新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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海賊のアジト②

 

 

 

 静かに時は流れて行く。船頭に案内された一室で窓の外を見ていたメルエは、陽が傾き、西の空を真っ赤に染まって行くのを見ていた。

 海賊のアジトに立ち並ぶ家々からは、夕食の準備の為か、煙が立ち、真っ赤に染まる空を優雅に泳いでいる。静かな波の音が時を刻み、メルエの瞼も静かに幕を下ろそうとした頃、窓の外の時が急激に動き出した。

 

「帰って来たようだな」

 

「そうですね。メルエ、寝ては駄目ですよ。これからは、メルエの言葉も必要になります」

 

 ベッドに横になってしまったメルエの身体をサラが起こし、軽く揺さぶっただけで、メルエはその瞳を開けた。幼いメルエにも、この後で成すべき事を理解しているのだ。

 傍に置いてあった木だけになった杖を抱き寄せ、立ち上がったメルエは、リーシャの足下に移動する。取り上げられる事も無かったそれぞれの武器を装着した三人が準備を終えると同時に、部屋の扉が音を発した。

 

「棟梁のお戻りだ。案内する」

 

 先程、三人をこの場所へ案内した船頭の声を聞いたサラがリーシャへと視線を移した。サラの視線を受けたリーシャは再び表情を失くし、サラに向かってしっかりと頷きを返す。

 それは、明確な『決意』。今まで行った事のない『交渉』という場に立つ事に対してのリーシャなりの覚悟であったのだろう。それを受けたサラは、静かに扉の取っ手に手をかけてそれを引き開いた。

 

「……棟梁には、アンタ方の事は簡単に話してある……」

 

「わかりました。お願いします」

 

 船頭は、出て来た人物の表情を見て、一瞬だが言葉に詰まった。後ろに立つ女性戦士の表情は、先程見たのと同様に無表情。その足下にしがみ付く少女の眉は不安そうに下げられている。だが、先頭に立っている女性の表情は、ここまでの航路では見た事のない物だった。

 何かの覚悟を決めたような重苦しい空気を纏ってはいるが、それでいて相手を威圧するような空気ではない。

 彼女の何が変化したのかは、船頭には解らない。

 だが、彼女の中にある『想い』が固まった事だけは事実であろう。

 それが、海賊にとって良い物となるかは甚だ疑問ではある。

 それでも、船頭に選択肢は残されていない。

 棟梁が望んでいる以上、それを拒むという選択肢はないのだ。

 

「では、付いて来てくれ」

 

 船頭を先頭に歩き出す。アジトの中央に位置するこの屋敷には、数多くの人間が働いていた。女性から子供までが、何かしらの仕事を持ち、屋敷内を歩いている。棟梁が何かを成して来たのだろう。酒宴を開く予定でもあったのか、屋敷の廊下にまで料理の香りが漂っている。

 食事の匂いを嗅ぎ、周囲を見るメルエの手を引いたリーシャは、それでも表情を変える事はなかった。何故なら、前を歩くサラの頭が微動だにしていなかったからだ。

 カミュのいない今の彼女達には、縋る物がない。互いを信じ、己の役割をこなして行くだけなのだ。

 その中でもサラが担っている役割が一番重いだろう。彼女は、数多くの荒くれ者を束ねる人間と真正面から対峙しなければならず、その際には、周囲を荒くれ者達が必ず囲んでいる筈だからである。

 魔物であれば良い。集団で現れようと、メルエの魔法がある以上、リーシャ達の命が危ぶまれる事はないからだ。

 だが、相手が荒くれ者であろうと『人』である以上、メルエの魔法は行使出来ない。『人殺し』という烙印をメルエに押される事を許さないのは、リーシャもサラも同じ。ならば、サラの発言に海賊達が激昂したとすれば、その相手はリーシャ一人となる事となる。その時こそ、リーシャの仕事なのだ。

 

「少し待っていろ」

 

 一つの大きな扉の前に辿り着いた一行に、船頭は静かに声をかけ、中へと入って行く。その間に、前で身体を固くしているサラの肩に手を置いた。

 突然、置かれた手に、サラは弾かれたように振り向き、リーシャの目と視線を合わせる。その瞳は『決意』と共に、大きな『不安』に彩られていた。

 サラとて怖いのだ。以前、バハラタへ『黒胡椒』を取りに行った時とは違う。相手は、自分の利を押し通そうとするだろう。それを防ぎ、押し返す事が出来なければならない。

 

「サラ、そう固くなるな。あのカミュが出来る事をサラが出来ない訳がない。私は、サラを信じている。そして、サラも私とメルエを信じろ」

 

「…………ん…………」

 

 振り向いた先には、リーシャの笑顔があった。ここまでの道では、カミュのように表情を失くしていた者の久しぶりの笑顔。その下では、眉を下げながらも笑顔を見せる幼い少女。サラはそんな二人の笑顔を見て、初めて自分の肩に力が入っていた事に気が付いた。気負い過ぎていたのだ。

 リーシャの言葉通りに受け入れる事は出来ない。サラにとって、カミュとはそれ程の存在なのだ。だが、カミュとは異なり、サラは一人でそれを行う訳ではない。その当たり前の事実を今初めてサラは自覚する事となった。

 

「入れ。棟梁が会う事になる」

 

 中から出て来た船頭が扉を大きく開いた。急に開けたリーシャ達の視界。大きな広間には、大勢の男達が座っていた。地べたに腰を下ろした屈強な男達の瞳が一斉に先頭に立つサラへと集中する。

 一瞬身を強張らせたサラではあったが、もう迷いはしない。真っ直ぐ見つめたサラの瞳の先に、一段高くなった場所に置かれたソファーのような物が入って来る。その肘掛に肘を乗せ、掌に顎を乗せてこちらを見ている女性。この人物が棟梁に間違いはないだろう。

 サラは周囲の男達へは目もくれず、真っ直ぐに女性を射抜き、歩を進めた。

 

「ふん! 世界を救おうとする人間だというから、どんな奴らかと思えば、餓鬼ばかりじゃないか」

 

 足を進め、屈強な男達に囲まれながらサラが膝を下ろそうとする前に、棟梁と思わしき女性が鼻を鳴らす。顔を上げたサラの瞳には、先程まで興味に満ちていた女性の瞳が、落胆と蔑みの色へと変化するのが映った。

 だが、同様に気付いている筈のリーシャは、いつもとは違い、何も発言する事無く、そして膝を着く素振りも見せない。そこで初めて、サラは膝を着こうとした自分の過ちに気付く。

 彼女達は、王ではない。海を支配する『王』であると言えばその通りなのかもしれないが、彼等は奪うだけで、何を生み出す事も無い。多種族の『王』であったエルフ女王とも、異教徒と言われながらも国と共に歩む国主とも違う。目の前の棟梁らしき人物が、サラ達を『女子供』と侮るのならば、サラ達も『女棟梁か』と溜息を洩らしても良い立場なのだ。

 リーシャは何処かでそれを感じていたのだろう。カミュとは違い、サラは対等な立場として立たなければ、有利な交渉が出来ないという事を。

 サラは、カミュに立ち向かって勝利を勝ち取った事が一度だけある。バハラタ近くでの盗賊のアジトの一件。あの時、カンダタを救おうとしたサラは、カミュの冷たい一言に感情ではなく、思考の末で立ち向かった。

