パルプンテは最後までとっておく   作:葉虎

8 / 26
第7話

どうしてこうなった?

 

最近、この台詞を思うことが多くなった気がする。

 

俺は此れまで原作組とか極力関わらないことにしていた。

 

同じクラスだった去年は下手に近づかず、かといって避けることもしない。

 

普通のクラスメイトのように接するように心がけていた。

 

だから翠屋にも行ったことがなかった……。行く気もなかった。

 

偶に寮の誰かが買ってくるシュークリームでその絶品な味は恋しかったが…

それでも自分で買いに行くのは我慢したのだ。

 

だが……

 

「フィアッセ~~♪」

 

「ゆうひ~~♪」

 

互いに抱き合い、友好を深めあう美女二人。

 

「うわっ、本当にSEENAだ!」

 

「お、おねぇちゃん。ちょっと落ち着いて」

 

「そうだぞ。月村。慌てなくても椎名さんは逃げない」

 

興奮気味の美女を落ち着かせようとする美少女と美青年。

 

どうして……

 

「すずかのお姉さんすごいわね…」

 

「にゃはは、大ファンだって言ってたしね…」

 

「よっぽど、好きなんだねぇ…」

 

そんな三人を見ている。美少女二人と美女一人。

 

原作組のオンパレード……

 

俺は今、此処…翠屋にいるのだろうか?

 

時間を少し前に戻してみよう。

 

 

 

いつも通りに学校が終わり、俺は1人さざなみ寮へと帰宅していた。

 

アリサは最近デバイスの作成に掛りきりで…今日も学校には来なかった。

 

べ、別に寂しくなんてないんだからね!!……ごめんなさい。嘘です。

 

寂しさを紛らわせるように、若干早足で久遠という癒しを求めるべく、帰宅すると……

 

「~~♪」

 

綺麗な……

聞き覚えのある…

心が温かくなる…

 

そんな歌声が聞こえてきた。

 

「――っ!?」

 

俺は着替えることもせず、そのままの恰好で歌声の主を探す。そして…

 

寮の庭先にある木の木陰で、木に凭れ掛るように座り…

 

目を閉じて……彼女は歌っていた。

 

木陰の傍らで眠る子猫と…

 

ひらひらと舞う蝶に優しく、語りかけるような歌。

 

その歌声に聞き惚れ、俺は声を掛ける事なく…。

 

ずっと、その場に立ち尽くしていた。

 

やがて……歌が終わると、彼女は目を開けて、俺の姿を視界に捉える……。

 

「おお?もしかして耕二くん?いや~大きゅうなったなぁ~」

 

彼女の言葉に自然と顔が綻んでいく。でも、仕方がないだろ?

 

「おかえり。ゆうひさん」

 

目の前には、最近はテレビでしか見る事のなかった…

 

ゆうひさんの微笑があったのだから……。

 

 

「何時、帰ってきたの?」

 

あの後、部屋に戻ってパパッと着替えた後、リビングに行き、ソファーで寛いでいるゆうひさんに問いかけた。

 

「昨日の夜に海鳴に着いたんや。そんで、暫く休暇を貰ってな。耕介くんのご飯食べて、猫と遊んで、疲れを癒そ思ってなぁ。あぁ、あと耕二くんにも会いたかったしな~。ほら、此処に座りぃ~」

 

ポンポンと自分の隣の空いている部分を叩くので、言われるがままに座ると…

 

「あぁ~♪やっぱ、耕二くんは可愛ぇなぁ~」

 

ギュッと抱きしめられ、ボリュームのある胸に顔が埋まる。

 

待ち望んだ感触。う、嬉しいけど、気持ちいいけど……

 

「む~!む~!!」

 

い、息が…いや、止めないで……で、でも苦…いや、柔らかっ!?

 

後半訳が分からなくなってくる。

 

暫くすると堪能したのか…解放され、俺は空気得て事なきを得た。

 

あ、危なかった。だが、これで死ねるなら男として本望ではなかろうか?

 

「そういえば…今、ゆうひさんしか居ないの?」

 

何時もなら父さんなり、真雪さんなりが居るんだが…

 

「真雪さんはお休み中や~。夜からの宴会に備えるって。耕介くんはお買い物や~」

 

……おい、お客さんに留守番させんなや。まぁ、そんな事気遣ったら逆にゆうひさんが怒るかもしれんが……。

 

つか、此処ん所、ENKAI!の頻度が半端ないな。まぁ、現さざなみ寮に真雪さんのストッパー足りえる人が居ないのが最大の理由なんだろうが……知佳さんか薫さんのどちらかが残っていたら、こうはならないんじゃないだろうか?

