もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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シャオの口調が難しい。
こんなんだっけ?っとなんども思いました。



決戦、孫呉

両軍の戦いは苛烈を極めた激しいものであった。

獣の如き獰猛さを兼ね備えながらも上から眺めればまるで戦場盤の如く部隊の立ち替わり入れ替わりが見て取れる。

この見事としかいいようのない戦には両軍に優秀な軍師がいることを物語っていた。

 

今袁術軍には三人の知に長けたものがいる。袁耀、張勲、陳宮である。

七乃は本陣で美羽とともに中央の位置に布陣している。

姫羽はその武が一流の猛将でもあり戦場の左翼で兵を率い戦っていた。

音々音は戦場の右翼で恋の部隊のさらに後ろに500人程の手勢を率い行軍をしている。

 

この三人の連携は見事なものであった。

常に伝令として兵を送り自部隊から得られる情報を中央の七乃に伝える。

七乃がその情報を元に戦場を上から見下ろした図を頭に描き駒を動かすように指示を送る。

そしてそれを了解した姫羽や音々は行動する。音々にいたってはその情報をさらに前の恋へと送るのだ。

音々は姫羽のように剣を持ち直接戦うことができない。

だが恋をうまく動かすためには近くにいるのが一番良いためこの形となった。

 

この三人の連携は見事なものだった。この戦に敵でさえも賛辞を送る。

 

「見事なものだな」

 

こちらは呉軍。周瑜がそうぼやく。

そのぼやきを聞いた隣の陸孫、呂蒙が言葉を返す。

 

「確かに見事なものですね~」

 

「はい、勉強になります」

 

袁術軍の強さに三人は感嘆をもらす。

 

「ふふ、だがこの強さが今でよかった。

あの飼い殺しの時代でこうであったならもはや我々は詰んでいたのだからな」

 

「はい~、今ここには私たち呉が全員揃っています」

 

「知でも武でも我々は負けておりません」

 

「そうだな、では見せてやるとするか。

まずはあのいまいましい部隊をなんとかする。だれかある!」

 

周瑜のその言葉を聞いた兵が近寄ってくる。

 

「中央のあの大盾の部隊。

準備は整ったとの情報があった。実行しろと命を伝えよ!」

 

「はっ!」

 

周瑜からの命を受けた兵は戦場を馬で神速の如くかけていった。

 

 

 

ここは戦場の中央。

袁術軍は呉の軍勢を中央突破させぬため大盾部隊を配置していた。

その狙いはもくろみどおり呉軍を見事に足止めしていた。

 

「クソ!」

 

目の前にそびえるまるで壁のような盾。

一列に並び隙のないその様はまさに鉄壁。

近づけば長槍が突き刺してくる。

馬に乗り途中で飛び降り馬を見殺しにその巨体を盾に突撃させてもダメであった。

盾を支える兵の後ろにさらに支える兵がいるのだ。

完全に手詰まりであった。

 

「皆気合を入れるのだ!呉の兵をここで足止めする!」

 

おおー!と声が上がる。

大盾部隊の兵は見事に呉軍を足止めしている事実に兵の士気があがる。

 

「彼の呉の軍勢もこの程度か!」

 

「この鉄壁の構えを崩してみよ!」

 

 

 

「その鉄壁もここまで」

 

突如その場にそぐわない女の声が響く。

この部隊に女はいないはず。

 

「・・!?」

 

その声を聞いた兵は首が切られていた。

まるで自分が死んでからこの事実に気づいたかのように苦悶の表情の首がごとりと地面に落ちる。

その場には血の水を流す噴水だけが自立していた。

 

「大盾部隊を崩すのです!」

 

その周辺でも同じようなことが次々と起こっていた。

まったくの無防備、無抵抗の兵たちを暗殺のごとく殺害していく。

大盾を支える兵の後ろにいる人を支える兵が次々と殺されていった。

 

「なっ!?なんだ貴様は!?」

 

「いったいどこから!?」

 

「潜入などの仕事は私たちの得意とするところなのです!