 初めは感情論だけであったろう。それでもサラは考え、悩み、そして全てを受け入れて尚、カミュと同じ場所まで駆け上がって行ったのだ。初めて自分と同じ目線に立ったサラを見て、あの時、カミュは一歩退いた。全てを他人に委ね、幸運も不運も『精霊ルビス』という名を使う事で逃げていたサラではなく、己の力で何かを成そうとする人間へと変化をしたサラを、あの時、カミュもリーシャも見届けている。

 サラは対等でなければならない。相手と同じ目線に立ち、相手の言い分も、自分の要求も全てを飲み込み、考え、悩むサラでなければならない。リーシャはそう考えていた。

 

「…………だめ…………」

 

 だが、そんなリーシャの考えも、サラの変化した覚悟も、たった一人の少女によって打ち消された。

 今までリーシャの横に立って眉を下げていたメルエが、突如サラよりも前に進み出て、頬杖を突く女棟梁に向かって言葉を発したのだ。それは、いつもよりも少し大きな声。まるで、相手を叱りつけるような言葉に、周囲の時が一瞬固まりを見せる。

 前に出て来た幼い少女は、威圧感を発している訳ではない。だが、それでも何かしらを相手に伝える空気を纏っている事だけは事実であった。

 

「なんだ? 餓鬼は引っ込んでいろ!」

 

「全員が餓鬼みたいなもんだがな」

 

 止まった時は、荒くれ者らしい粗野な言葉で動き出す。おそらく、彼等は今回の船に乗船していなかったのだろう。リーシャ達の活躍も知らず、メルエの恐ろしさも知らない。故に、そのような言葉が出てくるのだ。

 それを示すかのように、女棟梁の言葉にも、この仲間達の言葉にも顔を顰めている海賊達が数名いた。彼等はリーシャ達にも見覚えのある顔触れ。つまりは、リーシャ達と共にこのアジトまでの航海をして来た者達なのだろう。

 そして、そんな彼等の不安は、即座に現実の物となった。

 

「それ以上、近づくな。メルエに指一本でも触れてみろ。お前達がこの世に残っていられると思うな」

 

「な、なんだと!?」

 

 周囲の荒くれ者達には目もくれず、女棟梁の瞳を厳しく睨みつけ続けるメルエに痺れを切らし始めた海賊達の数名が、メルエを下げようと立ち上がったのだ。

 しかし、その男達が一歩前に足を踏み出すと同時に、周囲を感じた事のない程の殺気が支配した。先程から無表情を貫いていたリーシャが、いつの間にかサラを越え、メルエの後ろへと移動をしている。足を踏み出し、メルエに手を伸ばそうとしていた海賊達の身体が凍りついたように動かない。それ程の威圧感を感じていたのだ。

 

「リ、リーシャさん、メルエ、一度下がって下さい」

 

 慌てたのはサラである。状況は、正に一触即発。海賊達が一歩でも動けば、言葉通りにリーシャは斧を抜くだろう。そうなってしまえば、交渉どころの話ではない。このアジト全ての海賊達との争いが勃発し、それこそ、流石のサラ達も無事では済まないだろう。サラは交渉に来たのであって、海賊達の殲滅に来た訳ではない。しかし、そんなサラの願いも、決してこの場の空気の好転には至らなかった。

 

「へぇ……近付いたら、どうなるって?……その餓鬼に触れれば、どうするつもりだって?」

 

 今まで興味の失せたような態度をしていた者の瞳が、爛々と輝き、幼子の後ろに立つ女性戦士を射抜いていた。そのまま徐に立ち上がった女棟梁は、面白い物でも見つけた子供のような笑みを浮かべながら、メルエの許へと近付いて来る。

 慌てたのは、リーシャ達と共に航海をして来た海賊達だ。リーシャの実力を知っているだけに、注意を促そうとするが、笑みを浮かべながら歩く女棟梁が纏う空気に声が出ない。リーシャの発する威圧感に負けない程の空気を纏ったそれが、海賊達の目の前を通り過ぎて行く。

 

「あ……あ……リ、リーシャさん、駄目ですよ!」

 

 徐々に近づいて来る女棟梁に対して、リーシャは再度注意を呼び掛ける事はない。先程同様に無表情を貫いたリーシャからは、威圧感は消えていた。静かに近付いて来る者を見つめ、メルエの肩に手を置いている。

 サラには、それが尚一層に不気味に見えた。感情をはっきりと示す事が、リーシャの取り柄の一つと言っても過言ではないのだが、ここ数週間、サラはリーシャの感情を確認してはいない。今のサラには、リーシャの行動が読めないのだ。

 サラが困惑している間に、女棟梁は尚も歩を進め、遂にメルエに手が届く位置まで近付いていた。女棟梁の顔には、未だに余裕の笑みが張り付いている。殺気や威圧感を消してしまったリーシャを見て、怖気づいたとでも感じているのかもしれない。そう考える事の出来る人生を彼女も歩んで来ていたのだ。

 年齢を重ね、背丈が大人と同等になるのも早く、その頃には力で彼女に敵う者はいなくなっていた。武器の扱いは完全な我流。それでも、彼女の前に全ての男達が平伏し、それを統べるだけの力も有している。挑まれた戦いには全て勝利し、配下を増やし、そしてそれらを手足のように使っても来た。故に、彼女は慢心していたのだ。『自分に勝てる女など居はしない』と。

 

「ぐっ……」

 

 故に、彼女は幼い少女の前に立って腰の剣に手を乗せた瞬間に襲いかかって来た巨大な力を防ぐ事しか出来なかった。身に降りかかる脅威に対し瞬時に反応出来たのは、数多くの荒くれ者を束ねる事が出来る彼女だからこそであろう。

 だが、振り下ろされた力は、彼女が抜き放った剣を圧し折れそうな程に強く、彼女は苦悶の声を上げた。

 

「リ、リーシャさん!」

 

「剣を抜いたという事は、それなりの覚悟がある筈。私とメルエに向けて剣を抜いたのだ。辞世の言葉は用意してあるのか?」

 

 まるでメルエに屈するかのように、少女の前で膝を折る女性を見下ろしているリーシャの片手には<鉄の斧>。片手で振り下ろした斧は、女棟梁の持つ剣で辛うじて動きを止めているが、彼女がもう少し力を込めたり、両手に持ちかえたりすれば、その剣も根元から折れてしまう事は、傍で見ている者達にも理解が出来た。

 慌てるサラへ一度振り向いたリーシャの表情は、先程までと同様の無表情。何も感じ取る事の出来ないその顔は、サラの胸にカミュへ感じている物と同等の畏怖を生んだ。

 リーシャは先程の女棟梁の言葉に苛立ちを覚えていたのだ。『女』として侮られる事は、今も昔もリーシャの嫌う物。それを軽々しく発した棟梁に対しての怒りと、メルエという大事な少女に刃を向けた事への怒りが今のリーシャを動かしているのだろう。

 

「……リーシャさん、斧を納めて下さい。話し合いになりません……」

 