 

「あ、そや。耕二くん。耕介くんが帰ってきたら。うちとデートせぇへん?」

 

「行きます!」

 

反射的に反応。ゆうひさんのお誘いを断るわけがない。

 

だが…俺はこの時、どうして行き先を聞かなかったのかを後に後悔する……というかしたのだった。

 

 

 

父さんが帰ってきて、俺たちはデートに出かけた。っていっても、人と会う約束があり、その場所が喫茶店だから俺も連れて行こうとしたんだとか……ちぇっ、そうそう都合よくはいかないか……。

 

そんで今に至る。待ち人とは、翠屋のロゴが入ったエプロンを纏い、そのエプロンの下からでも自己主張を忘れない巨乳。

独特な触角のような髪型に青い瞳の美女。フィアッセ・クリステラのことだった。

 

此れが俺が翠屋に至るまでの経緯だ。

 

フィアッセさんと友好を深め終わると、俺とゆうひさんは席に案内されて座る。原作キャラ達の視線を注がれながら。

 

他の客はどうした?と思ったが、どうやら店を閉めているらしい。俺は、この店の視界に捉えた衝撃により気が付かなかったんだが…

 

それでいいのか?翠屋よ!

 

もうね。色々諦めたよ。もうなるようにしかならん。

 

ゆうひさんに心配されるのも本意じゃないし…

 

「それで何にする?ゆうひ」

 

「そやな~。抹茶フロートと宇治金時!耕二くんは?」

 

「…アイス宇治茶とみたらし団子!」

 

ゆうひさんに振られ、俺もボケる。実は、翠屋に行った時を妄想して、やりたかったネタなのだ。

 

まさか、できるとは思わなかったが…

 

「………えっと」

 

困ったようなフィアッセさんの反応。視線は俺に注がれている。

 

いや、フィアッセさんだけではない、やり取りを伺っていた皆が固まっている。

 

ゆうひさんの素顔を知らない人はゆうひさんの言葉に、知っている人はそれに合わせた子供の俺の言葉に…

 

「あかん!フィアッセ!!此処はキレのいいツッコミを入れてくれんと…うちらアホみたいやんか!」

 

「やっぱり、俺がツッコんだ方がよかったかな?」

 

「いや、耕二くんは正解やで!此処は店の人間にツッコんでもらわなあかんからなぁ。にしても、うちの咄嗟のボケに合わせられるなんて…やるようになったなぁ」

 

すんません。原作知識から俺もやりたかったんです。

 

「ほぅ…そのチョイスとは…若いながら中々味が分かるな。」

 

「た、高町君?ツッコむところはそこなの?」

 

俺たちのやり取りに何やら感心する高町兄と月村姉。

 

「ねー、お姉ちゃん。ボケとかツッコミとかってなぁに?」

 

「あはは、なのは、それはね」

 

ボケとツッコミの意味を高町姉に訪ねる高町妹。

 

「ねぇ、アリサちゃん。あれって去年同じクラスだった。槙原君だよね?」

 

「えぇ。SEENAと仲が良いみたいだけど…どういう関係なのかしら…」

 

訝しげに俺を見る元クラスメイト。月村妹とバニングス。

 

中々のカオスだった。

 

気を取り直して、フィアッセさんは再度注文し、俺とゆうひさんはボケる事無く。

 

ゆうひさんはチーズケーキとミルクティを、俺はアイスコーヒーとシュークリームを注文した。

 

「ゆうひ、その子が前に言ってた耕二っていう子?」

 

注文を伝えて、戻ってきたフィアッセさんが訪ねる。

 

「そや、槙原耕二くん。面白くて、可愛ぇ子やろ?」

 

「ども、面白くて、可愛ぇ子。槙原耕二。聖祥小学校2年です。」

 

「自分で言う事ちゃうで~!」

 

ピシッとゆうひさんからツッコミが入る。あかん…ゆうひさんと居ると、俺の隠していた芸人魂が揺さぶられる。

 

ボケをいれずにはいられない。

 

なんか、将来、仮にはやてと知り合って仲良くなっても同じような事になる気がしてきた。

 

くそ、これが槙原の血がなせる業なのか……

 

原作組と関わらないように今までしてきた努力が、今日無駄になり、

色々どうでもよくなってきているのもあるかもしれない。

 

段々面倒臭くなってきたし、もうなるようになれ!知るか!!