周幼平参るのです!」

 

この事実に大盾を支える兵たちは完全に混乱していた。

前方に広がる呉の軍勢、そしてすぐ真後ろの部隊に進入してきた敵兵たち。

完全に敵に挟まれている状態だ。

 

「おるあああ!!」

 

突如走る衝撃。

こちらが混乱している隙に敵兵が助走をつけ盾に対して飛び蹴りをしてきたようだ。

完全に後ろに意識が集中していたことと自分を支えてくれる補助がいなかったために力で押し負ける。

 

「ぐうあああ!」

 

ついに鉄壁が崩れた。

後ろに倒れたために盾が自分の体にのしかかってくる。

その重い盾に足が挟まれ骨にひびが入り激痛が走る。

この光景に周泰があきれたように呟いた。

 

「皮肉なものです。亀の如く守りに徹した挙句最後が亀のように自重が仇となったんですね」

 

そして男の首を刈った。

周りでも大盾を持っている兵の心臓を後ろから刺しているもの、こちらと同じように盾に飛び蹴りなどをして盾を突破する者。

完全に流れは変わったようだ。

大盾の後ろにいる袁術軍の兵は自慢の長槍部隊だ。

 

「懐に入れば長槍はその長さが仇となります!

皆さん初撃をなんとかすればこちらの勝ちなのです!」

 

 

 

こちらは姫羽率いる左翼。

敵は孫呉の姫であり、次女孫権。

両軍の戦いは一進一退といったところだ。

姫羽も孫権も自ら剣を奮い戦っていた。

 

「状況は?」

 

「はっ!周泰様率いる隠密部隊が潜入に成功。

軍師様の指示が出次第実行するようです」

 

「わかったわ」

 

孫権はその報告を聞き安堵する。

 

「明命は無事に潜入できたようね」

 

明命とは周泰のことであり周泰は甘寧と共に孫権の側近として活躍している。

つまりほぼ一緒に行動しているようなものなのであり次第に情がわいてきたようだ。

 

元々孫権は優しい性格をしていた。

そんな性格も功を奏したのか姉とは違い彼女は内政などの政務が性にあっていた。

世が平和になりそして彼女が王として台頭すれば必ず成功するだろう。

そんな優しい彼女なのだ、側近として周泰、甘寧と接し時を重ねれば上司部下の関係などないようなもの。

完全な私情で友を思い心配をする。

 

「明命・・」

 

彼女を思いながら孫権は剣を奮う。

戦況は一進一退、戦いは長くなりそうだ。

だが状況が変わる。ついに孫権にとって待っていた報が届いた。

 

「隠密部隊任務成功!

ついにあの大盾を突破しました。」

 

「本当!」

 

その知らせに彼女は歓喜した。

明命がやってくれたのだ。

それは同時に彼女の無事を知らせてくれたのと同じなのだ。

この知らせを聞いた孫権の気持ちもはやってくる。

 

「皆のもの!聞いたか!我が孫呉を手間取らせたあのやっかいな盾を周泰が突破したのだ!

そして聞け!袁術軍よ。貴様らの自慢の盾ももはや役立たず!おとなしく降伏せよ!」

 

孫権の言葉を聞いた袁術軍。姫羽の部隊の兵からざわざわと声があがる。

 

「そうか・・退く気はないのだな。

ならば、ならば前に立つのならあとは蹴散らすのみ!

全軍攻め立てよー!」

 

おおー!と孫呉の兵が剣を天に掲げ再び姫羽の部隊に攻撃をかける。

孫権の部隊の士気は高く、そして姫羽の部隊の士気は低い。

やはり大盾を突破されたことが効いたのか?

 

少しの間戦闘を続けた後

姫羽の声が響いた

 

「いったん体勢を整えるわよ。退け!退けー!!」

 

姫羽の部隊は後退していく。

だが逃がさぬと追撃が開始された。

 

「孫権様!敵もあっけないものにございますな!」

 

「仕方ないわ。今私たちの士気は最高潮。

敵も中央を突破されるかもしれないと気が気がじゃないでしょうしね」

 

「確かにあの大盾を突破できたのは大きいですな。

まあ、それもありますがやはり孫権様の手腕が一番でしょうな」

 

「ちょ、ちょっと褒めてもなにもでないわよ」

 

「いやいや、見事なものでしたぞ」

 

「本当?」

 

「ええ。なんせ長年我等を苦しめたあの袁燿の部隊を追い払ったのですからな」

 

その言葉を聞いた孫権の顔に一筋の冷や汗が流れた。

 

そうだ。敵はあの袁燿なのだ。

冥琳どころかお姉様をも長年苦しめたあの袁家の天才。

そんな相手を私が追い払った?

