには、未だにカミュの背中を見つめるリーシャの表情があった。

 

「何事も真っ直ぐ受け止め、そしてそれについて悩み続ける。それがサラという僧侶だ。私は、知っての通り、考える事は苦手だ。何も考えずに魔物に武器を振るうだけ。サラのように悩み、考え、答えを見つける事は出来ない」

 

「……」

 

 視線をサラへと移したリーシャの瞳は慈愛に満ちていた。

 リーシャは知らない。

 この瞳こそ、サラが目標としている物だと。

 

「これから先も、サラは苦しみ、悩み、そして答えを見つけるのだろう。それも生きているからこそだ。サラには申し訳ないが、私はサラが魔物を救おうとしても、その魔物がメルエやサラに牙を向けるのであれば、叩き殺す。私は悩まない。そして迷わない。それは、サラの仕事だ」

 

「は、はい!」

 

 聞き方によれば、何とも無責任な言葉である。

 だが、それでもサラは大きく頷いた。

 自分を待ち受けている大きな苦悩を知りながらも。

 

「さあ、行こう。まずは<ダーマ>だ」

 

「はい!」

 

 そして一行は再び歩き始める。

 この岩が突き出した山肌よりも厳しく過酷な道へと。

 

 

 

 その日も結局山の頂上に辿り着く事は出来ず、再び途中で発見した洞穴で一行は一晩を明かす事となる。今回は、魔物の住処ではなく、一行は夜が明けるまで身体を休める事が出来た。

 

 夜が明け、再び山を登りだした一行の間に会話はない。それは昨日の出来事も大いに影響してはいたが、丸二日掛けながらも未だに見えぬ山頂に、全員が疲労感を漂わせていたのだ。

 既にメルエをカミュが背負う形となっており、疲労によって足が前に進まなくなっているサラの持つ<鉄の槍>の柄の部分をリーシャが引っ張りながら歩く姿は、旅慣れている筈の一行でさえも苦しむ過酷な山道である事を証明していた。

 

「サラ、大丈夫か?……もう少しだ」

 

「……はぁ…はぁ……は、はい」

 

 立ち止まりそうになるサラを叱咤し、リーシャはサラを引き上げる。既に普通に歩ける山道ではなく、突き出した岩を掴み、腕の力で登るといったものに変わって来ていた。

 先頭をメルエを背負ったカミュが進み、そのカミュが見つけた足場などを頼りにサラが進む。最後尾をサラが足を滑らせた時の事を考えながらリーシャが歩むという形で、一行は山を登って行った。

 

「…………カミュ…………」

 

「メルエ、しっかり首に掴まっていろ。落ちたら二度と会う事が出来なくなるぞ」

 

 自分だけが楽をしているように感じたメルエが、カミュへと小さな呟きを溢すが、カミュから返って来た答えを聞き、真面目な顔で頷く。

 メルエを背負う為に、カミュの剣は腰に括り付けられている。この状況で魔物と遭遇すれば、全滅は必至であろう。だが、幸いな事にこの険しい山道では魔物の存在もなかった。

 それは、この先に在ると云われている<ダーマ神殿>の加護なのか、それとも只単に魔物が生息していないのかは解らないが、魔物と遭遇する事は一度もなかった。

 

 

 

「サラ! 見てみろ! 頂上だ!」

 

 そして陽が西の空に沈み、真っ赤な光が大地を染め始め、カミュ達の周囲の気温も下がった頃、リーシャが一つの足場に足を止めてサラへと叫んだ。

 疲れきって、顔を上げるのも苦になっていたサラであったが、懸命に顔を上げた先に山の切れ目が見えた事に顔を輝かせる。

 

「カミュ! 頂上だな!?」

 

 自分達よりも先を登っているカミュへとリーシャは問いかけるが返事は返って来ない。それもその筈、カミュは今、その頂上へと向かって最後の岩に手を掛けている最中なのだ。

 それでも、返事を返さないカミュへ小さく不満顔を浮かべ、リーシャは再び山を登り始める。

 

「あ!?」

 

 そして、リーシャよりも一足先に登っていたサラの目の前に差し出される手。サラが足場に足を掛けた後に伸ばされたカミュの手が、そこが頂上である事を証明していた。

 

「……賭けは、アンタの勝ちだ……」

 

「!!」

 

 カミュの手を掴み、引き上げられた場所で掛けられた言葉。

 そして、今サラの目に映る光景。

 それが、サラが夢見た場所である事は、神々しく輝いた宮殿にも似た建物が物語っていた。

 

<ダーマ神殿>

その佇まいは、一国の王城と言っても遜色がない程に大きく、そして美しかった。山の頂上にあるにも拘らず、周囲には草花が育ち、水が湧き出す噴水がある。それは、まさしく神々に一番近い場所と謳われた名に恥じぬ物だった。

 

「カミュ! 私に手は貸さないのか!?」

 

 神殿の美しさに言葉もなく座り込むサラの後方から、怒気を露にしたリーシャの声が響く。先程、サラを引き上げた後、カミュもまたこの神殿に目を奪われていた。それはメルエも同様で、後に続くもう一人の仲間の事は頭からなくなっていたのだ。

 一人自力で上がって来たリーシャの怒りは当然の物のような気もするが、逆にどこか理不尽な怒りにも感じられる。

 

「……別段、アンタは自力でも十分だろ……」

 

「なんだと!?」

 

 目の前の神々しい神殿との感動的な出会いを無にするような掛け合いに、サラは怒りよりも笑いが込み上げて来る。

 正直、サラも半信半疑であったのだ。

 <ダーマ神殿>はあると思ってはいた。だが、半ば伝説にもなりつつあるこの神殿が本当にあるかと問われれば、自信はなかったのである。

 その神殿と出会えた感動と安堵が、笑いとなって一気に身体から溢れ出したのだ。

 

「はは……あははははは……」

 

「…………ふふふ…………」

 

 サラに釣られ、メルエまでもが笑い出す。

 『何がおかしい!?』と厳しい視線を向けたリーシャではあるが、サラの無邪気な笑みを見て、その表情を笑顔へと変えて行った。

 

「良かったな、サラ」

 

「あはははは……は、はい!」

 

 サラはそれでも笑い続けた。

 何かを吐き出すように。何かから解放されたように。

 そして何かの重みを噛みしめているように。

 山頂にある宮殿という不思議な光景が広がる中、一人の『僧侶』の笑い声だけが響き続ける。

 

 『サラのここまでの苦悩は、全てここへ来る為の試練だったのかもしれない』

 

 返事を返した後も、頬に涙を伝えながら笑い続けるサラを見て、リーシャはそう考えた。

 そして、ゆっくりサラを抱き締める。リーシャに抱きしめられた事に驚いたサラであったが、次第に笑い声は消え、すすり泣くような嗚咽へと変わって行った。

 不思議そうに二人を見つめるメルエの手を取り、カミュは神殿へと歩き始める。

 

 陽も沈み始め、周囲を闇の支配が手を伸ばし始めた山頂で、誰よりもその聖地を望み、そして、もはやその聖地を渇望する資格のない『僧侶』の嗚咽が響いていた。

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

ようやくダーマへ到着です。
この話のサラの考えには賛否両論があると思います。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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