翡翠のグランクチュリエ  --What a beautiful museum--   作:三代目盲打ちテイク

20 / 22
2-9

 ――学院へ来い。望むものはそこにある。其れこそが貴様の道を示す。

 ――めでたし、めでたし。

 

 朝。

 来たと、涙香は思った。

 頭の中に響く声。

 

 ――御標

 ――従うべきモノ。

 ――偉大なりし天皇陛下から与えられる祝福。

 

 涙香は緩慢な動作で寝台を降りる。寝起き特有の浮遊感は御標で吹っ飛んでいたけれど、睡魔は強い。昨日、遅くまで野口さんに攻められたせいだろうか。 

 ともかく、顔を洗いに行く。

 顔を洗って髪を整えて。そうして無事に睡魔は退散してくれた。

 

「ふぅ、よし」

 

 ――うん、大丈夫。元気そう。

 

 鏡に映る自分を見て、涙香はいつもと変わらないことを確認する。

 

 この場合、向かうのは碩学院で間違いはない。学院はそこ以外にないから。とりあえず、行けば良いのだろう。

 そして、きっとそこに待っているものは。

 

 ――怪物。

 ――あの時の、あの野枝のような。

 

「大丈夫」

 

 ――大丈夫。

 ――どうすればいいのかわかってる。

 

 探すのだ。

 探すのだ。

 鍵を。

 

「涙香」

「野口さん……」

「行くのね」

「……はい」

「…………そう。気を付けてね」

「はい……」

 

 ホテルを出て、煤避けの傘をさして靴を鳴らして石畳の通りを歩く。朝の通勤の時間。まだ、帝都に存在する大機関工場が稼働して間もないから排煙の量は少ない。

 だから、少しだけ空気が綺麗に感じられる。地方に住む人に言わせればそれはまやかしだというらしいけれど、この時間の空気は嫌いではない。

 

 けれど、今はもう何もない。

 朝だけど、人は誰もいない。

 此処には、涙香一人のみだ。

 

 ――黒一色。

 ――極彩色の輝きは失せて。

 

 気が付けば、一人、そこに立っていた。

 

 ――あたしがしる帝都とは違う帝都。

 ――歪んだ街路、歪んだ町並み。

 

 どこかでこれと似たものを見た気がする。

 いつだったか。

 どこだったか。

 

 ――あたしは覚えている。ここがどこだったのかを知っている。

 ――囁く声も、ここにいる何かの声も。

 

「…………」

 

 ――ううん、違う。

 ――これは、誰かの求める声。探す声。

 

 気が付けば、ただ一人涙香は何もない空間に立っていた。左目は何も捉えていない。右目もまた、同様に。

 

 歩いていたはずの通りにある機関灯も、通りの左右に存在する商店街も。ここには何も。そう、何も、なにもない。

 浄水施設から流された浄化された水の臭いもない。ここには何もない。極彩色の輝き溢れる世界は、黒い炭のような漆黒とカンパスのような純白に染まっていた。

 

 モノトーンの世界。

 そう思う。

 そう理解する。

 ここはそういう世界なのだと。

 ここは、世界から外れた場所なのだと――。

 

 剥離した場所なのだと理解して。

 

「ここ、は……」

 

 剥離した場所、どこかも知れない場所。どこでもないかもしれない場所。あるいはどこか。もしくは、あそこかもしれない。

 

 ただ、はっきりとしているのは地面。今まで歩いていた通りの石畳だけがどこまでも続いている。排煙で汚れた漆黒の石畳。足を踏み出せばこつりと音が鳴る。

 どこまでも、どこまでも響き渡る音。この空間には果てなどないかのように。どこまでも、どこまでも。

 

 そして、そこには何かが立っているようだった。人形。少なくとも、そう見える。漆黒の中にただシルエットだけが浮かび上がる。

 背景も黒ければ、その人形も黒いというのに、どうしてかそれが人形なのかわかる。いいや、それは当然だった。

 

 ――目。

 ――赤く、輝くような

 

 さながら中空に浮いているようにも見える妖しい目が涙香を見つめていた。

 だから、それが人形なのだとわかった。左目が、教えてくれた。

 

 ――逃げろ。

 

 声が響く。誰かの声。聞いたことのある声。男の人の声。

 それと同時に、待ちわびたように人形が動く。四本の腕を広げて、その手に、刀を持って。

 

『ヨコセ……、シロガネ、ノカギ、オ』

 

 駄目。

 駄目、絶対に。

 

「駄目よ」

 

 ――駄目。この鍵は渡せない。

 ――この鍵を渡してはいけない。この鍵は、あたしのものだから。

 

「渡さないわ、貴方には!」

『ヨコセ』

「嫌よ!」

 

 走る。

 涙香は暗がりの街を走る。

 

 ――どうして?