 

そう考えた孫権の視界が少し暗くなる。

太陽の光が遮られたようだ。

 

「雲・・?いえ、空が暗い?」

 

「そ、孫権様・・」

 

「え・・?」

 

孫権は隣の男に視線を移し、そして驚愕した。

隣の男の目に矢が突き刺さっていた。その矢は貫通し後頭部から鏃(やじり)が飛び出している。

直後先ほどまで隣でしゃべっていた男は落馬した。

この事実に孫権は理解した。だが遅すぎた

 

ダダダダダ!っと音が前後左右から響く。

その音は大量の矢が地面や肉に突き刺さる音であった。

それと同時に兵たちの悲鳴があたりを埋め尽くす。

 

「ぐ、あ・・」

 

「いてぇ・・」

 

だが神が許さないのか孫権には一本も矢が当たっていなかった。

彼女は無傷である。それが逆に彼女を苦しめた。

 

「あ、あ・・そんな・・私が・・」

 

彼女の頭に絶望が広がる。これは確実に敵の罠だ。

なぜ追撃してしまったのか?

明命が功績をあげて私もなんて思ってしまったのか?

それともやはりあの偉大な姉に追いつきたいと思ってしまったのか?

 

どちらにせよ私の目はくらんでいた。

あの袁燿がただで負けるはずがないのだ。

事実いま敵であろう声が四方から聞こえてくる。

あの女の声も聞こえる。

 

「貴女にわかるかしら?釣りの醍醐味が」

 

「袁燿・・」

 

姫羽が馬にまたがりやってくる。

 

「見事にかかってくれたものね。

私の演技もいけるってことか」

 

「演技・・か」

 

「まあ最初からこの釣りをするつもりだったけど大盾部隊が突破されたことで本当に兵に動揺が走ったことが功をそうしたかもね。

まあ、どちらにせよ貴女もここで終わりよ」

 

孫権があたりを見回すと自分の部隊に円を描くように敵兵が取り囲んでいる。

完全に包囲されているようだ。

だが孫権は目を瞑りふふっと口元に笑みを浮かべた。

 

「ふふ、貴女も失策をするのね」

 

「失策?」

 

「ええ、失策よ。完全に包囲するなんてね。

見よ!孫呉の兵よ!我等は完全に包囲されている。

もはや退路など無し!ここが我らの墓場だ!

勇敢なる魂、死に様をこの地に伝説として刻め!

剣を掲げよーー!!!」

 

孫権のその言葉に孫呉の兵は逃げ場は無しと腹をくくった。

その兵たちの目に生の色はなし。

死を受け入れ覚悟をした男たちの目。死兵と化した。

 

「もはや恐れるものなど無し!

恐怖を無くした人間の強さを知れ!

窮鼠は猫をかみ殺す!ならば追い詰められた虎の牙を受けてみよ!」

 

「うおおおーー!」

 

孫呉の兵は駆ける。背中には炎を背負っているかの如くその熱気は並みのものではない。

激しい激戦が予想される。

だが、姫羽の目には一切の焦りがない。

彼女が手を上げる。

 

「やりなさい!」

 

姫羽の合図で一斉に矢が放たれる。

 

「いまさら矢ごときで怯む私たちではない!」

 

それでも孫権たちは止まらない。

矢が孫権の隣を走る兵に当たる。

この男も死んだか、と孫権は思ったが男は死ななかった。

 

「ぐああ!目があ!!」

 

男が目を抑え激痛にのたうち回る。

孫権がハッとあたりを見回すと周辺でも兵が目を抑え苦しんでいるのだ。

これはどうしたことかと彼女が矢を見るとそこには先端が袋のようなものになっており、破れ中に入っていたであろう緑色の粉が見える。

そして孫権がほかにも気づく。

 

