もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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洛陽

呂布との闘いの後、関羽と張飛は劉備の元へと戻っていった。

そして姫羽の独断の出陣に追いついた美羽と七乃。

 

「姫羽様!何をかんがえてるんですか!」

 

珍しく七乃が声を荒げて怒る。

 

「ご、ごめんね七乃!ちょっと私の中に流れる武人の血が・・」

 

「ダメです!あれだけ手を出したらダメだって言ったじゃないですか!

あんな化け物みたいな人には化け物に近い人を当てれば良いんですよ!」

 

七乃の言う化け物に近い人は孫策などの武に長けた者たちのことだろう。

 

「で、でも私も一応関羽たちに引けをとらないほど武があったわけだし・・」

 

「いーえ!姫羽様はこの大陸の美の象徴なんですよ?

確かにお強いです。姫羽様の戦いは双剣を巧みにあやつり、まるで舞のような戦いだといわれておりますが、そこで強すぎたらだめなんですよ!

あまりにも強すぎると美よりも武が目立ってしまいます!

そこらへんの強い人たちはそうじてお馬鹿さんが多いんですから。

姫羽様までそう思われてしまいます」

 

七乃が口早にそうまくしたてる。

 

「ま、まあもうよいではないか七乃。

姫羽もこうして無事じゃったんだし・・」

 

「お姉様・・」

 

美羽が手助けをしてくれたことで感激する姫羽。

両手を顔の前であわせキラキラした目で姉を見る。

だが七乃はまだ怒っている。

 

「本当にごめんなさい・・

一騎打ちを自分から申し込んでおきながら、周りに助けを求める。

これが武人においてどれだけ恥なことか・・

私は結局自分でこの袁家の名を落としてしまったわ」

 

「確かにこれはゆゆしきことですが、でも姫羽様は私たち袁家の星なんです。

もし顔に傷でも負って、それが一生消えなかったらと考えるとそれよりは幾分か良かったです。

それにもし命を落とすようなことがあったら私は・・」

 

七乃がだんだんと沈みこみながら目が潤んできている。

その七乃に近づきそっと抱きしめる姫羽

 

「ありがとう七乃。

そこまで私のことを思ってくれてたなんて。

ごめんなさい、もう軽率なことはしないわ。

でも、私の武でこの袁家を少しでも良くできるなら私はまた自ら剣をふるうかもしれない。

お姉様、そして貴女を守るためでも私は戦う。

すごく馬鹿なことをいってるかもしれないけど負けたときのことなんて考えてないわ。

でもまあ・・もう自分の私欲のために戦うことをしないと誓うわ」

 

「・・・わかりました。

そうならないためにも私もできるかぎり頭をつかい、敵をだまし、姫羽様が自ら赴く必要がないようにつとめます」

 

「ありがとう。袁家の威光をさらに強固にし、諸侯にひれ伏せさせましょう。

今は洛陽にいち早く入城し、失った名声を得たいわ!」

 

「はい!行きましょう」

 

「うむ!仲直りしたようじゃの!

二人が喧嘩などしておると妾も嫌なのじゃ。

では往くぞ!ついてくるのじゃ~!」

 

「はい!」

 

美羽が珍しく君主としての貫禄を見せ二人は美羽の後ろをついていく。

虎牢関前の火はすでに消火されており、袁術軍も進軍する。

董卓の軍勢は虎牢関から姿を消しており、今を好機と連合軍は洛陽に向け行軍する。

 

そしてしばらく洛陽に向け行軍していると姫羽が違和感を感じた。

 

「お姉様。洛陽に一番に入場し手柄を立てたいところなのですが」

 

「どうしたのじゃ?」

 

「それが不思議な事にこの道中に敵が潜んでいないのです」

 

「敵が潜んでいたほうがまずいのではないのかの?」

 

「いえ、いないからこそおかしいのです」

 

美羽はよく意味がわからないと首をかしげる。

そのため七乃が美羽のために分かりやすく説明する。

 

「美羽様。洛陽は董卓軍の本拠地。おうちですね。

当然自分たちの家に他人たちがずかずかと入られるのは嫌ですよね?