 

 考える暇はない。

 黒岩涙香は、走る。

 

 怪物から逃げるように。

 何かを、探すように。

 

「どこ――」

 

 ――どこにあるの?

 

 探すもの。

 鍵。

 

 涙香が持つ銀の鍵ではない。

 

 その背に、怪物を連れながら。怪物の攻撃を必死に躱して、走る。

 

 ――どこへ?

 ――どこかへ。

 ――鍵のある場所へ。

 

「――――あぐっ!?」

 

 不意にギチリ、と右腕が音を鳴らす。右腕に何かが這いずるような気配。べきり、べきりと鈍い音が響く。曇白の蔦が右腕に絡みつき、その身体を蝕み始めていた。

 瞬間的に理解する。これが御標に背いた結果なのだと。殺されること。幸せのままに殺されることから背いた結果。

 

 手にひび割れのように亀裂が走って行く。縫い留められていた部分がほどけて、ほつれて、肩口へ白と黒が広がっていく。

 

「くっ――」

 

 ――痛い。

 

 鋭い痛みが脳髄を駆け巡る。

 身体が組み換わって行く感覚。それでも、脚は止めない。

 まだ、何もしてない。まだ何も見つけていない。

 

 何もわからないまま殺されてやる気なんてない。

 何よりもあの野枝を覚えている人がいなくなってしまうから。

 

 だから、走る。

 

 走って、走って。

 

「はぅ、っ、はあ――」

 

 息を切らせて。

 着物を振り乱して。

 

 どれだけ走っただろう。どれほど走っただろう。研究は体力勝負だから、体力はある。

 

 夢ではない。息苦しさも、全部。何もかも。

 

「――――あ」

 

 足がもつれる。駄目、こける。

 地面へと、伸ばした右手。

 

「――――」

 

 そこにあったのは、人ならざる手。異形の腕。

 それが、空間を引き裂く。

 

 空間をほつれさせ、現実の糸を切って、別の場所へとつなげる。

 空間を易々と引き裂く手応えは、吐き気にも似た嫌悪感を伴って全身へ回る。 

 

 ――誰の、手? 

 ――これは、あたしの腕。

 ――異形となった人ならざる腕。

 

 腕を振るうたびに、痛みが走る。針で刺すような痛みよりも、よほど、強い。

 

 空間が易々と引き裂かれたのがわかる。

 左目は、暗がりが歪んだということを報せていた。空間が広がる。

 壁が出来る。

 

 ――これで大丈夫?

 ――いいえ、いいえ。

 

 同時に左目が教えてくれる。

 相手もまた、同じであることを。

 

 黒い剣。

 白い剣。

 

 白い剣が空間を繋ぎ止める。

 いいや、結んだ。

 ほつれてほどけた空間の繋がりを、裁縫した。

 

 次に振るわれた黒い剣が空間を引き裂いた。

 空間をほどき、ほつれさせ、空間の繋がりを断ち切った。

 

 そして、繋ぎ合わせる。

 

 身体が引かれる。

 左目だけが真実、理解した。

 

「あ……」

『モウ、ニゲラレナイ』

 

 それは目の前にいた。

 四本腕の侍。

 能面のように、なにもない白の仮面をつけた血涙を流す燃える目がそこに。

 

 あたしの左手を見つめている。

 そこにある鍵を見つめている。

 

『ヨコセ』

「いやよ」

 

 震える声で涙香は拒絶する。

 

「これだけは……っ!」

 

 これだけは渡せないのだと。

 

『アキラメロ、キサマニ、モハヤミチハ、ナイ』

 

 最果ての軌道はない。

 ここには、なにも。

 

 ここには暗がりしかないのだ。

 

 ――本当に?