「この臭いは・・なに?」

 

異臭もする。刺激臭のようなものだ。

匂いがきつく辺りの血の匂いも、走り回って汗をかいた男たちの匂いも感じない。

完全にこの匂いに支配されている。

 

「安心しなさい。これはただの薬草よ」

 

姫羽の声が辺りに響く。

 

「粉末状にして貴方たちの目をつぶさせてもらったわ。

この匂いも匂いがきついものを厳選して作った特別せいよ」

 

「貴様・・」

 

「###」

 

「え?」

 

突如姫羽がわけのわからない言葉を発した。

その言葉を聞いた孫権は頭に?が浮かぶ。

だが一人だけ違った。

 

シャオだ。

彼女は姫羽にこの言葉を聞いたら例の矢を孫権に放てと命を受けていた。

そして決して孫権に姿を確認されるなとも命を受けた。

 

もともとシャオは口ではああいっていたがやはり姉たちと戦うことができなかった。

南陽のころからたびたび物思いにふけるようにしていたシャオを姫羽は見かけていた。

姫羽は思ったのだ。彼女は決して土壇場で呉の者たちを殺すことができないと。

ならば何か手を打たなければと考えていた。

 

事実、今回の軍議でこの釣りの際での第一射。

兵たちには孫権を決して狙うなと命じ、シャオに孫権を狙えと命じたのだ。

もちろん本物の矢でだ。

矢を番(つが)える彼女の手はガタガタと震えていた。

そして案の定矢は外れ隣の男を射殺した。

 

姫羽はやはり無理だったかと悟り事前に準備していた今回の視覚と嗅覚を奪うことにした。

兵たちに急遽伝える。孫呉を囲んだ後はこの矢を放て。殲滅戦はやめだ。

死兵化を防ぐための敵の逃げ道も作らなくていい、確実に包囲しろ。

そしてシャオは今度こそ孫権を射ろ、と。

殺さないとしても家族を攻撃する覚悟ぐらいは持たなければいけないと。

 

(この矢は姫羽姉様が私のために用意してくれた殺さない矢。

この乱世、敵になった者同士は家族であっても殺さなくちゃいけない。

そんな当たり前のこともできない私を怒らないでくれた)

 

シャオは矢を番える。狙いは今度こそ姉だ。

 

(お姉ちゃん)

 

彼女は躊躇することなくその矢を孫権に放った。

風圧で袋が破れるように脆くなっているのであろう。

孫権の眼前に緑色の粉末が拡散する。

 

「うぅ!?ああ!」

 

孫権の目に激痛が走る。

彼女はたまらず膝をつき、目の痛みが襲う。

 

そして辺りには違う音が響く。

カキンカキンと金属音が響く。

この音は聞きなれた剣や槍などの刃が奏でる音。

もしくは鎧に刃があたる音?

 

そして彼女は気づいてしまった。たまらない恐怖に

 

(目が見えず、嗅覚も完全に封じられている。

入ってくる周りの情報は聴覚のみ・・

 

どういうこと?戦っているの?

こちらの兵はみんな戦えない状態。まさか・・)

 

孫権がそう思ったとき

 

「聞きなさい!孫呉の兵たち!」

 

姫羽の声があたりに響く。

今は聴覚しか頼れるものがない。自然と孫権の耳はいつもよりも研ぎ澄まされたかのようにその声が耳に入ってくる。

 

「もはやここでの戦いは決した。

あなたたちもわかっているでしょう?この状況がどれだけ絶望的かを。

目が見えず何ができる?そして自分たちが包囲されているということも?

破れかぶれに剣を振ってみる?同士討ちが目に見えているわね。

 

さあ・・怖いでしょう?ただ何もできず殺されるだけだものね。

虐殺?嬲り殺し?撲殺?圧殺?

