感想を見て、みんなカ○ーユ大好きなんだなぁ、って思いました(笑)
インデックスを救う手段を教える代わりに、停戦協定を結ぶ。
そんな約束をイギリス清教の聖人・神裂火織に受け入れさせたコーネリアは、何とか五体満足で自宅へと帰還していた。最初は神裂も彼の家まで同行する予定だったのだが、話の最中――メールアドレスを交換した直後の事だった――に電話を受けた神裂が「分かりました。すぐ向かいます」と言って何処かへ行ってしまったため、こうして一人で帰宅することになったのだ。多分ステイル=マグヌスにでも呼び出されたんだろうなぁ、と学生鞄を床に放り投げながらコーネリアは溜め息を吐く。
(……にしても、この世界ってマジで『とある魔術の禁書目録』の世界なんだな)
妹がレイヴィニア=バードウェイだったり自分が暮らす街が学園都市だったりと、『とある魔術の禁書目録』に関係している要素をコーネリアは既に確認済みなので、別に今更その事実に気づいた、などという事は決してない。この世界があの物語の中である事は妹が生まれた時から知っているし、これから起きる事も全てとは言わないが一応は記憶に残っている。
しかし。
しかし、だ。
先ほどの神裂との出会いでようやく真実味が増してきた、という気持ちがあまりにも強すぎるのは何故だろう? ようやく明日――七月十九日から物語が開始されると改めて自覚した瞬間、頭の中にあるピースがやっとの事で綺麗に収まった気分になってしまった。
簡潔に言えば、ようやく自覚が出てきた、という事。
それと同時に―――もう自分は部外者だとか言ってられない、という自覚がコーネリアの臆病な心に突き刺さっていた。
「…………夕飯でも作るか」
ぐちゃぐちゃ、というよりも、もやもや、としていた頭を乱暴に乱雑に掻き、コーネリアは台所へと移動する。彼が暮らしているこの部屋は台所とリビングが接している造りなため、移動にはそう時間がかかる事はない。
冷蔵庫の扉を開いたコーネリアに冷気が襲い掛かる。「っ」と僅かに顔を顰めるが、すぐに平常モードへと回帰したコーネリアは冷蔵庫の中の様子を怠そうな瞳で確認し始める。
「思ってたよりも材料は残ってる、か……麺と野菜があるし、焼きそばでも作るかな」
その後、ある程度の空腹を満たしたコーネリアは入浴を済ませ、普段よりも少し早く就寝した。
☆☆☆
『From:神裂火織
今日の午後十一時に昨晩の場所で待っています』
得意の話術で命の危機を何とか乗り切った翌日の朝、寝起きのコーネリアの携帯電話にそんな文章が書かれたメールが受信された。まだ七時前なのに送信早ぇな、と寝癖頭をガシガシと掻きながらコーネリアは「ふわわぁぁ」と欠伸を零す。
洗面所で寝癖を直して制服へと着替え、朝食のトーストと牛乳を数分足らずで完食。それでも未だに眠そうなコーネリアは何度もウトウトとなりながらも歯を磨き、起床から三十分後には玄関でスニーカーの爪先をトントンと地面に打ち付けていた。
低血圧の癖に準備だけは早いコーネリアは扉を開き――
「よっす、先輩。今日もいい天気だな!」
「…………運命のクズ野郎」
――そっと扉を閉めた。
直後、扉を激しく叩きながらツンツン頭の少年が叫び声を上げ始めた。
『ちょっと先輩!? 俺の顔見た途端に運命に呪いを捧げるとか流石に酷すぎませんかねぇ!?』
「うるせえぞ不幸野郎。お前と一緒に登校してっと碌な事ねえんだよ」
『それはそうかもしれないけども! 図星過ぎるから何も反論は出来ないけども!』
「……はぁ」
流石にこれ以上は近所迷惑――というか低血圧な自分の脳に響く。
そう判断したコーネリアは面倒臭そうに頭を掻きながら扉を開き、ツンツン頭が特徴の少年の前に姿を現すことにした。
眩しい日差しに顔を顰めながら扉を施錠するコーネリアにツンツン頭の少年は清々しくも爽やかな笑顔を向ける。
「おはよう、先輩! 何だかんだでツンデレなのは相変わらずだな!」
「うるせえ脳に響くちょっと黙ってろ……三枚に卸すぞ」
「先輩の能力じゃあ無理だと思うけどな。確かに使い勝手が良いとは思うけど」
「お前のチート能力程じゃねえよ」
そんな会話を繰り広げながら、二人は階段を下って学生寮の外へと向かう。