 ――本当にそうなの涙香。

 ――貴女は見つけているはず。

 ――ずっと見ているはず。

 

 左目が教えてくれる。

 いいえ、最初から知っている。

 

 ここにあるもう一つ。

 ここを形成する一つ。

 伽藍の中にある一つ。

 

 そう、鍵を。

 

 ――見つけた。

 ――違う。

 ――最初から、そこにあった。

 

 鍵。

 それは一本の刀。

 何の変哲もないもの。

 

 風景の中に溶け込んでいたもの。

 この世界の楔の一つ。

 四本腕の侍が持つ、強い想い。

 

『ヨコセ――』

「いやよ!」

 

 それに手を伸ばす。

 右手はもう、伸ばせない。だから左手を。

 

 ――その時、あたしは見た。

 ――誰かの記憶。

 ――誰かの、夢。

 

 時よ、止まれ、おまえはなによりも美しい。

 

 伝えられなかった想い。

 伝えられなかった想い。

 

 時よ止まれ、時よ止まれ。

 

 ――切実に、鮮烈に。

 ――強く、強く。

 

 願われた願い。

 叶わなかった願い。

 

 分かたれた想い。

 そして、再会。

 

 愛した女が死した後、娘との和解。

 それでもなお、男は止まれなかった。

 止まるつもりなどなかった。

 

 ただ時よ止まれと、願った。

 あの時よ、永遠に。

 

 願ったのだ。

 願ってしまったのだ。

 

 もはや、もはや、この身は、伽藍なれば。

 その中にある虚ろなりし願いは、何よりも強く残っているのだ。

 

「鴎外、先生……」

 

 理解した。

 彼の願いを。

 彼の記憶を。

 

 ただ愛する人といたかっただけの不器用な人の願いを。

 だから――。

 

 刀を掴んだ。

 

 その瞬間に。

 

「やあ、お待たせして申し訳ないレディ。少しばかり、講義が長引いてしまってね。いや、言い訳はすまい。レディには申し訳ないことをしたと素直に謝ろう。私は全てを知っている。ゆえに、この結果も、こうなることも全て知っていたのだから」

 

 紳士然とした声が、頭上から響く。そこにいたのは紛れもないあの人。紳士然とした大きな人。鉄道王と呼ばれる碩学様。

 

 ――リチャード・トレビシック

 

「そうだよ。レディ。言ったはずだ。私は、君が鍵を見つけたならば、真にその鍵を見つけたならば助けに来ると」

 

 そう言って彼は、森鴎外との間に割って入る。

 まるで壁のように立ちふさがる。重圧が消える。恐怖が消える。痛みも、苦しみも、何もかもが消え失せた。

 

「異形化、伽藍化、ここまでくればもう戻れまい。こうなってしまえば、私に出来ることはなにもない」

 

 そう言いながら、四本の刀を彼は器用に捌いていく。

 柔術。空手、剣道。全てがまじりあったような不思議な型。名をバリツ。偉大なりし大英帝国における名探偵がつかう技術。

 その太源。彼は全ての攻撃を捌いていく。

 

 ――その片手間で彼はあたしに問う。

 

「さて、黒岩涙香。彼はもう助からんが、君はどうしたい」

「あたしは……」

 

 リチャードさんが言うとおり、森鴎外を助けることは出来ない。もはや、彼を助けることはできない。それはわかってる。

 

 ――でも、でも。

 ――彼の願いを知っている。

 ――彼の想いを知っている。

 

 だから、だから。

 

「あきらめたくない。あたしは──」

 

 ――たとえ、誰が何を言っても。

 ――たとえ、彼が助けられないと言っても。

 ――たとえ、彼がそれを望まなくても。

 ――あたしは、足掻く。

 

「あたしは諦めたくない!」

 

 ――諦めない。

 

 諦めたくない。

 そう言った時、

 

「ははははは!」

 

 笑う声が響く。冷笑でなければ、憫笑でもなく、嘲笑でもない。苦笑、哄笑、艶笑、歓笑、喜笑、戯笑、嬌笑。そのどれでもない。それはまぎれもなく喝采だった。

 あきらめずに立ち上がるものを賛美する彼の喝采だった。

 

「良きかな。良きかな。ああやはり、この時、この場所で、今再び、最果ての軌道を見つけるとは。実にすばらしい。何度見ても、この瞬間だけは色あせん。

 ならばこそ、さあ、願いを言うと良い。いと尊きものよ! 一切合財の躊躇なく、私はお前の願いを叶えよう!」

 

 彼はそう言う。願いを言えと。叶えてやると。

 

 ――本当に?