ですので普通は抵抗をします。

それなのに抵抗らしい抵抗が一切起きていないんですよ~これは怪しいですよね?」

 

「うむ。確かにの」

 

美羽も納得したのか辺りをきょろきょろしている。

 

「確かにおらんの~まあでも良いではないか。

敵が何もしてこんのなら簡単に洛陽に入れるのじゃ!」

 

「確かにそうですが・・」

 

「なあにどうせ劉備たちが先行しておるのじゃ。

何かあったらあやつらに被害がいくから妾たちは安全に進めばよいのじゃ」

 

「関羽や張飛に世話になった私がいうのもなんですがそれが確かに良い方法ですね」

 

「あらあら、これが弱小勢力ゆえの悲哀というものですね~」

 

姫羽は苦笑いしながらも納得する。

劉備たちには今現在ではほぼ権力がない。

故に命令をされると断れる権限などほぼないのだ。

 

「そろそろ洛陽に到着しますね」

 

「でも、本当に何も無かったわね。ここまで何もないと逆に不気味ね」

 

洛陽までの道中は本当に何もおこらずすんなりと行軍することができた。

敵の本拠地であるはずなのだが。

 

「ふむ。董卓が何もしてこんかったのなら逆に好都合じゃの。

姫羽、七乃。妾たちが一番前にいくのじゃ!

洛陽の一番のりは妾なのじゃー!」

 

美羽が二人にそう告げ、馬を飛ばし勝手に先行する。

 

「あ!お姉様待ってください!」

 

「あ、ちょっと美羽様~姫羽様も待ってくださーい」

 

美羽が勝手に走り出したため、二人も追いかける。

 

「猪々子さん!斗詩さん!

美羽さんたちが速度を上げました!

きっと洛陽に一番のりするつもりですわ!

私たちもいきますわよ!」

 

「あ、ちょっと姫~」

 

「待ってくださーい!」

 

それを見た袁紹たちも速度を上げる。

 

「む!麗羽のやつがこちらに追いついてきたのじゃ!

絶対に先にいかせてはならぬぞ!」

 

袁紹たちに追いつかれそうになるため美羽たちがさらに速度をあげる。

だが袁紹たちの軍勢はこういうときだけ普段よりも圧倒的な速さを見せ付けた。

ふたつの軍は互いにならび洛陽の目の前へとたどり着いた。

 

「おお!あともう少しじゃ!」

 

「いかせませんわ美羽さん!」

 

「麗羽姉さま。こういうときはまだ未来ある若い妾たちに譲るのじゃ!」

 

「キー!なんですって!それは私たちがもうお歳だとでも言うつもりですの!」

 

「ちょ、ちょっと猪々子さんどいてくださいません?」

 

「お前たちが邪魔なんだろお?

アタイたちだって一番のりしたいもんね~」

 

洛陽の正面はふたつの軍により大渋滞だ。

どちらも我先にと入ろうとするために入れずにいた。

 

「斗詩ごめんなさいね」

 

「いいえ、姫羽さま。こちらこそうちの姫が」

 

二人はこの見苦しい争いを遠巻きに見ていた。

姫羽は気づいた。これで一番のりを果たしても見苦しいために逆に評判を落とすと。

なにしろお互い袁家なのだ。

少し姫羽も気恥ずかしいのか自分は加わろうとしなかった。

 

そしてただの入城に時間をとられたがなんとか場内に入る事ができた。

姫羽は洛陽に入りこの町の状況を確認する。

 

やはり悪政の事実など感じられなかった。

とくに荒んでいる様子も無く、裏道では多少の物乞いはいるがこの規模の大都市でこれだけならば良いほうだろう。

 

「姫羽様。董卓を探しましょう。

この戦いに終止符をうつのは私たちです」

 

「そうね。でも董卓の兵が全然いないわ。

奴はもう逃げたのかもしれない。

とりあえず全軍をつかって董卓を探しましょう。

麗羽姉さまに負けるわけにはいかないわ!」

 

姫羽はすぐさめ兵たちに董卓を探すように指示をだす。

 

「私は裏路地を探す。

堂々と大通りを使って逃げたりはしないでしょうし」

 

「では私は美羽様と一緒に屋敷などを探します」

 

そして姫羽、美羽、七乃の三人は分かれた。

姫羽は裏通りを探し回る。

だがやはりもう逃げたのか董卓が見つからない。

そんな折劉備軍の姿が見えた。

 

「劉備殿?」

 

「あっ!?え、袁燿さん!?」

 

そこには劉備を含め関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、鳳統がいた。

その横には眼鏡を掛けた少女と優しそうな少女がいた。

 

「この子達は?」

 

姫羽が不審に思い劉備たちに尋ねる。

 

「あ、え、えとね・・」

 

「この方たちは洛陽にすんでいる民です」

 

劉備が口ごもっていると諸葛亮が口を開き説明し始めた。

 

「民?」

 

「はい。この戦で董卓が破れ逃げていく姿を目撃したようです。

その事を教えていただいたんです」

 

「董卓が逃げた・・?でもどうやって?