学生寮の正面玄関から右へと曲がって駐輪場へと移動したコーネリアは自分の自転車の鍵を開錠し、駐輪場の出入り口付近で待ってくれていたツンツン頭の少年の傍まで自転車を移動させる。
傍まで近づいてきた自転車の籠にツンツン頭の少年は学生鞄を放り投げ、
「いやぁ、何も言わずに乗せてようとしてくれる時点でやっぱりコーネリア先輩って優しいよなぁ。流石はツンデレの代表格、やること為すこと素直じゃない」
「じゃあ今日は乗せんでもいいか? 正直な話、二人乗りの状態でチャリ漕ぐと疲れんだよ」
「ごめんなさい! 今日は定期が切れちまってるから乗せてもらえないと学校まで歩く羽目になっちゃうんです!」
「知らねえよ」
そう言いながらも視線で乗車を促すコーネリアはやっぱり重度のツンデレな訳で。ぱぁぁっと表情を明るくさせていそいそと後輪の上に跨る少年に、コーネリアは「はぁぁ」と疲れたように息を吐く。
と、その時。
少年の右手がコーネリアの肩に触れた瞬間、コーネリアの体内からガラスが割れるような音が鳴り響いてきた。
それは少年の能力が何かを破壊した音で、コーネリアの体内に何かしらの異能が組み込まれていたことを示す合図でもあった。
自分の右手をまじまじと見つめながら、ツンツン頭の少年は苦笑する。
「え、えーっと……何か俺、まずい事しました?」
「その質問に対する答えを俺は持ち合わせてねえが、まぁ別に大丈夫なんじゃね? 体に異常はねえし」
「そ、それなら別にいいんだけど……」
「じゃあ気にすんな」
そう言って、少年がちゃんと乗ったのを確認したコーネリアはペダルを踏み込み、学園都市の道路へとその車体を向かわせる。
そして、コーネリアは言う。
自分の肩を持って体勢を安定させている不幸すぎる少年に、コーネリアは今更過ぎる警告を飛ばす。
「今日も一日、死なねえようにな――上条」
「ははは……ま、まぁ、善処しますよ」
上条。
フルネームは、
それは、『
☆☆☆
同時刻。
部下全員を引き連れて超絶的なスケジュールを消化していたレイヴィニア=バードウェイは突然発生した異常に気づき、顔を青褪めさせると同時に頭を抱えて悲鳴のような叫び声を上げていた。
「わ、私の盗聴術式が!?」
☆☆☆
その日の放課後。
もっと詳しく言うならば、午後十時五十分の事。
完全下校時間などぶっちぎりで過ぎてしまっている夜遅く、コーネリア=バードウェイは学生寮近くの道路でジャージ姿でボーっと立ち尽くしていた。一応は携帯電話を使っているから完全に棒立ちという訳ではないが、それでも今の彼が待ち惚けをくらっているという事実は変わらない。
神裂火織にメールで呼び出された訳だが、思ったよりも早く現地に着いてしまった。集合まで残り十分ほどあるので一旦学生寮に戻っても良さそうだが、その往復の途中に神裂が来てしまっては元も子もないのでその選択は端から論外である。
――と。
「まさか私の方が遅く到着するとは、夢にも思いませんでした」
「っ……だ、だから、何の前兆も無く突然登場すんのやめてくんね? 心臓が止まるかと思ったわ」
しかも上から跳んできたぞ、この聖人。あとその時に胸が大きく上下に揺れてたのが個人的にはごちそうさまです。
涼しい顔で登場した神裂火織に顔を引き攣らせるコーネリア。やはり天然の気があるのか、愚痴を垂れるコーネリアに神裂は「???」と可愛らしく首を傾げるだけだった。
まぁ、そんな事は置いとくとして。
弄っていた携帯電話をジャージの上着のポケットに仕舞い込み、コーネリアは彼女に問いかける。
「それで? 俺をこんな深夜にわざわざ呼び出した理由ぐれえは説明してくれるんだよな?」
「それについてはお手を煩わせて申し訳なく思っています」
ペコリ、と神裂は礼儀正しく首を垂れる。
「あなたをわざわざ呼び出したのは、どうしてもあなたに聞かなくてはならない事があったからです」
「聞かなくちゃなんねえ事? ああ、確か、インデックスを救う方法をまだ話してなかったっけ……」
「いえ、それも確かに重要事項ではありますが、今回は別件です」
「別件?」と首を傾げるコーネリアに、神裂は芯の通った口調で言う。
「あなたの本当の狙いとは何か――その疑問を解消するために、私はあなたをここに呼び出しました」