 ――本当に叶えてくれるの?

 

 なら、なら。

 

「お願い、鴎外先生を、助けて」

 

 ちゃんと出せたかもわからない。声になったのかすら。けれど、けれど――

 

「その願い、確かに聞き届けた!」

 

 彼は、そう確かに言って。

 

 ――その右手を、伸ばす。

 

「――コル・レオニスの星より落ちし断片

 果て無き地平を疾走する夢を以て

 アカシャは全てを記録する

 過去と現在と未来、我が手にするもの

 全にして一、一にして全

 最果てへと足掻く全てを導くもの」

 

 変化は一瞬だった。大機関の歯車が切り替わるような音ともに世界もまた切り替わる。

 いつしかそこは見慣れた通りではなくなっている。

 六角形の台座が置かれた漆黒。そこは計り知れない暗がり。そこは海。薔薇の香りのする海。

 巨大な石組のアーチが見える。

 

――いつの間にか、あたしはその前に立っていた。

 

「さあ、進め」

 

 既に門は、開いている。

 意思確認は終わっている。

 

 だから進むだけ。

 

 異形のものが六角形の台座で低い音を発し、輝く球体により体を揺らしリズムを取っている。

 そこへ、進む。

 

 無限の地平。どこまでも続く遥かなる虚空。

 左目が捉える。黄金をたたえた左目。いつかのあの日に、黄金に変わった左目が何が起きているのかを伝えている。

 

 ――けど、けど。

 

 それを理解できない。碩学ならぬ身ゆえに、一片たりともそれを理解することが出来ない。

 いや、いいや。理解してはならない。直視してはならない。彼に守られていなければ、きっと狂ってしまうから。

 

 けれど、分かる。あれは運ぶものだと。遥か遠くへと何かを運ぶものであると。過去、現在、未来。同時に存在するどこかへと向かうもの。

 

 ――ガチリ・ガチリと、歯車が組み合わさっていく。

 ――蠢くように。瞬くように。震えるように。

 ――それは形をつくる。それは運ぶもの。軌道(レール)の上を走る蒸気機関車。

 

「さあ、乗るが良い。我が夢は、必ずやお前を望む場所へと送り届けよう」

「ジャマヲスルカ、マタシテモ――!」

「無論だとも。マイ・レディは願った。ならば、私は砕くだけだ」

 

 ひび割れた、掠れた、鴎外の声が響く。響いて、その異形の刀を振るう。

 そんなものの前に、形を保っていられるものなどありはしない。けれど、けれど、蒸気機関車に傷はつかない。彼もまた同様に。

 そして、機関はただ駆動する。

 

 ――それは確かな熱をたたえて。

 ――それは確かな輝きを持って。

 ――それは確かな願いで溢れて。

 ――鋼鉄の軌道が走る。

 ――機関は駆動する。

 

 ゆっくりと、そして速く。何より速く。それは、過去、現在、未来、時間すら越えて、あるいは全て越えてそれは門を越えて、漆黒を疾走する。

 黄金の左目が何かを伝える。そう、この場所の本当を。それは世界の真実。知ってはならないもの。

 

 ――ただ、あたしは気が付けない。

 

 碩学ならぬ身では、あるいは神ならぬ身では、その真実を認識することすらできない。

 

「ヤメロ、ヤメロ、キサマァ――!!!』

 

 伽藍が走り出したそれを止めようとする。けれど、けれど。それは止まらない。

 