 それを感じたサラの瞳が再び変化する。メルエの発言、リーシャの行動に驚いていたサラはもういない。ここに居るのは、二人から全幅の信頼を受け取る『頭脳』としてのサラ。

 瞳の色を変えたサラは、厳しい瞳をリーシャに向けて反論を許さない。その言葉を受けたリーシャは腕の力を抜き、メルエを庇うように武器を納めた。

 

「ふん! やるねぇ。不意打ちといえ、力で圧されたのは初めてだ」

 

 圧力が無くなった剣を腰に戻した女棟梁は、自分の立場を護るように一度鼻を鳴らし、立ち上がってリーシャと瞳を交差させる。背丈はリーシャとほぼ同程度。同じ視線の位置でぶつかり合った瞳は、暫しの間、誰の介入も許さなかった。

 息を飲むような緊迫が続き、周囲を囲む海賊達が額から汗を一筋流す頃、ようやくその時間は終わりを告げた。

 

「…………トルド………いじめる………だめ…………」

 

「あん?」

 

 再び女棟梁の前に進み出た幼い少女は、自分の倍近くある人間を見上げ、先程と同じような厳しい視線を向けて口を開いたのだ。不意に下から受けた言葉に、女棟梁は間の抜けた声を上げる。

 視線を下へと向けると、胸に太い木の枝を抱いた少女が自分を睨んでいる。それは女棟梁にとっては、異様な光景だっただろう。海賊の棟梁として、彼女は恐怖の対象でもある。同じアジトで暮らす子供達からも、慕われるというよりは、畏れられていると言った方が正しかった。

 幼い頃から力も強く、同年代の友人などもいない彼女にとって、物怖じをする事無く自分へ瞳を向けて口を開く少女が単純に珍しかったのだ。

 

「なんだ? 何が言いたいんだい?」

 

「…………」

 

「私が代わりにお話しいたします。メルエ、リーシャさん、こちらへ」

 

 先程までの好戦的な空気を納めた女棟梁は、厳しい瞳を向ける少女へ視線を合わせる為にしゃがみ込み、とても穏やかな声で問いかける。しかし、いざ問いかけてみると、その少女は瞬時に困ったように眉を下げ、後方にいる女性へと振り返った。

 その態度の変化を見た女棟梁は、『怖がらせてしまったか?』という懸念を抱くが、少女から視線を受け取った女性が口を開いた事で、それが間違いである事を悟る。

 

「何か言いたい事がありそうじゃないか? ふん! 良いだろう、聞いてやる」

 

 暫し、声の発信源であるサラを射抜いた女棟梁は、サラの瞳が全く揺るがない事を確認した後、鼻を鳴らして、元の場所へと戻って行った。

 先程腰かけていたソファーのような物に座り、再び頬杖をついた女棟梁は、一度周囲を見回した後、サラへと視線を戻す。既にリーシャとメルエはサラの後方へ移動し終えており、先頭に立つサラがその視線の矢面に立っている構図が出来上がっていた。

 

「お伺いしますが、貴女がこの海賊団の棟梁様ですか?」

 

「ああ。俺がこのリード海賊団の船長であり、棟梁であるメアリだ」

 

 既に解っていた事とはいえ、改めて名乗られると、女性の海賊棟梁という存在にサラは内心で驚きを見せる。時代が時代故に、荒くれ者達の存在は数が多い。貧困によっ食がなく食詰めた者や、親が死に孤児となった者。中には、メルエのように奴隷として売られ逃げ出した者などもいるだろう。そのような者達が頼みとするのは、頭脳ではなく、己の腕力のみ。そんな無法者に近い荒くれ者達を束ね、そして的確な指示を出す人間が女性という事への驚きである。

 国家中枢などは、基本的に男社会である。そんな中で生きて来たリーシャやサラは、何処かでその考えを捨て切れないのだろう。リーシャという『戦士』やサラのような『賢者』がいる以上、その程度の常識など疾うの昔に崩れ去っているのだが、それは彼女達の生まれと育ちの影響だった。

 

「それで?……お前達は噂通りの、世界を救うという『勇者一行』様なのか?」

 

「……現在は、『勇者一行』ではありません……」

 

 『今度はこちらの番だ』とばかりに言葉を発するメアリの問いかけは、サラ達にとって苦しい問いかけである。サラ達の目的は、今も昔も『魔王討伐』である事に変わりはない。メルエという少女は違うかもしれないが、彼女に『リーシャ達と離れる』という選択肢がない以上、目的は同じと考えても差し支えはないだろう。

 故に、世界の脅威である『魔王討伐』を掲げる限り、彼女達の目的は世界を救う事となる。しかし、『勇者一行』かと問われれば、彼女達の答えは『否』なのだ。彼女達一人一人が、行いによっては『勇者』と成り得る存在であるのだが、彼女達にとって、『勇者』とは唯一人を示す言葉。

 

「どういう事だ?」

 

「私達は、現在『勇者』と呼ばれる人と共に歩んではいません。予期せぬ出来事で別々に行動をしています」

 

 サラの言葉を疑問に思ったメアリは、訝しげに問いかけるが、先程とは違い、今度のサラは、真っ直ぐメアリを見据えて言葉を繋いだ。サラ達には今、『勇者』と共に旅する者であると証明できる物はない。だが、リーシャもメルエも、そしてサラも、カミュという『勇者』と共に『魔王討伐』へ向かって歩いているという自信があった。

 誰に与えられた物ではない。誰に告げられた訳でもない。それでも彼女達にとってその事実は、この二年以上の旅で培って来た物なのである。

 

「それで? その『勇者』様の同道者が、俺のような海賊なんかに何の用だ?」

 

 サラの瞳に揺らぎが見えない事に口元を緩めたメアリは、リーシャとメルエに視線を送った後、再びサラへ瞳を向ける。口元に表した笑みとは裏腹に、メアリの瞳に笑みはない。『勇者一行』といえども、譲れぬ物は譲れないという意志の証。

 それを宣言するかのようなメアリの瞳を見たサラは、一つ息を吐き出した後、真っ直ぐメアリを見据えて、ゆっくりと口を開いた。

 

「ポルトガの西にある、開発中の町に関しての事です」

 

 口火を切ったサラは、自分達とトルドの関係を含め、海賊達の理解の具合を確かめながら、ゆっくりと話し始めた。

 途中で口を挟むメアリの言葉は退ける事はないが、傍で控える海賊達の罵倒などは、鋭い瞳を向けるだけで歯牙にもかけない。『矢面に立つ』と決めたサラにとって、荒くれ者達の罵倒など、恐怖の対象ではないのだ。

 

 

 

 

 

 そして、サラが自分達の要求の全てを話し終えた頃、西の大地へ沈み始めていた太陽は完全に沈み切り、部屋に暗闇の支配が進んでいた。

 闇が支配した部屋の中で、暫しの沈黙が流れる。口を開き続けたサラの口が閉じてしまった事によって、部屋は急激な静寂を広げたのだ。それが、この空間をサラが一人で支配していた事を意味していた。

 

「誰か灯りを!」

 

