俺は浮かれていた。テンションもここ最近ない程の高さだ。
「にゃんがにゃんがにゃー♪ にゃーらりっぱらっぱらっぱらにゃーにゃ♪」
思わず登校途中というのに訳の分からない鼻歌を歌ってしまう程だ……はっ、すれ違ったOLのお姉さん(美人)に笑われてしまった。
自重しろ……自重するんだ……
「帰ってくる~♪、もうすぐ、帰ってくる♪」
駄目だ。止まらない。くそぉ、これというのも全部、ゆうひさんと薫さんのせいだ。
だって、あの二人が近々海鳴に返ってくるっていうんだもん。盆と正月が一気に来たようなもんだ。
此れでテンションが上がらないなんて俺には無理だ。
これで知佳さんまで帰ってくるなんて事があったならば、俺はどうなってしまうか分からない。
……残念ながら知佳さんは帰ってくる予定はないのだが。
でも待ち遠しい。早く時が過ぎればいいのに……
「そうだ…こんな時こそ、ラナルータだ」
連続で唱えれば直ぐにでも約束の日になるはずだ……。
危険な思考に陥りそうになるが、最後の理性でどうにか堪える事が出来た。
「どうしたの耕二?今日はいつもより楽しそうね」
お昼休み、あの出会いから殆ど毎日お昼を一緒しているアリサが問いかけてきた。
俺たちが今居るのは調理室だ。お昼休みに他クラスが使用してない場合は、此処を占拠し食事をすることが多い。
お茶とか淹れられるし…。
鍵は普通に掛っているが、アバカムの前に開かない扉などない。逆に鍵を閉める方法がないため、帰りは何時も開けっ放しで
出ていくのだが……
当然のようにアリサは後に付いてきて向かいに座り、某健康食品の封を開けようと…
「って、待て待て。いつも言っているだろう。ちゃんとした物を食べろと。ほら、今日も俺の弁当半分食べていいから」
「そう、いつも悪いわね……頂くわ」
「そう思うなら、ちゃんと弁当持って来いよ」
父さんお手製の弁当を広げ、急須でお茶を注ぎ、アリサに差し出す。
「あら、これだってちゃんと栄養は取れるのよ」
「そんなのばっかり食べていると大きくなれないぞ」
「……耕二は胸の大きな女性が好みなのかしら?」
「まぁなぁ。俺は大きさよりも形を優先するが…それでもCは欲しいなぁ……って、何だその目は」
「別になんでもないわ」
何でもないならジト目になるなよ。
そんなアリサの視線をごまかすように俺はアリサの最初の問いかけに答えることにした。
「俺が楽しそうな理由だったっけ?それはな、昔、俺を可愛がってくれた元寮生が二人、近々海鳴に来ることになってな。
久しぶりに会えるからなんだよ。」
「元寮生って……さざなみ寮の?」
「うん。一人はアリサも知ってるんじゃないかな…歌手のSEENAだよ」
ポトッと取ろうとした卵焼きが弁当箱の中に落ちる。
珍しくアリサは驚いているようだ。いや、表情は微妙にしか変化していないが……最近こいつの感情が表情から読み取れるようになってきた。
そんだけ、一緒に居るってことかなぁ……
「SEENAって、あの天使のソプラノ?あなたの交友関係ってどうしてこんなに幅広いのよ…」
「そんなに驚くような事か?」
「だって、あなたの知り合いって漫画家に刑事さんに歌手。あと、プロのバスケット選手にお医者さんでしょ?」
うぅん、そう聞くと確かにな……。おまけにアリサに言ってはいないが、退魔師に猫娘に妖狐に幽霊に超能力者……
挙句の果てに俺自身も魔法が使えますって言ったら、どんな顔をするだろうか。
まぁ、これがとらハクオリティだ。忍者とか剣士も居るしな…。
「俺の友好関係は置いといて、今度日本でCSSのチャリティコンサートがあってさ、一足先にゆうひさんが帰ってきて、コンサートの前にこっちで