うふふ、さあ。どうやって殺してくれようか?」

 

なんと恐ろしいことをいうのだろうこの女は。

嫌な汗がツーッと体を這う。

 

(こ、殺されるの・・私はここで・・)

 

その妖艶にも残虐さをひめた声に孫権の体はもはやガタガタと震えていた。

先ほどまでの勢いなどとうになりを潜めていた。

今はもう死にたくないと震えるただの少女となっていた。

 

「や、やめてくれ!殺さないでくれ!」

 

「助けてくれー!!」

 

「降伏する!降伏するから!」

 

辺りから声が響く。その声が響いたとたんさらにたくさんの声が辺りに響く。

どれも彼女には聞きなれた声だ。孫権でさえこの恐怖なのだ。

ただの兵である彼らにはそこまで付き合う道理などないのだ。

そうなると孫権も急にゾクゾクと恐怖が伝染する。

目が見えない状態じゃただ虐殺されるだけ。そして周りの兵たちが投降するなか何人の兵が残っているだろう?

もはや残っているのは自分一人だけなのかもしれない?そんなの嫌だと心の中からこみ上げてくる。

 

まだ周辺からカキンカキンと金属音が響く。

降伏しようとした兵たちはどうなったのだろうか?

先の見えない恐怖に視界どころか心にまで闇が侵食してくる。

 

だがここで彼女の暗闇に光がさした。

 

「お姉ちゃん」

 

私の名前を呼ぶこの声は聞きなれたあの妹の声。

その声色はとても優しく暗いこの世界で唯一自分を知っている人物なのだと錯覚させる。

闇に光が差す。

 

「しゃ、シャオ?」

 

孫権は妹の名前を呼ぶ。

何故ここにいるのか?あの妹のことだ、鬼になりきれず私たちに剣を向けることなどできないだろう。

だから袁術軍で酷い扱いをうけていないだろうか?

寂しい思いをしていないだろうか?私は寂しい。

 

「私はここだよ」

 

「ど、どこなの?シャオ?」

 

「こっち」

 

「どこ、どこ」

 

孫権は腕を伸ばしよろよろと妹の所在を探す。

手がスカスカと空を切る。

なかなかつかめない存在に不安がよぎる。だが

 

「お姉ちゃん」

 

目の前で妹の声が聞こえた。

たまらず孫権の感情が爆発した。

 

「シャオ!」

 

孫権は思い切り抱きしめた。

暖かい体温を感じる。この温かみが彼女の心の不安をかき消してくれる。

 

「もう!心配したんだからね!」

 

「アハハ、ごめんね」

 

「よかった・・こうして再び貴女に会えて。

もうこうやって抱きしめることもできないと思ってた」

 

「うん。私も思ってた。

普段はうっとおしいって思ってもいざ離れると寂しいものなんだね」

 

「ええ・・」

 

二人はその後無言で数十秒抱き合っていた。

孫権の目からはポロポロと涙がこぼれる。

だがその涙のおかげかだんだんと視界が役に立ってきた。

 

「な、なにやってるの・・シャオ」

 

「えっとね~、お姉ちゃんを縄で縛ってるの♪」

 

気づけば途中までは彼女の腕であったであろうが途中からは気づかれないように回した腕は縄にすりかえられていた。

実の妹がグルグルと縄で自分を縛ってくる。

 

そして孫権は気づいた。

先ほどからカキンカキン鳴らされている音は兵たちが自分の剣を鞘や隣の兵の剣と打ち付け合っていたのだ。

その金属音にまだ視界が回復していない兵は頭を抱えて震えているのだ。

彼らの頭の中ではどれだけ残酷な光景が繰り広げられているのだろう。

降伏を求めた兵たちは自分のように縄で拘束されていた。

この事実に孫権は理解した。自分は完全に踊らされていたと。

 

「えへへ~♪お姉ちゃんおとなしく降伏してね」

 

だがこのうれしそうな妹の顔を見た孫権はすがすがしかった。

負けた、完全に負けた。完膚なきまでに策に踊らされ負けたのだ。

この策に自分の妹が大きく関わっており、そして妹の手で縄をかけられたのだ。

自分もまだまだだと思いそして妹の成長を喜ばしく思えた。

 

優しい妹だ。私を殺せないからこの死なせない策に全力をかけたのだろう。

 

「さ、いこ!捕虜はちゃ~んと私の言うことを聞いてね」

 

よっぽど策が成功してうれしいのかニコニコと笑顔を浮かべている。

悔しさもわずかにあるがまあ、この笑顔が見れたからよしとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 


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