 

魔法とか転生がバレなきゃもういいや。転生者組からは不審な目で見られそうだが……。

 

「聖祥の2年生?もしかして…すずかと?」

 

「えぇ。同じ学年です。去年は、同じクラスでした。えっと…」

 

「あ、私はすずかの姉の月村忍。よろしくね槙原君。それと…し、SEENAさん!私、大ファンなんです。あ、あの、さ、サインとか貰ってもいいですか?」

 

ええよ~と、快くサインを承諾したゆうひさんに、感激する忍さんを差し置き、自己紹介は続いていく…

 

「えっと、私はフィアッセ・クリステラっていうの。よろしくね耕二」

 

フィアッセさんを皮切りに、恭也さん、美由希さん、なのはちゃん、すずかちゃんと続き…

 

「私はアリサ・バニングスです。SEENAさんの歌は何時も聞いてます」

 

「アリサちゃんやて?」

 

ゆうひさんはアリサの名前にピクッと反応した。何か嫌な予感が…

 

「あぁ、真雪さんが言うとった耕二くんの彼女かぁ。いやぁ、耕二くんも隅に置けえんなぁ~。こんな可愛ぇ子を」

 

ゆうひさん!それ、アリサ違い!!いや、そもそもあっちのアリサも彼女じゃねぇし!!

 

つか真雪さん、何言ってくれてるんだあんた!!はっ、まさかそれは薫さんや知佳さんにも伝わってるんじゃなかろうか?

 

……伝わってるんだろうなぁ。那美さんと真雪さん経由で………。

 

なんか外堀がどんどん埋まってるような気がするんだが…

 

俺が否定せず、衝撃の事実に唖然としていると。顔を真っ赤にしたバニングスが…

 

「かの!?ち、違います!!私はこんな奴の彼女なんかじゃ!!」

 

…こんなやつ…。そこまで言わなくても……。えっ?俺、嫌われてたりする?

 

「あっ、それって4年生のローウェルさんの事じゃないかな」

 

「知ってるの?すずかちゃん」

 

アリサの事を知っていたすずかちゃんの助け舟に乗り、とりあえずこの場を落ち着かせることにした。

 

「そ、そう。すずかちゃんの言ってるアリサが俺のかの…って、彼女じゃないけど、ゆうひさんが言ってるのはそっちのアリサ。ローウェルの方。んで、バニングスとは殆ど話したこともないよ」

 

とりあえず、フォローを入れる。さて、これでバニングスも少しは…

 

「な、何よその言い方!!ちょっと位話したことあるでしょ!!」

 

えぇ!?誤解を解いたのに其処に怒るのかよ!!

 

「大体!なんですずかの事は名前で呼んでて、あたしは苗字なのよ!?」

 

「いや、この場に月村さんは二人いるし…バニングスを名前で読んだらどっちのアリサか分からないし」

 

「じゃぁ、私の事もなのはって呼んで」

 

えぇ!?この流れで話に入ってくるのかよなのはちゃん!?

 

「ちょ、ちょっとなのは!!」

 

バニングスも割って入ってこられて困惑している。はっ、まさか俺たちの言い争いを鎮めるために話題を変えようと?

いや、違うな。話題かわってねーし。素か?素でやってるのか?

 

この混沌とした場を収めたのは……

 

「はいはい、みんな取りあえず。落ち着いて」

 

注文したチーズケーキとシュークリームを持ってきた……

 

「お待たせ。私は翠屋の店長でなのはのお母さん。高町桃子って言います」

 

桃子さんと……その後ろを苦笑いで飲み物を運んできた…

 

「俺はなのはの父の高町士郎っていうんだ。よろしくな。」

 

士郎さんだった。

 

 

 

 

 

ゆうひさんとデートの筈だったのに…

 

なんでやねん!!

 

思わずツッコまずにはいられない……。

 

目の前には注文したシュークリームとコーヒー。

 

うん。それはいい。とても美味しそうだ。

 

問題は俺を取り囲むように同じボックス席に座っている連中。

 

ギロ!