「走り出した夢は止まらない。誰にも止めることなどできはしない。

 たとえそれが、初代十碩学第二位《大数式》であろうとも。

 たとえそれが、異形都市の少年王であろうとも。

 たとえそれが、騙り続ける仮面の男であろうとも。

 たとえそれが、鋼鉄の機械卿であろうとも。

 たとえそれが、時計仕掛けの神であろうとも。

 たとえそれが、薔薇と黄金の王であろうとも。

 たとえそれが、漆黒の王だとしても。

 何人たりとも、走り出した夢を止めることはできはしない。

 残念だったな、届かなかったものよ。お前の願いは、聞き届けられない。お前の願いでは、この夢を止めることはできない」

「グォオォオオオオ―――ッ!」

 

 絶叫が響く。

 何かが通り過ぎていく。認識すらできない水泡。泡沫のそれ。それは、森鴎外そのものだった。

 砕けて、崩れて、解けて、散っていく。まるで、何かに呑み込まれるように。元の形が何であったのかさえ認識出来ない、ばらばらの破片へと至るまで、刹那の間に。

 

 目にするのも耐えられないほどの光景。眼を背けるほどの光景。だけど、

 

 ――しっかりと、あたしは見る。

 ――目を逸らさずに。

 ――焼き付けるように。

 ――これは、あたしが願った結果だから。

 

「……ギィ、オ、オ、ァアア……。

 ……時ヨ、トマレ……

 タダ、ソレダケ、ガ!」

 

 悲鳴。絶叫。断末魔──。

 森鴎外が、破壊される。

 森鴎外の声はかき消される。

 足掻くその全てを、

 

 ──呑み込む──

 ――消し去る――

 

 目を逸らさずに、ただそれを見届ける。

 

「喜ぶと良い。お前の願いは今、叶えられた」

 

 その瞬間、

 

 ――世界は変わる。

 ――世界が変わる。

 ――全てを残して。

 ――私を残して。

 ――彼を残して。

 ――世界が変わる。

 

「これ、ま、た……」

 

 揺れる、揺れる、揺れる。それは蒸気機関車の揺れではなくて。

 今まで感じたことのないような揺れ。頭の中をかき回されるような。まるで、洗濯機関の中に詰め込まれたみたいに。容赦なくかき回される。

 

 何が起きたのかわからない。わからない。わからない。けれど、恐怖はない。これはそういうものではないとわかっているから。

 でも、意識が混濁する。それは、この揺れのせい。それとも何が起きたのかを理解出来ない思考のせい? 彼の声だけが聞こえる。

 

 自分の声も、息も、何も聞こえてこない。

 

 ──そして。

 ──あたしは、誰かに抱かれるような闇へと、落ちる

 

「ああ、また、貴女は進むのね。今度こそ、私はそれを見届けるわ。だから、今は眠りなさい」

 

 ――誰かの声を聞きながら。

 ――右手を包まれる感覚を感じながら。

 ――あたしは、闇へと、落ちていく。

 

 そして、目覚めたのは路地だった。

 

「おい、そんなところで寝るな愚図め」

「あらあら、そんなことをいうものではありませんよ、あなた。ごめんなさいね、娘が仏蘭西に戻ってからずっとこうなの」

 

 そして、そこにいたのは、誰かと連れそう、あの人だった。

 

 ――ああ、ああ。

 ――あたしは、理解する。

 ――あたしの願いが叶えられたことを。

 

 ――そして、あたしのせいで、『彼』が砕かれてしまったことを。

 

 彼らと別れて、また座り込む。

 どこからか現れたエドが、あたしに寄りそう。

 

「ごめん、なさい……」

 

 言葉とともに、涙が溢れだす。

 止まらない。

 謝罪とともに、あたしは、ただ泣きじゃくるだけで。

 

「帰りましょう。るい」

 

 野口さんが来るまで、あたしは、ただ泣き続けていた――。

 




すっかり遅くなったが、世界改変二回目でございます。
東洋の大碩学も大喜びでしょう。

誕生日だから、頑張ろうと思って、書いてたのをしれっと投稿するクズは私です。
あ、やべ、バレるバレる。いえ、なにもしてないです。
小説投稿なんてシテナイヨー。

さて、また一年が経ち、全然無理がきかなくなってきた。ツライヨー、まあ、ゆったりと更新していきます。
相変わらず、オーバーラップに出すと一次選考は通るネ。

夏までに二本仕上げたいからこちらは不定期だけど、頑張りますね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。