 そんな静寂の支配が完成するかに思われた頃、ようやく本来の主である女性の声が部屋に音を戻す。その言葉が部屋に響き渡ると同時に、<たいまつ>を持った数人の使用人らしき人間が、部屋のあちこちに付けられている灯台へ火を灯して行った。

 徐々に明るさを取り戻す部屋で、サラの瞳に海賊達の表情が映って行く。誰も彼もが何かに怯えるような、それでいて苦しむような表情をしていた。ある意味で予想していた通りの反応に、サラは真っ直ぐ視線を戻す。最後に、メアリの後方に付けられていた灯台へ火が灯され、メアリの表情が映し出された。

 そこにあったのは、笑みを浮かべている物でもなく、何かに虚勢を張っている物でもない。それは正しく、海賊の棟梁たる表情であった。

 

「それで?……お前らは、俺達の仕事の邪魔をしに来たという事か?」

 

 静かな静かな声。

 それでいて、とても低く、頭に響く声。

 身体の芯へと響き、そこに巣食う恐怖心を刺激する声。

 その声に、周囲を囲む海賊達の身体が跳ねたような気がした。それ程に、周囲の空気が変化したのだ。

 サラが視線を動かすと、海賊達の全員が顔を下げている。これから起こり得る惨劇を予想してそれを見る事を拒んでいるのかもしれない。サラの心の奥へも、メアリの声はしっかりと届いていた。元々、怒鳴り声や威圧する声に弱いサラの心が乱れ始める。

 

「……サラ……」

 

 しかし、彼女は一人ではない。

 たった一言の呟き。

 それが、何よりも頼れる暖かさを運んで来た。

 サラを襲っていた、威圧するような空気が霧散して行く。

 

「いえ、貴女の考えは正しい。この時代に、略奪を主とする賊としての活動には限界があります。その為に、航路の護衛を含む行為により、利権を欲する事は当然の考えだと思います」

 

「!?……誰から聞いた……?」

 

 自分を護るような空気に包まれたサラは、船上で考えていた物を口にする。海賊のアジトへ行く事を決めた時から、その海賊の目的を考え続けていたのだ。船頭は、航海の目的地と、そこで会った人物と、その行動しか語らなかった。いや、それ以外は語れなかったのだ。

 メアリという棟梁の考えは、海賊達の中でも優秀な部類に入る船頭であっても理解出来る物ではなかったのだ。故に、リーシャもメルエも、『海賊達がトルドを脅し、金銭を要求した』としか考えてはいなかった。

 

「貴女は誰にも語ってはいない筈です。その利権を手にする人間が増える事を恐れて。あの場所は、商人でもない限り、それ程魅力的な場所には映らないのでしょう。だけれども、貴女から見れば利益の宝庫だった」

 

「ふん! お前から見ても、そうだったのではないのか?」

 

 サラの考えは、メアリの欲望を正確に突いていたのだろう。先程とは異なった、恐ろしい笑みを浮かべたメアリは、試すようにサラへ問いかける。『お前も利権に群がる連中か?』と。

 それは、問いかけではなく、脅しに近い言葉。メアリにとって、同じ目的の人間が増えれば、自分達の得る物が少なくなる。故に、彼女はサラを探るように睨みつけるのだ。

 

「私には興味がありません。ただ、あの場所で懸命になっている人は、先程言ったように私達の大事な人です。その人の夢を傷つける事だけは許しません。貴女が誰であろうと、どんな目的があろうと、どのような事情があろうとも」

 

 リーシャは、ここに来て、ようやく表情を崩した。

 既に、彼女が無表情を装い、相手を威圧する必要はない。サラは相手と同等の場所まで駆け上がり、そしてそこで真っ直ぐと立ち向かう事に成功したのだ。決して、自分達が上ではない。だが、ここまで来れば、自分達が下になる事も無いだろう。その場所へ昇り、海賊という荒くれ者達の頂点に立つ人間と対峙するサラを見て、リーシャは改めてサラを頼もしく思っていた。

 最早、感情を優先して周りが見えなくなる『僧侶』はここにはいない。狭い視野の下、自分の価値観以外を『悪』と決め付ける『僧侶』もいない。

 

「であれば、どうする? 俺達にその利権から手を引けというのか? 俺達から言わせれば、お前らの事情や関係など興味も考慮する余地も無い。俺達は、俺達の利益の為に動くだけだ」

 

「……わかっています……」

 

 試すような物から、再びメアリの瞳が変化した。リーシャが感じたようにメアリもまた、サラを対等の立場として見るように変化したのだ。

 頬杖をついていた手を外し、両手を膝の上で組むような前屈みの態勢に変えたメアリは、鋭い視線をそのままに、サラへ自分の考えを口にする。

 確かに、メアリの言う通り、サラ達にサラ達の事情があるように、メアリにも事情があるのだろう。サラがメアリ達の事情を考慮に入れないと言うのであれば、メアリ達にもそれを考慮に入れない権利が生じて来る。それを理解出来ないサラではない。故に、サラは静かに首を縦に振った。

 メアリ達の言い分を理解している事を態度で示したのだ。いや。正確に言えば、それはメアリ『達』ではないだろう。メアリにしか、その目的も内情も理解出来ない以上、これは完全にメアリとサラの二人の話となる。

 

「現状では、貴女達の今後は厳しいものになるでしょう。ですから貴女は考えた。そこで新しく造られる町の噂を聞いた事によって、貴女の考えは現実味を帯びて来る」

 

 『自分達の未来は暗い』と言われて喜ぶ人間などいない。サラを見つめる視線が一斉に厳しい物へと変化した。海賊達の瞳はサラを射抜き、全ての人間は、サラの口から発せられる言葉の続きを待つ事となる。それは、彼等を束ねる女棟梁も同様であった。

 射抜くような視線は、サラの身体に穴を空けそうな程の威力を誇り、メルエはリーシャの影に完全に隠れてしまう。

 

「それで?」

 

「貿易での護衛は今の時代だけではなく、今後の時代でも必ず必要となるでしょう。元々、海の旅は、船の自警団等が護っていたと聞いています。それを職とし、代金を要求する事は至極当然であり、需用もある物だと思っています」

 

「ふん! そこまで理解しているのなら、俺達に何が言いたい?」

 

 サラが言う事に興味を失ったかのように、鼻を鳴らしたメアリは、視線を戻し、再び頬杖を付き始めた。彼女が考えている事と寸分も変わらない考えを発表されたところで、メアリの興味を引く事はないのだ。

 しかし、サラはそれでも真っ直ぐにメアリを見つめ、口を開き続けた。

 

「ですが、それは正規の料金であるならばの話です。貴女方は、おそらく多額の料金をトルドさんに持ちかけたのでしょう。トルドさんならば、貴女の考えに気付かない訳がない。もし、正規の料金であるならば、トルドさんは必ず了承した筈です」

 

「…………トルド………いじめる………だめ…………」

 

 まるでサラを援護するように、リーシャの影からメルエが再び口を開いた。周囲を囲む海賊達の中で口を開ける者など誰もいない。まず、サラが口にしている内容を正確に理解している人間さえもいないのだ。

 理解し、考える事の出来ている人間は、唯一人。先程と同じように頬杖を突きながら、サラを見つめているメアリだけである。

 