 

あはは…

 

にゃはは…

 

視線を向けたそれぞれの反応。

 

睨みつけてくるバニングスと、苦笑いを浮かべているすずかちゃん。

 

そして…苦笑い?というか素で笑ってねぇか?ななのはちゃん。

 

ちらりと、別の席に視線を向ける。

 

そこには、楽園があった……。

 

一緒にやってきた、ゆうひさん(とらハ2巨乳ヒロイン)

 

ゆうひさんに会って感激している忍さん(とらハ3巨乳ヒロイン)

 

ゆうひさんと楽しく談笑をしているフィアッセさん(とらハ3巨乳ヒロイン)

 

時折二人の会話に混ざる美由希さん(とらハ3隠れ巨乳?胸は大きいヒロイン)

 

そして、静かに話を聞いているのは恭也さん(とらハ3主人公)

 

何だ?この差は?

 

あの後、なんだかんだで席を子供組と大人組に分けられて座る事となり…

 

方やぺったん娘に囲まれる俺。

方や巨乳のお姉さまに囲まれる主人公……

 

う、羨ましすぎる……

 

なんだ?主人公補正か?やっぱり、息子ってだけじゃ、正規の主人公には勝てないのか?

だったら、那美さんとか、さるとか、かめも加えてやれよ!!

 

んで、ゆうひさんを返せ!こんちくしょ~~!!

 

「ちょっと!!聞いてるの!?」

 

「あぁん!?」

 

おっと、いけね。バニングスに声を掛けられて、咄嗟にガラの悪い声が出てしまった。うん、八つ当たりはよくないよね?反省…

 

「っと、ごめん。何か用?」

 

俺の反応に激高する寸前のバニングスを見て、すぐさま謝る。

 

「学校での印象とは違うねって話してたんだよ」

 

すずかちゃんが、バニングスを宥めつつそう返してきた。

 

「そうかな?」

 

まぁ、猫被ってたしな…

 

「そうだよ~~。学校じゃ…えっと……そう、ずっとご本を読んでたり、寝ちゃってたりしてたの…」

 

今、どもったな。思い出したかのように言ったな……

 

「お前…一瞬忘れてただろ?」

 

「なのは…」

 

「なのはちゃん……」

 

「う、うにゃ?ち、違うの!ただ…えっと、そう、すぐ言葉が出てこなかっただけなの!!」

 

だから、忘れてたんだろう?

 

つまりは、俺の作戦は成功だったわけだ。もっとも、俺以外の転生者達のインパクトが強すぎたのもあるんだろうけど……。

 

俺たちのジト~っとした視線に耐え切れなかったのだろう…咄嗟に話題を変えようと…

 

「そ、そうなの。そういえば、さっきゆうひさんが言ってたアリサちゃんについてなの!」

 

爆弾を投下してくれた。

 

「おぉ~~そやそや、忘れる所やった」

 

それに反応したのはゆうひさん。それに追随するようにお姉さま方がやってくる。

 

目が爛々と輝いているんですが…お、おい、高町恭也。そんな所でやれやれ…みたいなリアクションは良いから助けろ!!

 

お前なら何とかなるだろ!!

 

戦えば勝つ。それが御神流なんだろ?

 

御神の剣は誰かを護る時に最も強くなるんだろ?

だったら、俺の個人情報を護り通して見せろ!!

 

くそ、駄目か…役立たずめ!

 

はっ、まだ、御神の剣士は他に居るじゃないか。

 

美由希…は、駄目だな。敵だ。た、高町士郎!!

 

「こんなに年頃の男女が居るのに、なのはと同い年の子の彼女の話で盛り上がるなんて……私達、孫の顔がみれるのかしらね?」

 

「そうだな桃子……。なら、どうだ?確率を増やすためにあと一人くらい……なのはに弟か妹を……」

 

「士郎さんったら♪」

 

「桃子…」

 

「士郎さん…」

 

イチャついてるんじゃねーよ!!

 

この後、誰も助けてはくれず。

 

俺は女性陣の話の肴になった……。

 

 

根掘り葉掘り聞かれ、精神的に疲労しきった俺は……

 

さざなみ寮にて今度は宴会席の酒の肴にされて……

 

癒しを求めるべく……那美さんから久遠を預かり、共にベットの中に入った。

 

そして……

 

その晩、俺は夢を見た……。

 

とても悲しく…切なくなる夢を…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。