これほど大軍に囲まれていたのに」

 

「あぅ・・どうやら虎牢関が落ちたと同時に逃げたみたいです・・」

 

隣にいた鳳統も説明を始めた。

 

「虎牢関が落ちたと同時に・・この人たちはどうやって虎牢関が落ちたという情報を知っているの?

ずっと洛陽に住んでるんでしょ?」

 

「いえ、虎牢関が落ちたという情報はもちろんこの方たちは知りませんよ。

数日前に逃げていったといっていましたので、私たちが勝手に虎牢関が落ちた日と同じくらいだと思ったんです」

 

「なるほど・・」

 

姫羽は考える。

なにか違和感が体中を駆け巡る。

そして姫羽は二人の顔や体を見る。

 

「な、なんでしょう?」

 

眼鏡をかけている少女がそう呟く。

 

「体が・・綺麗ね・・」

 

「へ?」

 

突然そのようなことを言われ真っ赤になる少女たち。

 

「はわわ!?袁燿さんもそちらの趣味が!?」

 

「あわわ・・」

 

諸葛亮と鳳統も真っ赤になって慌てふためく。

 

「何を勘違いしているのかしらないけど・・

服は確かにみすぼらしい平民の服。

だけど、それにそぐわない綺麗な体。

まるで定期的に体を綺麗にしているみたい」

 

二人の服は確かに汚れている。

まさに普通の一般人より少し下くらいだ。

だが、その服に比例しないのが体の綺麗さだ。

まるでほぼ毎日風呂に入っているかのような

そして、今だけこの小汚い服を着たような。

 

そう姫羽が指摘すると諸葛亮は顔を戻し、また坦々と喋る

 

「この方たちは確かに普通の庶民です。

ですが親戚で金持ちの商家の方たちがいるそうです。

その方たちが大変二人をかわいがっておられるそうでよく近くの温泉に連れていってくれるそうです」

 

「温泉に・・?」

 

「はい。温泉に行くまでの道中の馬車、護衛などを手配してくれるそうです」

 

「なるほどね・・」

 

温泉にいっている。

そこで汚れなどを落としているのだろう。

それならたしかにこの肌の綺麗さはうなづける。

 

「でも、今の戦中にも行ったの?」

 

「そのようです。この戦中だからこそらしいですよ。

民からしたら不安ですからね。心に大きな負荷がかかるからこそ気を休めるためにだそうで」

 

「・・・」

 

やはり何か違和感を感じる。

姫羽の頭にもやもやがある。

劉備の顔もどこか緊張している。

それに反して軍師の二人は涼しそうな顔をしているのが気になる。

まるであくまでも冷静を保っているような。

 

「貴方たち・・どうしてそこまで知っているの?」

 

姫羽がそう聞くと軍師二人の表情が一瞬揺らぐ。

 

「董卓の話ならまだしもこの二人の親戚関係の話まで。

今この状況でそんな話をする余裕があったの?

この戦いの最中に温泉にいったなどという普段の生活のような話をなぜ?」

 

そう聞くと諸葛亮も少し困ったのか今まで質問すればすぐ帰ってきた答えが返ってこない。

姫羽はいよいよこの二人が怪しくなってきた。

 

だが、そこで不運な知らせが舞い込んできた。

 

「え、袁燿様!」

 

袁術軍の兵が足早にこちらへとやってきた。

 

「どうしたの?」

 

「え、袁紹軍の兵たちが民から略奪行為をしております!」

 

「はぁ~・・やはり麗羽姉さまの軍はいつも問題を起こしますね。

袁家一族の名がまたおちますね。わかりました。私が止めに入ります。

貴方は袁術軍は決して不埒な行動をするなと伝えて」

 

「はっ!」

 

「諸葛亮殿」

 

「は、はひ!」

 

「問題だけは起こさぬように・・」

 

姫羽は結局タイミングが悪く答えを聞き出せなかった。

あともう少し、あの知らせが届かなかったら問いただせたのだが。

結局疑惑は疑惑でしかない。

確証もないのに言いがかりをつけるのは袁家として美しくないのだ。

それで違ったらひどい笑い話にもならない。袁家の名が落ちる。

 

とりあえず最後に釘だけは刺しておいた。

姫羽は今あの二人を問いただすよりも目の前の略奪の防止のほうが大事なのだ。

これこそ袁家一族の名を落とすのだから。

 

「貴方たち!袁家の恥と知れ!」

 

姫羽はそう叫び、袁家のドロを拭う。

 


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