「お前は、俺達を義賊か何かと間違っているのか? どんな思惑があれ、俺達は海賊だ。賊である以上、相手の利益などを考える必要があるとでも思うのか?」

 

「貴女は、目先の利益を求めている訳ではない筈です。増え続けた海賊の人間達を養う為の財源を欲している。だからこそ、ポルトガとあの開拓地の間の貿易船を襲う事を止め、護衛費を請求しようと考えたのではないですか? 暴利を貪ろうとすれば、あの場所に町など出来ず、貴女の計画は始まりをも見ずに霧散しますよ?」

 

 既に、リーシャにも理解が出来ない会話となりつつある。サラとメアリが何に関して対抗しているのかも、何が利益となり、何が損益となるかも怪しい。だが、サラの目的がトルドの幸せである事を知っているリーシャは、何の心配もせずに、そのやり取りを見つめていた。

 サラが最後の言葉を発した後に流れる静寂は、完全に部屋全体を支配し、全ての人間をも飲み込んで行く。そんな中、一つの溜息が場の時を再び動かし始めた。

 

「お前達にはお前達の言い分があり、俺達には俺達の考えがある。双方退けないとなれば、決着を着けるには、方法は一つしかないだろうな」

 

 溜息を吐き出し、立ち上がったメアリは、真っ直ぐにサラを見つめている。そこで再びサラの心が騒ぎ始めた。彼女が対峙していた人間は、辛うじてとはいえ、リーシャの一撃を完全に防いで見せた強者なのだ。その人間が『決着を着ける』と言えば、指し示す事は一つしかないだろう。

 もし、そうであれば、サラには勝ち目が難しい。魔法を行使すれば、何とかなるかもしれないが、それでは完全に相手に『死』という未来を叩き付けてしまう事となり、それはサラの望む所ではない。

 

「その勝負は、私が受けよう」

 

 サラの瞳が揺れ動き始めた時、サラの前を大きな壁が覆った。

 常にサラを護り、引き上げてくれた人物。

 サラが前を向き歩いて来る事の出来た原動力となった女性。

 そして、サラの目標とする『導く者』としての原点となる者。

 

「…………メルエも…………」

 

 そんな姉に続くかのように、小さな妹もサラを護るように前へと歩を進める。二人の背中に護られるように下げられたサラは、動揺を鎮め、静かに笑みを作った。

 『何を怯えていたのだ』と。

 彼女は常に、皆に護られていたのだ。矢面に立とうとも、彼女の後ろには常に二人がいた。そんな頼もしさに心を奮い立たせたサラは、再びリーシャとメルエの間を抜けて前へと踏み出した。

 

「大丈夫です。これは、私がメアリさんとお話しする事です」

 

 前へ出て来たサラを見てリーシャは目を見開くが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて、メルエを伴って後ろへと下がった。リーシャは何も心配はしていない。勿論、メアリと対峙したリーシャには、剣の腕でサラがメアリに敵わない事ぐらいは理解している。だが、サラは『賢者』と呼ばれる人間であり、魔法力の制御に関しては、魔法の才能の塊であるメルエでさえ、足下に及ばない。

 何を心配する必要があるだろう。再び表情を失くしたリーシャは、腕を組みながらメアリの出方を待った。

 

「へぇ、良い覚悟だね。俺とやろうって言うのかい?」

 

「貿易船を護るという職を全世界に広め、それを貴女が指揮すれば、貴女が考えている以上の利益が生まれて来る筈です。それを貴女が理解出来ない筈はないと思いますが、それでも決着を望むのであれば、それを提示した私が相手になる事は当然の事です」

 

 挑発するようなメアリの言葉にも、サラは揺るがない。サラが示す未来がメアリに見えていない筈がない。そう信じているからこそ、サラはメアリを真っ直ぐと見つめ、一歩前へと進み、その挑戦を受けた。

 リーシャはサラを信じ、後方で腕を組んで見守っているが、もう一人の幼い妹は少し様子が異なる。

 

「…………うぅぅ…………」

 

「ふふふ。大丈夫ですよ、メルエ。私を信じて下さい」

 

 何かを感じ取ったのか、メルエはサラの腰にしがみ付き、唸り声を上げている。そんなメルエの背中を優しく撫でたサラは、見上げるメルエに対して、『大丈夫』という言葉を発した。その言葉は、メルエにとって何よりも安心する言葉であると共に、メルエの介入を拒む言葉。その言葉を聞いた以上、この場でメルエにできる事はない。サラを信じ、見守る事しか出来ないのだ。故に、メルエは哀しそうに眉を下げながら、リーシャの待つ後方へと下がって行った。

 

「よし。お前達、準備を始めな!」

 

「おおぉぉぉぉ!」

 

 サラの覚悟を確認したメアリは、視線をそのままに片手を大きく上げ、周囲を囲む海賊達へと指示を出す。その指示を受けた海賊達は、先程までの緊迫感を捨て、皆が笑顔で一斉に立ち上がった。

 彼等の恐怖の対象であるメアリからは、いつの間にか威圧感は消えている。代わりに纏う空気は、楽しみを見つけたような、心弾む陽気な空気。それを感じ取ったからこそ、海賊達の声は部屋に轟いたのだ。

 

「おい。全員が相手なら、私も入るぞ」

 

「まぁ、そんなに焦るな。海賊の戦いは、何も腕力だけでの決着ではないのさ」

 

 一斉に立ち上がる海賊達を見たリーシャは、己の武器に手をかけ、メアリを厳しい瞳で射抜く。しかし、当のメアリは、そんなリーシャの視線から簡単に瞳を外し、鬱陶しそうに手を振って応えた。

 リーシャの中で決着を着ける方法は一つしかないのだろうが、メアリの中ではそうではないようである。それを示すように、立ち上がった海賊達は、全て部屋を出て行き、メアリはソファーに座り直してしまった。

 

「お前達も、準備が出来るまで、その辺りに座って待っていな」

 

「は、はぁ……」

 

 拍子が抜けてしまったサラは、気のない返事をメアリへと返し、リーシャに目配せした後、その場に腰を落とした。何があるのかが解らないリーシャであったが、サラへ託した以上、彼女に出来る事は何もない。一息吐き出した後、傍にいたメルエを抱き上げ、そのままサラの横へと腰を落とした。

 

 

 

 無言でメアリと見つめ合う時間が過ぎて行く。もはや、両者が言葉を交わす事はない。全ての胸の内を語りあったのだから、この場で相手に掛ける言葉はないのだろう。

 メアリは真っ直ぐサラを見つめ、サラはその視線を受け止めている。リーシャの足の上に座っているメルエは、そんな二人の様子を不思議そうに、小首を傾げながら見守っていた。

 

「入ります!」

 

 どれ程の時間が経った頃だろう。部屋へと続く扉から、海賊連中の声が次々と聞こえたと同時に、サラ達の目の前に数多くの料理が並んで行く。

 海賊らしく、それらの料理は海の幸が多い。魚の煮付けや、魚を焼いた物。中には、リーシャやサラが見た事も無い生の魚の切り身などもある。サラは、突然並べられた料理の数々に驚いていたが、リーシャは物珍しい料理に驚いていた。そんなリーシャの膝の上で、メルエは目を輝かせて料理を眺めている。場にそぐわない雰囲気に戸惑いを見せる三人を、メアリは口元をゆるめて見ていた。