休暇を取るんだって」
「へぇ、だからそんなに浮かれているのね。それにしても、SEENAと知り合いなんて……あぁ、だから耕二は歌が上手いのかしら?」
「……確かにゆうひさんには指導を受けた事があるけど……聞かせたことあったっけ?」
「偶にだけどね。今みたいに浮かれていると歌を歌っている時があるわよ。無意識だったの?」
アリサの言葉にカァッと顔が赤くなる。何これ、滅茶苦茶恥ずかしい。
「ふふ、普段は大人びているのに偶にこういう可愛い反応を見せてくれるのよね。」
「う、うるさい!!」
俺は恥ずかしさを誤魔化すように弁当を食べ始めた……。
アリサと弁当を食べ終えた俺は、担任にちょっとした用件で呼ばれて職員室を訪れてた。
そこでとても気になる物体が隣のクラスの担任の机の上に置いてあるのを見つけてしまった。
いや、見た目はハンドクリーナーなんだよ。ただ、妙にゴテゴテしてて、コード類が外にむき出しになってなければの話なのだが……
止めておけばいいのに、好奇心に駆られた俺は思わず唱えてしまった。
インパス……と。
スターダストスキーマ version11。
ストレージ?デバイス
待機状態なし
不要となった電化製品やがらくた類を用いて作成された魔法補助用のデバイスの11号機。
部品を寄せ集め、強引にデバイスとしての機能を確立している為、耐久力に問題あり。
Bクラス以上の魔力を込めた場合、負荷に耐え切れず爆散する。
元になったのは掃除用の電化製品。ハンドクリーナー。
……どうやって職員室から出たのか記憶にない。ただ、ゆっくりと教室に戻る際に、脇を早足で…先ほど職員室で見かけた
スターダストスキーマなる物を持った銀髪君が通り過ぎて行く………。
あのデバイス…没収でもされていたのか?
銀髪ぅ……。
全俺が泣いた!
学校が終わり、俺は癒し(久遠)を求めて街を歩いていた。
寮にも神社にも居なかった……はて、あの愛しい子狐は何処に行ってしまったのだろうか?
まぁいい、ついでとばかりに頼まれた買い物を先に済ませてしまおう。
そう考え、道を歩いているとだ。
「まったく!?こんな物ばっかり拾ってきて!!駄目だっていつも言ってるでしょ!!」
「ご、ごめんさい。お母さん!でも…あぁ、捨てないで!!」
「捨てないでって…じゃ、何かに使うの!?」
住宅街にあるゴミの集積地を通りかかった辺りだろうか?そんな親子のやり取りが聞こえてくる。
微笑ましく思い、視線を向けると……そこには見覚えのある金の髪が……。
「それは……」
「ほら、使わないじゃない!!まったく、壊れた冷蔵庫、電子レンジ、パソコンに…訳の分からない部品!!一体どうやって持って帰ってきたのか知らないけど……うちの物置だってあまり広くないのよ!」
いや……あんたも相当だよお母さん。業者呼ぼうよ。
金髪のお母さんらしき茶髪の髪の長い女性(美人)は白い細腕を腕まくりしながら、トラックの荷台にある重そうな電化製品を運んでいく。
つか、いくらゴミの集積地だからといって、これは不法投棄に当たらないんだろうか?いや、あまり詳しくないうえに電化製品なんて、引き取り以外で捨てた覚えがないから分からないが……
にしても金ぴかぁ…
涙目になっている金ぴかを目の端に捉えつつ、そっとその場を後にし……。
射出される冷蔵庫に洗濯機などの重量級の電化製品……
その馬鹿げた光景に笑い転げそうになるが、ふと、その威力を想像し戦慄を覚え……。
「色々考えてるんだろうなぁ……」
その並々ならぬ努力に気が付けば目元が濡れていた。