「…………なるほど。それは流石に予想外だ」
コーネリアは苦笑しつつも悲しげな声を零した。
そんな彼に、神裂は自分なりの見解を述べる。
「昨晩あなたは、自分の安全の保障と引き換えにインデックスを救う方法を教える、と言いました。その言葉に関しても言いたいことは山ほどありますが、私が一番気になったのはそこではありません」
「…………」
「何故、インデックスを助ける事に協力してくれるのか。今まで何度も刺客を送りつけてきたイギリス清教は、はっきり言ってあなたの敵です。その敵からの刺客を抑制するためとはいえ、その敵の一人に協力するなど普通の判断とは思えません。―――あなたの本当の狙いは何ですか?」
「…………」
神裂のその質問に、コーネリアは沈黙を返した。しかし別に、彼が答えを持ち合わせていない訳ではない。神裂の質問に対する答えをコーネリアはちゃんと持ち合わせているし、それ以上の質問が来ても迷わずに堪えられる自信もある。
ただ、答える事に躊躇っている。
それは、神裂火織の魔法名でもある『
自分以外の誰かしらが救われない立場にある時、彼女は自分を犠牲にしてでもその者を助けようとするという性質を持っている。それは強大な力を持った聖人である彼女だからこそできる所業で、弱者には決して真似できない偉業でもある。――だが、ここで重要なのは彼女の実力ではない。
コーネリアが毎日命の危機に晒されている事を直接聞かされたら、彼女はどんな行動に出てしまうのか。
百パーセントまではいかないだろうが、ほぼ確実にコーネリアを救うために奮闘するだろう。――それも、イギリス清教に牙を剥く形で。
イギリス清教から自分を守ってくれるのは素直に嬉しい。それで命の危機が無くなるのなら、是非イギリス清教を裏切ってもらいたい。それがコーネリアの本心だ。
しかし、本当にそれでいいのか?
自分の都合に神裂を巻き込み、彼女をイギリス清教から離反させていいのか?
そんな葛藤がコーネリアの胸で渦巻き、彼に解答を躊躇わせている。
前世の記憶持ちの転生者であり、『明け色の陽射し』のボスの兄であるコーネリアは、その境遇故に他人を自分の不運に巻き込むことを極端に避けようとする性質を持っている。今朝にも上条当麻から言われていた事だが、彼は自分が望むことの正反対を他人に求めてしまうツンデレだ。素直じゃない、とはよく言ったもので、コーネリア=バードウェイはいかなる状況においても他人を自分の事情に巻き込もうとはしない。
だから彼は、神裂の質問には答えられない。
だから彼は、神裂を巻き込まないためにココでもあえて虚言を張る。
「別に、深い意味なんてねえよ。ただ、俺は命が惜しいだけだ。死にたくねえからインデックスの救出に協力する形でお前という脅威を排除し、少しでも延命できるように努力してる――ただ、それだけを望む臆病者なだけだよ、俺は」
「…………そう、ですか」
きっと、神裂はコーネリアの嘘に気づいている。
しかしそこで嘘を指摘しないのは、彼の心境を僅かながらに悟っているからだ。他者を巻き込まないようにとあえて彼が虚言を張っている理由を、口には出さないがちゃんと理解できているからだ。
コーネリアが解答を避けた時点で、今回の呼び出しは無駄になった。
だが、彼の本心に気づく事が出来ただけで価値はあった、と神裂は思う。出会ってからまだ一日しか経っていない、しかも立場的には敵である少年に思い入れをするつもりは毛頭ないが、それでも救われない者であるコーネリア=バードウェイを彼女は放っておく事が出来ない。
だから、彼女は彼に告げる。
遠回しだけど少しでも鋭かったらすぐに気づく事が出来るであろう言葉を、神裂火織はコーネリアバードウェイに告げる。
「もし本当にインデックスを助ける事が出来た時、私はあなたに必ず恩を返します。それだけは忘れないようにしてくださると、協力のし甲斐があるというものです」
「…………善処するよ、覚えてたらな」
素直じゃない人ですね。
そんな言葉を飲み込みながらも、それでも神裂は寂しそうな笑みを浮かべていた。
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次回もお楽しみに!