 そして、全ての料理が出揃った頃に出て来たのが、屈強な海賊が五人程で運んで来た巨大な甕のような物。中に何かが並々と入っているのか、海賊達の顔はその重さに歪み、液体が揺れるような音が部屋に響いている。ゆっくりと進んで来る甕は、メアリとサラのど真ん中に静かに下ろされた。

 

「これが、海賊式の決着のつけ方だ。どちらかが潰れるまで飲み明かす。『飲み比べ』と言う奴だな。どうだい? 本当にやるかい?」

 

 目の前に出現した巨大な甕に目を奪われていたサラを挑発するように、メアリは笑みを浮かべながら言葉を発する。運ばれて来た甕からは、確かに強いアルコールの匂いが漂っていた。

 メアリが取った方法は、腕力ではなく胆力の勝負。それは、サラ達にとって予想外の方法であり、呆気に取られたサラは、暫し呆然として答える事が出来なかった。

 実際の所、メアリは理解していたのだ。腕力の勝負となれば、自分に勝ち目がない事を。それは、彼女に斧を振るった女性戦士の力を受けて感じていた。

 あの力は、メアリが受けた物の中でも別格である。あの力に相当する物を持っているからこそ、女性戦士は、今目の前で目を見開いている女性が前に出る事を許したのだろう。女性という存在が見た目ではない事をメアリは肌で知っている。故に、メアリは決着方法を選択したのだ。そこに、別の思惑も存在してはいるのだが。

 

「わかりました」

 

「お、おい、サラ。サラは酒を飲んだ事はあるのか?」

 

 戸惑いを見せていたサラの瞳が固定された。それは、メアリの挑発を受け取った事を意味している。そんなサラの姿に、リーシャは咄嗟に疑問を呈してしまった。今まで何とか無表情を貫いていた彼女であったが、予想外の提案と、それを受け入れるサラを見て、言葉が出て来てしまう。

 それは、相手に弱みを見せてしまう程の物であるが、リーシャの不安も当然の物であろう。リーシャは、アリアハンを出発する頃には、成人を迎えて既に数年が経過していた。魔物の討伐隊にも参加した事はあるし、酒も何度も飲んだ事はある。だが、アリアハンを旅立つ頃に成人を迎えたばかりのサラが飲酒をしていたとは思えない。

 ましてや、サラは『僧侶』であった。『僧侶』であるサラが、祝い事など以外で飲酒をする事はまず考えられない。それ故のリーシャの疑問であった。

 

「いえ。まだお酒は飲んだ事はありません」

 

「なに!?」

 

 不安に思い、疑問に思っていたが、何処かで希望も持っていたリーシャは、振り向いたサラの回答に驚きを露にした。驚き、言葉を発したリーシャは、サラの許へと近付き、その真意を確かめるが、当のサラは涼しい顔でリーシャを見ている。そこで、リーシャはサラが本当に飲酒をした事がないのだと理解した。

 彼女は、酒の楽しさも苦しさも、そして恐ろしさも知らないのだ。だからこそ、楽観視できる。いや、どちらかと言えば、その瞳の奥に興味という感情さえも見えるのだ。

 

「アンタも酒か?」

 

「いや、私が酔う訳にはいかない」

 

 そんなリーシャの不安を余所に、海賊の一人がリーシャの前に盃を置こうとするが、一瞥したリーシャは厳しい表情でそれを拒んだ。

 飲酒が初めてのサラは、自分の限界を知らない。その場合、すぐに酔い潰れるか、それとも意識を失くして倒れるまで飲み続けるのかのどちらかである。そんな未来が待っている可能性がある以上、リーシャが酒に酔う訳にはいかない。

 

「そうか……お嬢ちゃんは、この飲み物を飲みな。この近辺で採れる木の実を絞った果実汁だ」

 

「…………ん…………」

 

 飲まないと言うリーシャから目を逸らした海賊は、その傍に移動していたメルエの手に小さな器を手渡した。その中身は濃い黄色をした液体であり、その上に果肉が浮いている。香しい柑橘系の匂いに顔を綻ばせたメルエは、両手で器を持ち、口へ運んで行った。

 その様子に慌てて手を出すリーシャであったが、飲み込んだメルエの顔が満面の笑みを浮かべている事を見て、安堵の溜息を吐き出した。メルエは出会った頃から果物を好んでいた。何でも好き嫌いなく食べるが、朝食等で果物が出れば、真っ先に手を出す程。故に、そんなメルエにとって果物を絞った飲料を嫌う訳がない。

 

「準備は良いか? 料理は好きに食うが良い。さぁ、お前達、宴だ!!」

 

「おおおぉぉぉぉ!」

 

 皆に飲み物が行き渡った事を確認したメアリは、盃を掲げ、皆を見回して号令をかける。その声を待っていたかのように、海賊全員が盃を天高く掲げ、大声を上げて喜びを叫んだ。

 リーシャは気が気ではない。サラはどこか高揚した面持ちで、手にした盃を口へと傾けている。久しぶりに笑顔を浮かべたメルエは、美味しそうに器を傾け、果実汁を飲んでいる。目の前の料理は、空腹を誘うような香しい匂いを運び、楽しげな雰囲気がリーシャの頭脳を麻痺させて行く。

 

「おお、良い飲みっぷりじゃないか? こりゃあ、負けてられないね」

 

 初めて飲む酒の味を確かめるように口に含んでいたサラの杯は、既に空になっている。それを見たメアリは、一気に盃を飲み乾し、配下の者へ盃を突き出した。配下の人間は、巨大な甕に柄杓のような物を入れ、メアリの杯とサラの杯を並々と満たして行く。注がれた盃を口に運ぶサラは、初めて味わう酒の味がお気に召したようで、そのまま二口三口で飲み乾して行った。笑顔で見つめるメアリも、再び一気に盃を飲み乾し、それを突き出す。

 

「…………リーシャ………たべない…………?」

 

「メ、メルエ、もう食べているのか!?」

 

 サラとメアリの飲み比べを唖然として見ていたリーシャは、メルエが食べ物を差したフォークのような物をリーシャに差し出すのを見て、驚きの声を上げた。

 考えてみれば、ここ数日は碌な物を食してはいない。船の上での食事である為に贅沢は言えないのだが、幼いメルエにとってみれば、我慢をしていたのだろう。だからこそ、目の前に出て来た暖かな料理に目を輝かせたメルエは、すぐに手を出してしまったのだ。

 

「…………おいしい…………」

 

「……メルエ、ゆっくり食べろよ……」

 

 久方ぶりの笑顔を浮かべて食べ物を口に運ぶメルエを見ていたリーシャは、溜息を吐き出しながら声をかけ、近くに置いてあった水を口に運ぶ。何の味もしない水がとても美味しく感じる程、リーシャの喉は渇いていたのだろう。一気に飲み乾したリーシャは、サラを見て、より一層の驚きと絶望感に叩きこまれた。

 

「そんな勢いで飲んでいれば、すぐに潰れちまうぞ? 夜は長いんだ、ゆっくりと飲み比べを楽しもうじゃないか」

 

「はい!」

 

 既に数杯の杯を飲み乾しているサラは、メアリの忠告に対し、元気に返事をしてはいるが、その瞳に映る光はどうも怪しい雰囲気を出している。リーシャの不安が現実味を帯びて来た瞬間であった。

 しかし、それでもリーシャにこの『飲み比べ』を止める事は出来ない。これは、サラが相当の決意を持って受けた勝負である。誇りを最も重く考えるリーシャにとって、この勝負に介入する事は、サラの決意を無にし、その誇りを傷つける物だと考えてしまうのだ。

 一息、溜息を吐き出したリーシャは、その様子を見守る事を選択するしかなかった。

 

 

 

 

 

 それからどれ程の時間が経っただろう。既にメルエは、リーシャの膝の上で丸くなりながら寝息を立てている。周囲を囲んでいた海賊達の中でも、盃を持ったまま眠りに落ちている者もいた。

 それでも、中央にいる二人は、未だに手に持つ盃を口へと運んでいる。いや、その内の一人は、既に意識を飛ばしているのかもしれない。手にした盃に注がれた酒を口に運ぶ途中で、何度も溢し、注ぎ直されているのだ。身体は波を打ったように頼りなく揺れ動き、今にも倒れ伏しそうな身体を何とか繋ぎとめているようにも見える。

 リーシャは、既に限界を超えていると判断した。絶えず揺れ動き、盃を口へ運ぶ前にその大半を床に溢しているのは、サラである。これ以上の飲酒は、サラの身体を酷使するだけでなく、その命すらも奪う行為であると判断したリーシャは、誇りを捨ててでもサラを護る為に腰を上げようとメルエを床に寝かしつけた。

 しかし、その時、予期せぬ声が部屋に響き渡った。

 

「ふぅ……流石に少し酔ったか」

 

「ふぇ!? わた、私の勝ちれすか?」

 

 一度盃を床に置いたメアリが、身体を伸ばす仕草をした後、その顔を手で撫でたのだ。絶えず身体を揺らしていたサラは、メアリの言葉に反応し、もはや呂律も回らぬ口調で自らの勝利を確認する。そんなサラに向かって、メアリはまるでカミュのように口端を上げ、厳しい視線を向けた。

 

「いや、まだ飲めるが、少しお前に聞いておきたい事がある」

 

 再び盃を持ち直したメアリは、その盃をサラへ向けて口を開いた。もはや、意識も朦朧とし始めているサラは、小首を傾げながらメアリへ瞳を向ける。しかし、その瞳は既に焦点を合わせる事も難しく、何度か軽く頭を振っては瞬きを繰り返すサラを見たメアリが苦笑を洩らした。

 出る機会を逸したリーシャは、再び腰を下ろし、何かあれば即座に対応できる身構えだけを取る事とする。

 

「お前は、何故俺との勝負を受けた? 見たところ、腕力に自信があるようには見えない。後ろにいる女戦士ならば解るが……お前は、俺やそこの戦士のようになりたいのか?」

 

 真っ直ぐ見つめられたメアリの瞳が、この問いかけが本心である事を示している。メアリとすれば、サラと相対してみて、その実力が腕力に裏付けられた物ではない事を察していたのだ。

 『飲み比べ』だという事を告げていなかった以上、純粋な剣の勝負である可能性があった筈。それにも拘らず、リーシャを押し退けて勝負を受けたサラに疑問を抱いていたのだ。それが、先程のような質問へと繋がった。

 しかし、『戦士のような力を欲しているのかもしれない』というメアリの疑問は、言葉の意味を考えるように首を傾けていたサラによって斬り捨てられた。

 

「リーシャさんに憧れてはいますが……それは、わたしの役目ではありません」

 

「そうか……ま、まさか、お前は色気で勝負を挑むつもりだったのか?」

 

 サラの答えを聞いたメアリは、想像通りの答えを聞き、何かを考えるように視線を外した。しかし、即座にとんでもない想像へと行き着いてしまう。驚愕の事実に気が付いたとばかりにサラを睨む瞳は真剣そのもの。その素っ頓狂な思い込みに、思わずリーシャは、後方で噴き出しそうになってしまった。それ程に、突拍子もない投げかけだったのだ。

 メアリ自身からすれば、女としての魅力を自分が有していないと考えていた。アジトの外には、数多くの女達が存在する。その者達は、女らしく着飾り、化粧をし、華やかに男達と語り合っている。しかし、生まれた頃から海賊という荒くれ者どもと共に生活をして来たメアリは、そのような女としての生き方を知らない。

 女性ならではの楽しみも、喜びも、哀しみも知らないのだ。故に、色気と言う部分で勝負を挑まれていたのならば、目の前のサラに大敗北を喫していた未来を想像してしまった。しかし、そんなメアリの恐れも、杞憂に終わる事となる。

 

「ふぇ!? わ、わたしには、その辺りは無理だと……以前に言われた憶えがあります」

 

「ぶっ!」

 

 驚きを示したサラは、その後に哀しそうに顔を俯かせ、小さな呟きを洩らす。サラはおそらくアッサラームでの出来事を話しているのだろう。あの時、遊女のような女性に、その身体の成長具合を馬鹿にされ、サラは激昂した事があるのだ。しかし、そんな出来事を知らないリーシャは、サラの口から発せられた呟きに、完全に噴き出してしまった。

 確かにサラの体つきは、同年代の女性から見ても、少し成長が遅いように見える。乳房の膨らみも小さく、身体の丸みも未だに幼い。だが、それをサラがそこまで気にしていた事をリーシャは初めて知ったのだ。

 

「そ、そうか……ならば、お前は何を目指し、何を望んでいるんだ?」

 

 リーシャの噴き出しは、中央で酒の入った二人には聞こえなかったらしい。メアリは、気の毒そうにサラを一瞥した後、その在り方についての問いかけを口にした。

 いつの間にか、周囲の海賊達は全て眠りに落ちており、そんなサラとメアリのやり取りを聞いている者はリーシャ一人となっている。メアリとサラの言葉は、彼女達だけの会話。それは、お互いの胸の内を確かめ合う儀式だったのかもしれない。

 

「わら、わらしは! 私は『賢者』れす。私は、この世界に生きる全ての命ある者達が、平和に暮らせる世界を創りたい。皆が、当たり前の事で喜び、当たり前の事で哀しむ。それは、『人』だけではなく、『魔物』も、『エルフ』も。皆が、それぞれの生きる場所を護り、天命を全う出来る世界を創りたいのです」

 

「……サラ……」

 

 顔を上げたサラは、呂律の回らない口を何度か叩きながら、自分の胸の内にある本当の願いを始めて口にした。その瞳は、先程のような焦点も合わない虚ろな物ではない。しっかりと前を向いた、炎を宿し瞳。何度も挫折し、何度も悩み、何度も苦しんで涙したサラだからこそ、口にする事を許される言葉。

 様々な想いを乗せたその言葉に、リーシャは胸が熱くなった。対するメアリは、そんなサラの顔を呆然と見つめている。

 

「矛盾している事は、自分でも解っています。命を奪う事でしか生きる事の出来ない生物は、この世界に多くいます。『人』も『魔物』も他者を食す事で命を繋いでいる。全ての生物が天命を全うする事は無理な事も解っています。それでも、それでも! 私はそんな世界を創りたい……」

 

 最後に一際力を込めて叫んだサラは、そのまま手にした盃を取り落とし、身体を横へと倒して行った。まるで糸が切れた人形のように倒れてしまったサラは、そのまま静かな寝息を立て始める。慌てて駆け寄ったリーシャは、幸せそうに眠るサラを見て、安堵の溜息を吐き出した。

 全ての者が眠りに就いてしまった部屋の中で、リーシャとメアリだけが存在している。何も口にせず、静かに座るメアリに視線を移したリーシャは、メアリが盃を置き、天井を見つめながら腕を組んでいる姿を目撃した。

 

「……その『賢者』様とやらの名前は?」

 

「サラだ」

 

 暫しの静寂の後、リーシャへ視線を移したメアリは、静かにその者の名を問いかける。メアリが問いたかった物とは、次元の異なる答えを発した者の名。

 リーシャは、サラの身体を楽な態勢に変えながら、笑みを浮かべてその名を告げる。

 自身の誇りとなる妹の名を。

 この世の誇りとなる『賢者』の名を。

 

「あははは! 負けだ、負けだ! この勝負は、俺の負けだ!」

 

 静かに告げられた名に、一つ頷きを返したメアリは、後方へ仰向けで倒れ込み、大声で笑い声を発した。その笑い声は、部屋に響き渡り、海賊達の数人は、驚きで目を覚ます。何人かの海賊達が目を擦り起き上がる中、メアリは大の字で寝転がりながら、大声で笑い続けた。

 その姿を見たリーシャも、何故か『サラの誇りを笑われた』とは感じずに、自然と笑いが零れて行く。

 

「そんな大望を抱く者に、利権を漁ろうとする小さき者が勝てる訳などない! 初めて心の底から負けた!」

 

「ふふふ……あははは。サラの願いを理解してくれた事、礼を言わせてくれ」

 

 起き上ったメアリが、リーシャに向けて言い放つ。そんなリーシャが静かにメアリに向けて頭を下げた。その瞳には、一筋の光る物が見える。

 誰にも理解されるとは思えないサラの『願い』。そんな無謀とも言える『夢』を理解してくれる人間がいた事を、リーシャは心から喜んだ。

 実は、サラがあの『願い』を口にした時、リーシャの胸には誇らしく思う想いとは別に、一抹の不安もあった。

 通常の者であれば、サラの想いは、気が振れた者が発するような世迷言に近い物。蔑みの対象と成り得、そして憎しみの対象とも成り得る危険な思想であるのだ。故に、リーシャは周囲の海賊達が眠りについている事に安堵すると共に、メアリの出方に不安も抱いていた。それが、杞憂に終わった事が、何よりも嬉しい。

 

「お前達! 全員今すぐ起きやがれ!」

 

 頭を上げる事が出来ないリーシャに笑みを向けたメアリは、周囲へと視線を移し、眠り扱ける手下達へ号令を掛けた。先程の大きな笑い声で目を覚ました者達以外の海賊は、棟梁の響き渡るような号令に、飛び上がって起床を開始する。

 全員が起床し、メアリへ視線を固定するのに、それ程の時間は要さなかった。

 

「良く聞け! 俺は、『賢者』であるサラに負けた! サラの望み通り、俺達は海賊ではなく、貿易船の護衛などを職とする。今後、略奪、狼藉は禁ずる。俺達は七つの海を全て支配する護衛団として名乗りを上げるんだ!」

 

「おおぉぉぉぉ!」

 

 寝起きに突然の宣言を聞き、海賊達の頭脳が追い付いてはいない。しかし、彼等の崇拝する棟梁が決定した事であるのならば、自分達の暮らしが悪くはならない事を彼等は知っていた。故に、一も二も無く、皆が声を張り上げ、手を高々と掲げる。自分達の行く末が幸多き事を信じて。棟梁の判断が英断である事を信じて。

 

「約束だ。俺はお前達の願いを聞き遂げる。だから、お前達もサラの大望を遂げさせてやってくれ」

 

「無論だ。私達の目的は『魔王バラモス』の討伐だが、その先の未来はサラの夢見る物である事が、私達の願いでもある」

 

 しっかりとリーシャの瞳を見据えたメアリは、『約束』という言葉を口にした。彼女のような海賊の方から『約束』という言葉が出て来たのだ。それは、余程の事に違いない。

 相手が切り出した『約束』に頷きを返すだけであれば、それは賊と名乗る者達にとって、何の制約もない。だが、それが逆であった場合、それは血の盟約程の意味合いを持つのだろう。故に、リーシャは大きく頷きを返した。

 

「ふふふ。初めは、只の筋肉馬鹿かと思ったが、意外に色々と考えてはいるのだな」

 

「な、なんだと!?」

 

 しかし、そんなリーシャの笑みは、含み笑いを浮かべたメアリの一言によって、瞬時に消え失せる事となる。リーシャの身体は、確かにサラよりも筋肉質ではあるが、筋肉隆々という訳でもなく、目の前のメアリとそう大差はない体つきをしている。

 女性の中では力強い物ではあるが、メアリもリーシャも女性らしさを失わない物である事は確かであるのだ。そして、何よりも、カミュ以外の人間に直接『馬鹿』と言う言葉を投げかけられた事が、リーシャの導火線に火を付けてしまう。

 

「おっと。まさか、酒の入った人間に武器を向ける事はしないだろうな?」

 

「ぐっ……」

 

 怒りで背中の武器に手を回そうとしたリーシャを牽制する言葉がメアリから発せられ、気勢を削がれたリーシャは、悔しそうに再び座り込む。小さく笑みを溢したメアリは、一度大きく伸びをした後に立ち上がり、周囲の海賊達へ片付けの指示を出した。

 この酒宴もお開きとなるのだろう。唇を噛み締めリーシャは、眠るメルエを抱き上げる。

 

「その様子だと、サラは、明日一日は役に立たないだろう。部屋のベッドで寝かせてやれ」

 

 メアリの言う通り、初めての飲酒が深酒となったサラは、明日一日は二日酔いに苦しみ、起き上がる事も出来ないだろう。倒れ込むように眠りに就いたサラを見たリーシャは、深い溜息を吐き出し、メルエを再び寝かせた後、先にサラをベッドへと運んで行った。

 

 

 

 アリアハンを出た頃は、狭い視野の中、自分の行動すらも変える事の出来なかった『僧侶』は、長き旅の中で己を省み、己を探し、己を知って『賢者』となった。

 そんな『賢者』は、その想いを育み、遂には人の心をも変えてしまう。『導く者』としての道を歩み始めた『賢者』は、その大望を認める者を増やし、小さな一歩を踏み出した。

 

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

ちょっと長くなりすぎたかもしれません。
まだまだ、この場所では描きたい事がたくさんあるのです。
次話も、リーシャ達のお話になると思います。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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